287 魔王軍四天王になりたい獣鬼マンタイガーさん
私、植物モンスターのアルラウネ。
誘拐された妖精キーリとマンドレイクを助けにきたら、魔王軍の幹部と遭遇してしまったの。
獣耳族を支配して従属させていたその幹部の名前は、獣鬼マンタイガーさん。
なんと、あの魔王軍四天王だった獣王マルティコラスのお兄さんだったみたい。
しかもどうやら、獣鬼マンタイガーさんは、王都を襲撃するつもりらしいのだ。
私は捕まえたばかりの猫耳少女に尋ねます。
「王都を襲撃、するつもりなら、なんであなたたちは、こんなところに、いるの?」
「聖蜜と妖精を集めていたにゃん。獣鬼様はそれを魔王軍のもっと偉い方に献上して、王都で功績をあげて四天王になるのが目的なんだにゃん」
「なるほど、四天王に……」
獣鬼マンタイガーさんの弟は、魔王軍四天王だった。
そんな弟と同じ四天王に、獣鬼マンタイガーさんもなりたいと願ったのでしょう。
四天王は魔王軍の中でもかなりの幹部だったし、出世したい気持ちはわかるね。
知りたい情報はある程度、聞き出せた。
なので、今度はこの猫耳少女のことを教えてもらいましょうか。
「あなた、お名前は?」
「ニャーは、シャムだにゃん」
シャムと答えた猫耳少女の髪は、白髪に黒のメッシュが入っているような色合いをしている。
なんだかシャム猫に似てるね。
このシャム猫さんは、私と魔女っこに気づかれずにキーリとマンドレイクを誘拐した。
その手腕はたしかなものなはず。
「シャムさんに、お願いが、あります。私を獣鬼マンタイガーの、ところに連れて行って、ください」
「い、いやだにゃん! あいつは同族だって気に食わなければ共食いするような鬼のように狂った奴なんだにゃん!」
ガクガクと震えるように拒絶するシャム猫さん。
どうやら獣鬼マンタイガーという魔族は、本当に恐ろしい人物みたい。
怖がれせてしまったのなら、申し訳ないね。
このお花をあげるから、元気を出して。
「もしも私の、お願いを、聞いてくれたら、このマタタビを、好きなだけ、シャムさんに、プレゼントします」
「にゃにゃにゃにゃんんっ!?」
トロンと蕩けたシャム猫さんの目から、ハートマークが浮かんで見えるようでした。
私からマタタビを奪い取ろうと、両手を猫の手のように伸ばしてくる。
その手にギリギリ届かない高さにマタタビを蔓で垂らして、改めてお願いします。
「シャムさん、どうしますか? 別に他の獣耳族に、頼んでも、いいんだけど……」
「ニャーがやりますにゃん! なんでも言うこと聞きますにゃん!」
あんなに震えていたのに、さっきの姿がまるで嘘のよう。
元気になって、私も嬉しいよ。
そんな私たちの様子を眺めていた魔女っこが、こうつぶやきます。
「アルラウネ……その猫、飼うの?」
「飼わないよ!?」
このシャム猫さんは本物の猫じゃなくて、あくまで亜人の獣耳族だからね。
ペットにするなんて考えもしませんでしたとも。
それに……なんだか魔女っこが、嫌そうな顔をしているしね。
「ルーフェは猫、好きじゃ、ないの?」
「魔女王みたいで、ちょっと怖いし…………」
街道で獣耳族を見かけたときにもちょっと思ったけど、やっぱり猫耳帽子を被っていた魔女王を思い出すみたいで、猫耳は魔女っこのトラウマになっていたみたい。
あんなに可愛いのにね、猫。
「安心して、ルーフェ。猫は、飼わないから」
「……なら餌をあげるなら、ほどほどにね。懐かれても困るし」
付きまとわれでもしたら、それはそれで困るもんね。
だけど、獣耳族と仲良くするのはなにも悪いことじゃない。
マタタビをあげるだけで私の言うことを聞いてくれるなら、意外と便利なのでは?
獣耳族について考えを巡らせていると、魔女っこが一番大きなテントを見ながら尋ねてきます。
「それでアルラウネ、このまま獣鬼のところに乗り込むの?」
「うーん、どうしよっか」
まだ敵は、私たちの存在に気が付いていない。
せっかく鉢植えアルラウネになっていることだし、ここはスパイのようにこっそり潜入するのが安全そうだよね。
「ここは、プレゼント作戦と、いきましょうか」
「プレゼントって、その猫みたいにマタタビをあげるの?」
「マタタビじゃ、ない。プレゼントは…………私だ!」
ちょうど良いことに、キーリは貢ぎ物になっているからね。
鉢植えのアルラウネを献上品にしても、きっと変じゃないでしょう。
それにもしも私が真っ向からキーリを取り返しに行ったとして、獣鬼マンタイガーさんがキーリを人質にしたら面倒だ。
密かに獣鬼マンタイガーさんのおひざ元に潜伏して状況を確認してから、万全を期してキーリたちを奪い返したほうが安全なはず。
なにせキーリは大妖精を自称しているけど、結局のところ妖精には変わりない。
戦闘能力はそこまで高くないんだよね。
初めてキーリと出会ったとき、カエルに食べられていたくらいだし。
我ながら完璧な作戦だと思っていたんだけど、なんだか魔女っこが変な顔をした気がする。
だからなのかな、まるで駄々をこねる子どもを前にした保護者のように、諦めたような口調で言います。
「……わかった。アルラウネの好きにしていいよ」
魔女っこのお墨付きももらえたね!
あとは献上品のフリをした私をシャム猫さんにテントまで運んでもらうだけ。
「じゃあちょっと、行ってくるね。ルーフェは、危ないから、ここで待ってて」
「…………待たない。わたしもアルラウネと一緒に行く」
え、魔女っこも来るの?
でも私は鉢植えの植物のフリができるけど、魔女っこは献上品にしては目立つよ。
獣耳族に捕まった人間のフリでもするのかな……。
そんな私の疑問に返答するように、魔女っこはシャム猫さんを指差します。
「わたしがその猫の代わりになる」
「猫って、シャム猫さんの?」
もしかして魔女っこが、獣耳族の代わりになるつもり?
いくら変装したとしても、猫耳と尻尾がついている獣耳族に化けるのは無理があると思うけど。
「ルーフェ、やめたほうが、いいんじゃない? フードで頭を、隠したら、逆に怪しまれると、思うよ」
なにせここは、獣耳族の集落だ。
彼らは己の獣耳に誇りを持っているらしく、よっぽどのことがない限りは耳を隠したりはしない。
人間の街中に潜入しているのならフードを被っていても自然だけど、獣耳族の集落で耳を隠すのはあまりにも不自然すぎる。
そんな私の心配を吹き飛ばすように、魔女っこがフードを外します。
雪のようにさらさらとした、魔女っこの白髪が私の視界に入る。
「アルラウネ、大丈夫。わたしに良い考えがあるの」
その時、魔女っこの体が歪みました。
この光景、久しぶりに見た。
魔女っこが魔女の変身魔法を使って鳥になるときに目にした現象だ!
だけど、鳥に変身したときのように、魔女っこの体は小さくなりませんでした。
変わったのは、二か所だけ。
魔女っこの頭に、ふさふさの猫耳が二つ、ニョキニョキと生えてきのです。
「ルーフェの頭に、猫耳が生えて、きたんだけど!?」
「変身魔法で、生やしてみた。どう、似合ってる?」
小首をかしげながら、猫耳の魔女っこが私に甘えるように問いました。
そんなの──超、かわいいよー!!
なにこれ。
猫耳のルーフェ、最っ高にかわいいんだけど!!!
白髪の魔女っこの髪に合うような、白色の猫耳が頭から生えている。
シャム猫さんの髪を真似たのか、白髪に混じって黒髪のメッシュまで作り出していました。
魔女っこの変身魔法、便利すぎるんだけど!
背中に翼を生やしたりして部分的に変身できるように成長したのは知っていたけど、まさか猫耳を生やすという手法までは思いつかなかったよ。
こんなことなら、もっと前に猫耳を生やしてもらえばよかった。
妹のように可愛がっている魔女っこのキュートすぎる姿に、私の心臓は撃ち抜かれていました。植物だから、もう心臓はないんだけどね。
ああ、この世界に写真がないのが悔やまれる。
塔の街の領主であるマンフレートさんに会ったら、魔女っこの肖像画でも描いてもらおうかな。
わなわなと鉢植えを揺らす私は、蔓でハートマークを作ります。
「ルーフェ、すっごく似合ってるよ!」
「なら、良かった」
私の妹が可愛すぎる件について!
悪い人に誘拐されないか心配になっちゃうくらい。
でも、なにか足りない。
なぜなら獣耳族には、尻尾も生えているのだから。
「ねえルーフェ。獣耳族に、変装するなら、尻尾が、足りないよ」
「尻尾……わかった」
再び魔女っこの体に歪みが生まれる。
すると魔女っこのスカートの中から、猫の尻尾が伸びてきました。
これでどこから見ても、完全に獣耳族そっくり。
誰も魔女っこを魔女とも、そして人間とも思わないでしょう。
だというのに、魔女っこは不服そうな表情をしていました。
「ルーフェ、どうしたの?」
「…………尻尾が、なんか変な感じがする」
魔女っこの猫の尻尾が、ゆらりと動く。
これまで自分の体にはなかった器官を生やしたことで、慣れない感覚に陥っているみたい。
その気持ち、わかるよ。
私も聖女からアルラウネになったばかりの頃は、蔓とか根っことかが違和感でしかなかったからね。
「この尻尾、消しちゃおうかな?」
「我慢して」
「…………うん」
こうして、猫耳ルーフェが爆誕してしまいました。
あとは獣耳族に化けた魔女っこと一緒に、獣鬼マンタイガーさんのところへ潜入するだけ。
もう憂いはないはず。
そう思ったところで、再び魔女っこが不安げにささやきます。
「ねえアルラウネ。見た目は獣耳族になったけど…………わたしの語尾も猫みたいに、にゃんって変えたほうがいいのかな?」
「……………………」
私は静かに、蔓で丸を作りました。
次回、私の妹に猫耳が生えた件です。







