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33 このままだと私、蜜が楽しめる愛玩用の観葉植物になってしまいそうです

 私、植物モンスター娘のアルラウネ。

 魔王軍のミノタウロスを倒したら、荷物から人間の絵が出てきたの。



 その絵はお世辞にもあまり上手ではなかった。

 まるで子供の落書きのような絵。


 まあミノタウロスに絵心を求めちゃダメだよね。


 これはなんだろう、おばあさんの絵かな。

 でも、なんでミノタウロスが人のおばあさんの絵を持っていたんだろう。

 

 よくわからないけど、とりあえずこれも保管です。暇つぶしに眺めるのに使えそうだからね。


 それにしても、なぜ魔王軍の配下が森にやって来たのかな。

 正直、魔王軍から見て森に価値のあるものはないと思うのだ。


 痺れ薬と眠り薬、そしておばあさんの絵。

 森でおばあさんを見かけたことはない。


 もしもあのミノタウロスがおばあさんを探していて、痺れ薬や眠り薬で捕まえようとしているのだとしたらどうだろう。


 可能性はあるかもしれないね。

 なんでそんなことをしようとしているのかはさっぱりわからないけど。


 そう考えると、手頃な人間を捕まえて誘拐するという線のほうがあり得そうかも。

 魔王軍がよく出没する地域では、若い女性が(さら)われることがあると聞いたことがある。

 そのために薬を用意して、大人しくさせてから持ち帰る。それか。


 まあ絵がなんなのかは全くわからないけどさ。


 そんな私の疑問に答えてくれそうな人物が現れた。


 人物というか、魔族。しかも一行である。



 ミノタウロスがやって来た方向から、さらに仲間が出てきたのだ。


 新手のミノタウロスがやって来たの。

 しかも配下のウシ型モンスターを引き連れて。


 ミノタウロス3頭、ウシ型モンスターのエーレシュティーアが5匹のパーティー。



 なるほど、さっきのミノタウロスは斥侯(せっこう)だったのか。

 やっぱり魔族は厄介だね。


 それに、このままいくと1対8だよ。


 しかもそのうち3体がミノタウロスとなるとさすがに分が悪い。



 森の主としての仕事はまだ終わっていなかったらしいね。

 圧倒的に不利だよ。もうどうしようもない。


 一度姿を隠して、ゲリラ戦法で敵をかく乱すれば、森がホームなこちらにも多少の分がある気はする。


 そのためにも普通ならここで逃げるところだけど、私にはそれは許されていないの。

 だって植物だから。逃げる足がない。

 根っこがね、ずっと土に埋まっているの。


 だからこのままやるしかないのです。


 植物として転生してしまって、もうこんなの慣れちゃったよ。

 

 私に移動という手段はない。

 できることと言えば、ただ目の前の敵を倒すだけ。


 これまでだってそうしてきた。

 だからこれから先も変わらない。

 たとえ、勝機がないとわかっていても。



 さて、第二ラウンドの始まりです。


 あれだけ苦戦したミノタウロスが複数いるとなると、連携して襲ってくるかもしれない。そうなれば対処はできないだろうね。


 しかもね、真ん中にいるミノタウロスがちょっと怖いの。


 両側にいるミノタウロスとも、さっき倒したミノタウロスとも違う。


 左目に傷があるみたいで、眼帯をしているけど、そういう意味でもない。


 オーラが違ったのだ。


 これでも元は勇者パーティーに参列できるほどの実力を持った聖女。いくつもの死線をくぐって来た自負がある。

 そんな私だからこそわかるものがある。


 このミノタウロスは、他の普通のミノタウロスとは格が違うのだと。


 眼帯ミノタウロスは、斥侯ミノタウロスの脱ぎ捨てられた鎧を確認すると、警戒するように私を見据えた。


 そしてやっぱりこのパーティーのリーダーだったのだろう。

 部下のミノタウロスに向かって「ヤルゾ」と声をかけた。


 魔族ならば言葉を操るのも当然。そのことには驚かない。


 殺気を放つウシ軍団。

 どうやら私は、仲間のミノタウロスの(かたき)として狩られようとしているみたい。


 クマパパや数々の強敵を葬ってきた私でも、流石にこの数じゃ勝ち目がないよ。

 せめて一対一とかならなんとかなるかもしれないのに。


 私が一対一の決闘を申請しようかと悩んでいると、眼帯ミノタウロスが何か喋りだした。

 呪文のような言葉を唱えると、なんと斧が燃え出したのだ。


 まさか、炎魔法!?


 間違いない。

 四大魔法である火属性の魔法だ。


 ビックリした。

 この眼帯ミノタウロス、魔法まで使えるみたい。

 

 人間の中でも魔法を使えない兵士はたくさんいる。むしろ魔法の才があるほうが珍しい。


 魔族も同じだ。

 いくら種族ごとに潜在能力の大きさが違うといっても、魔法が使える個体は基本的に珍しくてしかも強い。


 眼帯ミノタウロスの大斧が爆発するように燃え上がり、炎と一体化していく。



 あぁ、ダメ。

 だめだよ、これは。

 勝てないって。



 私ね、火に弱いの。植物だから。


 あんな炎を見たら、花が縮こまっちゃう。

 焼かれたらね、もう終わりだよ。

 

 

 しかもこのミノタウロス、かなりの魔法の使い手だって。

 ちょっとかじったレベルじゃない。

 きちんと戦闘用に鍛えている。


 もしかして私、このまま燃やされちゃうのかな……。



「旨ソウダ、シカモ美シイ」


 ミノタウロスが私のことをじっとりと見つめながらそう口を開いた。


 綺麗だと褒められるのは花としても悪い気分はしないんだけど、旨そうだというのはやめて欲しいな。


 ちょっとね、美味しそうに見られるのには嫌なトラウマがあるの。


 だけど、私は次の言葉でこの先の人生の道を悩むことになる。

 驚くことに、ミノタウロスは私に対して第二の選択を与えたのだ。


隷属(れいぞく)シロ。サモナケレバ(かたき)トシテ焼キ払ウ」


 ミノタウロスは自分の(もと)(くだ)れというのだ。


 その口元からはよだれが垂れていた。

 きっと私をペロペロするつもりなのだろう。


 できれば私を燃やさずにして、蜜を堪能したいという気持ちが現れていた。


 デザートにされてから燃やされるとしても、デザートにされずにこのまま燃やされても、どちらも救われない。


 なら一層、言われるがままミノタウロスのデザートになりますと服従したらどうだろうか。


 殺さずに、おやつとして取っておいてくれるかもしれない。


 ミノタウロスに蜜をあげるため、顔を舐められる。

 嫌だけど、その時の私はもうミノタウロスの所有物。


 どんなに嫌でも、喜んでもらうために蜜を献上し続ける。

 だけどミノタウロスは私の気持ちなど知らないと舐めて飲み込むように私を楽しみ続ける。


 それでも笑顔を振りまいて、私は乱暴されないようにミノタウロスに気を使うのだ。

 


 ミノタウロスから可愛がられるかもしれないけど、デザート兼愛玩用の観葉植物になってしまう。

 私の身も心ももはやそこにはない。


 けれども、命だけは助かる。

 命を担保に身体を差し出すか、それとも燃やされて殺されるか。究極の二択である。


 ミノタウロスのために蜜と植物である身体を捧げる人生。

 焼き殺されるよりは、良いのかな。



 ──────いや、そんなのは許せない。


 耐えられない。


 クマパパにペロペロされるのもあんなに屈辱だったのに、こんな野蛮そうなミノタウロスに隷属されて、ただひたすら蜜を舐められる一生なんてしたら絶対に後悔する。


 身を捧げて生き残ることができても、心まで差し出すつもりはない。



 たとえここで燃やされて土に返ることになったとしても、私は後悔しない。


 公爵令嬢として育った元聖女としての意地が、私に最後まで(あらが)えといってくる。


 魔族のために一生を尽くす生涯なんてまっぴらごめんだよ。

 私は私のためだけに生きるのだ。


 光合成しながら静かに、平和に暮らす。

 決してミノタウロスなんかに飼われながら屈辱を身に焼き付けるような生活はしたくない。



 私、最後まで戦うよ。


 たとえこの身が燃やされてしまったとしても…………。



 私は茨を構えて拒否の姿勢を示す。


 抵抗の意志が伝わったのだろう。

 眼帯ミノタウロスは慈悲なしといった様子で、こちらに一歩踏み出した。



 だが、急にその歩みを止める。

 いったいどうしたんだろう。


 同時に、私の視界の端に、何かヒラヒラしたものが映る。


 視線を動かすと、そこには見知った友人が滞空していた。

 ハチさんだ。


 私の女騎士ことハチさんが仲間を連れて助けに来てくれていたのだ。


 でも、それだけじゃない。

 ハチさんの反対側には蝶の群れがいた。



 私のダンスのパートナーだったお蝶夫人も、仲間のてふてふたちを引き連れてやってきたのだ。



 もしかして、私を助けに戻ってきてくれたの?


 そんなこと、頼んでもいないのにさ。


 見てよあの敵を。

 どう見ても私たちよりも強いよ。

 しかも火を操っているし。


 私ら全員、火が弱点なのにね。

 あんな炎、一度でも受けたら()(ずみ)になっちゃうんだよ。

 だから危険だよ。逃げた方が身のためだって。


 それなのにこうして、私を助けにきてくれたんだ。



 うぅ、どうしよう、目から蜜が流れてくるよ。


 蜜が止まらない。


 いつもならこれだけ蜜を出せば喜んで採取してくるハチさんとてふてふが、蜜に無反応のままミノタウロスたちと対峙している。



 私、アルラウネに転生してから嫌なことばっかりだったけどさ。

 こうして森サーの友達と一緒になれたのだけが、唯一の良いことだったよ。


 うん、腹はくくった。


 ここまでしてくれている女騎士やお蝶夫人たちを無様に燃やされるわけにはいかない。


 私は私のことを好いてくれているみんなのために、負けるわけにはいかないよ。


 

 たとえ私一人ではダメでも、みんなとならきっと戦える。

 よし、一緒にあんなやつらはやっつけよう。


 森の平和は、私たち森サーが守るのだ。



 さあミノタウロスさん。


 もしよろしければ、私と踊ってはくださいませんか?

 

 この森は初めてでしょう。

 なら森の乙女たちによる森流の歓迎のダンスをご披露いたしましょう。


 しかもただの舞踏会ではございません。

 少し荒っぽい、武道会方式です。


 ではみなさん、準備はよろしくて。



 歓迎の舞踏会を始めましょう。


お読みいただき、そしていつも応援していただき誠にありがとうございます。

日頃の感謝といたしまして、明日は久しぶりに1日2回更新にしたいと思います。


次回、森サーと魔王軍による合同ダンスパーティー開催です。

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― 新着の感想 ―
[一言] いつかコメントで、心も魔物になったと書いたけど仲間に優しければいいよね。裏切られた人が明らかな敵や他人には医療するほうがおかしかった。
[一言] \(・ω・\)(/・ω・)/ピンチ! でもみんなでやるぞ!やるぞ!やるぞー!
2020/08/01 08:40 退会済み
管理
[良い点] 36/36 ・まさかの闘志! クマパパのペロペロが生きたな? [気になる点] さては四天王だなこのミノ。四天王最弱:炎のサーロイン(適当) [一言]  私は茨を構えて拒否の姿勢を示す。 …
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