日誌 魔女っこ、はじめての植物育成活動 秋
引き続き、白い鳥さんである魔女っこ視点です。
わたし、魔女のルーフェ。
ここ最近は、暇を見つけると鳥に変身して、アルラウネを観察しに行っているの。
あのアルラウネにはわたしが必要。
だからわたしがお世話をしないといけない。
毎日のように魔女の黒魔法で白い鳥に変身していたせいか、わたしは鳥の飛び方を完全にマスターしてしまった。
今なら本職の鳥にだって遅れは取らない。
仮に鳥では逃げられないようなモンスターに襲われたりしても、浮遊魔法を重ねれば逃げ切ることができるの。
魔女の力のおかげで、わたしは危険な森を自由に行動することができた。
全ては、わたしの両親の仇を討ってくれた、恩人であるアルラウネを観察してお世話するため。
アルラウネの一日の行動を見てみましょう。
日中の大半は、太陽を浴びて日向ぼっこをしているの。
特にやることがなくて暇そう。
ずっとぼーっとしている。
時折、たまにやって来るハチのモンスターに蜜を与えていた。
あとは近づいて来た動物やモンスターを蔓で捕まえて食べている。やっぱり食事シーンはちょっと怖いね。
わたしも近寄ったら、きっと食べられてしまうから。
花に溶かされるのはイヤだなー。
基本的に、植物は動けないから自分からは何もできないみたい。全て受け身の行動。自由がなくてちょっと可哀そうだね。
そんなアルラウネは、稀に一人でぼそぼそと話し出すことがある。
蔓を人形のように動かして、なにか独り言をつぶやいているのだ。
目が放心状態になっているけど、どうしたんだろうね。
そういうときは必ず、最後に泣き出してしまう。
声もなく静かに涙を流すと、死んだ魚のような目で空を見上げながら口をパクパクさせるのだ。
こんな変な行動をするなんて、もしかしたら喋る花は病気なのかもしれない。
それとも寂しいのかな。
喋る花はいつも一人ぼっちだもんね。
わたしと一緒。
なんだか似た者同士だね、わたしたち。
魔女も魔物も、人間から嫌われている。
共通点がいくつかあったことから、自分勝手だけど、わたしは初めて友達というものが出来たような気がした。
人間ではなく、植物のモンスター。
それなのに、これまでの人生で出会った誰よりも、わたしはこのアルラウネに親近感を覚えていた。
花が友達。
孤独なハグレ魔女であるわたしにとっては、お似合いの相手かもね。
ある日、アルラウネが巨大なクマに襲われていた。
助けなければ!
でも、どうやって?
必死に抵抗するアルラウネは、口から何かを取り出した。
どうやら蜜の玉みたいなのを作ったみたい。
クマは蜜玉に興味津々だけど、アルラウネは空に向かって蜜玉を投げてしまう。
森の茂みに飛ばしただけでは、このクマはきっと蜜の飴を追いかけない。
遠くへ消え去った飴を探すよりは、目の前のアルラウネから再び蜜を奪うほうが簡単だからね。
仕方ないと、わたしは行動に出ます。
そして空中で蜜の玉を咥えることに成功しました。
蜜の玉を咥えたまま、クマの周りを挑発するように旋回する。
そうしてクマを誘導して、森の果てまで連れて行くことができたの。
わたし、偉い!
わたしはアルラウネの命の恩人だね。もっと感謝してもらわなくちゃ。
そして喋る花は、わたしの両親の仇を討ってくれた恩人。
恩人同士、この調子で仲良くしましょうね。
わたしのお世話は続きます。
でも、こんなにわたしは喋る花のために頑張っていたのに、喋る花は結局野生の花だったの。
どれだけお世話をしても、わたしに懐いてはくれていなかった。
だってわたしを誘き寄せて、捕まえようとしたんだから!
クマを遠くまで誘導してから数日後。
様子が気になっていたわたしは、アルラウネの近くに着地したの。
そうしたらいきなり地面から蔓が生えてきてビックリしたよ!
あともう少し浮遊魔法を使うのが遅かったら、わたしは蔓に捕獲されていたにちがいない。
今頃はアルラウネの大きな口の中で溶かされていただろうね。
こ、こわすぎるー!
いくら食虫植物でも、見境がなさすぎるよね。
もうわたしのことは認識しているだろうし、きちんと食べてはいけない鳥だと見分けて欲しい。
そろそろ懐いても良い頃だと思うのにね。
それでも、わたしは植物じゃなくて知性ある人間です。
だからちょっとお世話をしている花に噛みつかれそうになったとしても、怒ったりはしないよ。
飼い犬に噛まれたからといって、すぐに切り殺す飼い主はいないからね。
できない子だと決めつけて、見切りをつけることはなにがあってもしたくない。
魔女だというだけで悪だと決めつけて、同じ人間から狩られるようなものだからね。それはとっても悲しいこと…………。
優しく接していれば、いつかきっとアルラウネも心を開いてくれるはずだよ。
わたしは温厚な魔女のつもりだったけど、喋る花はとんでもない暴れ花だった。
喋る花が、いつかの巨大なクマを倒しちゃったのだ。
あのクマ、たしか森の主だよね。
村長が森には凄く危険なクマが住んでいるから気をつけなさいって言っていたし。
このアルラウネ、人の言葉がわかるだけが特別じゃなかったんだね。
あんなに大きなクマよりも強いなんて、もう絶対に普通の花じゃないよ。
さすがはわたしが目をかけてあげている花だけのことはある。
やっぱりわたし、見る目があるのかも!
でも、これからはもっと注意しないと。
わたしがアルラウネに近づいたら、簡単に食べられちゃいそう。
これだけお世話したのに、その花に食べられるなんて死に方だけはイヤだよね。魔女狩りにあって火炙りにされるのと同じくらいありえない。
色々と観察していたら気がついたんだけど、どうやらあのアルラウネは食べた植物を自分のものにできるみたい。
蔓に何種類かの花を咲かせていたから、多分間違いないと思う。
実際に、わたしがわざと落としてみた赤いバラや青い花をアルラウネが食べたら、その後に蔓に同じ花を咲かせていたからね。
そんな特殊能力を持っているなんて、やっぱりこのアルラウネはすごい!
でも、そんな特別なアルラウネも、結局はただの野生の花だった。
わたしが青い花を落とした時、空を飛んでいるわたし目がけて蔓を伸ばしてきたの。
あれ、絶対にわたしを捕獲しようとしたよね。
その証拠に、それからアルラウネは積極的に小鳥を襲いだした。
わたしが捕まえられない腹いせだというように、鳥に対して毒を撒きまくったの。
そうして地面に落ちた小鳥を、パクリと丸呑みする。
下手をしたら、わたしもあの小鳥のように食われてしまうかもしれない。
というか、わたし、狙われているよ!
どれだけ恩知らずな花なの!!
植物だから気にしないけどさ。
花に食べられて殺されるなんてごめんだよ。まだ死にたくない。
当分、アルラウネに植物をプレゼントするのは止めようかな。
それでも、わたしのプレゼントは止まることはなかった。
わたしの中で、あのアルラウネに対する想いが、ただの育成対象ではなくなってきたからだ。
お父さんとお母さん以外に、ここまで他人のことを想ったことはなかった。
これまでは両親以外に、大切にしたいと心から思える相手もいなかったから。
両親がいない今、この植物モンスターがわたしにとって一番大事な存在。
アルラウネは、もうわたしにとって家族のようなものになっていたの。
一人ぼっちの魔女。
そして、森で一人ぼっちにしているアルラウネ。
かたや人間の敵の魔女。
かたや人間の敵の魔物。
どちらも、人から嫌われている。
わたしたちは、境遇が似ている姉妹みたい。
孤独を、お互いの存在で支え合っているの。
ずっとわたしは、アルラウネのためにお世話を頑張って来たつもりだった。
何度か命を救ってあげた。
わたしはいつもアルラウネを助けていたのだ。
でも、いつの間にか、わたしもアルラウネに助けられていた。
アルラウネという存在が、自分の精神的な支えになっていたなんて全く気がつかなかったの。
大好きだったお父さんとお母さんが死んでから今日まで、わたしがこうして生きることを選んでいるのも、全てはアルラウネという花を育てるため。
アルラウネと出会っていなかったら、今頃わたしはきっとこの世にはいなかったでしょう。
両親がいなければ、わたしは生きる意味がない。
だから命を捨てるように、森のモンスターに身を捧げていた気がする。
もしくは、両親の仇である、あのサルのモンスターに返り討ちにあっていたかも。
そうならなかったのも、このアルラウネのおかげ。
わたしはアルラウネのために、これからも力を尽くそうと決めました。
だってアルラウネは、わたしにとってこの世でたった一つの、大切な存在なんだから。
それに、これだけお世話してきたのだし、もうあのアルラウネはわたしのものみたいなものだよね。
わたしの大切なアルラウネ。
これからも、絶対に守ってみせる。
お読みいただきありがとうございます。
次回、魔女っこ、はじめての植物育成活動 冬です。







