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51 私、受粉します

 私、元聖女の植物モンスター娘のアルラウネ。

 でも、元聖女としてはこれが最後の自己紹介になるかもしれないの。



 森の火事と、私の身を燃やす炎龍の青い炎。

 この二つの問題を同時に解決する方法が見つかりました。


 それがバンクシアの種。


 山火事が起こるとバンクシアは実から種を飛ばして、種の保存をはかるわけ。

 そうして火が消え去ったあとの大地で、一番に芽を出して再びバンクシアの花を咲かせるの。



 私はそのバンクシアの種を捕食した。

 だからこれで、バンクシアの特性を使用することができる。


 私が種になることができれば、目の前の空き地部分へと飛んで移動することができるの。


 そこで新しいアルラウネの体として生まれ変われば、私は救われる。


 そうなれば炎龍の青い炎から脱出することができるよ。

 なにせこの青い炎が燃やしているのはアルラウネである私の体。外に飛び出した種まではその範囲外でしょう。


 それに、この森が全焼して炎が消え去った頃に、種から芽を出すこともできるかもしれない。そうなれば火事によって燃やされる心配もなくなる。



 これで無理ゲーと思われた二つの難問が同時に解決されてしまうわけ。



 ただし、この方法を取るには二つの新たな問題があるの。



 一つ目だけど、私は種となるために受粉しなければならない。



 受粉するのは嫌。


 ハチさんに無理やり受粉されそうになったときはこの世の全てを呪いたくなったからね。でも、今回はあの時とは話が違うの。


 実は、リンゴの雄花(おばな)雌花(めばな)を生成して受粉させ、リンゴを作ることに成功したときにちょっと思ったのだ。


 もしこれを、アルラウネである私の雌花本体でやったらどうなるんだろう、と。


 リンゴの雄花だって作れるのだ。

 それならアルラウネのDNAを持った雄花も作れるはず。


 雄花の雄しべというデータを持っているのだから、それを組み合わせて品種改良をすれば、アルラウネのDNAを持った雄花を作り出すことが可能な気がするの。


 じゃあ、そのアルラウネの雄花を、雌花である私に受粉させたらどうなってしまうのか。



 植物として1年生きてきたせいか、私も自分の体についての認識は少し変わっている。人ではなく植物の体であり、根本的な生態系が違うというのもかなり受け入れつつあるの。


 とはいえ、今でも他人の雄花を体に付着させられるのはまっぴらごめんだよ。拒否するね。


 それでも、その花粉が自分のだったら、話は少し変わる。


 雄花(他人)×雌花(私)で受粉すれば、他人のDNAが入っているのだから、種子は私と同じ存在にはなれないでしょう。


 でも、雄花(私)×雌花(私)で受粉すれば、きっと種子には私の遺伝子だけを受け継ぐことができる。品種改良で調整もできるしね。


 そのせいか、他人ほどの嫌悪感はそこまでない。


 むしろ、その後どうなってしまうのだろうかという恐怖のほうが(まさ)る。

 不安なのは変わらないけどさ。


 でもね、これは自家受粉(じかじゅふん)という花の生態の行為なの。

 一つの花の中で受粉が行われて種ができるという、植物としてはとても自然なこと。

 人間のそれとはまったく違う。


 それに今は緊急事態。

 燃えて死んでしまうことと受粉をすることを天秤にかけたら、躊躇(ちゅうちょ)している暇はないよね。

 全ては生き残るため。そうして植物としてのスローライフを満喫する。

 その夢のためなら、私はもう受粉だってしてみせる。



 そして二つ目の問題。

 

 それは、私と私からできたアルラウネの種子の意識は、はたしてどうなっているかということなの。


 私から生まれたアルラウネの種子。

 その種が発芽してアルラウネとして成長したときに、そのアルラウネの意識には私がいるのか、いないのか。それが凄く心配。


 もしかしたら、新しいアルラウネは全くの別人かもしれない。

 そうしたら、元聖女であり、前世は日本の女子高生であったというこの私の意識というか魂は、受粉した瞬間に消えてしまう可能性だってある。


 それがね、凄く不安なの。



 だけど、私は一つの仮説を立てた。


 被子植物(ひししょくぶつ)である私は、果実の中に種子ができる。

 果実は雌しべの子房(しぼう)が成長するとなるの。


 このアルラウネの人間の体は、雌しべそのものであり子房も備えている。

 つまり、果実とは私自身。ついでに種子も私の一部が成長するとなるわけ。


 受粉しても花冠から下の球根はそのまま変わらないけど、人間の体部分である私は種になる。


 おそらくだけど、元聖女としての意識は、この雌しべに存在していると思うんだよね。

 だっていつも雌しべとして私は語っていたわけだからね。



 つまり、雌しべである私の子房が果実となって種になる。

 その種から発芽したアルラウネの新芽は、また私である可能性が高い。


 なにせ、私が種になるのだ。

 母親が出産して子供を産むという、人間の子孫の残し方とは全く違う。


 しかも、その種の両親はどっちも私。

 それなら、見た目ごと新しく生成する種に精神を移すことができるかもしれない。


 移すというよりは、私の体が種子に変化するといっても良いでしょう。

 植物生成で品種改良もできるのだし、受粉時に私の意識を種子に移動するように操作すれば、より確実性は増すはずだよ。


 私のこの仮説が正しければ、私は再び元聖女のアルラウネとして生きることができるはず。


 実際になってみないとわからないけど、もう迷っている暇はないね。

 今にも私は炎龍の青い炎と森の火事に焼かれてしまいそうなのだから。



 よし、腹はくくりました。

 仮に私の種子から生まれたアルラウネが私じゃなかったとしても、子孫には変わりない。私の代わりに頑張って生きてもらいましょう。

 

 それでも、新しく生まれたアルラウネが私だったら、それが一番完璧だね。



 蔓を顔の前にまで持ってきて、全神経を集中させます。

 そうしてアルラウネの雄花を生成です。


 うん、できました。

 見た目はただの小さな赤い花。


 雄しべが人の姿をしているわけでもない。

 けれども、これはれっきとしたアルラウネの雄花なはず。



 この雄花の雄しべを、雌花の雌しべに付着させれば受粉が完了となるの。

 正確には、雌しべの柱頭に雄しべの花粉を付ければ良い。

 雌しべとはこの人間の体部分のこと。

 そして、アルラウネの柱頭は口になるの。


 私は、生成したアルラウネの雄花を優しく()み取ります。

 

 そうして、上の口で雄花にしゃぶりつく。

 必要なのは、雄しべの花粉。


 雄しべの花粉は(やく)で作られている。

 (やく)とは、雄しべの先端部分にある、小さな袋のようなもののこと。


 花粉が詰まっている雄しべの(やく)を、私は舌で(から)め取ります。

 そのまま舌でめいっぱい花粉を吸い取って、ごくんと飲み込む。


 実は、植物の受粉は、この時点で完了となるの。

 雄しべの花粉が雌しべの柱頭に付くと受粉したとみなされるわけ。


 これで受粉は完了したね。

 でも、まだ終わりじゃない。

 むしろ私にとってはこれからが始まりなの。


 受粉すると、雄しべの花粉は子房(しぼう)内の胚珠(はいしゅ)を目指して花粉管を伸ばし始める。



 基本的に、雌花の子房は、雌しべの根元付近に存在します。

 雌しべとは私の人間の体のこと。その根元とは、お腹から腰にかけての辺りのことだね。


 子房である私のお腹の中には、胚珠がある。


 受粉後、口から入った雄花の花粉は子房内の胚珠を目指して移動する。

 そうして子房は成長して果実となり、胚珠は種子となる。




 私は、雄花の花粉が胚珠に到達したことを体で感じてしまった。


 教科書上では雌しべに花粉が付くことを受粉というのかもしれない。

 けれども、本当の意味で受粉したのはこの瞬間だと思った。



 私の子房部分であるお腹が、次第に膨らんでくる。

 果実になろうとしているのだ。


 この膨らんだお腹の中に、私の種子がある。

 いや、その種子に、私がなるのだ。


 この中にアルラウネとしての新しい種が入っているのだ。膨らんできたお腹部分を手で優しく撫でる。

 そうして超回復魔法を使います。

 これで成長スピードが飛躍的に向上するはずだ。


 この時点でもう既に、青い炎は球根部分を焼き尽くしていた。


 葉っぱも燃え始め、今にも花冠に火が移りそうだ。

 この雌しべの体も青い炎に包まれてしまうことになる。

 そうなればもう、種子として転生することもできない。



 私は自分のお腹あたりにさらに超回復魔法を込め続けます。

 早く種子になって、炎から身を守るため。


 もっともっと超回復魔法を発動します。

 これは種子になったあとに使う分。

 地面に落ちた種子がなるべく火に耐えられるよう。

 そして種子がなるべく早く発芽するように。


 そんな願いを込めながら、私は回復魔法を貯め続ける。

 


 超回復魔法を使用すれば、私の植物の体は急成長する。

 お腹はそのまま風船のように急激に膨張していった。


 胸、首、そして顔が子房に包まれていく。

 

 視界がなくなった。

 五感が次々と消失していく。


 あぁ、意識も遠のいていくよ。



 私という体と精神が、一つの小さな箱の中に押し込められていくのがわかる。

 きっとこれが種子なのね。



 子房は果実となった。

 そして、その中には種子が誕生している。




 この後、炎龍の青い炎が花冠を燃やし始めるはず。

 その炎は、果実にも向かう。


 そうなれば、バンクシアの能力が発動することになるはずだ。


 炎から逃げるように果実がぱっくりと割れ、実の中から種子が飛び出るの。


 そうなれば種子は地面へと落ちていく。


 元のアルラウネの体は燃えてしまうけど、新しい体が宿るアルラウネの種は無事なはず。



 でも、私はその光景を目にすることはできない。



 なにせ、今の私には目がない。

 感覚もない。


 それだけでなく、もう意識もなくなりそう。


 だって、今の私は花ではないのだから。



 ただの植物の種。

 アルラウネの種だ。


 真っ暗な世界が、私を優しく包み込んだ。

 意識が完全に消える。

 


 そうして、私は種になった。


お読みいただきありがとうございます。


次回、私、幼女になりましたです。

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― 新着の感想 ―
えっちです。 こいつ受粉したんだ!!
[一言] 竜の野郎がなんとも許せないですな。 一気に始末せず、徐々に殺すとは… さて竜はどうなるのでしょうか。
[一言] これは天才だと思いました。 ここまでの描写ができるなんて……。 あなたはすごいです。
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