36 終焉の舞踏会
私のラストダンスのお相手は眼帯ミノタウロス。
敵のリーダーだし、ペアとしては申し分ないね。
他の敵は全て排除した。
残るのはこのミノタウロス1匹のみ。
対するこちらも被害は甚大です。
ハチさん軍団は半数以上がやられちゃったし、お蝶夫人の取り巻きも何匹も帰らぬ蝶に。
こんなこと絶対に許せない。
もう森サーの仲間には誰にも手出しさせない。
リーダーは私一人でやるよ。
仲間を失って怒っているのはミノタウロスも一緒だったみたい。
憤怒の形相で、燃え盛る斧を振りかぶりながらこちらに突進してくる。
炎魔法が込められた斧が厄介だね。
どうやって対処しようか。
羽根付きふわふわ扇子という名の斧で口元を隠しながら、私は考える。
とりあえず、あの炎の斧が私に直撃したらお終いだね。
斧を投擲されても困るから、盾用の茨を何十本が正面の地中に忍ばせて置きましょう。
あと数本の予備を残して、地上と地下から茨で一斉攻撃。
眼帯ミノタウロスは炎陣を発生させ、茨を防ぐ。
炎の渦がミノタウロスを囲った。
うぅ、火には敵わないね。
これじゃ茨を突き出しても燃えちゃうよ。
でも、斧なら貫通するよね。
私はひょいと扇子を投げ飛ばします。
炎の向こうで鋭い音がする。残念、どうやら防がれたみたい。
その間に周囲に蔓を伸ばす。さっき私が投げた二本の斧を回収です。
これで扇子も補充できたよ。
小道具が舞踏会で私に花を飾ってくれる。私自身も花だけどね。
鉄製のフェザーファンに見惚れていたら、炎の渦の中から斧が飛んできた。
眼帯ミノタウロスが斧を投げ返してきたのだ。
すかさず茨の壁を作り出す。
けれども炎の斧は、易々と茨の壁を貫いてきた。
うひゃあっ!?
飛んできた炎の斧を、小道具の扇子でガード。
斧には斧を。
危なかった。
扇子がなかったら私、真っ二つだったね。
やっぱり舞踏会に扇子は必要だよ。今度から常備しなくちゃ。
炎の中から眼帯ミノタウロスが姿を現す。
私が投げた斧を奪い取ったみたいで、手に装備していた。
新しい斧にも魔法を使ったようで、既に炎の斧へと変化している。
私も飛んできた斧を拾って、再び扇子を装備。
投擲では決着がつかないと思った眼帯ミノタウロスは、こちらに進んでくる。
どうやら接近戦で決着をつけたいみたい。
でもそんなことはお構いなしに、私はまた鉄製の扇子を投げつけた。
案の定、炎の斧でまた防がれます。
私はアイテムを相手にぶつけるという技を覚えた。
でも、そのアイテムは何も一つじゃないの。
ミノタウロスから奪ったもの他にもあるんだよ。
そう、斥候ミノタウロスからの戦利品の、痺れ薬と眠り薬だ。
私はミノタウロスの死角である眼帯がある左側からこっそりと蔓を忍ばせて、この二つの薬を瓶ごと投げていたのだ。
眼帯ミノタウロスが飛来する斧を弾いたのに一瞬遅れて、二つ瓶が舞い込んでくる。
さすがのリーダーさんもこれには反応できなかったみたいで、兜に瓶がぶつかった。
瓶が兜に当たって割れる。
中身の痺れ薬と眠り薬が空気中にばら撒かれた。
これで眼帯ミノタウロスも動けなくなるはずだね。
薬が効いたのか、眼帯ミノタウロスが体をよろめかせた。よし、行けるよ。
しかし次の瞬間、驚くことに眼帯ミノタウロスは自分の左腕に炎の斧の刃を当てて体を焼きだしたのだ。
肉が焼ける匂いがしてくる。
己自身を焼肉にした痛みによって眠気から覚醒し、眼帯ミノタウロスの体勢が持ち直った。
流石はリーダー、凄い根性だよ。
そして痺れ粉の効果が全身に回る前に、ポーチから小瓶2本を取り出して飲み込んだ。
あぁ、また解毒薬を飲まれてしまった。
今のは、眠り薬と痺れ薬用の解毒薬みたいなものだろうね。
せっかくの作戦が台無しである。
もう手持ちの薬はないし、どうしよう。
私は倒れたままのミノタウロスに視線を向ける。
すると以心伝心してしまったようで、眼帯ミノタウロスは仲間のポーチから薬を頂戴し始めた。
さすがはラストダンスのペア。
私の考えることはお見通しってわけね。
ならこちらから頂きましょうと、ウシ型モンスターに蔓を向ける。
縄で括りつけられた荷物をゴソゴソと漁ります。
うん、眼帯ミノタウロスが止めようとしない。
ということはこっちには薬はないのかな。
ウシの荷物は食料や水ばかりだった。
肉食だからか、動物の肉ばかりだよ。
あれ、でもこれは葉っぱだ。
ミノタウロスも葉物を食べる趣味があったんだね。
いや、でもこれはただの葉っぱじゃない。
トラオム草。
この世界では眠り薬の原料として使われている。
こちらはファオル草。
同じく痺れ薬の原料だ。
私がさっき投げつけた眠り薬と痺れ薬はこの草から作られたものなの。
実は誰かに薬を使用しようとしているなら、予備として原材料を持っている可能性があると思っていたの。
本拠地から用意していたのか、それとも森で採取したのかはわからないけど、持っているのは幸運だったよ。
トラオム草とファオル草を私の手元まで持ってくる。
眼帯ミノタウロスは「無駄ダ」と声を上げた。
その通り。
これはあくまで原材料であって、これだけでは大した効果は発揮しない。
このまま葉を食べさせても、ちょっと眠くなって、手足が痺れるくらいだろう。
加工しなければ戦闘に使えるほどのアイテムにはならない。
そう、だから加工しちゃえばいいんだよ。体の中でね!
トラオム草とファオル草をパクリ。
品種改良のお時間です。
毒花粉から毒を分離させて、トラオム草とファオル草の成分を個々に融合。
植物生成完了しました。
早速発射してみようと、眼帯ミノタウロスに青色の花粉を放ちます。
これは眠り粉。
続けて黄色の花粉を吹き出させる。
こちらは痺れ粉。お蝶夫人の鱗粉と効果は一緒だね。
痺れ粉と眠り粉が眼帯ミノタウロスを襲う。
けれども斧を振りかざし、炎の渦を作って防御。
やっぱりただ正面から放っても効かないか。
これじゃ埒が明かないね。
このまま進んでも、お互いが均衡したまま。
しかも炎魔法のせいで、少しこちらが押されているよ。
私の弱点である炎の斧が扱える時点で向こうは有利だったのだ。
こっちから何か仕掛けなければ、やられてしまう。
幸い、こちらにはミノタウロスから奪った斧が3本も手元にある。
刃物がたくさんあるわけだし、これにちょっと細工してみましょうか。
私は細工した一本の斧を投擲する。
これまたミノタウロスはガード。
既にこのやりとりも三度目だね。
眼帯ミノタウロスが炎の渦から出てきた。
手には、私が投げたばかりの斧を持っている。
斧の二刀流だね。
また斧を投げてくるかなとは思ったんだけど、投げずに二本とも持つとはね。
今までのように私に斧を投擲するのではなく、装備する道を選んだみたい。
でも、それが運命の分かれ道だとは知らなかったみたい。
突然、眼帯ミノタウロスが斧を落とした。
腕が痙攣している。
なぜ、というようにこちらを見つめるリーダーさん。
その理由はね、今あなたが落とした新しい斧にあるの。
斧の柄に麻痺性の毒を発する茨を巻きつけていたのだ。
痺れ粉が出せるなら、毒と同じように麻痺の効果を持つ茨の棘を生成したの。
その茨を斧の柄に巻いて、もう片方の斧で茨を切断。
これで斧に茨が巻き付いたままになる。
茨付きの斧を眼帯ミノタウロスの死角側に投げつければほら完成。
眼帯があるせいで見えづらい角度からだというのと、炎の渦が邪魔で斧に茨がついていることに気がつかなかったみたい。
それで斧を持った時に棘が刺さって、毒の効果で痺れてしまったというわけ。
仮に斧に巻き付いた茨に気がつかれても、茨を剥がそうと手にした時点で棘が肌に刺さる。それだけでも麻痺の効果は表れるはずとも考えていたの。
斧を投げるのは三度目だったけど、三度目の正直ともいう。
これで終わりにしましょう。
斧がない今なら炎の渦で防ぐことはできないはず。
ミノタウロスが斧を落としている隙に、花冠から痺れ粉を発射。
同時にミノタウロスの四方から茨にマンイーターを咲かせ、毒花粉を散布。
ミノタウロスの周囲に二種類の花粉が密集する。
眼帯ミノタウロスは解毒薬を取り出そうとするけど、前回と違って腕から麻痺がしているせいで上手く瓶が取り出せないみたい。
そういえば舞踏会はまだ終わっていなかったね。
最後くらいしっかりとパートナーをリードしてあげなくちゃ。
ミノタウロスの腕を麻痺性の茨でしっかりとホールド。
さあ、そんな解毒薬の瓶は置いてしまいましょう。
ダンス中の飲食はいけませんことよ。
魔法を使う余力もないのかな。
気力を振り絞って意識だけは保っているみたいだけど、もう何も抵抗はできなくなっているね。
眼帯ミノタウロスが、がくりと腕を落とす。
おっと、パートナーさんや。
倒れる前に訊きたいことがあるのですが。
「森に、なんの、よう?」
魔王軍の兵士が森にやって来た理由。
森の主としてこれを知っておかなければ後々困るの。
「……森ニ用ハナイ。コノ先デ仕事ガアッタダケダ」
「仕事、って、何?」
眼帯ミノタウロスからの返答はない。
代わりに、最後の力を振り絞って咆哮を上げ出した。
ミノタウロスの右腕が燃え出す。炎魔法を使ったのだ。
信じられない、武器がないからといって自分の体を燃やし出したよ。
炎が上がることを確認すると、眼帯ミノタウロスは小さく言葉を発する。
「グリューシュヴァンツ様、オ許シヲ……」
そうして私と眼帯ミノタウロスとのラストダンスは幕を閉じた。
舞踏会も終わりである。
ふう。
なんとか乗り切ったね。
今回は本当に危なかった。
火で燃やされると思って一度死を覚悟したね。
相性も悪かったし、かなりの強敵だったよ。
まさかここまで炎魔法が脅威だったとは。
それでも、戦士型の相手で良かった。
もし魔法特化の魔法使いのようなミノタウロスだったら勝ち目がなかったかもしれない。
遠隔から炎魔法を放たれ続けたらひとたまりもないからね。
本当に危なかった。
ん、炎?
そういえば最後にミノタウロスの右腕が燃え出したけど…………あぁ、どうしましょう。
緊急事態です。
あのミノタウロス、最後の最後にやってくれました。
眼帯ミノタウロスの右腕の炎が近くの木に引火しているのだ。
火がミノタウロスの全身に回る頃には、その木はしっかりと炎上していた。
嘘でしょう。
信じられない。
あいつ、最後に私に一矢報いようとしたんだ。
森を燃やせば、私も燃えて助からないから。
こんな終わり方ってないよ。
とんでもないダンスパートナーだったよ!
これが舞踏会の真の閉会。
まさに終わりの始まりである。
炎上する木だけでなく、隣の木の枝までもが燃え出していた。
このままでは炎が連鎖してしまう。
そうなれば起こる未来はただ一つ。
森が火事になる。
それだけはまずいの。
火事になれば、私は逃げることができない。
だって植物だから。歩けないの。
だからお願い、鎮まって。
私も、燃えちゃうから!
そこの木!
燃え移らないで!
頑張って!!
あぁあああああああ!!
燃え移っちゃったよ……。
どうしよう。
私も、燃えちゃうかも………………。
本日は二回更新となります。
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次回、森が燃えちゃうです。







