日誌 魔女っこ、はじめての大人の姿を満喫する その3
引き続き、魔女っこ視点です。
わたしの名前はルーフェ。
魔女王の魔力で大人になった体を元に戻すために、大規模魔法を魔王軍に放ちました。
エーデルワイス郊外へ集結していた魔王軍の数は──ええと、数えきれないくらいいる。
とにかくたくさんいるけど、空を飛んでいるわたしから見たら、どれも小さな粒にしか見えない。
そんな魔族たちを、大規模魔法“嵐災”が襲う。
さすが魔女王がアルラウネを倒すために使った魔法なだけあって、破壊力は抜群。
巨大な積乱雲から雨のように雷が落ちてきて、地上の魔族たちに一斉に命中した。
しかも、それだけじゃない。
無数の竜巻が空から降りてきて、地面に立っていた魔族たちを次々と空中へと吸い込んでいく。
それらが雷と竜巻の波状攻撃のように、絶えず魔王軍に襲いかかっていた。
「わたしって、もしかしてすごい……?」
こんなとてつもない魔法を、使えるようになったんだ。
これだけの大規模魔法であれば、アルラウネにだって負けないかも。
「あ……あれって、さっきの炎の精霊かな」
丘の上に、赤い人型の魔族みたいなのが立っている。
でもあれは、たぶん魔族じゃなくて、精霊。
「スフィンクスが言ってた炎の精霊……たしか、魔王軍のなんとか軍団長だったはず」
四天王並に強いとか言ってたけど、精霊なら納得かも。
魔王軍四天王だった闇堕ち精霊の姉ドライアドも、けっこう強かった。
だけど、いまのわたしなら、精霊を前にしてもこわくない。
どこまでわたしが成長したのか、あの精霊を使って試してみたい。
「吹き飛べ……!」
炎の精霊に、雷と竜巻を集中させる。
それでもさすがは精霊、雷は当たっているはずなのに、倒れる気配がまったくない。
それどころか、炎の精霊は火柱を上げながら、空へと上ってきた。
「炎の精霊が飛んでる? すごい、空も飛べるんだ」
「貴様……よくも我が軍団をめちゃくちゃにしてくれたなッ!」
地上にいた炎の精霊が、わたしの前まで移動してきた。
炎の精霊は空も飛べる──森のドライアドは飛べないのに、すごいんだね。
「誰が我が軍団を襲っているのかと思ったが、貴様いったい何者…………お、お前は!?」
炎の精霊が、わたしの顔を見ながら驚いてる。
わたしたち、知り合いだったっけ?
「わたしを知ってるの?」
「お前は魔女王キルケー!? なぜ魔女王がこんなところにいる?」
「あ、そっちの知り合い……」
そういえば、いまのわたしは魔女王とそっくりなんだった。
体は大人の姿のままだし、猫耳が生えてる。
炎の精霊がわたしを魔女王だと勘違いするのも仕方ないかも。
でもせっかくだし、魔女王のフリでもしてみようかな。
だって、そっちのほうがちょっと楽しそう……!
「そう! わたしは魔女王キルケー。よくぞ見破った」
「やはり魔女王キルケーか! だが魔女王は、紅花姫アルラウネに敗れて行方不明と聞いていたが……」
「エーデルワイスに隠れてた。だから行方不明じゃない」
「そうだったのか……。このことを宰相様にご報告すれば、さぞお喜びになることだろう」
「宰相?」
魔王軍の宰相?
というか宰相って、何だっけ?
王様の親戚……?
「宰相って、誰だっけ?」
「何を馬鹿なことを言って……ま、まさか、記憶喪失なのか!?」
「わたし、記憶喪失なの?」
「アルラウネに完膚なきまでにボコボコにされたという噂だったが、記憶を失うほどの激闘だったのか。以前会ったときと雰囲気が違うのもそのせい、か……」
炎の精霊がなにか納得してる。
わたしはまったく納得してないのに。
「我が軍団を攻撃してきたのも、記憶喪失なのであればうなずける。なら魔女王キルケー、魔法を解除してくれ」
「え……やだ」
「な、なぜ!?」
「だってわたし……あなたたちを攻撃しないといけないから。ごめんね」
炎の精霊と話している間に、地上の魔族たちは嵐によって吹き飛ばされている。
それに、あなたが魔女王の知り合いなら、わたしはあなたを余計に倒さないといけない。
「血迷ったか魔女王! クッ……前から気に食わない奴だと思っていたが、もう許せん。しょせん、魔女と精霊は相容れぬものだったということだ」
「そうなんだ」
でもわたしとアルラウネは仲が良いよ?
魔女だからって、決めつけてくるのはやめてほしい。
「魔王軍に敵対する以上、魔女王だとしても敵と見なす! 悪いが、倒させてもらうぞ!」
炎の精霊が、わたしに向かって巨大な火の弾を放ってきた。
会話をしながら炎を体内で溜め込んでいたのか、尋常じゃないほどの魔力が込められている。
もしあの炎に当たったら、一瞬で黒焦げになっちゃいそう。
「嵐よ、わたしを守って!」
炎の精霊の攻撃を、嵐で受け止める。
わたしの“嵐災”に、山のように大きな炎の塊がぶつかった。
その瞬間、辺りに火の玉が弾けていく。
同時に、不思議なことが起こった。
「炎が、わたしの嵐に吸収された?」
そういえばこの“嵐災”は、炎を使って嵐を呼び起こす魔法。
相手が炎を使っても、むしろ嵐の威力を上げるだけなのかも。
炎の精霊のおかげもあって、“嵐災”はどんどん大きく膨れ上がっていく。
「この魔法、炎とは相性がいいみたい」
「オレの炎を吸収しただとぉおおおお!?」
炎の精霊が驚いて両手を上げている。
でもすぐに大きく膨れ上がった竜巻に飲み込まれて、炎の精霊はそのままどこかへ消えていった。
残りの魔王軍も、竜巻に飲み込まれ空へと飛ばされていく。
「さすが魔女王の魔法なだけあって、やっぱりすごい」
炎の精霊も、魔女王の魔法の前では木の葉のように飛んでいった。
でも、この魔法は魔女王ではなく、わたしが発動したもの。
わたし、外見だけでなく、力も魔女王みたいになれたみたい。
でも、まだだ。
敵はたくさん残ってるし、わたしの体もまだ大人のまま。
このまま魔王軍がエーデルワイスに攻め込んだら街が大変なことになるし、もっと魔力を使わないとわたしは元の姿に戻れない。
「だから、もっと魔王軍に雷を落とす!」
積乱雲から、槍のように雷を落とす。
魔女王の魔力が抜けて、体が縮んだ。
元に戻る兆候かも。
「もっと!」
魔王軍にさらに雷を落とす。
魔族が吹き飛んで、わたしの背が縮んだ。
「もっともっと!」
魔王軍にたくさん雷を落とす。
魔族がたくさん吹き飛んで、わたしの背がたくさん縮んだ。
「もっともっともっと!」
魔王軍がいた場所が割れるほどの雷を落とす。
魔族が大地と一緒に吹き飛んで、わたしの背が元に戻った。
「……もう無理、疲れた」
こんなに魔法を連発したのは初めて。
なんだか眠くなってきた……。
「でも、がんばったかいはあったかも」
遥か上空を見上げる。
嵐によって舞い上がった小さな粒たちがが、遠くへ運ばれて消えていくのが見える。
「みんな、飛んでっちゃった」
魔族のほとんどが嵐によって消えてしまった。
これだけ数が減れば、エーデルワイスを攻め込むのを諦めてくれるかな。
エーデルワイス公爵家にはお世話になったし、それに聖女イリスの故郷でもある。
そんな場所を、魔王軍に踏み荒らされたくない。
それに──わたしもたくさん魔女王の魔力を放出できて、満足。
「まだ魔族が少し残ってるけど、これだけ減らせば帰ってくれるよね?」
大きめの魔族が、地面に少しだけ転がっている。
動いている様子はないけど、まあ大丈夫だよね。
さっきの炎の精霊の姿もいない。
一応あの精霊は軍団長らしいから、どこに行ったのか確認しておきたかったけど、もうこれ以上は無理……本当に疲れた。
早く帰るために、街に向かって全速力で飛行する。
「ふわぁ……アルラウネの蔓に包まって、寝たい……」
魔法をたくさん放ったおかげで、魔女王の魔力の残滓は消えている。
手の大きさも小さくなったし、わたしの体も子どもの姿に戻っていた。
大人の時間は、これで終わり──。
「やっと街に帰ってこれた…………あっ!」
安心して油断した瞬間──するりと、体から布が落ちた。
下を見ると、青色のドレスが地面に向かってヒラヒラと落ちていくのがわかる。
ドレスはそのまま風に乗って飛んで行き、街のどこかへと消えていった。
「……え?」
小さくなったせいで、ドレスが脱げちゃった!
大人サイズのドレスは、子どもであるわたしにとっては大きすぎたみたい。
それでいて全速力で空を飛んでいたせいで、風にあおられて脱げちゃった。
それに──。
「ど、どうしよう!」
わたし、裸なんだけど!?
手で押さえないと、下着も脱げそう。
せっかく街に戻ったのに、このまま地上に降りたら大変なことになる。
こんな姿、知らない人に見られたくない。
ここが、まだ空の上で良かった。
「……そうだ、人間の姿だから恥ずかしいだけで、人間じゃなくなればいいんだ!」
アルラウネはいつも半裸だけど、まったく恥ずかしそうにしていない。
それはアルラウネが人間じゃなくて、植物のモンスターだから。
つまりわたしも、人間の姿でなくなれば、裸でも恥ずかしくない。
「鳥に変身すれば……!」
──変身魔法!
わたしの体が歪む。
そして人間の手足が縮んでいき、白色の鳥へと変わった。
鳥になれば、服なんて関係ない。
わたし、頭良い!
でも、まだすべての問題が片付いたわけじゃない。
借り物のドレスが、どっか行っちゃった!
「どこいったんだろう……」
エーデルワイスの空の上から、地上を見下ろす。
でも、青いドレスがどこに落ちたかわからなかった。
裸になってしまったことで焦っている間に、見失っちゃったみたい。
「聖女イリスのドレス、アルラウネに見せたかったな……」
アルラウネがどんな反応をするのか、楽しみにしていたのに。
でも、いまはそれどころじゃない。
借り物のドレスを無くしたほうが大変。
早く探しに行かないと!
鳥の姿のまま、街の上空を滑空する。
しばらくすると、広場に人が集まっているのに気が付いた。
何やら盛り上がっていたみたいで、いろんな人が歓声を上げている。祈りを捧げながら、涙を流している人もいた。
いったい何事だろうと思って近づいてみると、街の住人がこう叫んだ。
「聖女イリス様が、エーデルワイスに戻られたんだ!」
え、なに?
聖女イリスがエーデルワイスに戻った!?
ちょっと待って。
わたしが魔王軍と戦っている間に、街でなにがあったの!?
というわけで、魔女っこことルーフェ視点でした。
次回、聖女イリスの面影です。







