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53 白髪の少女

 私、植物モンスター幼女のアルラウネ。

 あそこに浮遊しているのは謎の白髪の少女。



 人間が空を飛んでいる。

 ホント、信じられない光景だね。



 正直、この一日は驚くべき出来事の連発でした。


 規格外の怪獣ドラゴンと出会ったり、白い鳥さんがバケツで消火して喋りだしたり、私が受粉して種になったあげく幼女となって生まれ変わったりと、本当に色々なことがあったね。

 だからもうこれ以上のことはないと思っていたの。


 けれども、そんな私の想像を超える存在が、再び私の目の前に現れてしまったのだ。

 

 なんなのさ、あの不可思議な人物は。

 

 空中で浮遊したまま停止できるだなんて、人間技ではないよ。

 通常の魔法では不可能な芸当のはず。


 なら、あそこで飛んでいる白髪の少女はいったい何者なの?



 空を見上げる私は、白髪の少女と目が合ったままだ。

 なんとなくだけど、少女の瞳からは敵対的な視線は感じられなかった。


 でもね、こんなに怪しい人物を前に無防備でいられるほど、私は優しくはないのです。

 この一年で森の生物としてかなり鍛えられましたの。


 じーっと睨み返して見せます。

 今の私は幼女だから、もしかしたらあんまり怖くはないかもしれないけど、気にせず頑張ります。



 そんな私の努力に気がつかないとでもいうように、白髪の少女が小さく首をかしげた。


「あれ、こんなに小さかったっけ?」


 小さくて悪かったですね。

 私はね、新芽なの。


 本当に生まれたてほやほやなのよ。

 人間で考えれば赤ちゃんなんだから、小さいのは当たり前なの。


 私は前世では女子高生として生きて、その次に聖女として17年生きた。

 だから子供相手のような反応をされると、ちょっと困るんだからね。



「まあ小さいけど、アルラウネには間違いないか」


 白髪の少女はふむふむと納得するように私を見分する。


 もしかして、私を探していたの?


 この少女の目的は私なのでしょうか。

 アルラウネと言っていたし。


 そういえば、この白髪の少女は、魔王軍のミノタウロスが持っていた絵の人物と同じ外見をしている。


 絵が下手すぎて、白色の髪からてっきりおばあさんだと思っていたのだけど、どうやらこの白髪の少女のイラストだったみたいなの。


 魔王軍の紙に描かれている少女。

 もしかして、魔王軍の仲間なのかしら?


 ミノタウロスが探していたわけだし、行方不明になった仲間という線があるよね。

 それか、ミノタウロスが眠り薬を持っていたことから考えるに、脱走した元仲間を探していたという可能性もある気がする。



 魔王軍の者なら、この非常識な空中浮遊という技も納得できるね。

 そうなればきっと、この少女は人間ではないということだから。



 でも、それはそれで状況が最悪だよ。

 魔王軍でも、元魔王軍だったとしても、白髪の少女はきっと私にとっては敵になりうる存在の可能性が高い。



 どういうことか私を探していたみたいだし、もしかしたらこのまま魔王軍に献上されてしまうかもしれない。


 そうなれば、まさかの炎龍様と再びのご対面である。 


 部下のミノタウロスの(かたき)として、今度こそ燃やされちゃうよ。

 せっかくこっそりと青い炎から脱出して生まれ変わったというのに、そんな未来はあんまりすぎるって。



 私は警戒するように、空に向かって蔓を構えます。

 

 せっかく生き延びた命。

 無駄にしないためにも、徹底抗戦(てっていこうせん)するよ!



 私が蔓をゆらゆらと漂わせていると、白髪の少女はなにかに気がついたように目を見開く。

 そして手を振って来た。


 まるで「おーい」と挨拶するように。


 違うって!

 ちょっと蔓が小さいうえ短かったから強そうには見えないかもしれないけど、これは私の最大限の威嚇行為なの!


 別にあなたに手を振っているわけじゃないから。

 そして私に手を振り返さなくても良いから!



 けれども、私の行為を見た白髪の少女は、安心したような表情になった。

 そのままゆっくりと降下してくる。


 私から少し離れた場所で浮遊したまま停止すると、小さく微笑みながら声をかけてきた。



「やっぱりあのアルラウネなのね。小さくなっちゃったけど、燃えなくて済んだみたいで本当に良かった……」



 近くで目にする白髪の少女は、可愛らしい女の子でした。

 ぱっと見は、物静かそうな普通の女の子にしか思えない。

 ちょっと(さち)が薄そうな気もするけれども。


 ともかく、一見するだけでは、空中浮遊を披露するような謎の危険人物には到底思えなかった。

 魔王軍の手先にしては可愛らしすぎるし、貧弱すぎる。


 まあ白髪、というのが気になるけどね。

 

 すぐ近くの距離になったからわかったけど、この少女はだいたい10才くらいだと思うの。

 その年齢の子の髪が真っ白になることなんて、普通はありえないからね。



 それでも念のために警戒は解かないでおきましょう。

 森では一つの油断が、死に繋がったりしたからね。


 蔓だけでなく、茨をウネウネと体の周りに漂わせます。

 すると、白髪の少女がビクリと反応した。


 そのまま、そーっと浮遊しながら後退していく。


 

 あれ、なんだか怖がられていない、私?

 

 幼女である私に怯えるということは、この少女はあんまり強い相手ではないのかな。

 ちょっと質問してみようか。



「どちら、さま、ですか?」

「わたしのことは知っているでしょ?」



 質問を質問で返されてしまった。

 どういうことなの。

 なにもわからないけど、もうこの際だから気になること全部尋ねちゃいましょう。



「なんで、茨を見て、遠ざかって、いくの?」

「だって危ないから」



 まさか私のことを、危ないと思っているの?


 そんな危険な存在じゃないですよー。

 ただの森のお花ですよー。

 ついでに幼女だよー。


 白髪の少女が、困ったような顔をしながら口を開いた。



「あなた、その茨でわたしを捕まえて食べるつもりでしょう?」



 あ、これ、完全に警戒されているね。

 でも、なんで私が食虫植物だということを知っているのだろうか。

 

 こんな幼女な見た目からでは、人間サイズの獲物をパクリと食べてしまうようなアルラウネには見られないはずなのに。



「もしわたしを食べないと約束してくれるなら、これをあげる」

 

 白髪の少女が、背中から何か取り出そうとする。

 どうやら、ずっと何かを隠し持っていたみたい。


 もしかしたら武器かもしれないね。

 私を油断させて、襲う戦法かも。


 細心の注意を払いながら構えていると、白髪の少女の背後から一個のバケツが出てきた。


 うーん。

 武器ではなさそうだね。

 どう見ても、ただのバケツです。



 ──え、バケツですって?



 私は、そのバケツを一度目にしたことがあった。


 森が火事になっていたあの時。

 球根に付いた私の炎を、あの白い鳥さんがバケツの水で消火してくれたのだ。


 その時に見たバケツと、よく似ている。



「わたし水をあげにきたの。約束だったから……」



 白髪の少女が、恥ずかしそうにつぶやいた。


 ──約束。


 私は人間の女の子と約束なんてした覚えはない。

 花違いではないかしら。


 けれど、私は人間ではない相手となら約束をしたことがあるの。



「でも、驚いた。喋る花は絶対に燃えていると思ったのに、よく無事だったね」



 ──喋る花。


 その呼び名も、一度聞いたことがある。

 白い鳥が私のことを、そう呼んでいた。


 そういえば、白い鳥はなぜか喋れたのだったね。



「前まではわたしよりも大きかったのに、今はこんなに小さくなっちゃって……しかもかなりかわいい」



 無表情のままそう告げる白髪の少女。

 

 おかしい。

 私は白髪の女の子と出会ったことなんて一度もないはず。

 

 元聖女時代の記憶を含めても、こんなに目立つ子とは知り合ったことはないよ。


 それに、私に水をあげると告げてきた相手は、人ではない。


 私が警戒の視線を強めたせいでしょう。

 白髪の少女の動きが、きょとんと止まった。



「そうか……やっぱり人間の姿のままじゃわからないよね」



 少し困ったように、白髪の少女が(うつむ)いた。



「でも、こうすればわかるでしょう?」



 白髪の少女が小さく息を吐く。

 すると、少女の体が歪み出した。

 渦を巻くように全身が凝縮されていく。


 まるで幻覚でも見ているのかしらと、錯覚してしまいます。だって、とても現実的だと思えない光景なのですから。


 困惑しすぎた私が蜜をゴクリと飲み込む間に、白髪の少女は一羽の鳥になっていた。



 そこに浮かんでいるのは、どうみても人ではない。


 白い鳥である。


 白髪の少女が、白い鳥に変化したのだ。


 しかも、ただの鳥じゃないよ。

 私がこの一年、何度も目撃してきたよく見知った白い鳥さんの姿なの。



「これならわかるでしょう?」



 白い鳥さんが私に向かって、人の言葉で呼びかける。



 私はやっと理解した。


 私に水をあげると約束した相手。

 そのバケツを使って消火してくれた相手。


 そんなの、一人しかいないよ。

 一人というか、一羽というべきかな。


 でも、信じられない。

 人が動物に、動物が人に変身するなんて、全く考えられない出来事なのだから。

 驚きすぎて口から蜜を垂れ流してしまうくらい、ビックリだって。


 この少女は、魔王軍ではない。

 それどころか、敵でもない。

 むしろ、味方だ。


 私は呆然(ぼうぜん)としたまま、彼女に問いかける。


「白い、鳥、さん?」


 私の質問に対して、白い鳥さんは小さな(くちばし)を開いて見せた。


「チュゥン」


 その下手な鳴き声、間違いないよ。


 見た目どころか、中身も完全にあの白い鳥さんだ。


 

 白髪の少女の正体は、白い鳥さんだったのだ。


 普通だったら、人が鳥に変身するなんて非常識な光景を目にしたら警戒心を強めてしまうでしょう。でも、私は逆に緊張の糸を切り落としてしまった。



 あぁ、なんてことでしょう。

 白い鳥さん、私はね、あなたを見るとなぜか安心してしまうの。


 私は、あなたに何度も命を助けられた。

 たしかにちょっと不思議な鳥さんだなとは思っていたよ。



 けれども、これだけは言えるの。

 白髪の少女が白い鳥さんだったのなら、私はあなたを信用できる。



 だってあなたは、私の白鳥の王子様なのだから。


お読みいただきありがとうございます。

おかげさまで、総合評価10000ptを突破することができました!

ここまで来れたのも、ひとえに皆さまの応援のおかげです。

いつも応援していただき、改めまして感謝申し上げますm(_ _)m


次回、白い鳥の正体です。

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― 新着の感想 ―
威嚇するちっちゃいアルラウネちゃんかわいいですね。 幼女と幼女をあわさって最強に見える。 ここからは百合の時間ですね。
[一言] バケツ見せたあたりでもしかして使い魔とかだったとか思い至るかと思ったらかすりもしてなくて草、前世知識似たような同系等の植物の名前以外で有効に使えてないの本当に草なんだわ。
[良い点] 初めから一気に読んでいます。 主人公に襲い掛かる逆境に次ぐ逆境に、読んでいて鬱憤が溜まることもありますが、ピンチでもユーモアを忘れない軽妙な語り口のおかげで気持ち良く読み進められます。 …
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