35 口元を隠して微笑むのは淑女としての嗜みです
私、植物モンスター娘のアルラウネ。
今まさに、私の心も茨も情熱の炎のように燃え盛っているの。
炎の斧によって茨に火が移ってしまった。
導火線のように近づいてくる炎は、私に残された命の砂時計でもある。
本体にまで炎が辿り着けば、私は燃えて消し炭になってしまうのだから。
眼帯ミノタウロスが命を助ける代わりに、デザート兼愛玩用の観葉植物になれと最後通告をしてくる。
もちろん、私はミノタウロスに蜜を捧げる生活なんてごめんだよ。
命燃えつきるその時まで、森サーのみんなと戦うのみ。
最後通告をして私の返答待ちをしているおかげで眼帯ミノタウロスは油断している。
私を傍観してくれているのもラッキーだね。
眼帯ミノタウロスの動きが止まっている今が好機。
お蝶夫人のほうに目を向ける。
鱗粉の効果があったみたいで、ウシ型モンスターは麻痺して倒れたまま。
相棒のミノタウロスも、鱗粉を吸い込まないように手で口を押さえているため、大した動きができない。
これはわたくしと踊ってくださるチャンスでなくて?
眼帯ミノタウロスが油断している隙に、お蝶夫人に援軍です。
すぐさま地面から茨を出現。
口を抑える部下ミノタウロスの両腕をしっかりとホールド。
お蝶夫人と交代です。次はわたくしと踊りましょう。
主催者が一人のウシさんと踊ると他の殿方が嫉妬するかもしれないから、眼帯ミノタウロスともう1匹のほうにも茨を差し向けます。わたくし、気が利くの。
さあ、一緒にステップを。
口から手をおどけになって。そうでなくてはあなたの凛々しいお顔が拝見できなくてよ。
あら、ミノタウロスさん、随分と牛みたいな顔だったのね。
雄牛のようなたくましいあなたにはわたくしから秘密の招待状を差し上げます。
もしわたくしのことを気に入ってくださりましたら、後で一緒にこっそりと舞踏会を抜け出しましょう。
ミノタウロスの腕を押さえつけていた茨からマンイーターを咲かせて、そこから招待状を口の中に投函です。ちょっと毒花粉みたいな形をしているけど、それが私流のお誘いなの。
暴れるミノタウロスの四肢を茨で押さえつけます。
あなた、乱暴な踊りをするのですね。ちょっとダンス教室に通ったほうが良いのではないかしら。
私が踊りのイロハを体に教えてあげていると、ミノタウロスが理解しましたと白目を向いて口から泡を吐きながらお礼を述べてくれました。
どうやら私と一緒に舞踏会を抜け出すのはやめて、一人で別の世界へと出かけてしまったみたい。招待状、断られちゃったね。
部下ミノタウロスと代わって私と踊りたいのか、それとも部下を助けたいのか、眼帯ミノタウロスが茨を切り裂きながらお蝶夫人のほうへと突撃してきた。
そんなリーダーさんには私本体の花冠から招待状を噴射です。
リーダーである偉い牛さんには特別、たくさんプレゼント。
眼帯ミノタウロスは斧の炎を掲げ、自分を中心に炎陣を生み出す。
毒花粉が一瞬で燃やされてしまった。やっぱり火は怖い。
その隙に私は、お蝶夫人の鱗粉で麻痺して動けなくなっていたウシ型モンスターに毒花粉を吸わせて舞踏会からのご退場をお願いする。
よし、これで相手は4匹だ。
女騎士たちのほうにも動きがあったみたい。
ハチさんの猛勢によって、最後のウシ型モンスターが地面に倒れた。
これで相手はミノタウロス2匹とウシ型モンスターのエーレシュティーア1匹。
ミノタウロスが女騎士と踊っている隙に、ハチさんに刺されて瀕死状態になっていたもう一匹のエーレシュティーアに招待状を送る。
あなたもお仲間のところにお行きなさい。
そうすればみんな寂しくならないよ。
女騎士にダメージを与えられていたエーレシュティーアはもう余裕がなかったようで、すぐさま舞踏会を後にした。これで残るはミノタウロス2匹のみ。
けれど女騎士側も無事ではなかったようで、既に何匹ものハチさんが地に伏せていた。地面が黄色く見える。
ぐぬぬ。
よくも私の女騎士たちを。
許せない。
でも許せないのは現実も一緒。
そろそろタイムリミットみたい。
導火線となっていた茨が燃え尽きて、とうとう本体である私の目の前まで炎がやってきたのだ。
これで私の舞踏会も終わりか。
残念だったね。
もっと森サーのみんなと踊っていたかったよ。
火で燃やされて死ぬなんて、植物としてはあまり喜ばしい最後ではないね。
もっとこの森で綺麗に花を咲かせていたかったな。
眼帯ミノタウロスが斧を振るって、ハチさんたちに炎を浴びせる。
1匹、また1匹と黒色の灰となって舞踏会から退場させられていくハチさん。
やっぱりこのミノタウロスは許せない。
せめて、なんとかしてみんなを助けないと。
その前に自分を助けないといけないのだけどね。ホントどうしよう。
眼帯ミノタウロスが、お蝶夫人たちにも斧を向ける。
──そうだ、斧だ!
植物モンスターになっていたせいですっかり忘れていたけど、別に植物が武器を持っちゃいけないなんて決まりはなかったね。
剣とか槍を握っている花を見たことなかったせいで、全くその発想がなかったよ。
斥候ミノタウロスの戦利品に視線を向ける。
荷物は大事にとっておいたのだ。
手に入れたばかりの斧を蔓で持ち上げます。
うん、なんとか持てそうだよ。
私、結構な怪力の持ち主だから大丈夫だとは思ったんだ。
まずは時限装置を破壊するしかないね。
燃える茨を根本から切り落とします。
よし、これで燃える心配はなくなった。
あっさりとしすぎてビックリだけど、これで少しは延命できたよ。
やっぱり武器ってすごい。文明の利器だね。
斧はこのまま武器として使えそう。
とは言っても、元聖女な私は斧の扱い方なんてわからない。
なら、投げるしかないよね。
実はアルラウネになってから暇をつぶすために、近くの木をもぎ取ってそれを的に投げるという遊びをしていたのだ。
だから投擲にはちょっと自信があるの。
お蝶夫人と交代して倒したばかりのミノタウロスの斧も拾って、二刀流。
それを2匹のミノタウロスへ同時に投擲。
眼帯ミノタウロスは斧でガード。さすがはリーダーさん。
でも部下は違ったみたい。
ハチさんを叩き落とすことで精一杯だった部下ミノタウロスの頭に、斧が炸裂した。兜が飛んでいく。
頭から血を流しているけど、兜に守られて致命傷にはならなかったよ。
それでもね、地面にさえ倒れてくれればこっちのものなの。
部下ミノタウロスさん、きっと踊り疲れて脳震盪を起こしてしまったのね。大変だわ、早く助けないと。
地中から茨を生やして、部下ミノタウロスの横にマンイーターの花を咲かせます。
そうして毒花粉を喉の奥へと噴射。よし、これで楽にさせてあげることができたね。
部下ミノタウロスの周りには、20匹近くのハチさんが切り裂かれていた。燃やされているハチさんもたくさんいる。
お蝶夫人の取り巻きのてふてふも数匹ほど無残な姿となって羽を地面に合わせていた。
目から蜜が零れ落ちる。
こちらが劣勢だというのは最初からみんなわかっていた。
それでも、できれば全員無事に生き延びたかったよ。
──こんなの絶対に許せない。
森サーのみんなの雪辱は私が果たす。
敵はあと1匹だけだ。
ハチさんもてふてふたちも、もうみんな満身創痍。
これ以上、森サーの仲間を失うわけにはいかないね。
女騎士とお蝶夫人たち、あとは休んでいて。
あの牛の相手は私がするから。そこで私の勇姿を見守っていてね。
最後に残った眼帯ミノタウロスが驚くように私へ振り返っていた。
アルラウネが斧を投げるだなんておかしいと抗議でもするような目ですね。
それとも淑女が舞踏会で斧を振り回すのが気に入らないのかしら。
誤解なさらぬように。
これは一見すると斧のようにしか思えないけど、実はこれ、舞踏会の小道具なの。
扇子なのよ。見えないのかしら?
平べったくて、扇状に広がっている。やっぱり扇子だね。
ほら、よくダンスパーティーで羽根付きのふわふわな扇子を持っている御令嬢がいるでしょう。あれです。
わからないかしら、これは鉄製のフェザーファンなの。
舞踏会の主催者が言うんだから、なんといってもこれは扇子です。
私は脳震盪を起こして倒したばかりのミノタウロスの武器を奪って、本体へと持ち帰る。
斧──じゃなくて羽根付きのふわふわ扇子。
どう、似合うかしら。
顔の前で鉄製のフェザーファンを広げ、私は口元を隠します。
そうして出来る限り、蠱惑的な笑みを向ける。
さあ、リーダーさん。
ラストダンスといきましょうか。
お読みいただきありがとうございます。
初投稿を始めてからそろそろ3週間が経ちます。ここまで続けてこられたのはひとえに皆様の応援のおかげです。改めて感謝申し上げます。
少し余力が出たので、明日も二回更新にしたいと思います。よろしくお願いいたします。
次回、終焉の舞踏会です。







