34 森サーと魔王軍による合同ダンスパーティー開催です
さあ、本日は森サーと魔王軍による合同ダンスパーティーの開催日です。
ルールは簡単、相手よりも長く踊っていたほうが勝ちとなるわけだね。
私の他には女騎士ことハチさんが30匹、お蝶夫人率いるてふてふが10匹ほど。
対する相手の殿方は炎魔法を扱う眼帯ミノタウロス1匹と、仲間のミノタウロスの2匹、そして配下のウシ型モンスターであるエーレシュティーアが5匹だ。
数だけみれば森サー41対魔王軍8でこちらが優勢だけど、そうは単純な話ではない。
相手のミノタウロスは全員鎧を身にまとい武装をしている戦士。
しかもそのうち1匹の眼帯ミノタウロスは炎魔法を扱う。
今もほら、大きな斧が炎と一体化して轟々と燃え盛っている。
あんなの触れただけでこちらはみんな消し炭になっちゃうよ。
植物である私はもちろん、ハチさんもてふてふもみんな火に弱い。
相性が悪すぎるのだ。
やっぱり一番厄介なのは眼帯ミノタウロスだね。
こいつの相手は私がしよう。
部下のミノタウロスは女騎士とお蝶夫人に一旦任せるとしても、まだ配下のウシ型エーレシュティーアが5匹いる。
ミルクたっぷり栄養満点の乳牛さんではなく、闘争本能全開で赤いマントに突撃する闘牛のような強そうなウシさんだ。
そういえば私の花冠は赤色だよね。
赤いマントと間違えて赤い花びら目掛けて突進してきたらどうしよう。
突っ込んで来られても、避けられないのですが。だって、植物だから。
いや、ちょっと待って。
あのエーレシュティーア、5匹とも体に荷物がたくさん巻きつけられている。
もしかして行軍用の荷物持ちとして連れてきているだけかもしれない。
そうなればあまり戦闘力は高くないかも。
とは言っても、エーレシュティーアの突進力は少し面倒だね。
よし、先にウシ型モンスターからやっつけよう。
さあ、ウシさん方。
武道会という名の歓迎の舞踏会を始めましょう。
この中で一番攻撃範囲が広いのは私だったみたい。
おかげでまたもや先制攻撃ができたよ。
まずは殿方に来場してくださったお礼をお伝えしないとね。
ご機嫌麗しゅう。
はじめまして、わたくしは当舞踏会主催者のアルラウネと申します。
以後お見知り置きを。まあ以後があればのことなのですが。
挨拶がてらに毒花粉をお見舞いします。
ミノタウロスの動きは速かった。
近くのエーレシュティーアの前に壁になるように移動し、斧を盾にして毒花粉から己と配下のウシ型モンスターを守ったのだ。
私とのダンスよりもウシ同士で手を取ることを優先するなんて、そこまで殿方同士のペアが良かったのかしら。どうしましょう、私そういうのを生で見るのは初めてなの。
私の挨拶に感動してくれたのは残された2匹のみ。
泡を吹きながら倒れてくれるほど賛美してくれているのが嬉しいね。
うん、まあ良しとしましょう。
これで41対6。
殿方はレディーを選び放題でしてよ。
さあ皆さん、お客様のお相手をしてあげましょう。
社交界の始まりです。
女騎士ことハチさんたちが部下ミノタウロスとウシ型モンスターのエーレシュティーアを取り囲む。
さすがに数が多いせいか、殿方は上手く女騎士たちをエスコートできていないみたい。
ミノタウロスもお相手の数が予想以上に多いせいか斧を振り回しながら戸惑っているよ。
エーレシュティーアなんて女性からお叱りの針を刺されちゃっているね。
お蝶夫人たちも、もう片方の敵の周りで蝶の舞を披露し始めた。
美しいダンスに合わせて、鱗粉が殿方たちに降り注ぐ。
鱗粉を吸い込んだエーレシュティーアが痙攣しながら体を硬直させた。どうやらあの鱗粉には痺れ粉のような成分があるみたいだね。
ミノタウロスも鱗粉を吸い込まないよう口を押えているせいか、斧でお蝶夫人たちに反撃しづらいみたい。
森サーの淑女なだけあって、女騎士もお蝶夫人もやるね。
この調子なら致命傷を与えることは難しくとも、なんとか魔王軍のお相手を続けてくれることはできそうだよ。
みんなが時間を稼いでくれている間に、私がフリーになれれば勝機はある。
私もきちんと殿方の相手をつとめなければ。
眼帯ミノタウロスが炎の斧を構えながら近づいてきた。
あなたのお相手はわたくしですよ。
茨でダンスのお誘いをします。
右、左、右、左、と次々と茨を伸ばして腕を組むのです。
けれどもお断りされてしまいました。
刺がある女は嫌いみたい。
鋭い斧捌きで、次々と茨を刈っていく。
燃える斧に切られた箇所が火傷しているせいか、切断面の再生がしづらい。
炎魔法のせいだろうね。
やっぱり植物とは相性が悪い。
眼帯ミノタウロスが嘲笑するようにこちらを見ている。
口からよだれが出ているし、舐め回すような視線も熱い。
こんなやつに負けるわけにはいかないね。
戦闘に気合が入っているのか、なんだか私までちょっと熱くなってしまいそうだよ。
ちょっとダンスに夢中になりすぎちゃったかな。
──いや、違う。
本当に燃えているってこれ!
あつあつあつっ!
茨が一本燃え出した。
炎の斧に焼かれたみたい。
そのまま炎は茨を伝って導火線のように本体である私の方へと近づいてくる。
え、ちょっと待って。
まずいって!
球根と茨が繋がっている以上、茨が燃えれば私も燃えることになる。
茨、分離とかできないよね。
なんとか火を消そうと必死で燃える茨を振り回すけど、効果はない。
他の茨で消そうにも、燃え移るだけだし。
もしかして私、これでお終い?
予想以上に難敵だった。
私にとっても最大で最強の敵、それが炎。
火には勝てなかったよ。
うぅ、嫌だよおお。
燃えたくないよ。
炎に包まれた茨の部分が黒い炭のようなものに変化していく。
元の緑色だった茨は見るも無残な姿へと変貌していく。
あの茨の姿は、未来の私だ。
私に炎が到着すれば、全身が燃えてしまうのは必至。
まず球根から燃え上がり、花冠と葉っぱが一瞬で焼却され、体が炎上するなか雌しべである私が火に包まれながら溶けるように燃やされていくのだ。
そうして体は黒色の炭となり地面へと返る。
残った灰は風に運ばれ、空へと霧散していくのだ。
そうして私はこの世から消える。
それはあと数十回瞬きをした先にやってくる絶望の未来。
こんな時にこそお水がほしい。
栄養としてではなく、消化水として。
もう何もかも諦めて、最後の晩餐という名の光合成を堪能して全てを忘れ去りたい。
もう私にはどうすることもできないの。
やっぱり、ダメだよ。
──私がこの場に一人だけだったら、そうやってここで諦めていたかもしれないね。
でも、今の私には仲間がいる。
みんなのためにも最後まで戦い続けなければ。
まだ本体にまで火が移るには時間がかかる。
とりあえずできるだけのことをしましょう。
私を助けに来てくれた森サーのみんなのためにも。
それがせめてもの恩返しになるのだから……!
眼帯ミノタウロスが「降参シロ、悪イヨウニハシナイ」と最後通告をしてくる。
凄い余裕そうだね。
私はデザート兼愛玩用の観葉植物になるつもりはない。
せめて燃え尽きる前に、ウシ共を道連れにして焼肉にしてやるんだから!
さて、これからが本番でしてよ。
植物型モンスターだって熱いハートを持っているの。
燃える茨を漂わせ、華麗に魅せる花の演舞なんていかがかしら。
心身ともに燃え盛る情熱の踊りをお見せいたしましょう。
アルラウネの有終の美をとくとご覧あれ。
本日は一日二回更新となります。
次回、口元を隠して微笑むのは淑女としての嗜みです。







