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4 誰か私を育てて植物園に売ってください

 植物らしくってなんだっけ?


 私はシカ型モンスターを毒花粉で行動不能にしながらそう自問自答せずにはいられなかった。


 静かに?

 穏やかに?

 優雅に?

 

 なにそれ、おいしいの?

 

 そんなことは人間に飼われている箱入りのお花さんにでもさせておけば良い。

 野生の植物界は弱肉強食。植物園とは訳が違う。

 お嬢様みたいな世間を知らない植物じゃすぐに枯れて朽ちるのが関の山だろう。


 ともかく私はお腹が空いたのだ。

 栄養不足。

 ご飯を所望する!


 パクリ。

 お、このシカ肉、獲物としては意外と悪くないね。

 前世でジビエは苦手だったけど、アルラウネでなら何肉でも問題ないわ。溶かすだけだからね。味なんてわからぬ!

 

 ともかくさ、植物らしさってなんだっけ?

 

 日がな一日、日向ぼっこして光合成。

 お水が欲しいと根っこを伸ばそうと奮闘。

 太陽光おいしいとお昼寝。

 お腹がすいたので、蜜に誘われてやってきた魔物に毒を撒いて動けなくしてから蔓で捕食。


 うん、植物だね。

 食虫植物みたいに肉食だけど、普通の植物!


 そんなこんなで数日が経ったけど、私は植物としてもモンスターとしてもそれなりにやっていけていた。


 人間としてのプライドとかはすぐになくなった。

 森にはひとっこひとりいないし、現れるのは言語が理解できない動物か魔物だけ。

 周りの目を気にすることもない。私はある意味、自由なのだ。



 それに郷に入っては郷に従えともいうしね。

 体や環境が精神に影響を及ぼすとは聞いたことがあるけど、どうやら本当みたい。

 モンスターであり植物であるのだから、それらしく生きていくしかないのだ。


 それに身体のことを調べてみた結果、色々と判明した。


 まずは、私はモンスターではあるけど動物ではない。

 根本的には植物なのである。

 

 日中にやることも特になにもない。

 だって動けないからね。しょうがないよね。


 昼間は日向ぼっこをして、夜になると蕾を閉じて就寝。

 朝になると花を咲かせて起床。

 それが今の私の生活サイクルだ。


 元人間として望むことは多いけど、植物としての私が望むことはそうは多くない。


 基本的に、私の三大欲求はこれだ。

 お水、太陽光、そして栄養となる動物。


 まずは水だ。

 喉が渇く。実際に喉が渇いているわけではないんだろうけど、そう表現するのがわかりやすいだろう。生命活動に水が必要だと欲するのだ。もうお水さえあれば他はいらない。そう思えるほど水が欲しい。ジュースなんていらない。水が欲しいの。

 そのために根っこをできる限り伸ばそうと意識する。というかこれしかできない。


 次は太陽光。

 太陽の光を浴びて光合成すると気持ちが良くなる。

 嬉しい。全身の葉緑素が歓喜するのがわかる。

 光合成をすると幸せなのだ。

 植物は光というエネルギーを使って水を分解して酸素を発生させ、空気中の二酸化炭素をデンプンなどの有機物に合成するのだ。

 つまりは光合成をするだけで養分が生まれて私のお腹が膨れる。

 二酸化炭素が減って酸素が生まれて地球は温暖化から遠のく。

 気持ちが良くて私はハッピー。

 一石三鳥なのだ。

 けれど光合成をするたびに喉が渇く。水分が足りないのだ。

 やっぱりお水が欲しい。

 もう水さえあれば、あとはそこそこの太陽光とちょっとの二酸化炭素以外は他にいらない。

 誰か私に水やりとかしてくれないかな。


 最後は餌だ。

 光合成だけではエネルギーが足りない。

 そりゃこんなに大きな花は地球には存在していなかったからね。しかも人の形をしていて蔓とかまで動くし。

 そのためには栄養を摂取しなければならないのだけれど、これが一番難問なの。

 私は移動できないわけで、獲物がこちらにやって来るのを待つことしかできないわけ。

 紳士なクマさんを変態化させるほど強力な甘い蜜が出ているとはいえ、そう毎日獲物がやってくるわけではない。

 しかも戦いは命懸けだ。負ければ私が食われるか、殺されて終わりだろう。自然界は恐ろしい。

 獲物を捕食したらしたで、私は激しい運動をした直後のような衰弱状況になる。

 植物だからか、体を動かすのはあまり得意ではないみたいで、かなりのエネルギーを消耗するみたい。すると当然、喉が渇いてくるのだ。

 お水が欲しい。



 お水と太陽光、そして生き物を溶かして栄養にすること。

 この三食さえあれば私は満足なのだ。



 満足なのは良いことなのだけれど、暇なのが最近一番の悩みだね。

 なにせ娯楽がない。

 話し相手もいない。


 ねえ、どうすりゃいいの?

 まあ光合成しながらお昼寝してるんだけどね。


 なので暇な時間はアルラウネの生態を研究することにした。

 学校で植物図鑑を読んでいた前世が懐かしい。


 ここ数日の結果だけど、甘い蜜を発して動物をおびき寄せてそれを捕まえるのがアルラウネの食事作法のようだ。これは経験済みなのでオーケー。


 他というと聖女だった頃の私の知識から思い出したのだけど、アルラウネは女性の外見から人をおびき寄せてフェロモンで誘惑する魔物だったはずだ。

 となるとこの見た目もハンティングのための餌のようなものなのだろう。


 女性的な腰に、引き締まったくびれ。胸も結構大きい。

 聖女だった時の私はどちらかといえば小さいほうだったので、アルラウネの魅力溢れる豊満な胸部を見るとちょっと大人になった気分になれる。


 良かったよ、花になったけど私の成長期はまだ終わっていなかったんだね。

 これであの忌々しい聖女見習いのクソ後輩にも引けを取らないだろう。年下のくせに私よりおっぱいが大きいとかあいつは生意気だったのだ。勇者様を寝取るし。きっとあのおっぱいを使って誘惑したに違いない。まさに外道。私をハメて裏切り者に仕立て上げたあの泥棒猫らしい。


 それにしても、もしこの森に人間が迷いこんできたらどうしよう。

 私を見て悲鳴をあげるのか、それともモンスターだと斬りかかって来るのか。

 そうさせないようにする役目がこの肉体なのだろう。

 植物なのに人間の女の体がついているなんておかしいからね。

 

 そういえばアルラウネは人間の男性の精を糧にするとも聞いたことがある。

 迷い人を誘惑して、花の中に男をおびき寄せるのだ。

 そうして美しい外見を使って相手を虜にする。

 

 どうしよう。

 私にできる自信がない。

 男の人を誘うとか恥ずかしくてできないよ。

 そんな経験、前世でもなかったしね。


 聖女時代には婚約者がいたとはいえ、あの勇者はただの仲間だ。

 幼馴染ではあるけど、親が決めた許嫁。別に特別仲が良かったわけではない。

 もし仲が良かったらきっと私を殺そうと裏切ることはなかっただろうしね。

 あ、ちょっと待って。

 そう現実をつきつけられると悲しくなってきた。

 涙の代わりに蜜が出ちゃう。

 

 

 というか男の精を取るってなにをするの?

 もしかして、ナニをするの……?

 この体で? 

 どうやって??

 

 ──うん、このことに関しては考えないようにしよう。

 早急に必要なわけではないしね。

 それどころか一生その機会はなくていいや。


 人間の姿をしている魔物ならまだわからないでもないけど、モンスターでしかも植物なアルラウネに精を与えられてもどうしようもないだろう。

 多分だけど養分としてエネルギーになるだけで終わるはず。

 

 それ以上のことなんてないよね?

 ここ日本と違ってファンタジーな世界みたいだから、ちょっと自信がない。


 そもそもの話だけど、私って綺麗なのかな?

 男の人が誘われるような妖艶な見た目なのだろうか。

 鏡がないから顔がどんななのかわからない。

 やっぱり聖女のときと同じ顔なのかな。触ってみた感じだと輪郭は似ているから多分だけど同じだと思うんだよね。美人さんになっていれば良いなあ。


 花冠も赤く輝いていて立派だと思うんだけどな。美しい系の花だというのが個人的な感想だ。


 バラに似ているけど少し違う気がする。

 何の花なのかまったくわからない。

 けれども、決してラフレシアのようなクリーチャ的な花ではないはず。そう思いたいね…………。


 化け物みたいな花だとは思われたくないし。

 

 あ!

 お客さんが来たみたい。


 蜜に誘われてウサギ型のモンスターがピョコピョコとやって来た。

 うんうん。可愛いねえ。

 白くてふわふわしてそうで手触りが良さそう。


 小さくて捕まえるのは大変だけど、そこはご心配なく。

 花冠から毒の花粉を放出してウサギさんの動きを止めます。

 そうして蔓で捕まえて、標的の首を折ります。

 痛いだろうけど心を鬼にしてやるのです。

 生きながらにして溶かされるのは嫌だろうなという私の優しい配慮なのです。

 一度、捕食した魔物に体の中で暴れられて内側から裂けそうになったことがあったのは内緒だよ。

 

 そうして蔓でウサギさんを引きずります。

 下の口を大きく開いて、パクリ。

 


 うん、ごめんなさい。

 客観的に見て、今の光景の私は化け物でしかないです。

 でも信じて。

 化け物じゃなくて綺麗よりのお花を目指しているの。

 甘い蜜だけでなく見ていて目の肥やしになるような美しいフラワーに成長するのだ。


 あ、またウサギさんだ。

 一匹じゃなかったんだね。

 お友達もいたんだね。


 なら、お仲間のところに連れて行ってあげましょう。私は優しいから。これでも元は聖女と呼ばれていたからね。


 下の口を大きく広げる。

 すると蛇に睨まれた蛙のように、ウサギが震え出した。


 こわくないよー。

 ただの綺麗なお花だよー。


 さあ、この(つる)を握って、私と握手しましょう。

 怖がらせたお詫びに仲直り。

 その証に、あなたを私の養分にしてあげます。


 はい、パクリ。

 もぐもぐ。

 ごちそうさまでした!


今日はもう一度更新があります。

次回、私はナス科の女です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 下の口は味覚は無いみたいですが上の口は味覚あるのでしょうか 体と精神(1/3)の影響でその内、精も獲る様になるのでは?罪悪感とかもうなくなってますしw [一言] タイトルの『静かに植…
[良い点] 4/4 ・植物ですね。植物っぽいです。そして価値観変わりましたね。 [気になる点] 『――うん、このことに関しては考えないようにしよう。』 ─:けいせん ➖ ー – ー - 伸ばす棒…
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