日誌 魔女っこ、はじめての植物育成活動 冬
引き続き、白い鳥さんである魔女っこ視点です。
わたし、魔女のルーフェ。
孤児になったわたしが村長の家に居候になって、もう数か月がたちました。
生活には慣れたけど、未だにわたしの白い髪を見ると、みんな不気味な目線を送ってくる。
それにお父さんとお母さんがいない暮らしは辛いし悲しい。
けれども、わたしは新しい生き甲斐をみつけたの。
それが喋る花ことアルラウネの育成。
もはや、わたしのアルラウネといっても過言ではないよね。
わたしが立派なお花に育ててみせるんだ。
季節は冬になりました。
今年の冬は大寒波がこの土地を襲ったの。
村長は百年に一度の大雪だと騒いでいた。
夏には日照りもあったし、こんなに天候が乱れるのは天変地異の前触れじゃないかとみんな怖がっていた。
そんな大雪の中でも、わたしはアルラウネのところへ羽を伸ばしに行く。
普通の鳥は飛べないような大雪かもしれないけど、浮遊魔法を使えば簡単に移動できる。
羽ばたかなくても、飛べるからね。
雪のせいでちょっと寒いけど、鳥の羽毛は毛布のように温かい。
そのおかげで、わたしは問題なくアルラウネのところに通えていた。
でもある日、問題が起きたの。
いきなり喋る花が「ねえ、鳥さん」と、わたしに話しかけてきたのだ!
いったい何事だとアルラウネを凝視していると、必死に口を動かしながらわたしに尋ねてくる。
「鳥さんは、鳴かない、の?」
──鳴く?
そう、鳥は普通、鳴くのだ。
そのことをわたしは完全に忘れていた!
だって鳥に変身しているからといっても、そこまで鳥のふりはしなくていいからね。
だからこれまで一度も鳥の真似をして、鳴いたことはなかった。
どうしよう。
ここで鳴かなかったら、変に思われるかな。
こんなことを訊いてくるくらいだし、わたしが鳥のように鳴かないことを不審がっているんだよね。
アルラウネとは良好な関係を築いていきたい。
けれども、もしわたしが森の動物ではなく、人間だということがバレればその夢も崩れてしまう。
モンスターにとって人間は敵。
今以上に警戒されてしまうかもしれない。
こうなったらやるしかないね。
鳥の真似をしよう。
でも、鳥って普段なんて鳴いているんだっけ?
改めて考えるとわからないよ。
そういえば家の近くの木によく止まっていた鳥は、「チュンチュン」と鳴いていた気がする。
なら「チュン」でいいかな。
うそだよね、恥ずかしい。
ねえこれ、本当に鳴かないといけないの?
わたしの人生の中で、「チュン」と鳥のように鳴けと言われる機会は今までに一度もなかった。
鳥真似なんてできない。
でも、しないとアルラウネに怪しまれるし。
鳥のように鳴くことができるの、わたし?
やるしか、ないね!
「チュゥン」
あ、やっぱ無理。
恥ずかしい。
上手くできなかったよ。怪しまれたかな。
上手い下手は置いておいて、わたしはきちん要望とおり鳥のように鳴いた。
それなのにこのアルラウネは、「もう一回」とわたしに再び鳴くことを要求してきたのだ!
なにこの花。
厳しすぎでしょう鳥に。
なにか鳥に恨みでもあるの?
「…………チュイン」
ダメ、恥ずかしすぎて上手く鳴けない。
というか、人間が鳥のように鳴いているところなんて見たことがない。
わたし、とんでもなく悲しい行為をしているんじゃないかな。
「聞こえ、なかった」
────信じられない。
今のわたしの鳴き声、絶対に聞こえていたでしょう!
わざとなの?
この花、もしかして鳥に精神的な苦痛を与えるのが趣味な花なの?
加虐性のある植物なの??
もう、最後までやりきるしかないね。
「……………………チュン」
心を無にして、鳴きました。
今までで一番、鳥らしく鳴けたと思う。
なんだか、わたしの正体は鳥だったんじゃないかと錯覚してくるくらい、鳥になりきった気がするよ。
鳥に変身しすぎた弊害が出てきたのかもしれない。
うん……。
そろそろ、村に帰ろうか。
これ以上、鳥のように鳴きたくないからね。
そうしてわたしは、鳥真似というトラウマを背負うことになってしまった。
でも、わたしが落ち込んでいることは、自然界からすれば可愛いものだったの。
大雪のせいで、アルラウネが枯れそうになっていた。
寒さに耐えられなかったのだ。
たしかにアルラウネは上半身裸の女の人の姿をしている。
蔓を胸に巻いたくらいじゃ、防寒はできないよね。
それに加えて蔓を体中に巻いて温めようとしているみたいだけど、この大雪の前では効果は薄かったみたい。
寒いのは嫌だよね。
それは人も植物も変わらないんだと一つ学びました。
アルラウネも、生きるためには必死だったの。
その証拠に、わたしに「花、取って、きて」とお願いをしてきたのだから。
このアルラウネは、食べた植物を自分の能力にできる。
ということは、きっと冬に強い花を探しているんだね。
この時期に咲いている花を食べれば、きっと大雪に耐えられるようになるはず。
それからわたし、頑張りました。
この寒い中、森中を探して元気そうな花を探しまわったの。
頑張ったかいあって、喋る花は寒さに強い花を食べることができた。
わたし、偉い!
自分を褒めてあげたくなる!
でも、わたしの頑張りはまだ続きます。
いくら寒さに強くなってもアルラウネは所詮、ただの花。
気がついたらね、雪に埋まっていたの。
村長はこの百年に一度の大雪はきっと魔の道の者が悪さをしているせいだと騒いでいたけど、そんな大雪のときに生えてくるなんて運の悪い花だよね。
仕方ないから雪かきをしてあげました。
まったく、お世話のかかるお花なんだから。
鳥の姿のままだと雪かきはできない。
でも人の姿を見られると警戒されるだろうから、人目につかない時間にやっちゃおう。
だからアルラウネが蕾になって寝ている間に、仕事を終わらせちゃいましたよ。
空中に浮遊すれば、雪に足をつけないで作業ができる。
しかもこの浮遊魔法の力を使えば、雪なんて簡単にどかせる。
わたしは魔法の力で、手に持った物も綿のように浮かせることができるの。
村からこっそりとシャベルを持ってきていたし、準備は万端。
どんなに重い雪も、魔女の力であっという間に雪かきできました。
浮いたまま作業したおかげで、足跡一つ残らなかったね。
うん、わたし偉い。
花の飼育主として立派な仕事をした気がする。
でも、また雪が降ってくるたびに雪かきするのは面倒だね。
雪に強い花がどこかにないかなと飛んでいたら、不自然に雪から芽吹いていた花を見つけた。
触ってみると少し温かい。
もしかしたら熱を持つ花なのかも。
これを食べさせれば、あのアルラウネも雪を溶かすことができるはず。
わたしの目論見通り、アルラウネはその花を食べたら発熱を覚えたみたい。
花の品種改良も大分進んだね。
自慢の喋る花になってきたよ。
これでこそ育てがいがあるというものだね。
冬のわたしの頑張りのおかげでやっとわたしの好意に気がついてくれたのか、アルラウネも懐いてくれたみたい。
この日以来、わたしを食べようとしなくなったから。
お利口さん。
今度、水でもあげにこようかな。
でも、わたしはこの日以来、水やりをしに行くことができなくなってしまった。
冬が終わるころ、わたしは村人に見つかってしまったの。
人から鳥の姿になるところを目撃されたのだ。
わたしは以前、魔女狩りにあって無実の罪で殺された女の人を見たことがある。
軍隊に捕まって、磔にされていた。
そのまま火を付けられて、生きたまま燃やされて殺されたのだ。
わたしも、そうやって殺される。
冬の大雪はお前が原因だったのかと、顔を殴られた。
わたしのせいじゃない、という言葉は誰も耳にしてくれない。
村の大人に捕まり、地面に頭を押さえつけられながら、わたしは自分が火炙りにされるところを想像した。
ごめんなさい、アルラウネ。
もうあなたのお世話はできなくなりそう。
人間は嫌い。
こうやってすぐにわたしを殺そうとするから。
わたしは世界を憎みながら、地面に涙を流した。
そうして村の納屋に捕まって数日後。
わたしの処刑の日が決まった。
わたしは明日、燃やされるのだ。
魔女として。
お読みいただきありがとうございます。
次回、魔女っこ、はじめての植物育成活動 春です。







