284 獣耳族の二人組
すみませんんんん!!!!
更新が遅くなりましたm(_ _)m
私たちの旅が始まった初日。
フライハイト大平原を移動していたら、けも耳の二人組がガラの悪い男五人に囲まれているのに遭遇しました。
なにやら揉めているようで、遠くから喧嘩をしているような声が聞こえてくるね。
それに、盗賊のような格好をしている男たちは、すでに武器を手に持っている。
もしかしてこれ、ピンチな状態なのかな?
「ニャニャッ!? そこの旅人さんたち、助けてくれニャー!」
けも耳の二人組のうち、頭から猫耳を生やしている女の子が、私たちの馬車へと助けを求めてきます。
というかこの子、語尾が「ニャー」になってるんだけど!?
か、かわいい……!
「こいつら、盗賊だニャー! このままだとみんな、殺されるニャー!」
「俺たちが盗賊だって?」
「おい、この猫を黙らせろ!」
「旅のお方、勘違いしないでくれ。俺たちは盗賊じゃないぜ」
猫耳の女の子が、男たちによって地面に押さえつけられました。
反抗するように暴れている猫耳少女は、涙目になりながら必死の形相でこちらを見つめてきます。
「た、助けて、ニャ……!」
けも耳の二人組は、大きな荷物を背負っている。
盗賊たちは、きっとその荷物が目当てでこの子たちを襲っているんだろうね。
塔の街周辺に強盗が出るっていう話はあまり聞かなかったけど、まったくのゼロだっていうことはないだろうし。
でも、ちょっと待って。
こいつらが荷物を奪おうとしているなら、馬車旅をしている私たちも危ないのでは……?
「おい、見ろよ。この馬車の馬、なんかデカくないか?」
「よく見ると、御者台にいるフードを被っている奴もちょっと変だぞ」
「初めて見る馬車だな……こいつら、怪しいぞ」
盗賊たちが、私たちへとターゲットを変えました。
たしかに自慢じゃないけど、私たちは怪しい。
怪しい自信しかないから、植物モンスターである私と妖精キーリは、さっきからトレントの後ろに隠れているくらいだからね。
盗賊の一人が、御者をしているトレントに向けて大声で尋ねます。
「お前たち、馬車に何を積んでる? どこに行くつもりだ?」
「………………」
ごめんなさい。
私の妹分はね、トレントだから喋れないの。
でもこいつらが本当に私たちの荷物を狙っているのであれば、馬鹿正直に教える必要はないはず。
しかもこの場所は、私の支配下であったアルラウネの森からそう遠くない。
森の主として、ご近所で起こった犯罪は見逃せないよね。
私が蔓を伸ばそうとした瞬間、背後から声を掛けられます。
「ふわぁあ…………アルラウネ、どうしたの?」
「ルーフェ、起こして、ごめんね。ちょっと、トラブルかな」
盗賊が大声を出したことで、すやすやと眠りについていた魔女っこが起きてしまった。
まったく、うちの子が気持ち良く寝ていたっていうのに、迷惑な連中だね。
「ねえアルラウネ。あの子の頭に、猫耳がついてる」
魔女っこが、警戒するように身を固めている。
あれ、魔女っこって、猫が苦手だったっけ?
「頭に猫耳……もしかして、魔女王の仲間じゃないよね?」
「ああ、そういうこと! 魔女王の頭は、猫耳の帽子、だったと思うから、たぶん関係ないと、思うよ」
それに魔女王は変身魔法で、動物の体の一部を生やすことができるからね。
他の魔女には猫耳は生えていなかったし、魔女とは無関係だと思う。
「ねえアルラウネ……あの子、尻尾もついてるよ。もしかして前にわたしたちを襲ってきた、獣人の魔族?」
「ううん、あの子は、魔族じゃないよ。たぶん、獣耳族だと、思う」
けも耳というとヴォル兄を思い出すけど、彼は呪いをかけられて犬耳が生えてしまっただけの人間です。
だけどあそこにいる猫耳少女はヴォル兄とは違い、尻尾も生えている。
だからあの猫耳少女は、たぶん人間ではない。
あの子は──亜人だ!
この世界には、人間に似た種族が存在しています。
それが、亜人。
彼らは多種多様な種族として存在しており、人間とは違った生活様式で暮らしていると伝わっています。
そんな亜人の中で特に多いのが、獣の耳を持つ種族──獣耳族です。
獣耳族は、けも耳が頭に生えているのと、尻尾が生えていること以外は、見た目はほとんど人間と変わらない。
そのため人間に近しい種族である亜人として、教会によって認められている種族です。
逆に、見た目が魔族よりである獣人族は、亜人として認められてない。
前に私が倒した魔王軍四天王の獣王マルティコラスが良い例だね。
全身が獣の体で出来ている獣人は、屈強な肉体を持っていることもあり魔族にカテゴライズされています。
セレネ教によれば、
獣耳族──亜人(人間の仲間)
獣人族──魔族(人間とは違う生物)
だと定義されています。
そんな獣耳族は、ここガルデーニア王国では存在しないはずの種族です。
彼らは大陸北部に住んでいるため、聖女時代の私でも数えるくらいしか出会ったことがないんだよね。
だから獣耳族に出会うだけで、めちゃくちゃレア。
そんな獣耳族は、盗賊にとっては絶好のカモだったりします。
ガルデーニア王国で奴隷は禁止されているけど、お隣のグランツ帝国ではまだ奴隷制が残っていたはず。
ここで獣耳族を捕まえてグランツ帝国に連れて行けば、盗賊たちはそれなりの利益を得られることでしょう。
魔女っこに獣耳族のことを教えてあげると、ジト目をしながらこちらを見てきました。
「なんで森生まれ森育ちのアルラウネが、この辺で珍しいっていう獣耳族のことを知っているの?」
「あ…………えぇっと……ニ、ニーナに、教えて、もらったことが、あるんだ」
「ニーナさんに……そうなんだ。アルラウネも勉強熱心だったんだね」
しまった、けも耳にテンションが上がって、ちょっと話し過ぎちゃったよ!
でも、いまや聖女にまで上り詰めたニーナの名前を出したおかげで、魔女っこも納得してくれたみたい。
ありがとう、ニーナ。
魔女っこに怪しまれたときはいつもニーナの名前を出している気がするけど、今後も頼りにさせてもらうよ!
「とにかく獣耳族っていうんだ。勉強になった。じゃあアルラウネ、先に行こう」
「えっ、ルーフェ!? 助けて、あげないの?」
「だってわたしたちと関係ないし。それにあの猫、なんか胡散臭い」
盗賊に捕まりながら必死の涙を見せてくる猫耳少女。
あの顔を見て胡散臭いと言うなんて……もしかして猫耳帽子を被っていた魔女王のせいで、魔女っこは猫耳に拒絶反応を起こすようになってる?
そんな魔女っこが馬車から顔を出したことで、盗賊たちが改めて声を上げます。
「なんだ子どももいるのか。おい嬢ちゃん、この馬車の持ち主を出してくれ!」
「この馬車の持ち主……それは、わたし!」
「嬢ちゃんがだって、嘘だろう? まさか小柄な大人だってわけねえだろうが、ちょっとフードを取って顔を見せろよ?」
「いや……あなたたちの言うことを聞く必要なんてない」
ちょ、ちょっと、魔女っこ?
うちの子が、盗賊たちに対してかなり反抗的なんだけど!
まあ盗賊相手だから、別にいいっか。
魔女っこの実力があれば、その辺の盗賊に負けることもないだろうし……。
「ガキの馬車なんて、ますます怪しいな。一応聞いておくが、まさかその馬車に聖蜜を積んでるんじゃねえよなあ?」
「うん、積んでる」
「マジかよ! じゃあ嬢ちゃん、悪いがアレを俺たちに見せてくれ」
盗賊の一人が、馬車に近付いてきました。
その様子を見ていた猫耳少女が、こちらに忠告してきます。
「そいつらを近づけさせちゃダメだニャ! 馬車に乗り込んで全部奪われるニャ!」
「それは……イヤ」
魔女っこが、片手を空へと上げます。
すると、空に黒雲が発生しました。
「荒天魔法“天雷”」
「うぎゃぁああああ!!」
盗賊の一人が、雷に打たれて倒れます。
天候を操る魔女の黒魔法の一つ──荒天魔法。
久しぶりに見たけど、なかなかえげつない魔法だよね。
突然の出来事に、盗賊たちは慌て出します。
「なんでいきなり雷が!?」
「こいつ、ヤバイぞ」
「天気を操った……まさか魔女か? あいつらがまた街に襲ってきたのか!?」
「というかあの女の子、どこかで見たことあるような……」
「ちょっとうるさい……黙って」
続いて、黒雲から雷鳴が轟きます。
残りの盗賊四人に、雷が直撃しました。
魔女っこにあっさり倒されてしまった盗賊たちは、髪の毛を黒焦げにしながら地面に横たわります。
見たところ、一応死んではいなさそう。
きちんと魔女っこが手加減したみたいで、安心したよ。
「す、すごいニャー! あの盗賊たちを一瞬で倒すなんて、すごすぎるニャー!」
盗賊に捕まっていた猫耳少女は、雷に当たらず無事だったみたい。
手のひらをスリスリと擦り合わせながら、私たちに感謝を伝えてきます。
「さ、さては、さぞかし名のある冒険者の方にゃのでは……ないでしょうかニャ?」
「ううん。わたしは冒険者じゃない」
「よ、良かったニャー。それなら安心したニャー」
──ん?
なんで私たちが冒険者じゃないとわかると、猫耳少女が喜ぶの?
普通、冒険者のほうが安心するんじゃないのかな。
盗賊たちも、魔女っこのことを魔女だと疑っていたわけだし。
「この御恩は一生忘れませんニャ。それじゃ、さようならなのニャ」
猫耳少女が盗賊たちの体を調べながら、私たちに別れの挨拶をします。
いったい、なにをしているんだろう?
私は魔女っこに小声でお願いをして、代わりに猫耳少女に尋ねてもらいます。
「盗賊の体を調べて、なにをしているの?」
「ああ、これですかニャ。こいつらに盗まれた荷物を取り返しているのニャ」
そう言いながら、猫耳少女は盗賊たちの金目のものを回収していきます。
盗まれた分にしてはやけに量が多い気がするけど、まあ気にしないことにしましょう。
もしも私たちがこの場に来なければ、猫耳少女たちは最悪殺されていただろうからね。
続けて、魔女っこに指示を出します。
「道を尋ねたいんだけど、王都への道はどっちか知ってる?」
「それでしたらこの道を真っすぐ進めば大丈夫だニャ」
「ちなみに、左の道はどこに通じているの?」
「こっちはどこにも通じてませんニャ。進んでも、行き止まりニャ」
「そうなんだ…………ありがとう」
魔女っこが礼を伝えると、猫耳少女は立ち上がりながらこちらに頭を下げます。
「助けてくれて感謝するニャ。それじゃあ、さよならだニャ」
両手を大きく振って見送ってくれる猫耳少女を横切りながら、馬車は街道を進んでいきます。
まさか盗賊に襲われているところに遭遇するなんて思いもしなかったから、ビックリだったね。
人助けもできたことだし、ちょっと気分も良いかも。
「そういえば、もう一人の獣耳族は、どこに行った、んだろう?」
盗賊たちの目が私たちに移ってから、猫耳少女と一緒にいたもう一人の獣耳族の姿が消えていた。
もしかして、近くの草むらに隠れていたのかな?
あの子も無事だったら良いんだけど。
けれども馬車旅が再開されて安心したのも束の間、異変に気が付きます。
なんだか馬車の中が、前よりも静かになった気がするの。
「あれ…………キーリは?」
馬車内に、妖精キーリの姿がない。
聖蜜の樽の隙間に隠れているわけでも、幌馬車の上に乗っているわけでもない。
キーリの姿が、いつの間にか消えていました。
「え……キーリ? どこ行っちゃったの?」
「アルラウネ大変」
「うん、わかってる。キーリがいないよ!」
「それだけじゃない。マンドレイクの鉢植えも、なくなってる」
「うっそぉ!?」
つまり、キーリとマンドレイクがいなくなったってこと?
いったいどこ行っちゃったの??
あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします(。・ω・。)ゞ
次回、盗賊の正体です。