日誌 魔女っこ、はじめての植物育成活動 春
引き続き、白い鳥さんである魔女っこ視点です。
わたし、魔女のルーフェ。
今日、わたしは魔女ということだけで人間たちに殺されるの。
鳥に変身するところを村人に見つかってしまったのが原因。
うかつだったね。
人目につかないよう気をつけていたはずなのに、その日のわたしは注意不足だったみたい。
アルラウネがやっと懐いてくれたから、早く会いに行きたいという気持ちがわたしを冷静でいられなくしていた。
その不注意のせいで、魔女として捕まってしまったの。
魔女のルーフェでなく、ただの村娘のルーフェだったらこんな目にはあわなかったかもしれない。
でも、わたしは村娘ではなく魔女だった。
わたしは子供だというのに白髪で不気味な見た目をしている。
それだけでも魔女だと突き出される材料ではあったみたいで、どうやら村人から疑われていたらしいの。
怪しまれていた村人に跡を付けられ、目撃されてしまった。
人間が鳥に化けることは普通あり得ない。
なら、お前は魔女だと、すぐにわたしは拘束された。
魔女であるこの身が憎い。
それ以上に、わたしを化け物だと呼びながら石を投げてくる人間が憎い。
髪を引っ張られて、地面に叩きつけられたりもした。
魔女なら石が食えるだろうと、口の中に小石を詰められたりもした。
魔女は人間じゃないから何をしても良いらしい。
ひどい。
わたしは黒魔法が使えるという点以外は、普通の人間と変わらないのに。
わたしはついに人間が許せなくなった。
これまでは自分は魔女であるけど、同時に人間でもあるつもりでいたから。
でもこの時、わたしは自分が人間ではないのだと思い知ってしまった。
魔女というだけで、人の仲間にはどうやっても加えてもらえないらしい。
他人を殺したくなるほど憎んだのは、両親を殺したサルのモンスター以来だった。
王都から偉い魔導士と兵士が村にやって来た。
魔導士のリーダーらしき人物に、わたしは体を見分される。
そうして、わたしは村の広場へと連れ出されることになった。
そこに待っていたのは十字に突き立てられた磔台。
わたしはこれから、あそこで燃やされるのだ。
そこからわたしが逃げられたのは、魔導士が空中魔法の存在を知らなかったから。
どうやら魔女は箒がないと飛べないと思っていたみたい。
もしくは鳥に変身しないと飛行できないだろうと油断していたんだろうね。
隙を見て、わたしは垂直に浮かび上がる。
そうして森へと逃走した。
けれども、あの魔導士のほうが一枚上手だったの。
わたしにマーキングをしていたらしく、あえなくわたしは捕まってしまった。
王都の魔導士というのはこんなにも凄いのかと、実力の差を感じてしまう。
結局、わたしは魔女として殺されてしまう運命。
最後に、もう一度だけでいいからアルラウネの姿を見たかったな。
そうして、きちんと水やりをしてあげたかった…………。
そこで突然、事件は起きたの。
空から太陽が落ちてきたのだ。
強烈に光るその物体は、太陽でなく巨大なドラゴンでした。
体中が炎で燃えていて、尻尾が光り輝く神秘的で恐ろしいドラゴン。
そのドラゴンが、光線を放つ。
森の木々が、村の家が、村人が、そして兵士たちが、光線によって吹き飛ばされる。
後には何も残らなかった。
魔導士のリーダーが、「魔王軍か!」と叫ぶのが耳に入る。
そうか、このドラゴンは魔王軍のドラゴンなんだ。
ということは、わたしを捕まえに来たのかもしれない。
わたしはなぜか、魔王軍からも狙われている。
魔王軍はわたしのことを殺そうとはしてこないのだけど、それでも連れていかれたらきっとただでは済まないはず。ともかく怖いの。
魔導士たちがドラゴンと戦っている間に、わたしは上手く戦場から逃げ出すことができた。
なんで魔王軍がわたしの居場所を知っていたのか、よくわからない。
村人に魔女だと知られてから、まだそこまで日が経っていないはずなのに。
でも、そんなことより、今は逃げるのが最優先。
そこでわたしは見てしまった。
森が、燃えているところを。
アルラウネが心配。
この火だと、きっとあの喋る花は燃えてしまう。
わたしは逃げることをやめて、川へと向かった。
今度水やりをしてあげようと思って、事前に川にバケツを隠していたのだ。
鳥の姿に変身します。
バケツを持ってアルラウネの元へと急行する。
案の定、アルラウネは燃えていた。
燃えちゃダメ。
この子はわたしが見つけた花なのに。
鳥の姿のまま、アルラウネに水をかけます。
良かった、間に合ったよ。
なんとか火を消すことができたね。
その代わり、アルラウネに怪しまれてしまったみたい。
鳥がバケツで消火するなんておかしいよね。
それでも、たとえアルラウネがわたしのことを嫌いになったとしても、アルラウネが燃えちゃうよりは良いよね。
わたしは最善の選択をしたはずだよ。
とにかく、わたしはアルラウネが燃えなかったことに安心していた。
燃やされるのは嫌だよね。わたしも嫌い。
火は消したけど、この後どうしよう。
森の火事はまだ終わっていない。
それだけでなく、ドラゴンがこっちに飛んできた。
どうやらわたしの姿が見られたみたい。
早くこの場から離れないといけないけど、アルラウネはどうしよう。
こんなに大きいアルラウネを掴んで飛ぶのは無理だよね。
ダメ……くやしいけど、アルラウネは諦めよう。
苦渋の決断で、わたしは一人で逃げることにした。
アルラウネには悪いけど、狙われているのはわたし。
一緒にいないほうが安全かもね。
これが最後になるかもと思い、わたしはついに喋る花に話しかけることにします。
ドラゴンが来るから、隠れるようにと。
やつから見つからなければ、生き残る可能性はあるかもしれない。
「喋る花、なんとか生き延びて。そうしたら水やりしに来てあげるから」
もし燃えずに済んだら、水やりしてあげる。
わたしも生き残れるかわからないけど。
それでも万が一、そんな未来があれば、わたしはアルラウネのために水を汲もう。わたしの大切なアルラウネのために。
それからわたしは、運よくドラゴンから逃げ切ることができた。
火事も終わり、森は黒の大地へと変貌している。
火事で燃えなかった木は一本もない。
あの炎の中、生物が生き残ることは不可能だ。
それでも微かな望みを信じて、わたしはアルラウネがいた場所に戻ることにした。
アルラウネの姿はない。
代わりに大きな塊が燃えた跡が残っていた。
やっぱり、わたしのアルラウネは助からなかったんだ……。
しょんぼりと落ち込んでいると、黒い土の上に小さな花を見つける。
空に浮いたまま近づいてみると、驚くことにその花はアルラウネだった。
お花から小さくて可愛らしい幼女が生えている。
外見はわたしより年上だったはずのアルラウネが、子供になっている!
え、なんで!?
なにがあればアルラウネが子供になるの?
しかも幼女に??
どうしよう、可愛い。
小さいアルラウネ、可愛すぎるよ!
とても嬉しいことに、このアルラウネはわたしのことを覚えていてくれた。
わたしに蔓を振って挨拶してきたのだ。
嬉しい。
生きていてくれたことが、なによりも喜ばしい。
それにこの子、すごく可愛いの。
なんだか庇護欲がかきたてられていくのがわかる。
それからわたしは、アルラウネと改めて会話をすることができた。
こうして喋る花の近くに寄れるなんて夢のよう。
わたしは自分が鳥ではなく、魔女であることを告白する。
魔女はモンスターと同じで、人間の敵。
だから植物モンスターであるアルラウネとは仲間になれる。
わたしは、喋る花と一緒にいたいと告げた。
嬉しいことに、アルラウネはわたしの願いを承諾してくれた。
これでこのアルラウネはわたしのもの。
そして、この蜜も、わたしのもの…………。
そうなの。
アルラウネから蜜を舐めさせて貰ったのだけど、それが凄まじいくらい美味しかったのだ!
こんなに甘くて美味しいものは初めて食べたよ。
今にも脳が蕩けてしまいそう。
気がつくと、わたしはアルラウネから蜜をおかわりしていた。
別に問題はないよね。
だってあなたはわたしのアルラウネなんだから。
まだ人間になれていないのか、アルラウネが泣きだしてしまう。
涙も蜜だなんて、本当に花なのね。
それに、このアルラウネの目は金色だったの。
初めは綺麗な色をしているなと思っていたけど、蜜を舐めた今は違う感想が出てくる。
この目は蜜と同じ。
蜜色の瞳なのだ。
とても美味しそう……。
この蜜色の目を見てしまうだけで、蜜が欲しいと全身が蜜を求めだす。
蜜欲が湧き上がってきて、口の中がよだれでいっぱいになる。
アルラウネは、魔性の瞳の持ち主だったみたい。
しばらくした後、蜜の美味しさから冷静になったわたしは、改めてアルラウネのことが好きになったことを確信する。
うん、この子はわたしが責任もって育てましょう。
水やりだってたくさんしてあげる。
だって約束したからね。
そうだ、良いことを思いついたよ。
わたしはバケツを植木鉢代わりに使用することに決めた。
そうすれば、アルラウネを持って移動することができる。
この小さなアルラウネなら、持ったまま飛ぶことくらい簡単だ。
幼女になったアルラウネも、わたしの提案を泣きながら喜んでくれているみたい。
それだけこの場所から移動することが嬉しいのかな。
今までずっと動けなかったもんね。
良かったね、喋る花。
これからはこのバケツにあなたを入れて、わたしが運んであげるから。
アルラウネは植物のモンスター。
だからわたしが魔女だからと忌避することはない。
わたしを化け物だと攻撃してくることもない。
花は良い。
人じゃないから、きっとわたしを裏切らない。
わたしは、これまで精神的にアルラウネに支えられていた。
でも、今日からは違う。
精神的、そして肉体的に支えあって、一人と一輪で生きていく。
わたしはアルラウネと一緒に暮らすんだ!
だからわたしは、アルラウネのお姉さんになると決意しました。
この幼いアルラウネを、再び立派な花へと育ててみせる。
だってアルラウネはもうわたしの家族みたいなもの。
こんなに幼くて可愛らしい、妹みたいなお花を、ほうっておくことなんてできないよね。
両親がいなくなってから、この一年。
孤独だった一人ぼっちの魔女生活が終わりを迎える。
共に行動する、家族を得ることができた。
命をかけて守りたいと思えるほど、大切な存在がわたしの中に芽生えたのだ。
心臓がドクンドクンと躍っているのがわかる。
わたしに、人生の春がやって来たのだ。
お読みいただきありがとうございます。
というわけで白い鳥さんこと魔女っこ視点のお話でした。
主人公視点からではわからなかったこの一年の出来事が、白い鳥さん視点としてわかることができます。二人は既に長い付き合いになっていたようですね。
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次回、白い鳥さんと行く空の旅です。







