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62 王子様に抱きしめられて

 川から不自然に脱出できた私の目の前には、大きなカエルさんが待ち受けていました。



 以前、私は白い鳥さんに何度も命を助けられたことがある。

 その白い鳥さんの正体は魔女でした。



 だからこのカエルも、普通のカエルではないのかもしれないよ。

 実は魔法で人間から変身させられてしまった、カエルの王子様という可能性もあるよね。


 なので私はカエルさんに尋ねることにしました。



「私を、助けて、くれたの?」



 私の質問に対して、カエルさんは「ゲコッ」と大きく鳴く。


 白い鳥さんのときのような下手な鳴き声でもない。

 カエルとしか思えない、完璧な鳴き声だよ。



 そのままカエルさんは「ゲコゲコ」と鳴きながら、ピョコピョコと跳ねて森の奥へと消えていきます。

 


 うーん、どう見てもただのカエルモンスターにしか思えなかった。

 カエルに化けた人という可能性も捨てきれないけど、全くわからない。



 これは私の勘だけど、あのカエルさんが私を助けてくれたわけではない気がするね。


 白い鳥さんの時とはちょっと雰囲気が違っているの。

 通りすがりの野生のカエルにしか見えない。


 仮にそうだとしたら、いったい私の身になにが起きたのか。

 助けた人物が存在していたなら、いったいどこへ消えたのか。


 見当もつかないね。



 まあ良いでしょう。

 助かったのだから、それが一番なの。

 不条理に命を落とすより、不思議なことに助けられて生き残るほうが断然良いんだからね。

 これまで何度も命の危機を乗り越えてきたから思うの。


 生き残ることが第一!


 あとの細かいことは、次に考えればいいんだよ。

 もしカエルが本当に王子様だとしたら、きっとまた会うこともあるでしょう。

 

 

 なにはともあれ、私は池と川の水分によって(うるお)いを取り戻していました。

 完全回復です!

 水分補給以外にも、川で魚の踊り食いができたおかげで栄養補給も完璧。


 

 問題はどうやって魔女っこと合流するかだよね。

 まだワニの池で私を探していそうな気がするよ。



 ──そうだ。

 ここは、あの手で行きましょう。



 私は天高く蔓を伸ばしました。


 この方法で、女騎士ことハチさんをいつも召喚していたよね。

 その蔓を見た白い鳥さんは、私を初めて発見することに(いた)ったらしい。

 だから魔女っこは、この蔓を見れば私がそこにいると気がつくはずだ。



 蔓を伸ばし続けてしばらく経ちました。

 さすがにこれ以上蔓を真上に伸ばすのは疲れるなと思ったところで、茂みから何か音がする。



 魔女っこが来てくれたかなと目を移すと、一匹のトラさんと視線が合ってしまいます。



 こいつはトラ型モンスターのクリークティーガー。

 前の森で一度倒したことがある、戦争大好きなトラさんだね。

 

 ただ、前に会ったことがあるトラさんよりも少し大きい。

 まるでトラの番長というような風格をしているね。かなり強そう。


 まさか私の蔓を見て、ここまで来ちゃったのかな。

 あなたはお呼びではなくてよと蔓を構えたところで、再び茂みから音がします。


 

 今度はイノシシ型モンスターのヴァルトシュヴァインのお出ましです。

 でも、お客様はまだ続きます。

 


 オオカミ型モンスターのヘルヴォルフさんまで来てくださいました。

 地獄の狼の登場です。

 

 なんだか私が今まで食べてきた肉食モンスターの同窓会みたいになってきちゃったよと焦り出したところで、川の中から何かが出てくる音がしました。



 ヘビ型モンスターのヴァーンシュランゲが水中から飛び出てきたの。

 そういえばあなた、肌に湿り気があったから水中でも生息できるヘビさんだったね。


 

 気がつくと、私を中心に舞踏会が始まろうとしていました。

 肉食モンスターが集う、死の舞踏会です……!



 え、なにこれー!?


 なんで私、囲まれちゃっているの?

 魔女っこを呼ぶために蔓を上げたのに、代わりに前の森の四天王が大集合しちゃっているよー!


 どれだけこの森には肉食モンスターが跋扈しているわけさ。


 しかも私が前にいた森のモンスターよりもどれも大きいよ。

 さすがは(いにしえ)の森。


 て、感心している場合じゃない!



 どどどどうしましょう。

 私、植物だから見逃してくれないかな?


 肉食の皆さんの好物ではないと思うの。

 雑食のイノシシさんも、今日はご辞退なさってくださいね。



 けれども、肉食モンスターたちは一歩ずつ距離を縮めてきます。

 同士討ちをしてくれることを期待したけど、なぜか私しか眼中にないみたい。

 

 ワニさんみたいに私を巡って争いを起こしてくれれば良かったのに。



 こうなれば、もう戦うしかないね。

 でも、今の私は幼女アルラウネ。


 大人のときと違って、戦闘能力は低下しているとみて間違いない。

 だから一度にこのメンツと戦うのは荷が重すぎるよ。

 

 正直、お手上げです。


 あのカエルの王子様が助けにきてくれないかと、ちょっと期待してしまう。

 けれども、そんなことは起こらなかった。



 なぜなら、私の王子様はすでに決まっているのだから。


 私にとっての王子様は、あの白鳥の王子様と決まっているの。



 肉食モンスターたちが飛び掛かってくる瞬間に、どこからか一本の木が飛んできました。

 

 私を守るように、肉食モンスターたちとの間に飛来してきます。

 続けて、ヘビがいる川のほうへも木が着弾しました。



 もしかして!?



 そう期待を込めて空を見上げると、一人の白髪の少女が浮いていました。


 魔女っこが木を投げて、私を助けてくれたのだ。

 浮遊魔法を応用すれば、木を持って投げることもできるんだね。ビックリだよ。



「アルラウネ、やっと見つけた!」


 魔女っこが私のほうへと向かって飛んでくる。

 近づきながら、右手を差し出していた。


 魔女っこの動作の意味を悟った私は、蔓を上空へと伸ばします。


 けれどもそんな私に向かって、肉食モンスターたちも木を飛び越えながら迫って来ていました。


 一番早く走って来たのは地獄の狼。

 ヘルヴォルフの爪が私の眼前まで迫っていた。


 あと少しで私に爪が届いてしまう。


 そう思った瞬間、私の体は空中へと引き上げられる。

 魔女っこが私の蔓を掴んでくれたのだ!



 地獄の狼の攻撃から逃れることができた私は、魔女っこに蔓を握ってもらってブランコ状態で飛んでいました。


 眼下には、私を無念そうに見上げる肉食モンスターたちの姿が残されていた。

 間一髪だったね。



 もう少し魔女っこが来てくれるのが遅かったら、私はやられていたかもしれないよ。


「助けて、くれて、ありがとう」


 魔女っこにお礼伝えると、頬を紅く染めながら「飼い主として当然」と答えてくれる。


 やっぱり魔女っこは私にとっても白鳥の王子様。

 頼りになる飼育主様だよ。

 こんなに早く合流することができて、本当に良かった。



 感動の再会を果たしてから、私たちはすぐにその場を離れた。


 でも、川には少し用事があるの。

 

 あの場所からかなり離れてから、一度川上(かわかみ)に着地します。

 危険がないことを確認してから、魔女っこは川で水浴びをすることにしました。

 


 池で泥だらけになっちゃったみたいだから、体と服を洗いたかったみたい。

 それに喉も渇いたようだね。


 魔女っこが川の水で体を流している間、私は周囲を警戒します。


 その時に、魔女っこの体が視界に入ってしまったの。


 生まれたままの姿で水に入る魔女っこ。

 私と同じで、まだあまり胸は成長していないみたい。

 

 魔女っこも私の仲間だったんだねとちょっと安心していると、それに気がついてしまった。

 その白くて綺麗な肌に、人工的な何かが見えてしまう。


 魔女っこの左肩に、奇妙な紋章が浮かんでいたのだ。



 まるで刺青(いれずみ)みたい。

 なにかの印みたいだけど、いったいなんなのかはわからないね。


 魔女っこは、6才のときに人から魔女になったと話していた。

 もしかしたら魔女っこが魔女であることとなにか関係があるのかもしれない。



 けれども、今はそのことを訊くときではないよね。

 なにせ、私と魔女っこが行動を共にしてからまだ二日目だ。

 空の旅で魔女っこが説明してくれなかったということは、まだ話したくないということだろうしね。


 人間誰しも、()しておきたい秘密の一つや二つ持っているもの。

 それが魔女となればなおさらだよね。



 私は視線をそっと、周囲の景色へと戻します。

 そのまま魔女っこが水浴びを終えるのを、静かに待ち続ける。




 気がつくと、日が暮れてきていました。


 今夜の野営場所を探すことにした私たちは、比較的安全そうな場所を探します。

 そうして、大木の幹に寝床を決めることにしました。


「アルラウネ、お腹空いた」


 そういえば魔女っこは、今日何も食べていなかったね。


 植物生成でリンゴを作り出すことにします。

 それだけでは足りないみたいで、蜜もたくさん与えちゃったよ。


 そこで気がついてしまった。

 この2日間で魔女っこが口にしたものは、私の蜜とリンゴだけ。

 

 食べ盛りの子どもからすれば、かなり栄養が偏った食事のはず。


 このままだと、魔女っこが飢えて倒れてしまうかもしれないね。

 なんとかしないと。


 サバイバル生活に不慣れな魔女っこのためにも、明日からは私が頑張らないといけないね!



 一息つくと、辺りは暗闇に包まれていました。


「アルラウネ、寒いよ……」


 魔女っこの体が震え出す。


 そういえば魔女っこの体は水浴びをして冷えているうえ、服がびしょ濡れだ。

 このままだと風邪を引いてしまうかもしれないね。


 とりあえず服をなんとかしないとね。

 蔓を使って魔女っこの服を脱がします。


 魔女っこの服を近くの枝にかけて、乾かすことにしました。


 その代わり、魔女っこは裸になってしまうね。

 代わりの服も持っていないみたい。


 服がなくても大丈夫、私がなんとかしてみせるよ。

 お姉さんに任せなさい!


 裸の魔女っこの体を、蔓で優しく包み込みます。

 蔓でグルグル巻きにすれば、魔女っこミノムシの完成だよ!


 これでだいぶ温かくなるはずだ。



 ただ、ね。

 私の蔓は触覚でもあるの。


 だから魔女っこの肌の感触が、蔓を伝って感じてしまうわけ。

 魔女っこはそのことに気がついていないみたいだけど、私はちょっと恥ずかしい。


 だって魔女っこの体の全てが手に取る様にわかるのだから。

 

 意識しないようにしても、わかってしまう。

 それに蔓で体の輪郭が把握できるようになったから気がついたのだけど、魔女っこはかなり()せ型だね。


 村では村長の家に置いてもらったと言っていたし、居候(いそうろう)の身だったから満足には食べさせてもらっていなかったのかな。

 魔女として捕まっていた数日と、この2日間はたいしたものを口にしていないのも原因かもね。


 明日からはたくさん獲物を捕まえて、魔女っこのためにも食事を豪勢にしないとね。



「アルラウネ、こっち来て」


 魔女っこが両手を差し出します。

 蔓を伸ばすと、蔓を掴んだ魔女っこが私の体を抱き寄せた。


 そのまま私の体を抱えるように丸くなる。


「一人は寂しい。一緒に寝よ」


 魔女っこに抱っこされながら気がついてしまう。


 薄暗い森の中で野営するなんて、10才の女の子が不安にならないはずがなかったのだ。


 森で一人になって寝ることに慣れすぎた私は、そんな簡単なことも忘れていたみたい。


 魔女っこの体はまだブルブルと震えている。

 

 それは寒さのせいなのか。

 それとも心寂しさからくるものなのか。


 これ以上、魔女っこの寂しい気持ちを埋める方法は思いつかない。

 だからせめて寒さだけでもなんとかしないとね。


 ザゼンソウの能力で自家発熱です。

 これで私は湯たんぽ代わりくらいにはなったよね。


「アルラウネ、温かい……」



 魔女っこがそう言いながら、こくりと眠りについたみたい。


 同時に、ぎゅっと魔女っこに強く抱きしめられる。



 この一年、私はずっと一人で就寝を続けていた。

 でも、こうやって誰かと一緒に寝るというのはとても温かくて良いことだね。


 肌寒い夜も、心寒い闇の中でも、二人でいればぽかぽかと温まることができる。



「おやすみ、なさい」


 魔女っこの体を蔓で強く抱き返します。

 そうして私は蕾を閉じる。


 今夜からはこうやって、二人で寝ましょうね。

 

 一人のときよりも、心身ともに温かいのだから。



 だからこれからも、ずっと一緒だよ。


お読みいただきありがとうございます。


次回、魔女っこと絡まりましたです。

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― 新着の感想 ―
花が咲いてますね。 大切にしましょう。 裸で抱き合ってともに夜を過ごすってもう初夜と言っても過言ではありませんね。
[一言] アニメ化するならのこコンビが結成されて暫くした所からスタートして欲しいな〜などと
[良い点] 幼女の感触をじっくりと確かめて変態チックに演出しておいて、しっかりシリアスで〆て来ましたね~! ウチのスミマリちゃんで使いまくってる手法ですよ…(暗黒微笑)
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