表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/396

57 新居にお引っ越し

 どうやら私の蜜は、人を虜にしてしまう魔性の蜜のようでした。


 変だと思えるくらい、とても甘くて美味しい蜜みたいなの。

 そりゃペロリストが量産されるわけだよね。



 魔女っこが動く。

 私から無理やり蜜を奪おうとしているのだ。


 ちょっと、ダメだって!


 これ以上蜜を魔女っこにあげるわけにはいかないの。

 まだ私は栄養不足。

 発芽したてで新芽だから、あまり余裕がない。


 それに、さらに魔女っこへ蜜を食べさせてしまうと、取り返しのつかないことになるかもしれない。

 魔女っこがペロリストに目覚めたらどうするの!



 そうならないためにも、なんとか魔女っこの意識を蜜から他に向けなければ。

 そうだ、話をそらしましょう。



「蜜は後で、あげる。そのかわり、今すぐ、教えて、欲しいことが、あるの!」


 魔女っこがハッと何かを思い出すように正気に戻った。


 良かった。

 どうやらハチミツ大好きの変態ペロペロ少女に変身するのは阻止できたみたいだね。


 まだ蜜の初期症状だったから、手遅れにはならなかったみたい。

 安心したよ。

 

 なんだか中毒患者みたいに蜜を求めていたから、一時はどうなるかと思ったんだから。


 よーし、せっかくだから、このまま気になることを質問しちゃいましょう。



「この後、どう、するの?」


 このまま森の跡地で暮らすのだろうか。

 会話の内容的に、魔女っこは近くの村に住んでいそうな気がするし。



「もちろん移動する。だってここはダメだから。魔王軍に知られているし、なにより村も燃やされちゃった」

「魔王軍?」


 そういえば、ミノタウロスはこの魔女っこの絵を所持していた。


 あの恐ろしい炎龍様も、誰かを探しているようなことを呟いていたね。

 もしやこの魔女っこを探していたのかな。


「わたし、なぜか魔王軍に狙われているの」

 

 魔王軍に狙われる魔女。

 ちょっと驚いたね。


 やっぱりハグレ魔女なのが理由なのかな。


 ミノタウロスが眠り薬を持っていたことを考えると、殺すのは目的じゃないでしょう。ということは、連れ去って仲間にするとかかな。


 でも、これで合点がいった。

 炎龍が探していた人物は、この魔女っこだったのだ。


 そして王国軍の兵士たちが探していたのも、この魔女っこ。


 人間からは魔女狩りとして追われていたんだね。


 きっと王国軍と炎龍が偶然出会ってしまって、大騒動になったのでしょう。それであの火事になったんだね。


 なにはともあれ、魔女狩りから逃れられて良かったね。

 捕まっていれば命はなかったはず。


 魔女と魔物。

 同じ人間の敵同士、魔女っことは仲良くなれそうな気がするね。


 大丈夫、魔女っこが魔王軍に狙われていても関係ないよ。

 なんだったら、私が敵を撃退してあげましょう。

 大事な白鳥の王子様である魔女っこは、私が守るのだ!



 もちろん、炎龍様相手では別です。


 怪獣がやって来たら逃げるのが鉄則。

 でも魔女っこは逃走できるけど、私は置いてきぼりをくらうの。だって私、植物だから……。



「火事で全部なくなっちゃったし、この土地はもう終わり。だから、近場の森へ移動しようと思うの」


 森ね。

 私は大賛成だけど、魔女っこはいいのかな?

 一応人間なのだし、人里とかで暮らした方が良い気がするけど。


「喋る花も一緒だし、なによりわたしは人間が嫌い。街に住んだとして、また魔女だとバレたら、今回みたいに魔女狩りされちゃうから……」


 魔女狩りかー。

 それは嫌だよね。

 そういうことなら、森にしましょう。


 でもね、私、歩けないの。

 魔女っこはどうやって私と移動するつもりなんだろう?


「私、歩けない、移動、無理」

「それならこれを使えばいい」


 魔女っこがバケツを取り出します。


 ただのバケツだよね、それ。

 バケツが私に足を生やしてくれるとは思えないのだけど。


 まさか、魔女の黒魔法で、どうにかできてしまうのかな。

 少しくらい、期待してもいいかも。


 わくわくとしながらバケツに望みを向けます。

 すると、どういうわけか突然、魔女っこが地面に穴を掘り出したのです。


 せっせと両手で土をかき乱す魔女っこ。

 掘り返した土を、山のように盛ります。


 そんなに土を掘り出してどうするの?

 黒魔法でなにかに使うつもりなのかな。


 土を掘り終わると、魔女っこは最後にバケツの底に土を敷き詰める。


 そうして仕事を終えましたと、笑顔を咲かせた。

 どうやら穴を掘ることではなく、土を手に入れることが目的だったみたい。


 バケツに土なんか入れて、どうするんだろう。

 私が歩けるようになるビジョンはまったく見えないのだけど。


「これは?」と、魔女っこに質問してみます。


「これはね、喋る花の新しいお家なの」


 え、これ、私の家なの!?


 どどど、どういうこと??



「大丈夫、新しい森に着いたら、きちんと地面に植えてあげるから」


 ……どうしましょう。

 このバケツが何になるのか、なんとなくわかってきちゃったよ。


「今からこのバケツに、喋る花を植え替える」


 魔女っこが真剣な眼差しで私を見つめてきました。

 冗談を言っているようには思えないね。


「植木鉢にしてはちょっと見た目が悪いけど、大きさ的にバケツがちょうど良いはず」


 思った通りー!

 やっぱりこのバケツ、植木鉢の代わりだったー!

 

 え、うそでしょう。


 私、これからバケツに入るの?

 バケツの土の中に、根を埋めちゃうの??

 

 バケツから生えている幼女アルラウネを想像します。


 なにそれ、凄く恥ずかしいのですけど!



「植木鉢っていうのはね──」

 魔女っこが植木鉢の意味を丁寧に説明し始めてくれます。



 この魔女っこ、やはり優しい。


 私のことを森生まれの野良(のら)アルラウネだと思っているとして、本当に物のように扱うつもりなら、ここまで大事にしてはくれないでしょう。


 魔女っこは私のことを家族のように想ってくれている気がするの。


 私が植物で、しかも外見が幼女のせいか、魔女っこはお姉さん頑張りますとでもいうように、やる気がみなぎっている。


 そんな慣れないお姉さん業を、元気にやり遂げようとしている魔女っこに、私は嫌だとは言えなかった。


 

 これまで白い鳥さんには良くしてもらったし、善意の行為をむげにはできないよね。


 だから覚悟しました。

 私、これからはあのバケツで暮らします…………。



 魔女っこが最後通告を宣言しました。


「じゃあ、喋る花。植え替えるね」

「はい……」


 ついにこの土地から移動できる、というような喜びはなぜか私の中には存在していませんでした。

 

 これから私は、バケツの中に移されるのね。


 そうして中にすっぽりと入ったら、根を隠すように土を被せられる。

 そうすれば、鉢植え(バケツ)アルラウネの爆誕である。


 あぁ。

 気が遠くなったら、公爵令嬢としての私の家族の顔が浮かんできたよ。



 ──拝啓。

 おだやかな小春日和が続いております。


 お父様、そしてお母様。


 そちらはいかがお過ごしでしょうか。

 ご家族の皆様にはますますご清祥(せいしょう)のことと存じます。


 わたくしは植物になりましたが、なんとか今日も元気に花を咲かせております。


 さて、お二人にとってわたくしは、どのような娘として目に映っていたのでしょうか。


 わたくし、聖女になって立派になったのです。

 公爵令嬢として、とても誇れる娘に成長した自信がありますの。


 それでですね、少し言いにくいのですが、わたくしお二人にご報告があります。


 今度新居に引っ越すことになったのです。


 驚かないでくださいね、なんとわたくしの新しいお家は、そこのバケツです。バケツなのです。


 聖女になったあと、お二人の反対を振り切って魔王討伐に出てしまったことで、お父様とお母様が望むような箱入り娘のように従順な娘になれなかったのは謝ります。


 ですからね、せっかくこうやって生まれ変わったのですし、今生(こんじょう)ではわたくしはお父様とお母様が望んでいた箱入り娘になることにしました。


 箱じゃなくて、バケツですけど。

 

 バケツから生えている一人娘を見たら、お父様とお母様は喜んでくださいますでしょうか?


 わたくしは目から蜜を流してしまうほど、想いが高ぶっております。

 きっとお父様とお母様はわたくしと違い、塩分濃度が高めの水分をお流しになってくれることでしょう。


 でも、ご安心くださいませ。


 わたくしの蜜は、とても甘いのです。

 だからこのバケツ生活も、きっと蜜色の甘い快適な生活が待っていることでしょう。


 ですからご心配なさらぬように。

 わたくしは、これから、バケツの中で生きてゆきます。

 

 花冷えの折り、お二人におかれましてはくれぐれもご自愛くださいませ。


 ──かしこ。



「喋る花、持ち上げるよ」


 どこか遠くへ飛んで行っていた私の精神が、魔女っこの言葉によって現実へ引き戻されました。


 魔女っこによって、地面から根が離される。

 子供を運ぶように抱えられた私は、そのまま新居へと移された。



 あ…………。


 このバケツ、幼女である私のサイズにピッタリだ。


 私は、魔女っこの手によって、バケツに植え替えられてしまったのでした。


 そして同時に気がついてしまったの。

 魔女っこの手を借りなければ、私は二度とバケツの外に出ることはできないでしょう。


 それだけでなく、大地から水分を吸収することもできない。

 仮にこのまま放置されれば、私は間違いなく枯れてしまう。



 これが植木鉢で栽培される植物の気分なのかと、目の前が真っ白になりそうです。


 でも、私はもうどこにも逃げることができない。

 だって私は、魔女っこなしでは生きていけない身体にされてしまったのですから。


「鉢植えのアルラウネもかわいくて似合っているよ」

「うぅ……」



 こうして、私の鉢植え生活が始まったのでした。


お読みいただきありがとうございます。

本作を読んで「面白かった」「頑張っているな」と思われましたら、ブックマークや★★★★★で応援してくださるととても嬉しいです。その応援が執筆の励みになります。


次回、魔女っこ、はじめての植物育成活動です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
✿「植物モンスター娘日記」コミックス5巻が3月23日に発売しました✿
お水をあげるつもりで、アルラウネちゃんをお迎えしていただけると嬉しいです(*ᴗ͈ˬᴗ͈)ꕤ*.
コミカライズ版「植物モンスター娘日記5」



✿コミカライズ版「植物モンスター娘日記」✿
コミックス1巻はこちら!
コミカライズ版「植物モンスター娘日記」


書籍版 植物モンスター娘日記も

絶賛発売中です!

html>

電子書籍版には、
まさかのあのモンスター視点の
特典SSが限定で付いております!

どうぞよろしくお願いいたします。
― 新着の感想 ―
バケツ入りアルラウネちゃんかわいい〜
[一言] 本人は鉢植え化でゼツボーしてるけど、鉢植えに車輪付ければ車椅子くらいの不自由度だよねコレ
[一言] 喋ろうとしないで自己完結してるから物凄いすれ違いが起きてるのに気が付かれてないのは草。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ