書信 出稼ぎ伍長の仕送り便 後編
引き続き、兵士の伍長さん視点です。
俺の名前はフランツ。
今は王国軍の兵士となって伍長をしている。
軍の命令により、森に逃げ出した魔女を探しに行ったら、植物のモンスターであるアルラウネと出会ってしまった。
少女の下半身は植物だった。しかも食虫植物のように見える。
美しい少女の姿で男を魅了させ、近づいてきた人間をあの大きな口で捕食するつもりだったのだ。
なんて恐ろしい植物だ。
危ない、俺はあの娘に食べられるところだったというわけか。
あんなに可愛い見た目をしてなんてえげつない。まあ可愛らしいのは上半身だけで、下半身はモンスターなのだが。
軍の決まりで魔物は駆除しなければならない。
4人の部下とともに、武器を構えながらアルラウネに近づいていく。
すると、アルラウネが俺たちに語り掛けてきた。
「聞いて、ください。私は、人は、食べません」
ちょっと待て。
なんだかアルラウネの様子がおかしいぞ。
本当に戦うことを嫌っているように感じる。
まるで俺達とは争いたくないみたいだ。
「敵対、するつもりも、ありません。武器を、下ろして、ください」
敵対するつもりはない。
その言葉に、俺は引っ掛かりを覚えてしまった。
そういえば、このアルラウネは最初から自分のところへ来ないようにと俺たちに言っていた。
もしかしたら、悪い存在ではなかったのかもしれない。
今からでも遅くはない。
話だけでも聞いてみても良いのではないか。
だが、部下はそんな俺の考えとは正反対だったらしい。
魔物を見つけて排除しないのは軍規違反だと告げてくる。
これだから国に仕える兵士は面倒なのだ。
自由だった狩人の生活が懐かしい。
ここで俺が魔物を見逃すと、きっと部下たちは俺の上司にそのことを報告するはずだ。
そうなれば良くて除隊、あるいは厳しい処分が下されてしまうかもしれない。
故郷の家族にまで迷惑が行ってしまう恐れもある。
それだけはできないな。
俺にはもうどうすることもできないと、部下にアルラウネへの攻撃命令を下す。
だが、そこからが大変だった。
部下の弓矢を器用に防いだアルラウネが、反撃に出た。
謎の粉で部下の一人がやられ、急に地面から生えてきた蔓によって二人目もやられる。
仲間はまたたく間に倒されてしまった。
ただの兵士が相手になるような魔物ではなかったみたいだな。
部下を下がらせ、俺一人で戦うことを決断する。
ちょうど相性は良い。
俺は炎魔法しか使えないが、アルラウネにとっては天敵のはず。
相手が植物モンスターならこれで一発だ。
弓矢に炎魔法を融合させ、矢を放つ。
防御を取るアルラウネの蔓で軌道を変えられてしまった。
それでも矢は蔓を貫通した。よし、いけるぞ!
三人目の部下がやられる。
仲間を担いだ部下は逃げ切ったが、二人がこの場に取り残されたままとなった。やはり、俺がなんとかしなければ部下たちの命が危ない。
二射目を放つ。
今度はアルラウネの球根に刺さった。
これで燃えてくれれば簡単なんだけどな。
ん、なんだ。
アルラウネが根本からなにかを取り出そうとしているぞ。
そこで俺は驚くべき光景を目にすることになった。
なんと、アルラウネが水筒を取り出したのだ。
そして蔓で慣れた様子で水筒の蓋を開けると、中身の水で炎を消し始めた。
──信じられない。
もしかして俺は夢でも見ているのではと思いたくなった。
だって植物の魔物が水筒を持参していて、あまつさえ消火活動をするなんて誰が予測できただろうか。
正直、理解できない。
なんなんだこのアルラウネは。
本当にただの魔物なのか。絶対に変わっている。
気を取り直して三射目を放つ。
そこで、またもや俺は信じられないものを目にしてしまった。
アルラウネが斧を取り出したのだ。
しかもその斧で火矢を防いでしまった。なんだそれ!
アルラウネが持つそれは、人の手では振り回すことができないような巨大な斧だ。そんなものをアルラウネが持ち出すなんて予想がつくはずがない。
だが、予想がつかないということを、続けて俺は味わうこととなる。
アルラウネは燃えている蔓を斧で切断する。
蔓は一瞬のうちに再生して元通りになってしまった。なんて回復力。規格外のモンスターだ。こんな魔物、聞いたこともない。
俺の驚愕はまだ続く。
大斧は一本ではなかった。
三本もあったのだ。
アルラウネが蔓で軽々と三本の大斧を掲げる。
なんだよ、斧を使う植物なんて聞いたことも見たこともないぞ!
恐ろしい。
想像もできないような不可思議な存在と出会ってしまったせいか、体が震えるくらい怖い。
あの大斧、元々アルラウネが持っていたものではないだろう。あんな巨大な斧を持てるとなると、きっと人ではない。魔族から奪ったのだ。
ならその魔族はどこに行った?
そんなこと決まっている。
あの禍々しい食虫植物の口を見ろ。みんなあいつに食われたのだ。
俺も捕まれば同じ目に合うということ。可愛い顔に騙されて近づいていたら、本当に終わりだった。恐るべし食虫植物。
ここで俺は悟った。
俺ではこのアルラウネには勝てない。
なんか、もう、そもそものスケールが違いすぎる。
俺にはこんな非常識なモンスターの相手は務まらない。
その考えは正しかったとすぐにわかることになる。
いきなり周囲の地面から大量の蔓が生えだし始めたのだ。
そうしてなぜか蔓からマンイーターの花が咲きだす。
きっと、あの謎の花粉を出すつもりなのだろう。
俺は首元に刃を突き立てられているというわけか。
俺はこのまま、この綺麗な少女の姿をした化け物に食われるのだろう。
あの大斧の持ち主のように。
すまない、故郷に仕送りをすることはできないかもしれない。
最後に女房と娘の顔が見たかった……。
そこで、何かが打ちあがる音がした。
森の向こうで、水柱が高く湧き出ていた。
あれは宮廷魔導士の副長が放った水魔法。
魔女を捕獲したからただちに集合せよ、という合図だ。
これはチャンス。
アルラウネが水柱を見ているうちに、ここから逃げてしまおう。
そう思ったのは部下も一緒だったらしく、茂みの奥からナイフが飛んできた。
アルラウネに届くことはなかったが、これで隙が出来た。
俺は矢を全て取り出し、地面に突き刺す。
そして矢を媒介にして炎魔法で壁を作り出した。
アルラウネの視界が炎の壁で遮られている間に、倒れている部下二人を担いで、全速力で走り出す。
背後から謎の粉が噴射された音が聞こえてきた。
そのまま部下が待っていた茂みの奥までたどり着く。
俺は助かったのだ。
危なかった。
あと少しでもその場から逃げるのが遅かったら、俺はあの粉の餌食になっていただろう。
そのまま部隊を村で撤退させる。
なんて恐ろしいアルラウネだったんだ。
それでも、あれほどの力を持った魔物と対峙したのに、こちらは結果として無傷。
痺れて体が動けないのと、眠らされた兵士がいるだけだった。
なにやら手加減されていたようにも感じる。
やはりあのアルラウネは悪い魔物ではなかったのか。
言葉もモンスターだから話すのが苦手なのは仕方ないとして、まるで本当に私は人間なんですと訴えていたようにも思えた。
見た目も強さも恐ろしいアルラウネだったが、とても美しく綺麗なアルラウネでもあった。
植物の部分を無視すれば、ただの美しい少女にしか見えない。
もしかして、こちらが敵対的な行動を取らなければ、襲ってこなかったのではないか?
思い返してみれば、普通のアルラウネは獲物を誘き寄せるために、手招きするはず。
それなのにあのアルラウネはむしろ来ないでくださいとお願いしていた。
失敗したかもしれないな。
人と争う気がない、友好的なアルラウネだったのかもしれない。
もしもまた会うことがあれば、今度はもう少し話をしてみても良いかもしれないな。
魔女は再び捕えられた。
箒に乗って空を飛ぶことができる魔女をどうやって捕獲したのだろうか。
なんでも、宮廷魔導士の副長が村に到着するなり魔女にマーキングをしたらしい。
おかげで魔女が逃げても索敵魔法で居場所を突き止め、水魔法の檻で連行して帰ってきた。さすがは一流の魔法使いは違う。
けれども、そんな一流の魔法使いもあいつには敵わなかった。
俺達は突如、空からやってきた巨大な化け物に襲われてしまったのだ。
なんなんだ、あのあり得ない存在は。
本当の化け物はああいうやつのことを言ったんだ。
さきほど出会ったアルラウネが可愛く思える。
人間が敵う相手じゃない。
俺以外の仲間はみんなやられてしまった。
他の宮廷魔導士たちもだ。
宮廷魔導士の副長である彼は、あの化け物と最後まで戦っていた。それでも勝てるとは思えない。
あの化け物の相手ができるのは、国で最強といわれる勇者くらいだ。
もしかしたら大賢者のじいさんでも良い勝負はできるのかもしれない。じいさんの強さは底が見えなくて、正直俺程度ではわからないんだ。
ともかく、そんな相手だ。
生きている者はもういないだろう。
捕まえたはずの魔女も、どうなったのかはわからない。
俺が生き残ることができたのは、単に命令違反をしたからだ。
他の仲間や部下たちは上司の命令を聞きながらやつと戦い、誰も戻っては来なかった。
死ねと命令されるのはこれが初めて。みんな命令を守ったが、その先に死があることは明白だった。
俺は狩人。軍隊とやらの命令に、死ぬまで従うような精神は持ち合わせていない。
仲間の兵士に悪いが、俺はまだ死ぬわけにはいかない。故郷の村には女房と娘が待っているのだから。
「たんまり稼いでくるぞ」
という俺の言葉に、
「あなたが無事に帰ってきてくれればそれだけで良い」
と返してくれた最愛の妻。
「頑張ってね」
と見送ってくれた可愛い娘。
あの二人を残してこの世を去るわけにはいかない。
俺はなにをしてでも生き残ってみせる!
そうして俺は敵前逃亡を決行して兵士を辞めた。
もう兵士として戻ることはできない。
あの村で生き残った兵士はいないと思うから、誰にも俺が逃げ出したことを知られることはないだろう。
けれども、こんな危ない目に短期間で何度もあう仕事だ。もう兵士はやめよう。
ただ、このまま故郷に帰ることは俺にはできない。
どの面下げて村に帰ればいいんだ。
女房に合わす顔がない。
せめて金を稼いでから帰れればいいのだが。金を稼いでくると家を出て行ったのだしな。
──そうだ、冒険者になろう。
いつだったか、酒場で冒険者が一発当てたとかで大金を手にしたと自慢していた。
今日はオレの奢りだと、その晩の客の代金を全てその冒険者が支払ったのだ。
あれだけ稼げる可能性があるなら、やってみる価値はあるだろう。女房の喜ぶ顔が浮かんでくる。
よし決めた、俺は冒険者になる。
国に拘束されることなく、自由に生きて金を稼ぐ。
そうと決まれば街に行こう。
ちょうどこの近くには塔の街がある。あそこほど栄えている街なら冒険者組合もきっと大きい。仕事もたくさんあるはずだ。
後ろを向くことはできない。
俺には待っている家族がいるのだから。
落ち着いたら、いつかここに戻って、みなを供養してやろう。
あのアルラウネがどうなったのかも気になるから見に行こう。
でも、それまでは俺は前だけを見て進む。
そうして、俺は故郷に仕送りをするため、新しい街に住むことになった。
お読みいただきありがとうございます。
初投稿を始めてからそろそろ一ヵ月が経とうとしています。ここまで続けてこられたのは、ひとえに皆様の応援のおかげです。改めて感謝申し上げます。
日頃の感謝と一ヵ月記念ということで、明日は二回更新にしたいと思います。よろしくお願いいたします。
次回、破滅を呼ぶUFOです。







