47 どうか私をその大きな舌で舐めてくださいませ
私、植物モンスター娘のアルラウネ。
こっちは部下の仇討ちをしにきた怪獣ドラゴンの炎龍様。
炎龍は今にも私に炎のブレスを吐き出そうとしていた。
このままだと私、燃やされちゃう。
仲間の仇討ちをしに来たんだから当然だよね。
でも、私はまだ燃やされたくないの。
炎で殺されてしまうくらいなら、もういっそデザート兼愛玩用の観葉植物になったほうがまし。
野蛮なミノタウロスと違って、この炎龍は知的な印象を受ける。
会話だって成り立っているしね。
しかも外見はかなり怖いのに意外と仲間想い。
好みの花である私を敵だからと容赦なく燃やそうとするところから考えると、仲間には優しいけど敵には厳しいタイプのドラゴンさんな気がするよ。
そんな炎龍の考えを改めさせて、燃やされないようにするためにはどうすれば良いか。
私の価値を吊り上げるしかないね。
ちょうど、炎龍は私の見た目も蜜の香りも好みだと言っていた。
ならば本当は燃やしたくはないのかもしれない。
その小さな気持ちに付け入るしかないでしょう。
「苦しませないよう、一瞬で灰にしてやろう」
「お待ち、ください、炎龍様」
私の言葉に、炎龍の動きが止まった。
「どうか、一口で良いので、私を舐めては、くださいません、でしょうか?」
「なん、だと……?」
あぁー!
恥ずかしいよー!!
私から相手に蜜を舐めて欲しいとお願いするのは初めてのこと。
だからね、めちゃくちゃ恥ずかしいの。
「私の蜜で、必ずや、炎龍様を、満足させて、みせます」
私は蔓にかぶりついた。
そしてたっぷりと蜜を舐めつけて、炎龍様に差し出します。
蔓には滴るほどの大量の蜜がついている。
キラリと輝く蜜を視界に入れた炎龍が、ゴクリと生唾を飲み込んだのがわかった。
いける。
ドラゴンにとっても、この蜜は魅力溢れるものみたい。
「ふむ、燃やしてしまったら二度と味わえなくなるのだし、最後に一口だけ蜜を舐めてやっても良いだろう」
なぜか上から目線の炎龍様。
でも、そんなの気にしないよ。
強さの格だって、身長だって、炎龍の方が上だからね。
蜜つきの蔓をガブリと丸ごといただく炎龍。
蔓も一緒に食べるとは豪快なドラゴンさんだね。
「こ、これは……」
炎龍の目が見開いたのがわかった。
釣り針に獲物が食いついたみたいだね。
「少量すぎてよくわからないが、今までに味わったことのないようなとても甘い液体であった。美味である」
ねえ、聞いた?
炎龍様からお褒めの言葉を頂戴いたしましたよ。
なんとか蜜を餌にして、命だけでも助けてもらえるように交渉しないとね。
「我の寝床の近くに其方を置いておくと良いかもしれぬ。起床したら其方の美しい姿が視界に入り、朝食に其方の蜜を堪能する。うむ、悪くないかもしれぬな」
あれ?
まだ私がなにも言っていないというのに、炎龍様が具体的な生活プランを考え始めだしたよ。
そこまで気に入ってくれたのなら花としても本望なのだけどさ。
怪獣のように恐ろしい姿をしている炎龍からは想像もできないような生活感あふれる話が聞けちゃって、ちょっとビックリしちゃうね。
まさか私が魔王軍のドラゴンの朝食用デザート兼愛玩用の観葉植物になる日が来ようとはね。
ホント、聖女時代の私からしたら全く想像もできないような事態だよ。
でも、これでしばらくは命を繋ぐことができたね。
炎龍の寝室に配置されるみたいだし、徐々に蜜漬けにして毒殺することだって可能かもしれない。
まあ、仮に炎龍の住処で毒殺が成功したとしても、その後逃げられないんだけどさ。
だって私、植物だから……。
「ふむ? アルラウネよ。それはなんだ?」
炎龍が私の根っこ付近を凝視する。
「それはミノタウロスの大斧だな。もしやディックコプフの持ち物では?」
はい、たしかにあの眼帯ミノタウロスの大斧ですよ。
だって私の戦利品ですからね。
「ディックコプフの亡骸は、どうした?」
「……………………埋め、ました」
違うんです。
勘違いしないでください。
私が食べたんじゃないんです。
だからそんな疑いを向けるような視線で睨まないでください。
うぅ、本当は美味しくいただきましたよ。
パクリとね。
だって戦闘で栄養不足になっていたんだもん。仕方ないでしょう。
「其方はその人間の口以外にもう一つ口があるな。そちらは随分と肉食で食欲旺盛に見える」
「実はわたくし、こう見えて、食が細いのです」
慎ましそうな淑女の顔でアピールをします。
わたくし、か弱いお花さんなのです。大食いなんてそんなはしたないことはいたしませんことよ。
「では、なぜ埋めたはずのディックコプフたちの鎧までそこに置いてあるのだ?」
──ギクリ。
装備品は丸呑みして消化するのは大変だから、なにかに使えるかもと思っては収集しておいたんだよね。
だから剥ぎ取った鎧や兜は大斧の側にいつも置いてある。
それだけでなく、ミノタウロスの鎧の下に着ていた服やベルトなんかもできる限り押収してあるの。ちょっと戦利品を回収しすぎたかもしれないね。
「やはり部下のミノタウロスたちは其方が捕食したということか」
どうしよう。
汗の代わりに目から蜜が漏れちゃいそう。
「信じられぬ。アルラウネ一匹でミノタウロス4人と配下のエーレシュティーア5頭を食べたということか。そんな食い意地が張っている花など見たことがない」
──はい、実はかなりの食いしん坊さんです。
10メートルあるクマパパと8メートルあるクマママを数日で平らげてしまうような大食いです。
でも、勘違いしないでよね。
ウシ型モンスターのエーレシュティーアはハチさんが2頭お持ち帰りしました。
だから私が栄養にしたのはミノタウロス4匹とエーレシュティーア3匹なの。あんな大きなウシさん5頭も食べたりしないんだからね。
そこのところ誤解しないでくださいませ。
私はちょっとだけお腹がすきやすい体質なのであって、大食いをするのが趣味というわけじゃないのですから。これは生きるためにやっているのです。
「やはり其方をこのまま連れ帰ることはできぬ」
炎龍が私に非情な宣告を下す。
「一度きちんと部下の無念を晴らしてやれねば我の気が済まぬ。というわけで、やはり其方には燃えてもらおう」
炎龍が炎のブレスを吐き出した。
えぇー!?
ちょっと、待ってよ!
さっきまでお持ち帰りコースだったじゃない。
いくら部下が私に食べられちゃったとはいえ──まあそれもわからないでもないんだけどさ、ともかくそれを簡単に覆さないでよ。
炎龍の炎のブレスが直撃する。
すぐに蔓の繭で防御。
繭の外側にも蔓の壁を二重に設置するのも忘れない。
でも、これじゃきっとすぐに燃えちゃうね。
だからミノタウロスの大斧を並べて、鉄の盾を作ります。
鋼鉄製の大斧なら、いくら炎龍の炎が凄くても耐えられるはずだよ。
ついでにミノタウロスたちの鎧を体に装着させる。
完全防備です。
そしてこれらの大斧と防具は、蔓の壁の内側に配置しているの。
最初は蔓に、そして今は自分の炎の吐息に隠れて、私の大斧という名の防御壁は見えてはいないはず。
つまり、このまま私が燃えたと勘違いしてもらって炎龍にお帰りいただければ、私は生き延びることができるかもしれない。
問題は、大斧が炎龍のブレスに耐えられるかということだ。
灼熱の炎が、大斧を真っ赤に染め上げる。
けれども大斧も負けてはいない。炎龍のブレスを受け流している。
少々ブレスのほうが優勢だけど、攻撃と防御が拮抗していた。
驚くことに、3本のミノタウロスの大斧を壁にすることで、炎のブレスは私まで届いてはいなかった。
これならなんとかなるかもしれないよ!
周囲の蔓は全て燃え盛っているけど、数本だけでも残れば問題ない。
せっかくだから、その炎上している蔓を体の外側に出して、「私、いま凄く燃えています」と炎龍にアピールしちゃうよ。
炎龍からは、燃え盛る蔓の繭が見えているはず。
まさか中身は全く燃えていないとは思ってもいないのでしょう。3本の大斧と4人分のミノタウロスの鎧によって、私は炎から身を守ることに成功していたのだ。
私は力尽きたことを知らせるため、まだ燃え切っていない蔓をガクリと地面に倒れさせる。
炎のブレスが止んだ。
同時に、大きな足音が離れていくのがわかった。
きっと、炎龍は私が燃えているのを見て、仇は取ったと満足してくれたのでしょう。
普通だったら、炎龍の炎のブレスをまともに受けた植物が無事でいられるとは思えないよね。
ともかく、炎龍はこの場を去った。
これもミノタウロスの大斧が3本もあったから成し得た偉業だね。
炎魔法を使用する眼帯ミノタウロスの持ち物だったからか、それとも上司が炎龍だったからなのか、かなりの耐熱性を備えている大斧と鎧だったみたいだね。
けれども、高温の炎を受け続けた大斧は最後には耐えられなかったみたい。
鉄の部分が溶けて、ただれていた。斧としての効力はもうないね。
それでも、まだ刃物は他に持ち合わせがあるので問題ないの。
私を隠すように覆っていた燃える蔓を解体するよ。
王国軍の兵士から手に入れた槍とナイフを使って、燃えている蔓を全て切り落とします。
そうして燃える繭から脱出です。
視界も開けて、よく見えるようになった。
ああ、炎の外に出られるということは、なんて素晴らしいのでしょうか。
とにかく、なんとか生き残ることができたよ。
いくら大斧があったとはいえ、よくも燃えずに済んだと思う。
もしかしたら、少し手加減されていたのかもね。
炎龍は一度、私のことを気に入ってくれたのだ。
持ち帰って自分の物にしたいと即断してしまうほど好いてくれたのだから、燃やすのにはちょっと罪悪感があったのかもしれないね。あの炎龍、意外と仲間想いだったし。
とりあえず、これで炎龍は私が燃えたと勘違いしてくれるはず。
あとは火事から身を守るだけだね。
まずは穴でも掘りましょうか。
そうして地中に隠れれば、なんとか火事を乗り切れるかもしれないよ。
大丈夫、炎龍の襲来だってなんとかなったんだもん。
だから森が全焼するような大火災にだって、私は耐えられるはず。
これまでもなんとかなったのだから、次も平気だよね。
よーし、頑張って大穴をこしらえてしまいましょう。
「驚いたぞ」
────へ?
突如、頭上から声をかけられる。
顔を上げると、そこにはじっくりと私を見つめる炎龍様がいらっしゃいました。
「まさか我の炎でも燃えないアルラウネがこの世に存在しているとは」
うそでしょう。
ねえ、帰ったんじゃなかったの?
炎龍様、まだこの場にいるのですけど!
お読みいただきありがとうございます。
異世界転生/転移の月間ランキングで35位になっておりました。皆さまありがとうございます!
次回、ドラゴンからプレゼントをもらうのは初めてなのに全く喜べないのはどうしてです。







