321 ルーフェの成長
私、植物モンスターのアルラウネ。
敵はすべて消え、魔女っこと二人きりになっています。
エーデルワイス郊外に集結していた魔王軍を倒したのは、ルーフェだった。
それどころか、魔女王の部下であるディーゼルも倒している。
もう魔女っこは、ただの子どもではない。
めちゃくちゃ強い子どもになったのだ!
そんな私は現在、魔女っこに抱きかかえられたまま空を飛んでいます。
もちろん、私は子アルラウネに姿を変えている。
簡易的な鉢植えを木で作って、そこに身を入れているよ。
そのおかげで、昔のように魔女っこと一緒に空を移動している。
ただ昔と違うのは、魔女っこは白い鳥に変身しておらず、人の姿のまま飛んでいるということ。
魔女っこはぶかぶかの青いドレスを着たまま、背中から白い翼を生やして空を飛んでいる。
街の人が言っていた「天使」っていうのも、多分この魔女っこの姿だったんだろうね。
人知れず、魔女っこはエーデルワイスで冒険をしていたみたい。
どんなことをしていたのか……すごく気になる。
「ねえ、ルーフェ。これまで、なにがあったか、聞きたいな」
「いいよ」
魔女っこは、飛行ルートを少し変える。
エーデルワイスの街へ直接向かわずに、くるりと旋回しながら遠回りすることにしたみたい。
空の上では、私たちの邪魔をする者は誰もいない。
妖精のキーリも、妹分のトレントもここにはいない。
本当に、久しぶりに二人きりになっていた。
だから、わざと公爵邸へ戻る時間を遅らせたのだと気づいて、ちょっと嬉しくなってしまう。
「ううん……なにから話そう」
それから魔女っこは、公爵邸に呼び出されてトゥルペ公爵代理と対面したことを、ゆっくりと話してくれました。
「アルラウネを売って欲しいって言われたけど、断った。あとは聖女イリスの話で盛り上がった」
「えぇ!?」
──どんな話をしたのか、気になるんですけど!
トゥルペ公爵代理は、イリスの姉だ。
姉と魔女っこという、私の親しい人物が、イリスについての話をしていた。
その内容が気にならないわけないよね。
「もちろん売らないって返事した。だって、アルラウネはわたしの家族だから……」
魔女っこは、私が驚いた理由がアルラウネの売買についてだと思ったみたい。
危ない危ない。勘違いしてくれて助かったね。
「その後、第一王子の話をしようとしたんだけど、魔女王の手下のディーゼルと出会って、倒した。それで壺がわたしの使い魔になった」
「んん?」
なんで第一王子の話をすることになったのかも気になる。
でもさ。なんでディーゼルを倒したら、壺が使い魔になるの?
というか、壺ってあの変な壺のこと?
「そもそも、使い魔って、なに?」
「魔女が他の人や生き物を、手下にする魔法みたい。魔女王クラスの魔女にしか、使い魔を使役することはできないんだって」
魔女の黒魔法は、謎が多い。
そんな魔法もあるのかと、小さく頷きます。
「わたし、魔女王の力をうまく使いこなせるようになった。それで、いろいろと成長したみたい」
私が魔女王に植え付けたヤドリギの実は、魔女っこを強化するアイテムになった。
それを食べることで、魔女っこは物理的に魔女王のように大人へ成長するだけでなく、魔法の力も向上したみたい。
まあ魔王軍を吹き飛ばしたっていうくらいだし、これまでの魔女っこから一回り以上は強くなったのかも。
「でも、なんで壺を、使い魔に?」
「……成り行きで?」
「成り行き……」
「カタリーナさんを助ける、成り行き」
カタリーナは、かつてイリスの護衛をしていた女騎士です。
詳しく話を聞いてみたら、カタリーナは壺ゴーレムに殺されるところだったとか。
魔女っこは、知らぬ間にイリスの知人を助けていたみたい。本当に、頼りになるようになったね。
だけど──せっかくの初めての使い魔が、壺ゴーレムかあ。
「壺だけど……にゃあって鳴いて、かわいいところもある」
「壺なのに、にゃあ?」
「名前はルル。壺だけど、猫みたいな仕草をする」
なにそれ。
ちょっと見てみたいかも。
「それから外で魔王軍を吹き飛ばして、帰りに青いドレスを落としちゃって──」
「それで私のところに、落ちてきたんだから、すごい偶然だよ」
前の持ち主のところに返ってきたということなのかな。
おかげで広場は大盛り上がりになっちゃって、大変だったけど。
それにしても──魔女っこは、本当に逞しくなったね。
一人で魔王軍を相手しても、もう負ける予感がしない。
それこそ四天王クラスでも、場合によっては良い勝負ができるんじゃないかな。
初めて会った時は、村人にも勝てないくらい、普通の女の子だったのにね。
魔女っこと出会ってから、すでに3年が経過している。
あの時はまだ10歳だったルーフェも、今は13歳になっていた。
とはいえ、見た目はあまり成長していない。まだ小さいルーフェのまま。
出会った頃と比べると肉付きが良くなったけど、もっと栄養があるものを食べさせてあげないといけないかも。
私の蜜を毎日あれだけ飲んでるけど、成長期なんだからバランスの良い献立を考えないとね。お肉をもっと食卓に増やそうかな。
魔女っこは話を終えると、バトンを渡すように私にお願いをします。
「わたしはこんな感じ。次はアルラウネに何があったか教えて」
「いいよ。私はね──」
それから私が何をしたのか、魔女っこに話をしました。
まずは、スフィンクスのクスクスさんを助けて仲間にしたよね。
街で壺ゴーレムたちを退治して、街の人たちを守ったりもした。
でも、住民たちから聖女イリスのように祀り上げられたという話は、あえて魔女っこには教えませんでした。
あの謎の視線についても、黙っておくつもり。魔女っこには、あまり心配かけたくないからね。
「アルラウネはすごいね。エーデルワイスでも、みんなを守ったんだ!」
「私にできる、ことをした、だけだよ」
「でも、街を森にしたのはちょっとやりすぎだと思う」
「……ごめんなさい」
いまだに、エーデルワイスは緑に包まれている。
無造作に伸びまくったガジュマルは、壺ゴーレムを倒すためとはいえ、盛大に成長しまくっていた。
あとでこっそり剪定でもしようかな。
──それにしても。
魔女っこは、なぜアルラウネの顔が聖女イリスにそっくりなのか、気になっているみたい。
話してくれた内容や、これまでの態度や視線で、なんとなくわかってしまう。
聖女イリスの故郷に来たことで、以前にも増して興味が出てきたのかな。
でも、直接私に聞くつもりはないみたい。
だから私も、魔女っこには聖女イリス関連の話は、なるべくしないようにしている。
もしも「アルラウネは聖女イリスと関係があるの?」と聞かれたら、もうとぼけられる自信がないから。
しばしの間、エーデルワイスの空を二人で遊覧飛行する。
そうして話を終えた頃、ちょうど公爵邸に到着しました。
私たちが庭に降りようとすると、地上にいた一人の騎士がこちらに気が付く。
騎士は他の騎士に何か呼びかけ、その者も空を見上げる。
それに呼応するように、公爵邸の人たちが庭に飛び出してきました。
彼らは庭へと降り立つ私たちを取り囲むように、祝福の声を上げます。
「英雄のお帰りだ!」
「街を救ってくれてありがとう!」
「エーデルワイスの新たな聖女に祝福を!」
「外の魔王軍も撃退してくださったのですね。おかげでエーデルワイスは救われました!」
街で見かけた騎士や、公爵邸の使用人たちが、次々とお礼を告げていく。
その中には、元護衛騎士のアレックスもいた。
私が街で何をしたのか、きっとアレックスがみんなに話したんだろうね。
「その翼……ルーフェさんは、天使だったのですね! 助けてくださり感謝します!」
元護衛騎士のカタリーナの姿もある。
みんなが、私と魔女っこに感謝を述べてくれた。
街を襲う壺ゴーレムの同時多発テロ。公爵邸を襲った魔王軍の刺客。そして街に進軍する万を超える敵の軍勢。
それらの問題は、私と魔女っこが二人で解決した。
これで死傷者がゼロなんだから、私たちけっこう頑張ったよね。
「アルラウネさま、ありがとうございます!」
そうお礼を言ってくれたメイドは、イリス時代に見知った者でした。
メイドや執事たちが、次々にこんなことを言ってきました。
「お二人はこのまま、エーデルワイスに定住するんですよね?」
「せっかくですし、このまま屋敷に住んでください!」
「それはいい! イリス様がまた戻ってきてくれたように感じるぞ!」
「小さいお姿も、幼い頃のイリス様そっくりね」
「ねえ、このまま一緒に住みましょうよ」
「きっとトゥルペ様も同じことをお思いになるはずだわ」
イリスは死んで、もうこの世にはいない。
いるのは生まれ変わったアルラウネだけ。
生前のことを誰も知らないはずの実家の人たちが、モンスターであるアルラウネを温かく迎い入れてくれる。
それが心にじーんと沁みて、なんだか涙腺に来てしまった。
「なんだか、嬉しいな……」
目から零れた蜜を、蔓で拭う。
その蜜を恨めしそうに見つめる魔女っこが、目を細めながら口を開く。
「そういえば、トゥルペ公爵代理とこんな話をした」
「……どんな話?」
「なんでアルラウネと聖女イリスの顔が、似ているんだろうって」
無いはずの心臓が、大きく脈打ったように感じられた。
それは錯覚なのだとわかっていても、それくらいの衝撃が私を襲う。
同時に、使用人の誰かが呟いた。
「トゥルペ様だ」
私たちを取り囲んでいた人垣が割れる。
その奥から、オレンジ色の髪の女性が現れました。
昔と変わらずにチューリップの耳飾りをしている彼女は、イリスの腹違いの姉──トゥルペ・エーデルワイス。
「お待ちしておりました」
トゥルペは私の顔を、じっと注視する。
その視線には、不思議と懐かしさを感じるものがありました。
それと同時に、とある予感が私の脳裏をよぎります。
「紅花姫アルラウネさん、少しお話がございます。あたくしについてきてください」
次回、姉との再会です。







