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49 森と共に燃えぬ

 森サーのみんなとの別れは済んだ。


 この森に残っているのはもう私だけ。



 どうやら右側の森にも火が回って来たみたいだね。

 もうそろそろ、私の周囲は全て炎に包まれてしまう。



 炎龍からプレゼントされた青い炎が私を燃やし尽くすよりも、火事が襲ってくるほうが早かったみたい。

 まあどうせ、燃えることには変わりはないか。



 あぁー。

 これで私の人生も終わりかー。



 前世の日本では女子高生時代に死んでしまって、この世界で聖女としても17才で死んでしまった。

 そうしてアルラウネとしても約1才で享年を迎えてしまう。



 思えば本当に、散々な人生だったね。


 子供の頃に光魔法に目覚めたおかげで聖女になる修行に明け暮れて、幼馴染の王子様が勇者になり、その勇者様と許嫁になった辺りから運命の歯車が変わり出したよね。


 魔王を討伐するためにパーティーを組んで王都から出発して、魔王軍の幹部の一人を倒した辺りまでは順調だった。


 問題はその先。


 すべてのはじまりはあの日から。


 勇者様と聖女見習いのクソ後輩に裏切られて四肢を切断されて、ついでに勇者様がそのクソ後輩に寝取られていて、私は絶望したまま花のモンスターに食べられてしまう。そうして気がついたらアルラウネに転生だよ。


 とんでもない人生だよね。


 そこからだってハードなサバイバルの連続だった。


 ハチさんに受粉されそうになったり、クマパパにペロペロされたりと、思い返しても散々な記憶しか出てこない。


 それでも、森サーのみんなや白い鳥さんに出会えたことだけは本当に幸せだったね。


 

 森の主にもなったし、私はこの森に愛着を持っていたのだ。


 女子高生時代に観た映画で、沈没する船と運命を共にしようとする船長がいた。

 今ならその船長の気持ちがよくわかる。



 私はアルラウネとして転生して、再びこの森で生を受けた。

 この森が私の新しい故郷。


 そして、この森には私の同類たる植物たちが大勢(しげ)っている。

 そんな森の木々や植物たちが、いま燃えているのだ。


 ほら、私がいつも気になってみていたあの突然現れた枯れ木にも、火が燃え移りそうになっているよ。


 たとえ枯れてしまったとはいえ、燃えたくない気持ちはわかるよ。でも、私たちは動けない植物。もうどうしようもないよね。



 ならば、私もともに逝こうじゃないの。

 

 どうせ火事から逃げることもできないのだし、炎龍の青い炎を消すこともできない。

 だから私は、森と運命をともにします。



 仲間である森の植物たちと一緒に。

 炎によってみんなで燃やされる。

 そうなれば私たちは灰となって一つになれるのだ。


 もう、寂しい想いもしなくて済むよね…………。



 最後に一つ。


 白い鳥さんは大丈夫かな。

 炎龍から逃げていたみたいだけど、無事だと良いんだけど。



 白い鳥さん。

 せめてあなただけでも生き延びて。

 なにせ、あなたは私の……白鳥の、おぅ…………。




 火事という事象は、森の植物にとって生命の終わりを意味します。

 火が迫っていて熱いのが嫌だからと、走って逃げだすような植物は普通存在しない。


 だから私の命もここで終わり。


 そう思って、人生を諦めたその瞬間、勢いよく何かが地面から抜ける音がしたの。



 ポンッ!


 という音で、私はどこかへ飛んでいきそうだった意識を取り戻しました。


 

 なにごと?


 いったい何の音なの?



 そう思って辺りを見回すと、一本の木と目が合った気がしたの。


 木というか、枯れ木と。



 私がよく気になっていた、突然枯れて現れた不思議な枯れ木だよ。


 その枯れ木がね、地面から根っこを出して歩き出したの。


 根を足のようにして、トコトコと歩行姿勢を取っている。


 あの枯れ木はただの木じゃない。

 魔物だ。


 枯れ木の正体は、トレントという樹木のモンスターだったのだ。


 驚いた、あなた木の魔物だったのね。

 ということは、突然枯れたわけじゃなく、こっそりと歩いて私の近くまでやって来たということだよ。


 たまに枝の角度が違っていたり、生えている場所が微妙にズレていたりしたのは、私が見ていない間に動いていたから。


 トレントは樹木型のモンスター。

 広義でいうと私と同じ植物系のモンスターなのだけど、植物であるのに移動することができるというとても珍しいモンスターでもある。



 もうそこまで火事が迫っているから、燃えないように移動しようとしているわけね。まあ歩けるならそうするよね。うん、なるほど、理解したよ。



 トレントが私のほうをじっと見つめる。

 そう、トレントには目があるの。今まで隠していたようだけど、口もあるみたい。



 この枯れ木ことトレントとは、かなり長い付き合いだったよね。

 下手したら一年くらい、ご近所さんだったはず。


 私の勘だけど、あのトレントはオスだね。

 トレントに性別があるのかはわからないけど、なんとなくそう思うの。


 だって私が見える場所に根を張っていたというのが気になる。

 モンスターとして私から襲われるという危険もあったのに、あえて近くに居続けた。

 きっとトレントは私に興味があったのだ。


 そうでなければ、他のところに移動しても良いはず。

 

 今思い返してみれば、私があの枯れ木をよく眺めていたのは、枯れ木から視線を受けていたからではないかと思うの。


 だから私も気配が気になって、枯れ木を見返していた。

 

 私にはわからなかったけど、もしかしたら私とトレントはずっとお互いを見つめ合っていたということになるかも。

 

 でも、私はずっと枯れ木のことはただの木だと思っていた。

 枯れ木は自分がトレントだと明かすタイミングはいくらでもあったのに、正体をバラすことはなかった。一方的に同じ植物の魔物である私ことアルラウネを観察していたのだ。


 まるで片思いみたいだね。



 もしかしたら私のことを黙って見守っていたのかもしれない。

 同じ植物モンスターのよしみとして。


 それとも、これはちょっと自惚(うぬぼ)れかもしれないんだけど、私の姿に見惚れていたのかも。


 だって私、ミノタウロスにも炎龍にも綺麗だって褒められたからね。

 相当美しい花な自信があるよ。


 だから、もしかしたらトレントも私の姿に()れていたのかもしれないね。

 植物モンスター同士ならありうる気がするの。

 それがトレントをオスかもしれないと思った理由。



 なら、私のこの危機的状況もなんとかしてくれたりしないかな。

 枯れ木の王子様として、助けてくれたりして。

 そうだったら、良いな。


 助けて欲しいなら、口にしなければ伝わらないかもしれない。

 そう思い、私は意を決して口を開く。


「そこの、トレントさん、私を、助けて、ください」



 一度は諦めた命だけど、助けてくれる相手がいるとなればつい期待してしまう。

 そう思いながらトレントを見つめていると、いきなり動き出した。



 トレントは私を一瞥(いちべつ)すると、全速力で私の反対方向へと走り出す。


 それは一瞬のことだった。

 

 まだ燃えていない森の奥へと、トレントが鋭いフォームで駆けだしたのだ。


 あまりに突然のことで、私はトレントの姿が森の奥へと消えて行くのをただ見ていることしかできなかった。




 ──うそでしょう。


 あいつ、私を見捨てやがったよ!


 一人だけ助かろうと、逃げて行ったよ。

 もう信じられないね。


 森の植物の仲間としても、同じ植物モンスターとして風上にもおけない。


 こ、この裏切り者―!



 私は目から蜜を流し、泣きながら叫んだ。


お読みいただきありがとうございます。

次回、私、燃えたくないです。

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― 新着の感想 ―
なんつーかさ、シリアスな場面の筈がシリアスにならない残念感よ...
絶望の場面で笑わせようとしないでww
[一言] 今迄の所業を振り返るに、アルウラネの助けては喰われて足よこせにしか聞こえなさそうですものねぇ。
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