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5 私はナス科の女

 日本で女子高生をしていた私が、この世界で聖女として生まれて成長し、今度はアルラウネとして植物モンスター道を進むことになるとは女子高生時代にも聖女時代にも想像できなかった。


 けれども植物というのは女子高生であった私、小紫(こむらさき) 菖蒲(あやめ)にとっては少しだけ慣れ親しんだものだったのだ。


 私はアニメ漫画ゲームを愛好していたのだけれど、学校ではそのことを秘密にしていたいわゆる隠れオタクだったのだ。その代わりに学校ではいつも一人で本を読んでいた。


 文学少女と勘違いされていたのかもしれないけど、本の内容は図鑑がほとんどだった。動物図鑑、魚図鑑、恐竜図鑑とか。その中でも一番多く読んでいてかつ好きだったものが植物図鑑である。


 学校にいる時だけの暇つぶしとして読んでいた図鑑だったけれども、いつの間にか私はお花を愛でるのを楽しみとする植物大好き少女になっていたのだ。

 とはいえあくまで趣味の範疇。そこまで詳しい知識は持ち合わせてはいない。


 そんな私だけど、アルラウネは元の世界でも名前だけは聞いたことがあった。オタクだったしね。

 あくまで想像上のものとしてアルラウネを認識していたけど、アルラウネに似た植物を実際に本で読んだことがあった。


 それがマンドレイクだ。

 マンドレイクという植物はたしかに地球に存在していたのだ。


 マンドレイクはフィクションではマンドラゴラともいわれ、魔法薬などの材料にされることが多い。マンドレイクを地面から引き抜く際に悲鳴を上げるとされていて、その声を聞くと気を失ってしまうという話は聞いたことがある人も多いはずだ。魔法使いが出てくる有名な映画とかでも登場していたしね。


 それに加えて、私はもう一つ重要な情報を思い出していた。

 たしかマンドレイクはナス科だということを。

 どう見ても似ていないだろうと思ったせいか、なぜかそのことを覚えていた。


 それでちょっと考察してみる。

 個人的にだけど、アルラウネはマンドレイクと親戚のようなものなんじゃないかと思うんだよね。地面に生えている植物モンスターというのが似ているし。日本時代に読んだ本にはアルラウネのことをマンドレイクとしている記述も見たことがある。


 ということはアルラウネもマンドレイク同様にナス科ということになる。

 じゃあ私ってナス科なの!?


 ナスは好きだよ。

 でもナスにはなりたくない。


 ナス科というと、一つの花の中に()しべと()しべの両方を持つ両性花だったはずだけど、今の私の体や花冠には雄しべはないみたい。ということは雌しべが進化したことによって雄しべは退化して消滅してしまい、結果として雌花となった単性花ということになる。


 ということは私の性別は女ってことで間違いないよね。


 体は女性のものだけどあくまで植物であり花。ちょっと不安ではあったのだ。

 良かったよ。だって両性花だったら女であり男である存在になっていたところだったからね。

 

 元聖女であり前世は女子高校生であった私には両性を持つ覚悟はない。というかイヤだ。勘弁して欲しい。あぶない、あぶない。


 基本的に両性花である被子(ひし)植物なはずなのに、裸子(らし)植物に多い単性花の特徴を持つ植物ということになる。

 たしかヘチマやキュウリ、スイカなども被子植物なのに単性花だったはずだ。


 というか雌しべがない時点で薄々は思っていたけど、私のこの上半身、雌しべだよね。


 この人間の女性の体だよ。

 花の中心に一本だけ立っているものって普通、雌しべだし。


 もしこの体が雌しべだとしたら、雌しべの付け根あたりに子房(しぼう)があるはずだ。

 付け根というと下腹から腰の辺り。腰の下から植物に生え変わっているからそこら辺だろう。

 ここに子房があるなら、その中に種子の元である胚珠(はいしゅ)が存在するはずだ。前世の学校で習ったのが懐かしいね。

 

 人間でいうところ、子房が子宮で、種となる胚珠が卵子といったところだろうか。

 お腹のあたりを触ってみる。

 うん、子供を作る場所が人間のときと同じような場所になるね。不思議ダネー。


 もし受粉でもしたら、キュウリやスイカみたいな実にでもなるのかな。


 その時、私はいったいどうなってしまうのだろうか。

 子房が膨らんだものが実。

 胚珠が熟したものが種となる。


 受粉してお腹部分である子房が大きく膨らんでいく姿を想像してみる。人みたく妊婦さんみたいになるのかもね。でも私は植物。お腹はそのままもっと大きくなっていき、人間の体であるこの上半身は実に吸収されて消えてしまうのではないかな。


 それは嫌だ。

 きっともう私が私でなくなってしまう。

 受粉だけはしないようにしよう。


 それに、私自身が雌しべというのも色々とショックなので深く考えないようにするよ………………。



 私の気持ちが落ち込んでいると、遠くからブーンという音が聞こえてきた。


 見なくともわかってしまう。

 ハチが近づいて来たのだ。

 

 ハチかー。虫は嫌だな。

 刺されたら痛いし。まあ人でなくなった今、ハチに刺されても多分大事には至らないのだろうけど。それに花である以上、ハチとは縁が切れないのも事実だ。


 よくよく考えてみると当たり前なのだけれど、私は花なんだよね。だから花の蜜を求めてハチがやってくるのは当然のことだよ。


 そもそも、これまで虫がやって来なかったのが不思議だったのだ。もしかしたら虫が苦手なフェロモンが体から出ていて、小物の虫は近寄って来られなかったのかもしれないね。

 

 というか、ちょっと待って。

 なんだかヘリコプターのように重厚な音がしているんですけど。


 そう思っていると、それが現れた。


 ハチ型モンスター。

 名前はたしかツォルンビーネ。


 ミツバチを人間程に巨大化させたような外見だ。


 ミツバチというと、受粉活動が有名だよね。

 働きバチであるミツバチさんが餌である花の蜜や花粉を取る際に、体に花粉がついてしまうことがあるの。それで他の花に移動すると、その花の雌しべに他の花の雄しべの花粉を付着させちゃうの。それで雌しべしかない単性花でも、ミツバチさんのおかげで他の花の雄しべの花粉が得られて、実に成ることができるってわけ。花粉交配と言って、農家さんは果物を作る際にこのミツバチと共生していたりするね。

 

 簡単に言うと、ミツバチが花を移動すると他の花は強制的に受粉させられて実になっちゃうの。


 花粉を運んで他所の花を受粉させて実にさせてしまう。

 だからミツバチは別名、送粉者ともいわれているんだよね。



 え…………。

 ちょっと、タイム!

 ピーピー!


 そこの君、動くの止めて!

 お願いだから、ねえ。こっちに来ないで。近づかないで。

 

 だってハチさん。あなたは私の蜜目当てですよね?


 私の体に触るつもりだよね?


 ということはだよ。

 ハチさん、あなたが私に触れて、あなたに付着していた他の花の花粉が私の体に付くとだよ。

 私、受粉しちゃうんじゃない?

 だって私、雌花であり雌しべそのものなんだからね。


 嫌だって。イヤイヤ。


 絶対、他所の雄花の花粉を体につけて飛んでいるよね。

 わかるって、私の雌花としての本能が告げているよ。



 ああー。

 やっぱりこっち来た。私目掛けて飛んできてるよ。

 それにやっぱり、やつは花粉を体につけている。


 マズイッ!

 本当にやばい!!

 このままだと私、受粉させられてしまうッ!!!!



※被子植物……種子になる胚珠が子房に被って隠れている植物のこと

※裸子植物……種子になる胚珠が裸になってむき出して見える植物のこと


植物モンスター娘の学校時代の成績次第ですが、知識とこの世界の常識が正しければここのアルラウネは被子植物のようです。

お腹の中に胚珠が隠れています。


次回、受粉の危機です。

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― 新着の感想 ―
[一言] いつの間に植物の授業になった。 受粉かー、擬人化すると[ピー]じゃん
[一言] おかしい…… ファンタジー小説を読んでいたはずが、いつの間にか植物の授業に…うごごごご… あぁ、でもこのアルラウネなら水持って通うかも。 対価は蜜の瓶詰めでw
[気になる点] 本能的に警戒してる所を見ますと受粉確率は高いのでしょうか、警戒されにくそうな風媒で試してみましょう^^
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