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炎精 エーデルワイス侵略軍の最期

炎の精霊イフリート視点です。

 オレの名はイフリト。

 炎の精霊イフリートのイフリトだ。


 この世に生を受けてから、早くも600年になる。

 当時、生まれたばかりでまだ世界のことをよく知らなかったオレは、より物事を知るために周囲を焼き尽くした。

 何かを燃やすのが、炎の精霊であるオレの生き甲斐だったからだ。

 燃やした中には、森や山、人間の街もあったと思う。


 そんなオレのもとに、人間の勇者がやって来た。

 勇者は強かった。

 精霊であるはずのオレよりもだ。


 だが勇者に殺されそうになったところを、魔王軍に助けてもらった。

 オレを救ったその方は人の姿をしていたが、その正体は氷を操る巨大なドラゴンだった。

 精霊よりも遥かに強い、それこそ神のような存在──オレは、この方に一生ついていこうと決意した。



 しかし600年前のその頃は、人間の勢力は尋常ならざる強さだった。

 人間たちの最盛期の時代と言っていいだろう。


 光の女神の力を強く引き継いだ勇者たちが多数誕生し、魔族の多くが狩られた。

 我々にとっては、暗黒の時代だ。

 あの方も勇者に深い傷を負わされ、体を復活させるために長い眠りについた。


 その当時、魔王軍が壊滅しなかったのは、あの方の弟であるグリューシュヴァンツ様のおかげだ。

 仲間を失ったグリューシュヴァンツ様が激怒し、大陸を火の海にしなければ、魔王軍は消滅していただろう。



 それから長い年月が経ったが、今もオレの忠誠心はあの方にある。

 周囲の同僚は魔王軍四天王という幹部の座を欲しがり、躍起になっている者も多かったが、オレは気にしなかった。

 オレの忠誠は、あの方にあるからだ。


 あの方の弟の部下たちも、同じようなことを言っていた。年齢が1000年に迫るような古代の大魔族ほど、前線から退いている者も多かった。

 オレもいつか、彼らのような真の強者になれるだろうか。


 そんなオレに、忠誠心を示す好機がやってきた。

 あの方が永い眠りから復活し、人間への侵攻を再び決意した。


 魔王軍宰相であり、氷龍であるあの方の指揮のもと、オレは第三軍の軍団長を拝命した。

 ガルデーニア王国の王都を目指すために、まずは南の要所であるエーデルワイス公爵領を攻める大役を仰せつかったのだ。


 失敗は許されない。

 オレは部下たちへの締め付けをさらに強化し、同じ精霊であったドライアドのフェアギスマインニヒトから譲り受けた薬を、部下であるスフィンクスのクスクスへ飲ませた。


 闇の女神様の力の一端を身に宿すという、かつてないほど強力な薬だ。

 代償として命は落とすが、その代わり栄誉ある戦功が得られるのだからクスクスも嬉しいだろう。

 それにクスクスは、軍議の最中にあの方の言葉を遮った。

 クスクスは、オレを怒らせたのだ。死んで詫びるのが当然というものだろう。



 先兵であるクスクスをエーデルワイスに送り込み、壺ゴーレムによる騒ぎを起こさせる。

 事前に兵糧攻めをしていたこと、そして野盗に扮したゴーレムによる襲撃のせいもあり、商人は街から歓迎された。

 おかげで、無事に壺ゴーレムたちを、街に潜伏させることに成功した。



 あとは協力者である魔女王の部下の合図とともに、クスクスが壺ゴーレムたちを暴走させる。

 その隙に、エーデルワイスを攻める計画だ。


 エーデルワイス郊外に第三軍を集結させ、時を待つ。

 そして、その時がついにやって来た。



 部下の一人が、オレの前に駆け込んできた。


「イフリト様、エーデルワイスから合図がありました。クスクスが壺ゴーレムを起動したそうです」


「よし、ならば進軍するぞ。宰相様の命令は絶対だ。確実に、エーデルワイスを落とす!」



 いま頃、エーデルワイスは混乱の最中だろう。

 なにせ数百体の壺ゴーレムが暴れ狂い、人間どもを襲っているのだから。


 同時多発的に起きたこの奇襲に対処できる人間など、この世には存在しない。

 たとえあの街に勇者がいたとしても、多くの人間どもが命を落とすはずだ。


「本隊はこのままエーデルワイスへ進軍。別動隊は、例の抜け道から一気にエーデルワイスに突入しろ!」


「ハッ!」


 一番の問題であった“エーデルワイスの守護者”と名高き大魔導士は、王都へ行っているため不在。

 敵との戦力差では、こちらが圧倒的有利。

 十分勝機はある。それでも念には念を入れた。

 

 クスクス以外にも、別動隊を用意していたのだ。



「エーデルワイスの者たちも、まさか地下から魔王軍が出てくるとは夢にも思っていないだろうな」


 エーデルワイスの地下に張り巡らされた下水道。

 そこに通じる隠し通路を、オレは利用した。

 長い時間をかけて、密かに地下水道へ通じる穴を掘ったのだ。

 部下のモグラ魔族たちには、後で褒美を与えねばならないな。


 その隠し通路を通り、エーデルワイスの中心部に出た別動隊が、敵の背後から奇襲する。

 外の本隊は、あくまで陽動でしかない。


「これで勝ったな……ハハ、ハッハッハ!」


「大変です、イフリト様!」


「どうした?」


「隠し通路が木の根っこで埋まっていて、通れません!」


「なにバカなことを言ってる? 今朝斥候(せっこう)に確認させた時には、そんな根なんてまったくなかったはずだろう!」


「それが、急に木が現れたようで……その証拠に、エーデルワイスが森のようになっているので、ご覧になってください!」


「……森?」


 エーデルワイスへと視線を向ける。

 すると、なぜか街が、緑に覆われていた。


「!? な、なんだあれは……?」


 今も森は成長しているようで、街が木に覆われていく。

 あんな作戦、オレは知らないぞ。


「クスクスの壺ゴーレムではないな。いったいあの木はなんだ?」


「わ、わかりません! わかりませんが、あの木のせいで隠し通路はすべて塞がれてしまったようです!」


「なら、木を切って進め!」


「それがかなり頑丈で……しかも近づくと木に捕まってしまい、別動隊はすべて全滅してしまいました」


「バカな……!」



 その木の正体を知るのは、もう少し後になるのだが、そこからオレの作戦はすべて狂っていった。

 ほどなくして、魔女王がオレたちを裏切ったのだ。


 猫耳を生やした白髪の魔女。

 闇の女神の彫刻に似たあの顔を、魔王軍古参の幹部であるオレが見間違えるはずがない。


 魔女王は嵐を呼ぶ大魔法を使い、第三軍団を壊滅させた。

 いったいなぜ魔女王は、我らに攻撃をしたのだろうか。

 とにかく、その時点でエーデルワイス侵攻作戦は完全に失敗した。



 生き残ったのは、地面に隠れることができたオレと、モグラ魔族だけだった。


「まさか、こんなことになるとは……」


 それでも、ここで退くわけにはいかない。

 オレ一人だけでも、エーデルワイスを落としてみせる!


 そう思って、地面から地上へと這い出た。

 そこで、出会ってしまったのだ。



 尋常ならざる強大な力を持った、その植物と。



 その女は、人ではなかった。


 大きな口がついた球根に、紅色の花びら。

 下半身は植物だが、上半身は人間の体をしている。


 それでいて、精霊のオレから見てもわかるくらいの美人だ。

 これほど整った顔を目にするのは、そうはない。

 そんな彼女の頭には小さな花が咲いている。

 髪の色は黄緑色ではなく白色になっているが、オレはこの女の情報を知っていた。



「その姿、そしてその気配……貴様、紅花姫アルラウネだな!」


「たしかに、私はアルラウネ、ですけど、そういうあなたは、どなたですか?」


「オレの名はイフリト。偉大なる魔王軍第三軍団長の、イフリトだ!」



 なんとか声を張り上げたが、それでも体の震えが止まらなかった。

 紅花姫アルラウネの噂は知っていた。

 この数年の間に魔王軍四天王を3人も撃破した、危険人物。


 あの魔女王ですら、紅花姫アルラウネに敗北した。

 それほどの強者が、オレの目の前にいる。


 しかし、オレが震えているのは、そういった理由からではない。

 噂に聞いていた以上に、紅花姫アルラウネから圧倒的な存在感が感じられたからだ。


 そして、オレの予感は当たった。

 生き残っていたモグラ魔族たちは、謎の二枚葉の植物によって、すべて食われてしまった。



「次は、あなたの番、ですよ」



 恐怖でしかなかった。

 だが、オレは600年を生きる炎の精霊。

 この世でオレより強い存在は、数えるくらいしかいないはずだ。


 それに、敵は植物。

 炎を操るオレのほうが、相性は良い。

 自信を持って、オレは最初から全力で力を出す。


「これまで何人もの四天王を倒してきた貴様のことを、オレは高く評価している……ゆえに、順を飛ばして一気に本気を出させてもらおう──火焔魔人破(ジンフレイム)!」


 オレの熱波により、アルラウネの葉が燃えた。

 よし、いけるぞ!


「この青い炎は、あの氷龍様の絶氷(ぜっぴょう)をも溶かすッ! これで貴様を根こそぎ燃やしつくしてやろうッ!」


 アルラウネがすべて燃えた。

 やはり炎の精霊であるオレのほうが、相性は良かったようだな。


 しかし次の瞬間、アルラウネがニョキニョキと地面から生えてきた。


「ただいま」


「なッ!? アルラウネが復活した!? 完全に燃やしたはずなのにッ!!」


「体を燃やした、くらいじゃ、私は死に、ませんよ。根が少しでも、残っていれば、私は何度でも、再生できますから」


「ば、化け物か……ッ!」



 ならば、根もすべて燃やし尽くせばいい。

 そう思ってアルラウネを見ると、奴はどこか遠くを見ていた。

 なぜか、北の方角をじっと見つめている。

 まるでオレのことなど眼中にないといったその態度に、オレは我慢できなかった。


「根があるから再生するというなら、地下の根まで燃やし尽くしてやろうッ!」


 今度こそ、根をすべて燃やし尽くした。

 これでもうアルラウネは再生しないはず……。


「ただいま。ほら、何度やっても、無駄ですよ」


 それでもアルラウネは、また再生した。

 地中深くに、根が残っていたのかもしれない。

 なら今度は、地面ごと吹き飛ばして、すべてを焼却すればいい!


 炎の柱を生み、大地ごと灼熱の業火に包む。

 これなら地中に根が残っていたとしても、すべて焼き焦げたはずだ。

 しかし、それでもアルラウネはまた再生した。


「だから、無駄って、言ったじゃない、ですか」


「ど、どういうことだ!? 地下も含めてこの付近一帯をすべて燃やし尽くしたというのに、なぜまた再生する!?」


「私の根は、ここにあるだけ、じゃないって、ことですよ」



 次の瞬間、信じられないことが起きる。

 周囲の荒野から、芽が出て、緑豊かな草原へと変貌したのだ。

 さらに、アルラウネは信じられないことを口にする。


「この草原が、ある場所は、すべて私の根が、繋がっている、んですよ」


 地平線の彼方まで、草原は続いている。

 ここから見える範囲の大地すべてに、アルラウネの根が存在するということ……!


「つまり貴様は、アレか? この広大な草原すべての根を燃やし尽くさない限り、死ぬことはないということか!?」


「そういうことに、なりますね」



 ──ほ、本物の化け物だ。


 勝てるはずがない。

 このアルラウネは、精霊よりも遥かに高みに位置している存在だったのだ。


 敵対しては、いけなかったのかもしれない。

 だが、今さら後悔しても遅かった。



 オレの体は、アルラウネの(つる)に縛り上げられた。

 炎の精霊であるオレが、植物の蔓に捕まることなど、本来ならあり得ない。


 そのあり得ないことが、現実に起こっている。

 蔓はもうこれ以上燃えないうえに、なぜか力が吸い取られていく……。


 もはや、抵抗する力すらなくなっていた。

 根こそぎ、生命力をアルラウネに吸い取られる。



「ぐぁ……ぁ、あぁぁ……」


「もう喋る、元気もなくなった、みたいですね」



 アルラウネの前に、オレの体が引きずられる。

 目の前には、巨大な球根の口。


 どろりとした液体が、中から見えた。

 あれは、消化液だろうか。


 その大きく開いた植物の口が、オレが見る最期の光景だった。



「じゃあ、いただきますね」

次回、私を見るあなたは誰です。

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― 新着の感想 ―
アルラウネさんの下の口で食べられる つまり やっぱり コアがあるってこと 火山とこのトカゲ、モグラ、隕石、魔石のどれ 今まで幽霊みたいな完全の精神生命体とかのないよね 悪魔パパの霊の手だけ
あーあ、気づいた時点で降伏しとけば…どのみちお食事だろうけども
あったかい(炎だから)食事は新鮮で格別に美味しいだろうねぇ・・
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