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50 私、燃えたくないです

 私、歩くことができない植物モンスター娘のアルラウネ。

 あそこを走っているのは、歩行可能な樹木のモンスターであるトレント。



 私、また殿方から捨てられたの。



 婚約者であった勇者様に裏切られて捨てられ、一方的な片思いをされていた枯れ木のトレントからも見捨てられる。



 ──はは。

 

 私の人生ってこんなんばっかりだね。


 信用できたのは森サーの女友達だけだった。

 もう私は百合の森だけで生きていきたい。


 むしろ、私が百合の花になりたい…………。




 同じ植物モンスターであるはずのトレントに見捨てられ、私の思考は活発化していた。



 ちょっと前までは燃えることを受け入れて、頭の中も真っ白状態だった。

 でも、同じ森の仲間であるはずのトレントに裏切られたことで、私は怒りました。



 あのトレントだけ火事から逃げて生き残るのは許せない。


 トレントが許されるのなら、私だって生きたいよ。

 まだ死にたくない。


 生きたい、という(ともしび)の炎が私のなかで再点火されました。



 今さらで遅いのだけど、あのトレントを捕まえて食べることができたら、もしかしたら私は歩行が可能になっていたのではと思わずにはいられないね。失敗したよ。

 逃がすんじゃなかったね。


 後悔(さき)に立たずとはこのこと。

 過ぎたことは忘れて、未来のことを考えましょう。


 今は私が生き残るためにはどうすれば良いのかだけを考えれば良いの。


 問題はどうやってこの危機を乗り越えるかだよね。



 私が生き残るために達成しなければならない課題は二つ。



 一つは、森の火事。

 周囲の木々は、全て火に包まれている。このままだと、私にまで火の粉が降り注ぐのは時間の問題。いくら私の周囲が空き地になっているといっても、これだけ大きな火事に囲まれたら無事では済まないでしょう。


 二つ目は、炎龍の青い炎。

 水でも消えないという青い炎は、少しずつ私の体を燃やしていく。すでに球根の半分ほどが燃えている。じきに、私の全身は青い炎で焼かれ、死に至るでしょう。

 あの炎龍が確実に燃やすと宣言していたのだし、きっと私は助からない。



 この二つの問題を残された短い時間内で同時にクリアしないと、私には未来がないわけ。




 ──うん。


 これ、無理じゃない?


 片方だけでも解決困難な課題なのに、それが二つもあるのはただの無理ゲーですよ。



 もう、どうしようもないじゃん。

 やっぱり私は、この森で死ぬ運命だったのかな。



 アルラウネとして生まれてからの体感としてはまだ1年くらいだ。

 でも、私が聖女として勇者様と聖女見習いのクソ後輩に裏切られて殺されてから、外の世界ではもう4年が経っている。


 だから、死ぬのがちょっと4年だけ遅くなったというだけなのかもしれないね。

 私は、聖女として裏切られたあの日、既に死んでいたのだ。


 アルラウネとして生きたこの1年間は、ボーナスステージのようなもの。

 それが今、炎によって終わろうとしているだけ。


 そう思えば、少しは気持ちも楽になるかな。




 ──────いや、ならないよ。



 だって、私、まだ生きているし。

 ボーナスステージだろうが、まだゲームは終わっていないのと一緒だよ。


 私は一度死んだかもしれないけど、転生してこうやって生きている。



 元聖女として、一度死んだからわかる。

 死ぬということは、凄く怖い。

 あんなこと、もう二度と味わいたくないの。


 だから私は、死にたくなんてない!

 まだアルラウネとして生きたいの!


 光合成をしながら静かに植物ライフを送る。

 それがアルラウネとしての私の夢。


 夢を実現するため、私はまだ諦めるわけにはい──痛っ!


 

 私が夢への抱負を語っていると、顔に何かがぶつかってきました。


 ちょっと痛かったね。


 それで、なにこれ。

 植物の種かな?


 どこからか種が飛んできたみたい。

 でも、なんでこんなときに?


 指で種を(つか)み、じーっと観察します。


 すると、視界の奥に、一本の木を見つけました。



 あれは火事が発生した直後に、私が空き地の増設をしていた時にみつけた変なトウモロコシみたいなのが生えていた木だね。


 ちょうど、今まさに炎によって燃やされ始めたところみたい。



 そんなトウモロコシの木には、よく見ると他にも不思議な物体が生えていた。


 黄色いトウモロコシだけでなく、赤いトウモロコシもある。

 いや、よく見てみると、あれはトウモロコシじゃない。花だね。


 トウモロコシというか、ブラシのような形をしている変わった花だった。


 その花の近くには、茶色のゴツゴツした実のようなものも生えている。

 パックリと空いた貝のようなものがたくさん密集しているように見える、謎の実だった。



 なんだろう、どこかで見たことあるような気がするんだよね。


 ふと、私は手元の種に視線を移します。



 火事によって、飛んでくる種。


 

 そんな変わった花を、私は知っていた。

 

 あ、これ、「バンクシア」の種だ。


 思い出したよ。

 女子高生時代に読んだ植物図鑑で、この花のことを見たことがあったの。



 普通、森で火事が起きるということは植物にとって災難となる。

 けれどもその火事を利用して種を飛ばし、発芽するのがバンクシアという花だ。


 バンクシアの実は、火事の炎で熱せられると中の空気が破裂して割れ、外に種を飛ばすの。そうして種は、燃えていない地面へと落下する。


 火事が終わった後、バンクシアは残された大地で最初に発芽し、他の植物が誰も生えていない中で栄養も太陽光も全て独占して成長をすることになる。


 だからバンクシアは火事があっても、種を残し続けることができるのだ。

 

 私が女子高生だった世界ではオーストラリアに分布すると書かれていた。

 オーストラリアって、なんだか山火事が多かったよね。火事から救出されるコアラをテレビで観た記憶があるよ。



 あそこで燃えているあの木は、この世界でいうバンクシアのような性質を持った木なのでしょう。成長スピードから考えると、魔木だったとしても驚かない。 

 バンクシアの木から私までの距離は10メートル以上もあるのに、ここまで種を飛ばすのは異常なことだと思うから。



 ともかく、これはバンクシアの種といっても過言ではないね。


 この世界のバンクシアの魔木の種なら、きっと火にも強いはず。

 それに、あのバンクシアは、私の周りの空き地に種を()いているみたい。

 ここの地面に種が落ちてしまえば、きっと火事で燃えることもないでしょう。




 ──あ、なるほどね。



 そう、私は気がついてしまったの。

 絶望的と思われたこの状況を打破する解決策を思いついてしまった。



 私、もしかしたらここで死ななくて済むかもしれない。



 

 でも、この方法には少しの勇気とリスクが伴う。


 けれども成功すれば確実に私は生き延びることができる。


 森を(おお)う火事も、炎龍の消えない青い炎も、この方法を使えば簡単に解決してしまう。


 無理ゲーと思われた超難問を、簡単に飛び越えてしまうことができてしまうかもしれない。



 実は、このことについては前々から密かに気になっていたの。



 私に他人の雄花の花粉が付着すると、私は受粉して種になってしまう。

 その種から生まれた私は、いわば私と知らない雄花との間にできた子供のようなもの。


 つまり二人の遺伝子を受け継いだ、赤ちゃん。

 それはもう私ではないはず。

 私の存在は、きっとそこにはいない。



 では、相手が知らない雄花でなかったらどうでしょう。

 そして、その雄花と雌花からできた種は、いったいどの部分から種に変化するのか。

 

 私はバンクシアの種をじーっと見つめます。


 もし、私にもバンクシアと同じことができたら、きっと私は生き残れる。


 周囲を覆う森の火事、そして体を(むしば)む炎龍の青い炎。

 どちらもこの方法の前では私を燃やすことはできなくなる。


 けれども、確実性はない。

 それに、かなりの勇気もいる。



 それでも、やる価値はあるよね。

 なにせ、このままじっと待っていても、私は炎に焼かれて死んでしまうのだから。



 だからね、私、決めました。



 光合成をしながら静かに植物ライフを過ごすという夢を叶えるためには、ここで燃え尽きてしまうわけにはいかないよ。

 


 生き残るためなら、もうなんだってする。

 (わら)をも(つか)む覚悟で、私はバンクシアの種を握りしめた。



 

 ハチさんと初めて出会ったときは、嫌だった。

 無理やりされるのはもちろん許容できない。

 知らない相手の花粉を付けられるのも無理。

 だから今でも怖いよ。



 それでも、私は覚悟をする。


 だってもう、これしか残された未来はないからね。



 バンクシアの種を下の口に食べさせます。

 まだ青い炎で燃え切っていなかったのが幸いしたね。


 でも、これできっとできるはず。

 私はバンクシアの能力を手に入れることができたのだから。

 

 相手は知らない雄花ではない。


 私には食べた植物を生成する能力がある。

 そして、品種改良をしてそれらを掛け合わせることができる。

 そのベースとなる遺伝子は、なにも食べた植物しか使えないわけじゃない。

 私という存在の遺伝子だって、活用できるはずなの。



 花にとってそれは最初で最後の経験となる。


 私の初めての体験。

 でも、植物にとってはとても自然なことでもある。


 はい、もう決めました。



 私、受粉します。


お読みいただきありがとうございます。


次回、私、受粉しますです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 別作品で蜘蛛子がやっていたアレかな?
[一言] 意外!それは自家受粉ッ!
[一言] なん……だと…… ノクターン壁じゃ!ノクターンの壁をだせ!?(ベルリンの壁)
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