61 アルラウネの川流れ
私、植物モンスター幼女のアルラウネ。
ちょうどワニさんがたくさん住んでいる池に沈んでいる最中なの。
ワニに襲われたけど、毒花粉を撒いたおかげで助かることはできました。
問題は、私が水中で溺れてしまっているということ。
そんな私のすぐ近くで、二匹のワニさんが私を巡って争いをおこしています。
やめて!
私のために争わないで!!
人生で一度は言ってみたかった言葉だったけど、間違いなくこんな状況で使う言葉ではなかったよね。
少なくとも私を物理的に食べようとしている相手に言うことではない。
なんとかこの場から逃げないと。
早く魔女っこと合流したいけど、地上の状況がわからないよ。
とはいえ、捨てる神あれば拾う神ありました。
池に落ちたことで、お水の飲み放題が発生しているの。
私、回復しました。
お水おいしい!
元気にはなったけど、これからどうしましょう。
私は植物。
人間などの動物と違って肺呼吸ではない。
とはいえ植物も酸素を吸って二酸化炭素を排出する呼吸をしている。
ただ、呼吸ができなくても、光合成をすれば二酸化炭素から酸素を生み出して体内である程度は循環させられるのだけどね。それでも足りない分をすべてまかなうことはできないから息苦しいの。
だからすぐに溺れ死ぬことはないのだけど、それでも元々水中にいる植物ではないからちょっと辛いね。
あ、あれは!
暴れる二匹のワニによって水中がかき回されて、何かが漂ってきたよ。
もしかして水草かな。
水草などの水生植物は、その名の通り水中に住処を構えている。
水中でも生息できるように特化しているのだ。
とはいえ、水中で生活する植物も呼吸は必要。
陸上の植物は、葉の表皮に存在している気孔という小さな穴から酸素や二酸化炭素を出し入れしている。
けれども乾燥とは無縁な水草は、表皮が薄いのでその気孔が基本的にはない。
気孔がなくとも、彼らは葉の表面全体を使って水にとけた酸素を吸収することができる。
ということは、水草を取り込めば、水中でも呼吸ができるはず。
私は蔓を伸ばして水草を捕まえます。
そのまま下の口でパクリ。
これで私は水生植物の能力を手に入れた。
水中でも溺死することはなくなったけど、問題は泳げないことだよね。
蔓を必死に動かしても蔓が細すぎるのか、悲しいことに水をかき回すだけで終わってしまう。
私、泳げないの。だってただの鉢植えの植物だから……。
それでも必死に蔓を回していると、ワニの尻尾が飛んできました。
ワニの争いに巻き込まれたみたい。
叩きつけられるように尻尾が私の小さな体を襲った。
蔓の盾を作ってガード。
でも、そのまま私は水の中を吹き飛ばされてしまいます。
私、すごく無力。
水の中だと何もできないよ。
ただの浮遊物体でしかない。
己の力のなさを噛みしめていると、そのままどこかへ流されていきます。
何かに引き寄せられるように、ぐんぐんと体が進んでいく。
気がつくと、大きな水流に呑み込まれていました。
流れる水。
これは川だね。
いつの間にか、池から川に流されていたみたい。
あのどうしようもない状況から脱出できたなんて、もう奇跡が起きたとしか思えないよ……!
神様は私を見捨ててはいなかったのかもしれない!
なにはともあれ、ワニワニパニックからは逃げられたみたいで一安心です。
私、運は良くないけど、悪運は強いよね。
とはいえ、川の中ではなにもできないことには変わりがない。
それに、バケツの底が水面に浮上しているの。
私の球根が軽いせいか、上下が逆になっちゃっている。
逆さまになったまま私は、身を川に委ねられることになりました。
蔓を水上に出しても、川岸に掴まることはできないみたい。
川に流されたまま地面をえぐるほどの強度は、幼女の蔓にはなかったみたいだね。
これは、どうにかして魔女っこに見つけてもらうしかないよ。
せめて私が川に流されていることに気がついてくれれば良いんだけど……。
そんな私は、川の中で一人ぼっちではありませんでした。
あら、ごきげんよう。
あなたはお魚さんですね。
わたくし、魚類にお目にかかったのはとても久しぶりのことですの。
アルラウネになってからは1年、実際の年月でいえば4年もお魚を見ることはなかったのですから。
人間だったころは、お魚も好きでした。
女子高生時代では塩焼きが好物でしたね。
あとお刺身。醤油との相性が抜群なの。
とにかく、お魚って美味しいよね……!
ねえお魚さん。
どうか、わたくしと踊ってはくださいませんでしょうか?
水中ダンスです。
わたくし、水の中は初めてなので少し緊張してしまいますが、わたくしのお手を取ってくださると嬉しく存じます。
でも、お魚さんはわたくしのことは見向きもしてくれませんでした。
陸の植物には目もくれてはくださらないようです。
やはりエラがないと仲間にはしてくれないのでしょうか。
それとも蔓で釣り上げると警戒しているのかしら。
心外ですね。
わたくしはダンスのパートナーを探しているだけだというのに。
でしたら、こちらから改めて招待状をお配りいたしましょう。
わたくしは水の中に毒花粉をまき散らします。
水に流れてしまったけど、うまい具合に数匹のお魚さんがわたくしの招待を受けてくださりました。
やはりわかるお魚にはわかるのです。
みんな脂がのっていてイケメンなお魚さんたちですね。
わたくしから招待を受けたことに喜びのあまり悶絶してしまったのか、ぷかぷかと浮き上がるお魚さんを蔓でホールドしていきます。
恥ずかしがるイケメンなお魚さんたちは、わたくしがリードしてさしあげますよ。
水中舞踏会の始まりです。
パクリ。
うん、お魚おいしい!
味わかんないけど、久しぶりの栄養だよ!
塩焼きも良いけど、やっぱり魚は新鮮なうちに生で食べるのが一番だよね。
パクパクと魚の踊り食いをしていると、急に水流が激しくなっていきました。
な、なにごとです!?
もしかして下流に滝でもあって、流れが強くなっているのかな。
私が慌て始めると、水面に何か小さな光が見えた気がした。
そして次の瞬間、何かにぶつかったように体が浮き上がってしまう。
石に激突してしまったのかと思ったよ。
だって私の体がバケツごと空中に吹き飛んでいくんだから。
水の中から地上へと体が飛んでいきます。
そのまま川岸へと落ちていく。
蔓を使って、無事着地です。
危なかったよ。
もう少しタイミングが合わなかったら、地面に叩きつけられるところだったね。
それにしても驚いた。
川の中でなにかにぶつかってその勢いで放り出されたのかな。
でも、不思議と体は痛くない。
まるで地上へと伸びる謎の水流によって、外へと飛ばされてしまったみたい。
いったい何が起きたのか。
周囲を見渡すと、一匹のカエルと目が合いました。
まだら模様のカエル。
しかもかなりデカイよ。自動車くらいの大きさだね。
あれはカエル型モンスター、フルトフロッシュ。
まさかあのカエルが私を助けてくれたの?
いや、それはさすがにないかー。
だってカエルだしね。
カエルの舌で救出された気配はしなかった。
あれは謎の水流によって地上へ吹き飛ばされたような感じだったよ。
でもね、こうやって無事に川から引き揚げられたのは、不自然な気がするんだよ。
なにか特別な力によって救い出された気がするの。
空に駆け上がる水流とか普通あり得ないからね。
それに池から川に流れて逃げることができたのも、かなり奇跡的だった気がするよ。
ねえカエルさん。
もしかして、あなたが私を助けてくれたのですか?
カエルさんが何かしらの超常の力を使って助けてくれたの?
そうだとしたら、きっとこのカエルはただのカエルではないはず。
実は本当は人間だけど、魔法でカエルにされていたりして。
そういえば魔女っこも、魔法で白い鳥さんに変身していたよね。
だからそういう可能性もゼロではないはず。
それに、日本でこんな童話を読んだことがある。
カエルにされた王子様に助けてもらう、王女様のお話を。
魔法が存在するこの世界でなら、そんな不可思議な物語も実在するかもしれないよね。
実際に私は白い鳥さんという存在で一度体験したわけだけど。
このカエルはオスかメスかわからない。
けれども、白い鳥さんのようにただの動物ではない可能性が高い気がするよ。
ねえカエルさん。
もしかして、あなたはカエルの王子様なのでしょうか?
私はカエルさんに、そう尋ねることにしました。
お読みいただきありがとうございます。
次回、王子様に抱きしめられてです。







