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59 蜜食の魔女

 新天地に到着しました。


 この森が、今日から私と魔女っこの新しい住処(すみか)となるのです。



 王国がまだ誕生するよりも前から存在する、とても古い森。

 そのせいか、私が前に住んでいた森と比べると、とてもスケールが大きい。



 樹木の一本一本がとても太くて、大きいの。


 前世の女子高生の視点から言うと、国の天然記念物になれそうな樹がたくさんある。

 もののけな姫様とかが住んでいそうだと思えるくらい、大自然に満ち溢れているね。



 地面に着地した白い鳥さんと一緒に、辺りを見回す。

 

 なんだか薄暗いね。

 木が(おお)(しげ)っていることもあるけど、少し不気味な感じがする。


 初めて足を踏み入れた森だからそう感じるのかもしれないね。私、植物だから足ないけど。



「ダメ……すごく疲れたよ」


 白い鳥さんが人間の姿に戻る。


 魔女っこが私を持ちながら、近くの木の幹に移動します。

 そのまま私を抱きかかえるようにホールドしました。


「疲れたらお腹空いちゃった。そろそろ晩御飯の時間だよね」



 ねえ魔女っこさん。

 晩御飯なのに、どうして私の目をじーっと見つめるの?

 

 私、魔女っこのご飯になった記憶はないのだけれど。


 もしかして魔女っこは草食だったりはしないよね?

 実はベジタリアンなの、とか告白されたら私困るのですけど。



「アルラウネ、蜜ちょうだい」


 あーやっぱりー!


 魔女っこがお腹空いているのはわかるよ。

 だってあなたはまだ10才の子ども。

 育ち盛りなのに、今日は私の蜜を数口しか食べていないもんね。



 でもね、実は私も限界なの。

 水分と栄養不足でもう泣いちゃいそう。

 蜜を出す余裕があまりないのです。



「一日中アルラウネを持ったまま空を飛んだから、もう動けない。すごく大変だった」


 うぅ。

 それを言われると、申し訳なくなるよ。


 私は植物。

 しかも鉢植えアルラウネ。


 魔女っこの力なしでは、一歩だって移動することもできないんだから。


 仕方ない。

 蜜をあげましょう。


 でも、私が魔女っこに「いいよ」と告げる前に、魔女っこが動き出していたの。



「ちょっと蜜もらうね」


 そう言いながら魔女っこがいきなり、私の口の中に指を突っ込んできたのだ!


 人差し指で、私の口内をかき(みだ)す。

 

 な、なにこれー!?


 他人の指が口の中に入るこの変な感触。


 なんだか、くすぐったいよ。

 しかも、ちょっと変な感じもするし……。


 私の舌、そして口内の粘液が魔女っこの指と激しくぶつかる。

 なすすべもなく、私は魔女っこの指を受け入れるしかなかった。



 しばらくすると、魔女っこは私の口から指を引き抜く。

 その指にはたっぷりと蜜が付着していました。


「やっぱりアルラウネの蜜はおいしいね」

 


 私の蜜を舐める魔女っこ。

 どうやらご満悦みたい。


 でもね、私はそれどころじゃないの。

 私の口の中は魔女っこに蹂躙(じゅうりん)されてしまった。


 ただの蜜採集だとはわかっていても私、前は人間だったの。

 元聖女的にはかなりパニックになってしまうような大事件といっても過言ではないのです。


 震えるように魔女っこを見ていると、冷静な口調で教えてくれました。



「わたしは花から蜜を採取しただけだから、なにも変なことはしていないよ」


 たしかに、これは蜜の採取だね。

 私は採られる側だったから、なんだかビックリしちゃったけど。



「飼育主が牛やヤギの乳を(しぼ)るのと一緒。だからアルラウネは怖がらなくて平気だよ」


 私は家畜と一緒ですか! 

 と言いたいけど、実際のところ、ただのお花なのだからあまり文句も言えません。


 よしよしと魔女っこは私の頭を優しく()で始めます。

 私はいま幼女だから、見た目だけなら完全に魔女っこのほうがお姉さんなんだよね。

 


 それに、他人とこうやって触れ合うのは本当に久しぶりのことなの。

 人から頭を撫でてもらうなんて、いつ以来のことかな。

 こうやって人から優しくしてもらえると、すごく幸せな気分になれるの。



 最後にこうやって撫でてもらったのは、婚約者の勇者様からだった気がする。

 彼のあの大きく勇ましい手のひらで、優しく撫でてもらえることができればどれほど幸せなことでしょう。



 でも、勇者様はその手で私を裏切った。

 今の勇者様の手の先は、私の体を直接切り刻んだあの聖女見習いのクソ後輩の元にある。

 私を慰めてくれるはずだった勇者様の優しい手が、裏切り者のクソ後輩の頭を撫でていると思うと、色々な感情が私の中で混ざりあって爆発しそうになる。


 それもこれも、全ては私を裏切って殺そうとしたあの聖女見習いのクソ後輩のせいだ。

 後輩死すべし殺すべし。


 できることならクソ後輩をこの薄暗い森の中に埋めてやりたいね。

 それで私の肥料にしてやるのだ。


 

 そんな私の怒りの炎を鎮火させてくれたのは、魔女っこの小さく柔らかい手の感触でした。


 勇者様はいない。

 けれども今の私には魔女っこという仲間がいる。


 白い鳥さんだった魔女っこなら、私のことを大事に想ってくれるはず。

 勇者様のように、いきなり私を捨てるようなことはないよね。


 

 まるで幼子に戻ってしまったように魔女っこのなでなでを味わっていると、カクリと魔女っこの頭が沈んだ。

 


「こんなに長時間空を飛んだのは初めて……もう限界…………」


 うとうとする魔女っこ。

 どうやら、お(ねむ)の時間みたい。



 たしかに今朝から一日中、魔女っこは白い鳥さんになったまま空を駆け抜けてくれた。

 私を持ったままだったし、かなり疲労が溜まっていたみたいだね。



 もう日も落ちてきて、夜のとばりが下りていっている。

 

 そろそろ就寝しましょうか…………と言いたいけど、ダメだって!



 到着したばかりの森でいきなり寝るのは怖すぎるよ。

 もしこの辺りが危険なモンスターの巣窟だったらどうするの!


 それにね、私、喉が渇いたの。


 お水ほしい。

 もうカラカラだよ。


 だって植木鉢生活は大変なんだから。


 元々水分がない焼け跡の土を入れたのもあったけど、まったく土に水っけがない。

 まるで植物殺しの拷問器具みたいだよ。


 栄養だって皆無。

 水分を求めて狭いバケツの中で私の根がうずうずとしているよ。


 だからね、今めちゃくちゃお水ほしいの。



 これまでだったらいくら水が足りないとはいえ、地中から水を()き集めればなんとかお水を手に入れることができた。


 でも、今はそれができない。

 だって私、植木鉢のアルラウネなのだから。



 まだ鉢植え生活は一日目だというのに、去年の夏の日照りよりも水不足で辛い。


 せめて川を探して水やりをしてから寝て欲しかったよ。

 私、一人じゃ移動することもできないの。



 あぁ…………これ、まずいかも。


 ま、魔女、っこ……。

 起きてぇ……。


 お花、枯れちゃうよぉ……。



 人に育てられることを忘れられた鉢植えの花の未来。

 それは枯れる、という将来しか残されてはいなかった。


 この日、私は初めてネグレクトを体験する。



 前世の日本で暮らしていたときのことを思い出します。


 あれは小学生の頃。

 学校の授業で、鉢植えでミニトマトを育てたことがあったの。

 

 私はきちんと水やりをしたから枯らすことはなかったけど、クラスの男子の中には枯らしてしまった子もいた。


 あの男子に枯らされたミニトマトと、今の私は全く同じ境遇だ。


 そういえばミニトマトはナス科の野菜だね。

 ナス科であるアルラウネと一緒じゃない。


 ──ははっ。


 どうしましょう。

 私、ミニトマトに親近感湧いちゃった。


 

 私もあのミニトマトみたいに枯れちゃうのかな…………。



 それでも、私は無力なミニトマトではない。


 飼育主のために、なんとか頑張らないといけない。


 残った力を振り絞って、蔓で魔女っこと私の体を包み込みます。


 森の地面の上でそのまま寝るなんて、10才の魔女っこには辛いだろうからね。

 このままだと魔女っこの体が冷えちゃうよ。


 それに、蔓で(まゆ)を作れば、外敵から発見されにくいだろうし。


 よし、私偉い!



 本当は無理やりにでも起こしたいけど、こうなってしまった以上、お疲れの魔女っこの安眠を妨げるのは可哀そうだしね。声をかけるのはやめておきましょう。


 今夜はゆっくりとおやすみなさい。


 きっとあと一日くらいなら私の体も持つだろうし大丈夫、だよね?

 大丈夫だといいな……。



 そう思ったところで、私の体力は限界を迎えたようでした。

 


 もう無理ぃ……。


 (つぼみ)を閉じて、おやすみです。



 それでも、私の意識はすぐに消えることはありませんでした。



 ──あれ?

 なんだか夢を見ている気がするよ。



 森の向こうにね、ホタルが飛んでいるの。

 小さな光がゆらゆらとしながら近づいてくる。


 蔓の周りをくるりと飛んだあと、どこかへ消えてしまった。


 ホタル、綺麗だなあ。



 アルラウネになって人工的な光を見たのは数えるくらいしかない。

 だから光というものは本当に綺麗なんだなと、改めて思うことができるの。



 でもね、私、夢の中なのに凄く喉が渇いているよ。

 お水がほしすぎて、眠りが浅い気がする。


 起きているのか、寝ているのか、よくわからない状態だね。


 あぁ、もし朝になったらお花が枯れていたらどうしましょう。

 枯れミニトマトには、なりたくないよ……。



 そうして私は、再び夢を見ることになる。

 

 聖女に戻った私が、ミニトマトに水をあげている夢だ。

 二つの前世が交じり合ったようなおかしな夢。


 でも、私は静かにミニトマトにお水を上げます。


 水に飢える植物の気持ちはよくわかりました。

 だからもしも私がまた人間に戻ることがあれば、今まで以上に植物にお水をあげることでしょう。


 あげすぎもよくないけど、全くあげないのはもっと可哀そうだからね。



 気がつくと、ミニトマトは幼女アルラウネになっていました。


 聖女様に水を与えられる私。

 いつの間にか、私は聖女ではなくなっていた。


 聖女の顔は、太陽に反射してよく見えない。

 それでも、久しく見ていない私の聖女としての顔がそこにはある気がした。


 もう1年も自分の顔を見ていないせいか、よく思い出せないのかもしれないね。


 それに、もう私は人ではない。

 植物モンスターの、アルラウネなのだ。



 水を与える聖女ではなく、与えられて歓喜する植物。

 だから今はただただ、喜びましょう。


 たとえそれが、夢幻(ゆめまぼろし)と消えてしまったとしても。



 あぁ、お水おいしい。


お読みいただきありがとうございます。


次回、森で迷子になりましたです。

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― 新着の感想 ―
以前から気になっているが、勇者は様付けする必要はないと思うし、幾ら元幼馴染で婚約者だったとはいえ聖女後輩よりもヘイトが薄いのが非常に不自然に感じる。
[気になる点] えっ…神回じゃん… 僕はプロだから口腔ファックより拷問器具とかネグレクトのほうが文字表現ポイント高い
[良い点] 蜜食の魔女……まるで彼女の二つ名のようで……(笑) [気になる点] 後輩はどうなっているのやら……なんか、ろくな事になってなさそうですね(笑)
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