32 誰か私に代わって食後のデザートになりたいお方はおられませんか
私、植物モンスター娘のアルラウネ。
森サーで舞踏会をしていたらいきなり魔王軍のミノタウロスと戦うことになったの。
ミノタウロスは顔は牛で、体は人の巨人。そして魔族でもある。
私やクマパパなどの魔物よりも上位種だ。
個体によっては魔法だって使えるし、人間同様の文明も持っている。
そんなミノタウロスは森の侵略者というところだろうね。
なぜ魔王軍の魔族であるミノタウロスが森にやって来たのか。謎だね。見当もつかないよ。
ミノタウロスは凶悪な魔族だ。
兜から出ている二本の長い角と野蛮そうな顔という外見も怖いけど、それ以上に戦闘が強い。
並みの冒険者や騎士では束になっても敵わないからね。
強靭なミノタウロスの筋肉と斧を操る技術の前に敗北してしまうのだ。
そうして魔王軍の戦士として、名をはせている種族となっている。
そんなミノタウロスが、どうやら私に気がついたみたい。
手にしていたタヌキを口に放り込み、ニヤリとこちらを見つめる。
まるで次の獲物を見つけた狩人のような瞳をしていた。
もしかして食後のおやつにするつもりなのかな。
ちょうどハチさんとてふてふたちに蜜を与えていたところだから、私の体からは蜜があふれ出ている。
もしかして私、ミノタウロスにもペロペロされるの?
かなり嫌なのですが。
ミノタウロスのデザートになるつもりはないのだ。
こんな見た目だけど甘く見られては困るの。
蜜は甘いけど、私の強さはそう甘くはないことよ。
ちなみにだけど、ミノタウロスは人も食べる。
どうやら好みの味らしい。だからこそ人間から恐れられているのだけど、今の私はアルラウネ。
多分食べられないけど、飲まれるパターンだよね。
私、いつもこんなんばっかだよ。
変態担当はそろそろ卒業したいです。
ミノタウロスが近づいて来た。
やられる前に、やりましょうか。
攻撃範囲は私の方が広いのだ。
せっかくの楽しい舞踏会を邪魔された恨みもあるしね。
招待状のないお方はお断りでしてよ。
ということで先制攻撃です。
ミノタウロスに向けて、茨をムチのようにしならせる。
けれどもミノタウロスは余裕な表情のまま、斧で茨を斬り裂いた。
なんという早業と敵ながら賞賛したくなっちゃうね。
今の一太刀でわかったよ。
このミノタウロスは強い。
魔王軍の戦士として訓練されている兵隊だ。
野生のモンスターたちとは戦闘に対する意識が違う。
私たち野生のモンスターは生き残るために戦う。
でも、戦士は相手を殺すために戦う。
その辺りの意識の違いを、一瞬で悟ってしまった。
近寄られたらまずい。
毒花粉を発射。
でも、ミノタウロスは斧を盾にして毒花粉を防ぐ。
やはり戦い慣れているね。
毒が入らないようにしっかりと口元をガードされているよ。
それなら、トラップなんてどうでしょうか。
地面から無数の茨を出現させ、ミノタウロスにまとわりつく。
しかし、鎧のせいで体に傷を作ることはあまりできなかった。
なら武器を狙おうと、斧に茨を絡ませる。
茨を振り払おうとミノタウロスが斧を振りかぶる瞬間を見計らって、毒花粉を発射。
ミノタウロスは毒を吸いこみました。やったね。
なんとか勝てたよ。
少し苦戦はしたけど、私の敵ではなかったということだね。
そう私が勝利の美酒に酔いしれていると、ミノタウロスがもぞもぞと動き出した。
驚くべきことに、ミノタウロスは泡を吐きながらも冷静さを失わずに何かを取り出し始める。
腰にくくりつけていたポーチから小瓶を取りだしたみたい。
そうして中身を飲み込むと、再び私に向かってきた。
え、どういうこと!?
毒が効いていないのですが。
毒花粉を飲み込んで、かつ茨の毒も少しは身体に回っているはず。
それなのに全く問題なさそうな顔をしているよ。
もしかして、今の小瓶は解毒薬だったりするの?
ちょっと、解毒薬を使うとか反則なんですけど!
野生のモンスターはアイテムとか持っていないわけ。
それなのにそっちだけアイテムを使えるとか卑怯だよ。全世界のモンスターと一緒に抗議したい。
うぅ、まさか毒の対処法を持っている敵と戦うことになるとは思わなかったよ。
やはりミノタウロス、強敵です。
茨の罠を出現させるも、全てミノタウロスの斧に寸断されてしまった。
ミノタウロスが舌なめずりをする。
もうすぐデザートが楽しめるといった愉快そうで気持ち悪い顔つきだ。
ぐぬぬ。
私はね、他人の食後のデザートになるために生まれてきたつもりはないの。
クマパパには舐められたり、ハチさんやてふてふには蜜を提供していたりもするけど、デザートはデザートなりにプライドがあるんだよ。
無理やりよりも、友好的に美味しく味わってほしいの。
女騎士とお蝶夫人を見習いなさい。
最後まで抵抗する意志をミノタウロスに向けるため、槍のように茨を突き刺す。
ミノタウロスは斧で軽々防御。
けれども同時に、ミノタウロスが転んだ。
上手くいったみたい。作戦通りです。
地面からこっそりと茨を出して、足に絡ませたのだ。
なにも地中から茨を出してそれを巻き付けるだけが罠ではないの。罠にもやり方というのもあるんだから。
転んだミノタウロスに毒花粉をお見舞い。
盾を地面に刺して、またもやガード。戦士だけあって粘るね。
でも、それじゃ甘いよ。
ミノタウロスの顔の横に、にょきりと地面から蔓を生やします。
そしてマンイーターの花をさかせて、そこから発射。
毒花粉をくらいなさい。
私の毒花粉は基本的に花冠から放出していた。
本体とはいえ花から出しているのだし、もしかして植物生成で作り出した花からも毒が出せるのではと思ったのだけど、正解だったみたい。
マンイーターの毒花粉がミノタウロスに直撃した。
とはいっても、本体から離れた蔓で、しかも咲いているマンイーターも本体と比べると小さい。
なので一つの花に対して一度きり。しかも少量でしか毒花粉を放つことはできないみたい。
それでも奇襲にはもってこいだよね。
ミノタウロスの口内に毒花粉が入っていくのが見えた。
必死にポシェットの解毒薬を取り出そうとするけど、そんなことはさせません。
ミノタウロスの両腕を茨で巻き付け、地面に固定します。
暴れるミノタウロスを抑えつけていると、気がついたら静かになっていた。
静かに過ごすのが私の夢。
戦士であるミノタウロスも、どうやら私の夢に共感してくれたみたい。
白目になって口から泡を吐きだしながら同意してくれた。
嬉しいね。
そんな私の賛同者を下の口にご招待。
ミノタウロスとの戦闘でね、私栄養不足なの。
だから一緒に静かに暮らそうね。
鎧や荷物は食べられないから蔓で外して、パクリ。
うん、なかなかの強敵だったよ。
技術面で押してくる相手はアルラウネになってから初めて。
解毒薬まで持っているとは思わなかったしね。
そういえばポーチの中身はなんだろう。
解毒薬以外にもなにかあるんじゃないかな。
この一年暇すぎたので、こうやって新しい物が手に入るなんて凄く興奮しちゃうの。
戦利品なんて初めてだから、ちょっとドキドキしちゃうね。
さーて、中身はと。
解毒薬に、これはトラオム草を元にして作られる眠り薬。
まさかこのミノタウロス、不眠症なの?
戦士としての訓練があまりにも厳しすぎて、眠れなくなっちゃったんだ。かわいそうに。
それが本当だったら同情するけど、どうやら違うそうです。
眠り薬の隣には痺れ薬が入っていたの。たしか麻痺効果があるファオル草から作れるんだよねこれ。
まさか自分で痺れ薬を飲んで興奮してしまうような変態さんはいないだろうから、これは誰かに飲ませるために持っていたんだね。
でも、凶悪で人を食らうようなミノタウロスが、標的を傷つけないよう捕獲する薬を持っているなんて、なんだかビックリ。
似合わないし、そんなこと聞いたこともない。
まあ、そんなこと私が知ったことじゃないよね。
この薬は何かに役に立つかもしれないし、頂戴しておきましょうか。
ミノタウロスの持ち物で他に珍しいものはなかった。一つを除いては。
荷物の中に、一枚の紙きれが入っていた。
それは何の変哲もない紙だけど、ミノタウロスが持っているにしてはあまりにも不可解なものだった。
その紙に描かれているのはどう見ても人間。
小さな人間の絵が描かれていたのだ。
お読みいただきありがとうございます。
次回、このままだと私、蜜が楽しめる愛玩用の観葉植物になってしまいそうです。







