37 森が燃えちゃう
やめてぇえええ!
燃えないでぇええ!!
私の近くの木が二本燃えている。
このまま放っておけば火が広がるのは間違いない。
まずいよ、森が火事になってしまう!
そうしたら私だけでなく、森のみんなが悲しい運命をたどることになる。
多くの動物は焼けてしまうだろう。
なんとか逃げ切った動物たちも、住む家をなくしてしまう。
黒土と化して灰しか残らない森では、生きることはできないのだから。
女騎士であるハチさんも、お蝶夫人たちてふてふも、みんな住処をなくしてしまう。
せっかくミノタウロスとの戦闘で生き延びたのに、また命の危機に晒されてしまうなんてあんまりだ。
森サーのみんなは飛べるから、なんとか逃げられればいいんだけど。
もっと悲惨なのは植物。
逃げることなんて最初からできないからね。
こちらは全滅が必至。
私も含めて、燃えずに生き残る未来はない。
なんでさ。
なんで植物は歩けないの?
歩こうよ、火事なんだから。
もう何度目だかわからないね。移動できないのが本当に辛いよ。
歩けないのは私だけでなく、森の全ての木も同じ。
つまり燃えるときも一緒だ。
森の主として、森を失うことは断固として許すことはできない。
なんとかしなければ。
まだ火災は始まったばかり。
木も二本燃えているけど、まだそれだけだ。
炎が広がる前の今なら、まだ対処ができるはず!
私は燃え盛る木の根元付近に、数十本の蔓を巻き付ける。
燃えにくいように何重にも巻いて強度をあげていった。
それでも火が蔓にも移ってきた。
熱いけど我慢。
それよりも蔓が燃え尽きるまえに、早くなんとかしないと。
とりゃぁああ!!
蔓をおおきくしならせて、木を根っこごと引き抜きます。
木をまるごと飲み込むことは何度もやってきたので、伐根するのは慣れているの。
引き抜いた木を私の近くまで移動させる。
私の周囲10メートルほどは草木があまり生えていない。
私がみんな食べたからね!
でもそのおかげで、燃え移る対象の植物がないの。
だからここに燃える木を移してしまえば、森に火が移ることはないでしょう。
私が一本の木を伐根している間に、残る木からさらに他の木へと火が燃え移っていた。
炎上する木はまた二本に逆戻り。
これ以上時間をかけると、燃え移るスピードが上がって取り返しのつかないことになる。
私は二本とも同時に蔓を巻いて、根っこを地中から引き抜いた。
それを空き地とかしている私の近くへと放り投げる。
でも、まだ安心できない。
恐ろしい光景なのだけど私には今、導火線が大量につながってしまっていた。
燃えている木を掴んでいたから当然なのだけど、私の蔓たちもみんな燃え出していたのだ。
数十本からなる蔓から、火が私本体へと近づいてくる。
でも、ご心配なく。
そこで扇子の出番です。
扇ぐのではなく、切断します。
鉄製のフェザーファンこと斧で、蔓を次々と切り落としていきます。
切り離された蔓はその場で燃え尽きるのみ。
反対に、切られた球根側の蔓は超回復を使って再び元の状態へと成長させていく。
すぐに蔓を伸ばすことくらい簡単なの。
これで元通り。
なんとか全て間に合ったね。
ごうごうと燃え盛る炎の中から、赤い火の粉が飛び出て宙を舞っている。
火の粉は私の目の前にまで飛んできた。
熱いのは嫌なのと蔓で弾き落とします。
もし運悪く炎が広がっていたら、私が今の火の粉のようになっていたかもしれないね……。
燃える三本の木は、そのまま真っ黒な炭へと燃え果てて行った。
運命の歯車がかみ合わなければ、あそこで燃えていたのは私かもしれない。
とにかく、これでひと段落。
三本の木が犠牲にはなったけど、森が火事になることはなかった。
────危なかった。
小火程度で済んだから大ごとにならなく良かったよ。
もしもこの木を抜根する前に他の木が引火して、森が火事にでもなったら終わりだった。
少しくらいの炎なら、私の周りには木がなくて空き地みたいになっているから火が燃え移ってくる心配はない。おそらく私は無事でしょう。
けれども、森全体が大火事になるような惨事になればそうはいかない。
周囲全てが火に囲まれれば強烈な熱風と激しい火の粉に全身が襲われる。
それでいて地面も燃えてしまうような火事になれば、植物である私などひとたまりもないの。
大火事になってしまえば、少しの空き地スペースがあってもきっと私は燃えてしまう。
良かったよ、火事にならなくて。
私もまだ燃えたくないからね。
もっとこの森で、のんびりと植物ライフを送りたいのだ。
ガサガサと茂みの向こうから音がする。
ミノタウロスたちがやって来た方向だ。
視線を向けると、一匹のミノタウロスが森の奥へと走っていくのが見えた。
ウソでしょう。
まだ一匹隠れていたの?
もしかして後詰めのミノタウロスがいたということかな。
斥侯ミノタウロスがいて、本体のリーダーミノタウロスたち、そしてその後ろには後詰めミノタウロスがいたということだ。
そういえばウシ型モンスターに荷物がくくりつけてあった。
ウシの数は5匹。
対して私が出会ったミノタウロスは4匹だった。
1匹分の荷物運びのウシが余る。
つまりはその残ったウシの持ち主が、あの逃げているミノタウロスということだ。
盲点だったよ。
最初から気がついていれば、気配を探して先に仕留めることもできたかもしれないのに。
そんなことよりも、早くしないと逃げられてしまうね。
鉄製のフェザーファンこと斧を投擲します。
逃げるミノタウロスのすぐ横の木にグサリと斧が刺さる。
外れてしまった。
後詰めミノタウロスはそのまま逃げ去り、森の奥へと消えて行きました。
あぁ、逃げられちゃった。
さすがに遠いと的には当たらないよね。
しかも蔓を伸ばしても届かない距離まで斧を投げてしまった。
もう回収は不可能。
歩いて取りに行けないこの身が悲しすぎるよ。
おかげで戦利品として手に入れた斧は4本から3本に減ってしまった。
まあ仕方のないことでしょう。
それにしても、なんでこんなところにミノタウロスがいたんだろう。
眼帯ミノタウロスは、この先で仕事があると言っていた。
やっぱりあのおばあさんの絵となにか関係があるのかな。
ミノタウロスたちが現れた反対方向には何があるっけ。
たしか蜜狂いの少年が滞在していた村がそっちの方にあるはずだよね。
とはいえ、わざわざ森を越えて小さな村を襲う理由なんてない。村なんてほかにいくらでもあるからね。
村の先となると、塔の街という結構大きい街があるはずだ。
そちらに用があったのかな。
でも、不思議なのはそれだけじゃない。
ミノタウロスが何をしに森を通過していたのも謎だけど、なぜこの森に魔王軍が現れたかということも謎なの。
この辺りは魔王軍の支配地域ではない。
やつらが住んでいる場所はもう少し先になるわけ。
この森を国境沿いに進むと、城塞の街と呼ばれるところがある。
そこはガルデーニア王国と魔王軍との最前線。
元々、勇者一行であった私たちは、魔王の配下が住むといわれる山岳地帯の魔境の山に向かい、そのあと城塞の街に入城する予定だった。
そこから先は、魔王軍の支配下地域となる。
だから、いくら魔王軍の所領が近いとはいえ、城塞の街を超えて魔王軍がやって来ることはめったにないの。
それほど強固であり、兵の質も数も多い城があるから。
そのせいで、魔王軍は城塞の街を簡単に越えることができないようになっている。
それなのに、魔王軍のミノタウロスが城塞の街の先であるこの森までやって来ていた。
もしかしたら、前線でなにかあったのだろうか。
そうとしか思えないよ。
でも、私にはなにも知ることはできない。
森に住む一介の植物モンスターには、外の世情を見聞きすることは叶わないのだからね。
万が一だけど、城塞の街が魔王軍に落城させられていたらどうしよう。
そうしたらこの森の先は、すでに魔王軍の所領となっているかもしれない。
どうしよう。
あの後詰めミノタウロスを逃がしたのは、やっぱり失敗だったかもしれないよ。
仕事があると言っていたし、今度はもっと強い仲間を引き連れて森に押し寄せてくるかも。
眼帯ミノタウロスは最後に「グリューシュヴァンツ様」とか呟いていたけど、あれきっと上司の名前だよね。強くて狂暴な魔族だったらどうしよう。
そしたら今度こそ、私には勝ち目がない。
なにせ、私はただの植物モンスター。
移動して他の場所で待ち構えることもできなければ、逃走することもできない。
私は望まなくとも、この場所で生き続けなければならないのだから。
いつ何時、あのミノタウロスが復讐に来るかもわからない。
それでもどれだけ私が怯えようとも、いつもの日常を過ごすしか私には道がないのだ。
例えばの話。
いつもと何も変わらないとある日、私が日課の光合成に励んでいる時のことです。
突然、私の攻撃範囲外から炎魔法で敵から狙われたらどうなるだろう。それだけで私は燃えてお終いになる。
抵抗もできないし、戦って相手を退けることもできない。
私は弱点である火に敗れ、邪魔者として焼却処分されてしまう。
うぅ、それはちょっと嫌だな。
やだな、私はただ静かに植物として暮らしていたいだけなの。
だから怖い思いはしたくない。
魔王軍、もう来ないといいね。
来ないといいな……。
お読みいただきありがとうございます。
明日も二回更新にしたいと思います。よろしくお願いいたします。
次回、アルラウネの夢です、







