54 白い鳥の正体
私の白鳥の王子様は、女の子でした。
白い鳥さんの性別はわからなかったから、白鳥の王女様かもとは思っていたのだけどね。
でもまさか、白髪の少女の姿から白い鳥さんに変身するとは思わなかったよ。
私は、白色の小鳥姿の少女を優しく見つめます。
「あなたは、白い鳥さん、だった、のね」
人に変身できるなんて凄い鳥さんだよ。
「わかってくれたなら嬉しい」
白い鳥さんが静かに鳴いてくれた。
もしかして人の言葉話せるから、普段は「チュン」とさえずりをしないのかな。
それにしても、白い鳥さんを目にするとつい見惚れちゃうのはなんでだろうね。
やっぱり小さくて、可愛らしい鳥さんだからかな。
可愛いだけじゃなく人にもなれるなんて、凄い鳥さんだよね。
「鳥さんは、人間に、変身、できるの?」
「違う、わたしは鳥じゃない。魔法で人から鳥に変身できるの」
再び体が歪みだす。
そうして、元の白髪の少女に戻ってしまった。
「こっちがわたし本来の姿」
「鳥さん、じゃなくて、人間、だったの?」
「騙すつもりはなかったの、ごめんなさい」
そうか……白い鳥さんは、そもそも鳥じゃなかったんだね。
たしかに思い返してみると、鳥にしてはおかしい言動ばかりだったかも。
でも、まさか白い鳥さんの正体が人間の女の子だとは思わなかったよ。
普通、わかるはずないよね。
──ん?
ちょっと待って。
今この子、魔法で鳥に変身できるって言わなかった?
いやいやいや。
そんな魔法、聞いたことがないよ。
空に浮遊できるのもおかしいのだけど、この白髪の少女はいったい何者なのかな。
未知の存在すぎてなにもかも謎だよ。
まあせっかく会話できるのだし、気になることは訊いてしまいましょう。
「どうして、鳥に、変身、できるの?」
「だって、わたしは魔女だから……」
────魔女、ですって!?
「あ、ごめんなさい。森生まれのアルラウネに魔女だなんて言っても、なんだかわからないよね」
魔女。
ううん、わかるに決まっているよ。
だって私は植物としては森生まれだけど、元は人間の聖女でもあるからね。
魔女はね、いわば聖女の天敵なの。
だからか、白髪の少女が魔女だと分かった瞬間から、私の全身は緊張で固まってしまっていた。
魔女の見た目は人とそっくりでも、人間ではない。
そう、教会が教えていた。
この大陸の人間の国は、どこもとある教会が国教になっている。
その教会が、魔女は魔王軍の魔物たちと同様に、人間の敵だと教えているのだ。
実際に、魔女による被害はたびたび起きている。
そのたびに、魔女狩り部隊が派遣されていた。軍まで出動させるのだから凄い。
そして、光の女神を信仰する教会にとっての象徴の一つが、聖女である。
聖女は光の女神に愛され光魔法が扱え、民からも信頼厚い。
対して魔女は、怪しげな魔術を扱い、教会や人間たちから憎まれている。
だから聖女と魔女とは正反対の存在なの。
そのせいか、魔女は聖女を狙うことが多い。
私の先輩の聖女も、魔女によって帰らぬ人となった。
だから私は魔女と聞くと、敵対心が芽生えてしまうのだ。
「まあ魔女と言っても、形だけなんだけど……」
「どう、いう、こと?」
「わたしは、元は人間だったの。6才の時に魔女にされてしまったから、もう普通の人間じゃないけど」
魔女にされた、ですって?
「元人間だから、両親も普通の人間。だから魔女の里で暮らしたこともなければ魔女の常識も知らない、ただのハグレ魔女なの」
──元人間。
その言葉に、私は同情してしまった。
自分の境遇と重ねて親近感を覚えてしまったのだ。
人が魔女になってしまうということは聞いたことがない。
でも、この白髪の少女が嘘をついているようにも思えないんだよね。
だって外見は魔女でも、中身はあの白い鳥さんだったわけでしょう。
私だって外見は植物モンスターのアルラウネだけど、中身は元聖女なわけだし。
外から見た姿だけで相手を敵だと決めつけるという行為は、なるべくはしたくないの。
それをされた本人の心が、一番傷つくのだから……。
白髪の魔女に抱いていた私の敵対心が、氷のように溶けていきました。
「生粋の魔女というわけじゃないけど、それでもわたしは魔女。だから魔物であるあなたの敵ではないわ」
白髪の少女はニコリと微笑んで、私を安心させようとする。
魔女は魔物と敵対しないのだろうか。
人間の敵同士、魔女と魔物は仲良くしているのかもしれないね。
だからこの魔女は鳥に変身してまでして、私がいる森に来てくれていたのかな。
「魔女だから、白い鳥に、変身して、私のところに、来ていたの?」
「喋る花のところに行っていたのは、わたしがそうしたかったから。鳥に変身できるのは、魔女の黒魔法が使えるから」
黒魔法。
そう聞いて少しだけ納得してしまったよ。
私は王家に近い公爵令嬢であり、当代一の聖女。
そのため、世界の裏の情報は比較的知っている方だった。
魔女だけが使用できる魔法、それを黒魔法という。
黒魔法は特殊な力を体現することができるとされているの。
しかし、その効力はほとんど不明。
箒を使えば空を飛ぶことができる、ということくらいしかわかっていない。
だから、動物に変身できることが、まだ知られていなかった黒魔法の力だったのでしょう。
ということは、まだ秘密とされていたことが魔女にはあるはず。
手ぶらで空中に浮いているのも、そのせいかもね。
「箒が、なくても、空を、飛べるの?」
「あれは、箒がないと空が飛べないと人間に錯覚させるためのフェイクなの」
そうだったのかー。
すっかり騙されていたね。
驚くことばかりだけど、まだ気になることがある。
そう、この白髪の少女こと魔女っこの目的だよ。
どうやら悪い魔女ではなさそうだけど、魔女には違いない。
幼い見た目をして、かなり過激な性格しているかもしれないしね。
例えば、魔女は怪しい薬を調合していると噂されている。
貴重な動物やモンスター、それに珍しい薬草だとかを大鍋に混ぜて煮込んでいるイメージがあるの。
だからもしかしたら、私は魔女の調合材料にされてしまうかもしれない。
そのために白い鳥の姿となって、私が枯れないように助けていたのかもね。
私はかなり珍しい植物でありモンスターの自信があるの。
そう考えると、悲しいけど辻褄はあってしまうね。
コホンと魔女っこが小さく咳払いをした。
「それでね、ここからが本題なのだけど」
魔女っこが私に向けて、静かに語りかける。
「ねえ喋る花。あなた、わたしのものにならない?」
ほら、来たよ!
私を手に入れて、調合の材料にするつもりだよ!
うん、わかっておりましたとも。
白い鳥さんがあそこまでして私を何度も助けてくれるなんて、おかしいと思っていたんだ。
全ては貴重な材料である喋るアルラウネを摘み取るため。
私のことなんて、ただの実験材料にしか見られていなかったんだ……。
でもね、良いよ。
私は白い鳥さんが望むなら、調合材料にだってなってもいい。
たしかにせっかく生き延びることができたのだし、この命は惜しいよ。
けれども、白い鳥さんがいなかったら、ここまでで何度も落としていた命だから。
だから、ね。
白い鳥さんが望むのなら、私の全てをあなたに捧げましょう。
それが、私の白鳥の王子様へできる、唯一の恩返しだからね。
はい、わかりました。
そう私が返事をするよりも、魔女っこが話し始める方が早かった。
そして私は、その言葉を聞いて度肝を抜かされることになったのだ。
「わたし、喋る花を飼育したいの。だからわたしのお花になって」
────飼育、ですって!?
どういうこと。
調合材料じゃないの??
「わたし、アルラウネが気に入ったの。だから喋る花はわたしが育てる。だめ……?」
いや、魔女っこさん。
そんなに恥ずかしそうな顔をしないでください。
むしろ恥ずかしいのは私なのです。
想定外だよ。
だって、育てるってどういうことなのー!
私、他人から飼育してみたいって言われるの、人生で初めてなのですがー!!
お読みいただきありがとうございます。
次回、魔女の狡猾な提案です。







