日誌 魔女っこ、はじめての大人の姿を満喫する その1
魔女っこ視点です。
わたしの名前はルーフェ。
魔女王の部下ディーゼルと戦った際に、魔女王キルケーの魔力が詰まったヤドリギの実を食べたことで、大人の姿になりました。
戦いを通して、わたしは成長した。
体が大きくなっただけじゃなく、はじめての部下もできた。
新たに使い魔となった、変な壺へと目をやる。
わたしの影響で白色になった壺ゴーレムのルルは、見た目は手足が生えた壺のままなので、あまりかわいくない。
せっかくはじめての使い魔を手に入れたのに、なんかイヤ……。
「あなた、姿とか変えられないの?」
「にゃあ……」
「そっか……」
だめみたい。
鳴き声は猫みたいなのにね。仕方ないから、壺のまま我慢する……。
そう、わたしは大人のレディというやつになったのだ。
大人は子どもとは違って、これくらい気にしない……はず。
「それにしても──」
わたし、本当に大きくなってる。
手がいつもと違って、一回り大きい。これが大人の手……!
「視線もいつもより高い……」
世界が高く見える。これ、変じゃないの?
いきなり背が伸びると世界がこんなにも違って見えるんだ。
アルラウネは大人の姿から子供の姿によく変わってるけど、こんな気持ちになっていたのかな?
「それに、いまのわたし……アルラウネと一緒だ」
自分の体の大きさを、自由に変えられる。
これは、わたしとアルラウネだけにしかできない、特別なこと。
おそろいみたいで嬉しい。
しかも、いまのわたしとアルラウネは、髪の色が同じ。
並んだら本当の姉妹みたいに見えるかも!
この姿をアルラウネに見せたら、どう思うんだろう。
きっと大きく成長したって、驚いてくれるかな。
わたしは再度、窓から中庭の様子を確認します。
真っ白な髪をしたアルラウネは、トゥルペ公爵代理と一緒にいました。
──あ!
アルラウネが、こっち見た!
大きくなったわたしの姿を見せるチャンスが、さっそくやってきた!
ワクワクしながら、わたしは窓の外にいるアルラウネに手を振る。
すると、アルラウネは大きく口を開きながら、驚くようにこちらを見返してきた。
やっぱり、わたしの姿が大人になっているから、驚いているんだ!
あんなに慌てちゃって。
こういうの、ドッキリっていうんだっけ。
わたしはアルラウネに手を振り続けながら、挨拶します。
でもアルラウネは、まだ驚いているみたいで、蔓を振り返してはくれなかった。
なんだか、ものすごく驚いてるみたい。
こんなに驚いてくれるとは思っていなかったから、ちょっと変な気分になる。
でも、期待通りの反応をしてくれて嬉しい。
満足したわたしは、窓から離れて、そのまま公爵邸の奥へと進みます。
見たところ、アルラウネはアルラウネで何かしているようだった。
トゥルペ公爵代理と何を話しているのか気になるけど、今は壺ゴーレムが暴れる緊急事態。
「外はアルラウネに任せて、わたしは中を見回る!」
魔女王の部下だったディーゼルと壺ゴーレムが、公爵邸にいた。
他に変な敵がいないか、わたしが確認しないと。
だって私は、大人だから!
大人は偉いから、きちんと見回りだってするのだ。
そうして公爵邸を歩いていると、驚くべき人物と遭遇します。
「……え、魔女王!?」
体に緊張が走る。
魔女王まで公爵邸にいたのかとビックリしたところで、違和感に気が付きました。
「この魔女王……わたしと同じ動きをしてる?」
あ、わかった。
これ、鏡だ。
白髪に猫耳の大人の女性。
どう見ても魔女王キルケーにしか見えないのに、それは鏡に映ったわたしだった。
窓ガラスに映った自分の姿はすでに見ていたけど、鏡で見ると本当にそっくりなんだと再認識しちゃう。
これじゃどこからどう見ても、魔女王本人。
「わたしって、ここまで魔女王そっくりだったんだ……」
でも、これはわたしの姿だ。
魔女王と似ているのだって、別に似ているだけ。
アルラウネと聖女イリスだって似ているんだし、別に問題はないはず
「……ん?」
自分の姿に見惚れていると、鏡の端にメイドが映っていることに気が付く。
公爵邸で働いているメイドが、わたしの後ろにいるみたい。
──そうだ、いいことを思いついた!
わたしは振り返って、メイドに尋ねてみます。
「ねえ、わたしって大人に見える?」
「え!? み、見えますけど……」
「そう。わたしは、大人!」
「?」
知らない人もこう言っているんだし、わたしはやっぱり大人に見えるみたい。
この姿なら、もう子ども扱いされない。
わたしは、本物の大人になったんだ!
「すごい、棚の上に手も届く!」
今までは背が小さくて届かなかったけど、棚の上の物も簡単に取れる。
つま先立ちしなくても大丈夫!
「歩くのも速い気がする!」
一歩一歩の距離が長い。
歩幅が長くなったことで、移動するのが少しだけ速くなった。
これが大人のスピード!
「大人って、すごい」
「あ、あのう……?」
さっきのメイドが、わたしに話しかけてきた。
鏡の前から、ずっと後を付いてきたみたい。なんで?
「そのう……トゥルペ様のお客様の、ルーフェ様とお見受けします」
「そうだけど、なんでわたしがわかったの?」
わたしは大人になったのに。
「そのう、白髪で猫耳が生えているお方は、このエーデルワイスではルーフェ様だけです。事前に聞いていたよりも背が大きくて、ビックリはしていますが……」
「その通り。わたしは大きくなって、大人になったの」
「……?」
メイドが困ってる。
わたしを知らない人だから仕方ないけど、アルラウネみたいに驚いてくれなくて、なんだか悲しい。
「それで、わたしになにかよう?」
「あのう……非常に申し上げにくいのですが、ルーフェ様のお召し物が、そのう……」
「お召し物? ……え、なにこれ!?」
わたしの服が、すごく小さくなってる!?
いや、違う。
わたしが大きくなったから、服がピチピチになっちゃったんだ!
「わたしの服、破れちゃってる……」
大人になったのが嬉しすぎて、気が付かなかった。
こんなに肌が出てるのも、生まれて初めて。
しかも、メイドさんが恥ずかしそうに、わたしの体を見てる。
なんだかわたしまで恥ずかしくなってきた……。
「よろしければ、新しいお召し物を準備いたしましょうか?」
「え、いいの?」
「トゥルペ様のお客様ということは、公爵家のお客様ということになります。それくらい当然です。それにそのお姿は、公爵邸を襲っていたあの変な壺と戦ったせいですよね?」
「うん」
壺ゴーレムとディーゼルと戦って大きく成長したから、間違いじゃない。
トゥルペ公爵代理とこの公爵邸を守るために戦って、こうなったと言えるかも。
「さあ、ルーフェ様。こちらに付いてきてください」
わたしはメイドに連れられるまま、クローゼットだらけの部屋に通されました。
どこを見ても、服、服、服、服。
服ばっか。
ここは服の森なのかなって思うくらい、服だらけ。
しかも、なんだか豪華で、値段が高そう。
「こちらのお召し物の中から、好きなものをお選びください」
「これ、着ていいの?」
「ここのお洋服たちには、もう主がいないので、問題ございません」
「どういうこと?」
「……この部屋の主はもう公爵家にはいないため、何年もそのままになっているのです。捨てるに捨てられずに保管している物なのですが、こういった時にお客様にお貸しするという体裁で、旦那様が当時のままに保存しているのです」
「そうなんだ」
「では、失礼いたします──」
「!?」
それからはすごかった。
あれよあれよと、わたしは服を脱がされ、気が付いた時には──わたしはドレスを着ていた。
青色のスカートは花のように大きく広がっていて、その先にはヒラヒラがたくさんついている。
刺繍もたくさんしてあって、どこを見てもキラキラしていた。
わたしでもわかる。
このドレス、すごく高いんじゃないの……?
「ルーフェ様、とってもお似合いです!」
「でも、ちょっと胸元がきつい……かも?」
アルラウネほどではないけど、わたしの胸も立派に成長していた。
胸元を見るだけで、わたしの大人としての自信がさらに膨らんでいくのがわかる。
「でしたら、他のお召し物に着替えられますか?」
「ううん。そんなにきつくないから、大丈夫」
せっかく借りたんだから、悪いよね。
それにこの服は、花の刺繍が綺麗だったから、着てみたかった。
若い大人の女性が着る服。
ということは、トゥルペ公爵代理のドレスなのかな?
「これ、トゥルペ公爵代理のだよね。あとはお礼を言わないと」
「…………いいえ、こちらはトゥルペ様のドレスではございません」
「じゃあ、誰のなの?」
「このエーデルワイスにおいて、アヤメの花の刺繍が入ったドレスをお持ちになっている方は、お一人しかおりませんでした……」
メイドが、悲しそうに目を伏せた。
その瞬間、わたしは悟ってしまう。
もう主のいないドレス。
エーデルワイス公爵家にいた、今のわたしの外見年齢と同じくらいの人といえば──。
服からメイドへと視線を移す。
わたしと目が合ったメイドは、ゆっくりとこう告げました。
「これらは、6年前に亡くなられた……イリス様のドレスでございます」
アルラウネとそっくりな聖女イリス。
なぜ二人が同じ顔をしているのか、その謎を解き明かすために、わたしはエーデルワイス公爵邸に来た。
そんなわたしが、あの聖女イリスが着ていたドレスを着ている。
「あ……」
ちょっと変なこと、思いついちゃった。
アルラウネと聖女イリスが、別人だってことはわかっている。だけど、アルラウネはわたしに何かを隠していることも知っている。
だから、試してみたくなっちゃった。
もしこの服を着てわたしがアルラウネの前に出たら、どんな反応をするんだろう?
次回、魔女っこ、はじめての大人の姿を満喫する その2です。







