日誌 魔女っこ、はじめての植物育成活動 夏
白い鳥さんこと、魔女っこ視点です。
わたしの名前はルーフェ。
10才の魔女です。
この度、新しくお花を育てることにしました。
わたしがこの喋る花を見つけたのは、今から一年くらい前になるね。
あれは春の終わり。
もうすぐ季節は夏になろうかという頃でした────。
元々、わたしは王国の隣国である帝国で生まれました。
そこで両親とともに3人暮らしをしていたの。
でも、6才のある日、全てが変わってしまった。
わたしは魔女にされてしまいました。
髪の毛も真っ白になって、代わりに黒魔法という特殊な魔法が使えるようになったみたいなの。
わたしは空中浮遊と動物への変身ができるようになった。
でもその代わりに、他の村人に魔女だと告発されてしまった。
家族と一緒に魔女狩り部隊から逃げて、何度か村を転々としながら最後にたどり着いたのが、この王国の辺境の村だったの。
わたしの両親は、わたしが魔女でも変わらずに愛情を注いでくれる。
でも、そんな生活も、あの日に全てが終わってしまった。
サルのモンスターに、お父さんとお母さんが殺されたの。
わたしが魔女になっても変わらずにわたしを愛してくれた、世界でたった二人の両親を一度に亡くしてしまった。
サルのモンスター。
よくもわたしのお父さんとお母さんを。
許せない……!
復讐してやる。
お父さんとお母さんを殺したサルを、同じ目に合わせてやりたい。
両親がいないと、わたしはこの世界では生きていけなかった。
周りの人間は全てわたしを魔女だと狩ろうとする敵なのだから。
わたしを一人ぼっちにさせたサルを探して、両親にされたことと同じことをしてやるのだ。
サルの捜索のために、わたしは黒魔法で鳥に変身した。
どういうわけか、わたしが変身すると白色になってしまうの。白色の髪が影響しているのかな。
サルのモンスターは森に生息しているらしい。
サルなのに人間の剣や槍を持っていたから、きっと一目でわかるはずだ。
しばらく空を飛んでいると、森のとある場所から蔓が空に垂直に伸びているのを目撃してしまったの。なんだろうあれ、怪しい。
近づいてみると、少し開けた場所が現れる。
そこでわたしは信じられないものを目にしてしまった。
人間のお姉さんと大きなハチが、サル共を皆殺しにしていたの。
女の人がこんな森の奥でモンスターを倒しているなんてビックリ。
しかも、とんでもなく綺麗な人。
わたしが今まで見てきた女の人の中で、一番の美人さんだと思った。
でも、わたしはすぐに誤解していたことに気がつく。
人間の女の人だと思ったけど、それは上半身だけ。
腰からは赤くて大きな花が生えていて、その下には狂暴そうな大きな口がついている球根のようなものがあった。
この綺麗な女の人の下半身は、植物だった。
人ではなかったのだ。
こんな不思議な生物が存在しているなんて、驚いたね。
もしかして植物のモンスターなのかな。
こんな美しい花のモンスターがこの世に存在していたのかと、目をぱちぱちさせていると、サルの最後の一匹が討ち取られた。
わたしのお父さんとお母さんを殺したサルのモンスター。
それを花の人が倒したのだ。
ごめんなさい、お父さん、お母さん。
わたしの手で仇を討つことはできなかったよ。
でも、そもそもの話、わたしが戦ったとしてもあのサルには敵わなかった。
黒魔法が使えても、わたしは強くないのだから。
できることというと、飛ぶことと小動物に変身することくらいだしね。
とはいえ、このまま何もせずに帰ることもできない。
せめて一矢報いようと、わたしは鳥の姿のままサルの亡骸まで飛んでいく。
よくもわたしの家族を殺してくれたなと、復讐の気持ちを込めてわたしは攻撃します。
動かなくなったサルを、くちばしで突っついた。
――うん、少しだけ気が晴れたかな。
わたし自身の手で仇は討てなかったけど、代わりにサルには天罰が下った。
この綺麗な花の魔物がサル退治をしてくれたのだ。
もしかしたらこの花の魔物は良い花なのかもしれない。
わたしの代わりに両親の仇討ちをしてくれた、恩人でもあるしね。
だけど、そのあとわたしはまた驚かされたの。
いきなり、花の魔物がサルを食べだした。突然すぎて怖かった。
綺麗な外見をしていても、中身はやっぱりモンスター。
サルのモンスターを捕食するなんて、凶悪な性格をしている。
でもいくらモンスターとはいえ、植物の花がサルよりも強いだなんて信じられない。
もしかしたら、この花の魔物はすごい魔物なのかもしれない。
それにわたし、あの花に食べられそうになったの。
蔓で狙われた気がする。
鳥だったからすぐに飛んで逃げられたけど、これが人の姿だったら簡単に捕まっていたかも。
そうしたらわたしもあのサルみたいに食べられていたかもしれない。
すごいだけでなく危険だね。
人の姿でここに近づくのはやめておこうと、この時に決めたのでした。
こうして、わたしは人の姿をした花の魔物と出会いました。
わたしの両親の仇を討ってくれた、美しい植物のモンスター。
わたしはなんだかあの花が気になってしまい、それから暇を見つけては鳥の姿で花の魔物を見に行くようになりました。
とはいっても、特に何かをするわけでもないの。
鳥に変身したまま、近くから花を観察するだけ。
改めて見ても、やっぱりビックリするような外見だね。
この魔物は、花から女の人が生えている。
赤い花びらも鮮やかだけど、女の人もすごく綺麗。
人間としての外見は、わたしよりも5、6才くらい年上のお姉さんに見える。
花なのに人間的にかなり整った顔つきで、すごく美人な人。
なのに残念。
だってあの花の格好、すごいんだよ。
胸に蔓を巻いているだけだから、ほとんど裸なの。
そこでわたしは気がついた。
花だから、どれだけ自分が恥ずかしい格好をしてるかわかんないんだね。
かわいそうに。
もし人間だったら、森でこんな格好していたら恥ずかしくてたまらないよね。
花の魔物が恥ずかしい格好をしていること以外の特徴というと、蔓を伸ばして獲物を捕まえること、毒の花粉を出せること、そしてお姉さんの口から甘そうな蜜が出るということくらいかな。
やっぱり人間じゃないね。
人に見えても、体は植物。
植物のモンスターなのだ。
そんな植物モンスターに、わたしは心惹かれてしまった。
もう少しだけ、観察してみよう。
そう思いながら、季節は夏になった。
今年の夏は一段と暑い。
猛暑のせいか、もう何日も雨が降っていない。
日照りのせいか、花の魔物もへろへろになっていた。
なんだかすごく元気がない。
今にも枯れちゃいそう。
このまま花の魔物が枯れてしまうのはもったいないね。
わたしの両親の仇を討ってくれた恩人だもん。
それにこんなに綺麗な花がしなびてしまうのは我慢できないよ。
そうだ、水やりをしよう。
村長が花壇で水やりをして、花を育てていたのを見たことがある。
きっと花は、人によって育てられるものなのだ。
とはいっても、人の姿になるわけにもいかないのが難しいところなの。
ここひと月ほど観察した結果、花の魔物は肉食だということがわかった。
動物どころかモンスターでさえも、際限なく捕まえてパクリと丸呑みしてしまう。
きっとわたしも、近づけば捕食されちゃうね。
人の姿だと、万が一のときに飛んで逃げることができない。
だからバケツを持って水やりをすることはできないよ。
空中浮遊の魔法を応用すれば、鳥のままバケツを運ぶことも不可能ではないけど、それだと花の魔物に怪しまれる気がする。
普通の鳥はバケツを運ばないからね。
こんな危険な花に変な奴と目をつけられでもしたら、わたしの命が危ないし。
色々考えた結果、わたしは鳥の姿のままで水やりをすることにした。
川に入って水浴びをして、そのまま花の魔物のところへ急行する。
そして羽根についた水を花にかけるのだ。
たいした量にはならなかったけど、それでも花の魔物に水やりをすることができたよ。
うん、わたし偉い。
はじめて水をあげられたよ。
なんだか花の魔物の人も、嬉しそうな顔をしている。
その表情を見て、わたしまで嬉しくなってしまった。
水やりをしたかいがあったね。
この日から、わたしは花の魔物が困っていたら助けてあげようと決めました。
わたしの観察はまだまだ続く。
猛暑が終わると、村に旅人がやって来た。
おじいさんと、男の子の二人組。
どうやらおじいさんの方は大賢者様といって、とても有名なお方らしい。
村長が大賢者様に、サルのモンスター退治をお願いしていた。
そんなことしても、もう無駄なのに。
あのサルは花の魔物が全部倒しちゃったんだから。
でも、そのことはわたしだけの秘密。
あの花の魔物のことを村人が知れば、退治されちゃうかもしれない。
それは可哀そうだから。
人から命を狙われる恐ろしさは、わたしは誰よりも知っているつもりだからね。
花の魔物のところに行ってみると、男の子が捕まっていた。
あの男の子は、さっきの大賢者様の孫だよね。
えぇ……なんであの男の子、花の魔物に捕獲されているの?
しかも、花の魔物、人の言葉を喋っているんだけど。
今まで言葉を話したことはなかったはずなのに。
本当は喋れる花だったんだね。
すごいよ、そんな花はじめてみたよ。
喋る花の魔物は、男の子を蔓で絡めながら仲良くお話をしていた。
大喰らいなあの花のことだから、てっきり人間も捕食するものだと思っていた。
でも、人は食べないみたいだね。
むしろ、男の子に蜜を舐めさせている。
この様子なら、わたしも喋る花とお話ができるかもしれない。
とても楽しそうで、うらやましい……!
でも、もう少し観察してからにしよう。
もしかしたら、会話が終わったら男の子はもう用なしだと食べてしまうかもしれないしね。
だから結果次第だけど、あと数日したらわたしも人の姿になって森に行こう。
それで喋る花とたくさんお話をするのだ。楽しみだね。
三日後、男の子は村に戻って来た。
でも男の子の様子がおかしかったの。
魂が抜けたように「ミツミツミツミツ」と、つぶやいている。
こわい。
もしかしたら花の魔物に洗脳でもされたのかも。
綺麗な人の姿をしていても、やっぱり魔物。危険な存在なんだ。
やっぱり人の姿で近づくのはやめておこう。
男の子はおかしくなった。
でも男の子が喋る花に捕まっている間に、収穫もあったの。
村に滞在中の大賢者様に、人の姿をしている花のモンスターが存在するのかとそれとなく尋ねてみた。
それでわかったの。
上半身は人間の女の人で、下半身は花の格好をしている、「アルラウネ」という植物モンスターがいるということを教えてくれた。
なら、あの喋る花はアルラウネという名前なんだ。
普通、アルラウネは人の言葉を話すことはできないらしい。
人の姿を持ったモンスターとはいえ、結局は植物だからと大賢者様が言っていた。
なら、あの喋る花は特別なアルラウネなんだ!
そんな珍しいアルラウネを、わたしは見つけてしまった。
水やりだってしてあげた。
そして、わたしの両親の仇を討った恩人でもある。
自分のことではないのに、なんだか誇らしくなってきちゃった。
けれども、あの喋る花は、あそこから動けない。
植物だから。
この前の日照りみたいに、目を離したらまた枯れてしまうかもしれない。
危なっかしい存在だね。
見守っていてあげないと、こっちが心配になっちゃうよ。
そうだ。
喋る花を枯らさないためには、わたしがお世話をしてあげればいいんだ!
きっと喋る花には、わたしが必要だよね。
そうしてこの日から、わたしはあのアルラウネを育てることに決めたのでした。
お読みいただきありがとうございます。
異世界転生/転移の日間ランキングで19位になっておりました。皆さまありがとうございます!
今回は白い鳥さんこと魔女っこのお話です。
白い鳥がどうして主人公であるアルラウネの前に現れていたのか。その理由がわかることになります。
次回、魔女っこ、はじめての植物育成活動 秋です。







