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40 信じてください、ちょっと下半身から花が咲いているように見えるけど私は普通の人間です

 私、なぜか森に住んでいるごく普通の少女。

 決して植物モンスター娘のアルラウネじゃないの。



 突然、森の奥から人間がやって来た。

 しかも全身武装の兵士が複数人。


 これはまずいね。

 このままだと私、魔物退治されちゃうよ。



 植物モンスターだとバレないためにも、人間のフリをして丁重にお帰り願うしかない。


 こんなに巨大な花が咲いていたら、不審がるのは当然だからね。

 蕾を閉じてやり過ごすのは難しいと思うの。下の球根だけでも凶悪そうに見られそうだしね。


 それでも、出会わないのが一番良いでしょう。

 人のフリをするよりは、花のフリをしてやりすごしたほうが精神衛生上良いの。



 人の姿が見えた瞬間、私は全身を蔓で覆った。

 蔓の繭の完成である。

 これなら外からは蔓の塊にしか見えないはず。


 もちろん、人間の身体も隠しました。

 これで一見しても私がここにいることはバレないはずだよね。


 その代わりかなり怪しまれる気もするけど、丸見えでモンスターだと発見されるよりはましのはず。


 とはいえ、私は普通の花と比較すると巨大すぎる。花のフリをしても調べられてしまうかもしれない。

 たとえ蔓で隠したとしても、客観的に怪しまれる可能性は高いかも。


 大丈夫かなこれで。ちょっと心配です。



 向こうから「いたかー」「いないー」「あっちじゃないかー」という男の人の声が聞こえてくる。


 やっぱり誰かを探しているみたい。

 私なのかな。

 それだともう戦闘は避けられないかもしれないね。


 なるべく人とは争いたくないのに。



 兵士の足音が近づいてきた。


 私の蔓の射程範囲内に入ったみたい。

 兵士たちがなにやら話し出す。


「なんだあの蔓は」

「ポツンとあれだけあるのは不自然だな」


 うぅ、やっぱり不審がられているよ。


 お願いします。

 こっちに来ないで。そのままスルーして。


「怪しいな、もしかしたらやつが隠れているかもしれない。調べてみよう」


 え、こっち来るの?


 どうしよう、大人数で囲まれたりしたら怖いよ。

 いったい何人のお客様なの?



 こっそりと蔓を動かして間から覗いてみる。


 全部で五人。

 やはりみんな武装している。


 森で狩りにきたというような服装じゃない。

 誰かと戦いにきたような格好だ。


 やつが隠れているかもなんて呟いていたし、やっぱり私を討伐しにきたのかな…………。



 私、なにも悪いことなんてしていないのに。

 ちょっとモンスターになっちゃっただけで殺されるなんてあんまりだよ。


 元聖女なのにさ。

 これでもあなたたちと同じ人間だったの。

 兵士さんたちと同じで、国のために命を賭けて働いていたんだよ。


 だから見逃してくれたりはしないかな。身の上を話しても信じてくれるとは思えないけどさ。


 

「おい、いま蔓が動かなかったか」

「当たりか。中に誰かいるみたいだ」



 うわっ!


 私、やっちゃったよ。


 兵士の姿を(のぞ)いたせいで、ここに隠れていることがバレてしまった。


 もう隠れたままやり過ごすことはできない。


 

 腹をくくりなさい、私。

 これでも元は国を背負う聖女でしょう。


 女優のように堂々としていればいいの。

 

 そう、私は人間。

 なぜか森に住んでいるごく普通の女の子。


 よし、設定はちょっと不安だけど、なんとか演じきれるきがする。


 上手く人間に擬態するのだ。


 やるぞー、私。


 えいえいおー!



 私はおそるおそる、蔓の間から体を出した。


 もちろん顔のみである。

 上半身はもちろん、腰から下も蔓で隠したままだよ。



「こん、にちは」


 とりあえず挨拶は基本だよね。

 無害な人間だということをアピールしなければ。



「人がいるぞ!」「なんで蔓の中から女の子が?」「美少女が蔓から出てきたぞ」「綺麗だ」


 兵士さんたちが驚きの声をあげる。



「どうやら目当ての人物ではないようだな」


 中心に立っている兵士が呟いた。

 探していたのは私ではなかったみたい。


 良かったよ。最初からアルラウネ狩りに来ていたのなら、人間に擬態しても意味がなかったからね。


 これならお帰りいただく希望ができたよ。



「お嬢さん、怖がらないでください。俺たちは王国の兵士です。そんなところにいないで、どうぞこちらへ」


 兵士さんが私に手招きする。


 

 でも、ダメなの。

 行きたくても行けないの。


 だって私、ただのお嬢さんじゃないから。植物モンスターだから。


「そちらへは、行けません」

 こう答えるしかないよね。



「もしかして蔓に絡まって出られなくなったんじゃないか?」「よし、いま助けてやるぞ」「安心しろ、俺達力には自信があるんだ」「こんな綺麗なお嬢さんを助けられるなんて俺たちゃ幸せ者だよ」



 えぇー!?


 違うって。来ないで!


 こっちに来たら、私が人間じゃないってバレちゃうよ。


 私の体の下には人なんて簡単の丸呑みできてしまうような禍々しい球根の口がある。


 これと私の体が繋がっていると知られたらどうなるかな。

 きっと餌を待ち構えていた食虫植物のモンスターだと勘違いされてしまうに決まっているよ。


 あなたたちを食べるつもりも襲うつもりもないの。元人間として、できる限り人とは争いたくない。


「来ちゃ、ダメ」


 手を振ってお帰り願いましょう。



 でも、そのせいで上半身が蔓から出てしまった。



「おい、あの娘、なんであんな格好しているんだ」「本当だ、ほほ半裸じゃないか」「破廉恥」「まさか森の痴女か」



 余計なお世話です。


 そういえば植物ボッチ歴が長すぎたせいで、私のこの格好が普通の女性として有り得ないことをすっかり失念していたよ。


 上半身はほぼ裸。

 胸元を蔓で隠しているだけだからね。


 こんな格好を街でしている女性なんてほとんどいないよ。

 いるとしても商売人の女性だったり、踊り子だったりとそういった専門の仕事に就いている人だけ。


 普通の村娘は外でこんな薄着にならない。

 ましてや危険な森で半裸のまま蔓に絡まっているなんて正気の沙汰じゃないね。



 でもね、私だってね、好きでこんな格好をしているわけじゃないの。


 それと森の痴女と言ったそこの兵士さん。

 あとで一人で会いに来なさい。わたくし、お話がありますの。


「お嬢さん、もしかしてあの村の娘かい?」

「……違います、一人で、暮らしています」


 村娘だと答えたいけど、もし村のことを質問されたら私は何も答えられない。


 嘘をついているとバレてしまうくらいなら、最初から森に住んでいたことにしちゃったほうがいいかな。難しい、どっちで答えれば良かったのかわからないよ。


 兵士さんが怪しむように私を観察しだす。

 やっぱり疑われているね。



「なんでそんなところに。早く出てきなさい」

「蔓が絡まって、出られ、ないのです」


 嘘ついてごめんなさい。

 でも動けないのは本当です。だって私、植物だから。



「一人で、抜け出します。なので、騎士様方の、お手間は、おかけしません」


 だからこのまま帰ってください。

 それで探し人を見つけて、森から出て行って。


「こんな綺麗なお嬢さんを一人で森に置いておくわけにはいかない。待っていなさい、すぐに助けるから」



 どうしよう。この人、良い人だ!


 違うの、そうじゃないの!

 私のことは放っておいて。

 

 人間のままだったらこんなこと言われたらちょっと嬉しいから着いて行きたくなっちゃうけど、植物モンスターとしては来られたら困るの。


 だから止まって!


「伍長、ちょっと待ってください」


 兵士から伍長と呼ばれた男が足を止める。


「思い出しました。俺の故郷ではこんな()(つた)えがあるんです。森で美女に出会って誘われても絶対についていくな、きっとそいつはアルラウネという魔物だと」

「アルラウネだと?」


 その兵士さんは南の出身らしく、その地域にはアルラウネがよく生息しているみたい。

 

 アルラウネは女性の体で人間を誘い出して、人を(とりこ)にして捕まえてしまう凶悪な魔物だと説明し始めた。


 どうしよう、だいたい説明があっているよ。

 それにこのシチュエーションはまさにアルラウネである私が少女のフリをしながら人間の男性を誘き寄せているようにしか見えない。


 まずい。私、泥沼にはまってしまったかもしれないね。



「お嬢さん、ちょっと俺たちに足を見せてはくれませんか?」


 ほら、めちゃくちゃアルラウネだって疑っているよ。


「騎士様、私は、アルラウネでは、ありません。人間です、信じて、ください」

「たしかに見た目は人にしか見えない。でも上半身だけだ。もしかしてその下半身には花が生えているのではないかい?」


 …………はい、おっしゃるとおりです。


 花が咲いているだけじゃなくて、球根だってあります。


「蔓に絡まっているといっても、少しくらいは動かせるだろう。信じて欲しければ足、もしくは下半身の一部だけでも見せてください」



 完全に疑惑の視線で見られているよ。

 人だと思われていたらこんなこと言われないよね。


 それに足を見せてくださいなんて初めて言われたよ。前世でもなかった。

 しかも下半身を出せとか破廉恥すぎですね。


 どうすればいいの、足なんて私にはないよ。

 根っこで許してくれないかな。



 うん、それじゃ自白しているようなものだね。

 

 蔓が絡まって足が動かせないと返答しましょう。

 それしかない。


 兵士さんたちにそう返事をすると、やはりというべきか疑惑の声が上がった。


「やっぱり怪しいぞ」「きっと足なんてなくて、下半身は植物のアルラウネなんだ」「おかしいと思った、胸に蔓を巻いている女なんて見たことないからな」



 私もそんな女の人見たことないです、私以外…………。



 どうやら私が足を見せない限り、信じてもらうことはできないみたい。


 これまでの私の発言も、きっと兵士さんたちを私の近くまで誘き寄せる罠だと思っているに違いない。


 たしかに食虫植物みたいなことは年中やっているけど、今日はお休みしているから。安心して欲しいの。



「お嬢さん、そのままじっとしていてはくださいませんか?」

「……わかりました」


 いきなり伍長さんが槍を掲げた。


 え、ちょっと待って。


 もしかしてそれ、投げるんですか?

 私を刺す気なの??


 そんな私の混乱など知らずに、伍長さんが私に向かって槍を投げてしまった。


 ひぃっ!


 蔓で防御を……でもそれをしたら植物だってバレちゃう。


 細い人間の腕で顔をガードする私。

 もし雌しべである私が狙われていたらこんな細腕じゃ防げない。


 殺されてしまうかも。


 でも、まだ完全にはバレていないはずだよね。

 それなら私ではなく、きっと違う場所に投げたのだ。だからまだ大丈夫。


 槍は私の少し下の方に吸い込まれるように突き刺さった。

 

 雌しべの部分ではなく、蔓を巻いた球根部分に刺さったみたい。

 

 うげぇ、い、痛い……。


 蔓を貫通して、球根にまで刺さっているよ。



「やはりな」


 伍長さんが部下の兵士に臨戦態勢を取るように指示をした。


「こいつは植物モンスターだ。あのお嬢さんも体の一部だろう」


 え、今のでバレちゃったの?


 なんで!?


「槍が突き刺さった瞬間、蔓がお嬢さんを守ろうと一瞬だけ動いた。槍が刺さったときも、お嬢さんがビクリと反応したあと、かなり痛そうな表情をしていたからな」


 えぇ、それでわかっちゃったの。

 洞察力ありすぎだよこの伍長さん。


「私は、アルラウネなんかじゃ、ないです。人間、なんです。信じて、ください!」


 必死に舌を回す私。

 喋るのは苦手だけどここは頑張るしかないね。


「姿は人間そっくりでも、人と話すことは上手くないようだな。言い訳は無駄だぞ植物モンスター」


 兵士さんたちが一斉に私に武器を向けた。



 はぁ、バレてしまったのなら仕方がないね。


 槍を投げてきたくらいだし、確信されているだろうしね。

 もう人間のフリもやめましょう。



 蔓を使って槍を引き抜く。

 そして傷口を再生させて塞ぎます。


 私の体が花から咲いているのがしっかりと見えるようになって、下の球根も姿を現し出した。



 すると兵士さんたちは驚愕の言葉を述べていく。


「本当に花から人間が生えている」「しかも下半身は植物だ」「あの口はなんだ、完全に肉食のモンスターじゃないか」


 伍長さんも瞬きをしながら頭を抱えていた。

「こりゃたまげたな、本当にモンスターだったとは」


 伍長さんが口笛を吹きながら私を睨む。


 うわ。もしかして私、カマかけられてた!?


 ぐぬぬ。


 うぅ、相手のほうが一枚上手だったよ。


 疑ってはいたけど、近寄ると危ないから向こうも私がモンスターだという決め手にかけていたのかもしれない。

 ためしに人間の体を槍で刺すわけにもいかないからね。本当に人だったら死んじゃうし。



 兵士さんたちが非難の声を浴びせてきた。

「騙されるところだった」「俺たちを誘い出してあの口で食うつもりだったんだ」「卑怯な魔物め、八つ裂きにしてやる」

 

 違うの!

 信じて、ちょっと花から生えちゃっているけど、私は人間です。


 下半身は球根でしかも怖くて大きな口があるけど、恐ろしい魔物ではないから。無害だから。


 私はね、ただのお花なの。


 だから襲わないで。敵対しないで。



「美しい花の魔物よ。大人しく我ら王国の兵士によって討伐されるが良い」


 兵士さんたちが武器を構えながら近づいて来た。


 完全にバレちゃったよ。

 どうしましょう。



 私、やっぱりもう人間には見えないみたいです。


お読みいただきありがとうございます。


次回、改めて考えると人間にこの姿を見られるのはめちゃくちゃ恥ずかしいです。

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― 新着の感想 ―
いや普通にバレるだろ、何で騙せると思うよ...(^^;)
アルラウネちゃんもだいぶモンスターらしくなったのは事実ですが、こういう人間の勝手な決めつけを見ると怒りを覚えますね。 あんなにえっch、ゲフンゲフン、かわいい子ですのにひどいです。
[一言] 「怪しいな、もしかたらやつが隠れているかもしれない。調べてみよう もしかしたら
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