318 なんか魔王軍が壊滅してるんですけど
エーデルワイス郊外に集結していた魔王軍を倒すために、私は街から外へと転移しました。
けれども私の目の前には、荒れ果てた大地が広がっていたのです。
魔王軍はすでに、壊滅していた。
いったい、なにがあったの?
そう思ったところで、地面から何者かが出てきます。
地中から燃える手を出したその者は、腕を使って体を地上へと現しました。
「……え? 体が、燃えてる?」
いや、違う。
この人の体が燃えてるんじゃなくて、体そのものが炎でできているんだ。
地面から出てきたその者は、大柄な男性ほどの大きさがある。けれども驚くことに、体が炎で構成されていた。
人型の動く炎に、目や口などの顔のパーツがくっついている感じだね。
どう見ても人間ではないし、それでいてただの魔族ではない。
こいつからは、相当な力を感じる。
先日倒した獣鬼マンタイガーを、遥かに超すほどの存在感があるよ。
いったい何者なんだろうと思ったところで、そいつと目が合います。
そして、口を大きく開けながら驚くように私を指差しました。
「その姿、そしてその気配……貴様、紅花姫アルラウネだな!」
「たしかに、私はアルラウネ、ですけど、そういうあなたは、どなたですか?」
「オレの名はイフリト。偉大なる魔王軍第三軍団長の、イフリトだ!」
その名前は、聞き覚えがあるね。
スフィンクスのクスクスさんの上司の名が、たしかイフリトだったはず。
そういえばクスクスさんは、このイフリトに嫌われてしまって、街に一人で特攻させられたんだっけ。
しかも、かつて四天王だった姉ドライアドが作った薬をこのイフリトに飲まされ、命の危機に瀕してしまった。
話を聞く限り、良い人には思えないね。
まあ人ではなく、炎の精霊らしいけど。
「あなた、精霊、ですよね?」
「ほほう、よく分かったな。まあ、貴様も精霊の気配がするから、無理もないか」
私は姉ドライアドを吸収したことで、ドライアドと同じ精霊になっている。
最初は半精霊だったけど、頑張って成長した結果、完全に精霊と同じような存在になったんだよね。
そして今の私は、精霊以上の力を持っていると、天使のパンディアさんからお墨付きをもらっていた。
だから、私をその辺の精霊と一緒にしないでほしいね!
「まさか噂のアルラウネが、精霊と同じ存在になっていたとは驚いた。だが、しょせんは精霊もどきのまがい物だな。生まれながらの精霊であるオレと比べるのも、可哀想なほど下等な存在でしかない」
むかー!
なんかこいつ、ムカつくね。
こういう相手、久しぶりに会ったよ。
自分の種族が生まれながらにして至高で、それ以外の者は下の存在だっていう相手。
植物モンスターのアルラウネになったばかりの頃は、魔族や人間相手によくこういう態度を取られていた。
だけど、アルラウネとして力をつけて強くなった最近の私の周りには、こういう奴は出てこなくなった。みんな私の強さを理解していたから。
だというのに、このイフリトは私を見下してくる。
それほど自分に自信があるのか、それともただのお馬鹿さんなのか……。
「そういえば、よく私が、紅花姫アルラウネだと、わかりましたね」
「とぼけても無駄だ! 貴様が魔女王キルケーを操り、我が軍団を壊滅させたことはすでに知っている!」
──この精霊、なに言ってんの?
私が魔女王キルケーを操った?
たしかにヤドリギを植え付けているから、魔女王の自由は私が縛ってある。
けれども、魔王軍を攻撃しろと命じたことなんてなかったよね。
というか、もしかして──。
「魔女王と、ここで会ったん、ですか?」
「だからそう言っただろう!」
やっぱりそうなんだ!
ここにいた魔王軍は、魔女王キルケーがすべて壊滅させたんだ。
ということは、エーデルワイス公爵邸で見かけたあの謎の魔女王は、私の見間違いとかではなく、本物の魔女王だったってことだね。
魔女と仲の良い魔王軍の軍団長が言っているんだから、きっと間違いない。
「魔女王の姿が、ないみたい、ですけど、どこに行ったん、ですか?」
「知るか! 我が第三軍団に攻撃をしかけたあと、どこかへ飛んで消えたわ!」
やっぱり魔女王は、もうこの場にはいないみたい。
ということは、逃げたのか。
魔女王キルケーは、きっと私のことを恐れている。近くにいたら、またヤドリギを植え付けちゃうからね。
だけど、魔女王は王都にいるって話だった。それなのに、どうやって逃げ出したんだろう。
でも、ちょっと待って。
なんで魔王軍に味方をしていた魔女王が、魔王軍を壊滅させたの?
だってさ、魔女王が魔王軍を裏切るとは思えないんだよね。
闇の女神ヘカテが魔女王を探していたし、魔女王が闇の女神を裏切ることはないと思う。なにせ魔女王キルケーは、闇の女神ヘカテの娘なのだから。
あと考えられるのは、その魔女王は偽者だったとかかな。
とはいえ、偽者に一万の魔王軍を壊滅させる力はない。しかもこの場に残ってる魔女の魔力の残滓は、あの魔女王そのもの。
──残滓といえば、なぜかあのドレスからも感じたよね。
実は、さっきのイリスのドレスにも、魔女王の魔力の残滓がこびりついていた。
あれは、この場で起きた惨劇の魔力が、空を舞い落ちていたドレスに付着してしまったのかもしれない。
というか、それ以外思いつかない!
なら、魔女王はやっぱり本物なのかな。
うーん、いくら考えても、魔女王がここにいた理由がまったくわからないよー!
よし、このことはもう気にしないようにしよう。
次に魔女王に会ったときに、確認すればいいだけだし。
私にとって重要なのは、ルーフェの存在だ。
魔女王や闇の女神ヘカテが何度現れても、私が魔女っこを守るんだから!
「それで……イフリトさん。あなたは、私の敵って、ことで、いいですよね?」
だってあなた、エーデルワイスを襲おうとしたんでしょ?
なら、敵だよね。
魔王軍には炎龍様のように良い魔王軍もいるけど、あなたはどう見たって悪い魔王軍だし。
「敵だと? 笑わせるな……宰相様の宿敵である貴様は、オレにとって標的の一人でしかない」
「宰相様?」
なんか知らないけど、私って魔王軍の宰相──つまり、炎龍様の姉ドラゴンになんか嫌われているらしいんだよね。
いったいどこで恨みを買われたんだろう。
たしかに襲ってくる魔王軍や四天王はすべて返り討ちにしたけど、それだけなのに。
私、なにもしてないのにね。
「我が第三軍団はほぼ壊滅したが、それでも全滅したわけではない。このままアルラウネを倒し、エーデルワイスを侵略すれば、まだ挽回できる!」
「第三軍団といっても、みんな倒れている、みたいですが?」
「我が軍団は、あれくらいの嵐ではやられたりしない! 出てこい、我が最強の第三軍団の精鋭たちよ!」
イフリトが両手を掲げながら叫ぶ。
すると、彼の後ろの地面が、モコモコと盛り上がってきました。
「もしかして、地中に、隠れてたの?」
「その通りだ! さすがにあの嵐と雷でも、地下までは攻撃できなかったというわけだ!」
地面から次々と、魔族たちが這い出てきます。
見たところ、生き残っていたのは人型のモグラのような姿をしている魔族たちだね。
地面に潜る能力があったおかげで、魔女王の攻撃から助かったみたい。
「でも、数はそこまで、多くはないですね」
ざっと百くらいってところかな。
正直、万の軍勢って聞いていたから、かなり拍子抜けです。
だってたった百のモグラ魔族がいて、それでなんになるの?
私も舐められたものだね。
「さあ、我が第三軍団の勇敢なる戦士たちよ! そのアルラウネを倒し、そのままエーデルワイスを征服しようぞ!」
「オオーッ!」
「ミナゴロシダーッ!」
「敵ニハ死ヲ!」
モグラ魔族たちが、次々と雄叫びをあげた。
かなり物騒なことを喋るモグラさんです。
なら、お片付けしないと。
この一帯はすでに、地中深くに私の根が張り巡らされている。
だから、ここは私のテリトリー。
「じゃあ、いただき、ますね」
「ん? 地面から何か生えて……な、なんだこの奇怪な植物は!?」
植物生成を使い、地中から百本のハエトリソウを生やします。
葉の縁に並ぶ棘が、モグラ魔族たちを見下ろす。
もちろん、人を丸呑みできるくらい大きな子たちだよ。
それじゃ地面から出てきたところ悪いけど、また地面に帰ってもらうね。
──パクリ。
百本のハエトリソウたちが、二枚貝のように開閉する捕虫葉で、それぞれモグラ魔族にかぶりつきました。
それだけで、モグラ魔族たちは動かなくなり、静かにハエトリソウに飲み込まれていく。
私のハエトリソウは、ただのハエトリソウじゃない。
力もその辺の魔族よりも強いうえに、毒もあるから、噛みついた時点で敵を麻痺させることができるんだよね。
モグラ魔族たちを呑み込んだハエトリソウたちを、地中に戻します。
これで、地上には私と炎の精霊であるイフリトさんしかいなくなりました。
「ふう、ごちそうさま、でした」
「オ、オレの部下たちが一瞬で……な、なんだ今の恐ろしい光景は!? これが……精霊のやることなのか!?」
「あれ、言ってません、でしたっけ?」
私、別に自分のことを精霊だとは思っていないんだよね。
だって私は、アルラウネだから。
一応元聖女ではあるけど、いまの私は光合成が大好きで、お水をいつも欲しがっている、ちょっと食欲旺盛な植物モンスターなの。
街で壺ゴーレム退治をしたせいか、なんだかお腹が空いているんだよね。
私は蔓を向けながら、炎の精霊に優しく教えてあげます。
「次は、あなたの番、ですよ」
あけましておめでとうございます!
本年もどうぞよろしくお願いいたします(。・ω・。)ゞ
次回、私と炎の精霊ともう一人の誰かです。







