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日誌 魔女っこ、はじめての旅行計画 その3

引き続き、魔女っこ視点です。

 わたしの名前はルーフェ。

 アルラウネと一緒に旅行をするため、毎日のように旅行の修行をしています。


 旅行の極意(ごくい)その2である地図を手に入れたわたしは、新たな修行を開始しました。


 そして今日は、チャラ男師匠と一緒に冒険者組合にやってきました。



「旅行先である王都の情報収集をすること。これが旅行の極意その3だ!」


「冒険者組合で情報収集をするってこと?」


「そのとおり! 聖蜜の売買が盛んになっているせいで、王都へ向かう商人がたくさんいる。そいつらの護衛をしてきた冒険者たちから、話を聞き出すんだ!」


「なるほど。チャラ男師匠、あたまいい!」



 いくら冒険者組合とはいっても、遠い王都の情報は手に入らないと思っていた。


 でも、王都に行ってきた人から話を聞くなら、わたしにだってできるかも。

 それに、冒険者には知り合いもいる。


 視線を上げて建物内にいる大人の顔を順番に見てみたけど、見覚えのある顔はどこにもなかった。


「伍長とドリンクバーがいない……」


 しゅんとしていると、見覚えのあるヒゲ面のおじさんが奥から出てきます。



「オオッ! カイルじゃねえか! もしかして依頼を受けに来てくれたのか?」


「残念だが組合長、今日のオレはこの子の付き添いなんだ」


「この子って……紅花姫アルラウネ様のところのルーフェちゃんじゃねえか!」


 組合長と呼ばれたヒゲ男が、わたしを見ながら大声をあげました。

 同時に、冒険者組合にいる大人たちが一斉にわたしへと視線を向けます。


 なんだかこわい。


 でも、それよりも──



「アルラウネ、さま……?」


「おおよ! 森を守ってくれているアルラウネ様のおかげで、魔王軍は攻めて来なくなった! それだけでなく、聖蜜のおかげで塔の街は空前絶後の好景気。そうだろ、野郎ども!」



 組合長の声に反応するように、周囲の冒険者たちが嬉しそうに声をあげます。



「聖蜜を運ぶ商人たちの護衛の仕事なんか、受けても受けきれないほどあるからな!」

「しかも、どれも良い収入になる。聖蜜様々だ!」

「俺の妹は、街で聖蜜をビンに詰める仕事をしてるんだ。街の仕事が増えて、みんな感謝している」

「いまじゃ、聖蜜目当ての商人だけでなく、観光客だって増えてるからな。街の飲食業組合のやつらなんかも恩恵を受けてるんじゃないか?」

「この髪を見てくれ! 聖髪料のおかげで、髪がこんなに生えてきたんだ!」



 どの大人も、目を輝かせながらわたしに感謝の言葉を投げかけてきます。

 心の底から、アルラウネのことを感謝しているのがわかってしまった。



「街がこんなに活気ついたのは、アルラウネ様のおかげだ。去年、グランツ帝国が攻めて来たときに、街を一人で守ってくれたことだってみんな知ってる」


 組合長も、なぜか自慢げに話しかけてくる。

 アルラウネから組合長の話なんて、一度も聞いたことがないのに。



「アルラウネがこんなにも、街の人から慕われていたなんて、知らなかった……」



 街に出かけるたびに、感謝されることは何度もあった。

 でも、わたしが会話をするのは、いつも決まって同じ人だけ。


 だから知らない人からこんなにも感謝されたことは、久しぶり。


「塔の街のお祭りのときだって、ここまでじゃなかったのに」


 精霊祭の際に、アルラウネと仲良くしている人間たちや、アルラウネを信仰しているシスターさんたちが、わたしたちを歓迎してくれた。

 他にも、領主様がアルラウネのことを精霊だと持ち上げて、主役にさせてくれたっていう話だけは知っている。


 だけど、街の普通の人たちは、ここまでの大歓迎といった雰囲気ではなかったはず。


 それが、この一年あまりで、ここまで変わっていたなんて……!



「うれしい……」


 褒めてもらっているのはアルラウネなんだけど、それが自分のことのように嬉しい。

 街の冒険者たちは、アルラウネのことをここまで受け入れてくれていたんだ。


 ──最初は、わたしたちを排除しようとしていたのに。


 アルラウネと一緒にドリュアデスの森に来たばかりの頃、冒険者たちが森にモンスター討伐しに来たことがあった。

 誰もがアルラウネのことを「人食いアルラウネ」だといって、退治しようとしていた。


 わたしたちは、街の人間たちには受け入れられない。

 森でひっそりと暮らすしかないと思っていた。


 でも、アルラウネはがんばった。

 魔王軍四天王のドライアドを倒して、街の人たちを救った。


 それから、次第にアルラウネと仲良くしてくれる人間が増えていった。

 聖女見習いのニーナさんや、領主様、冒険者の伍長にドリンクバーだけでなく、教会のシスターさんや大工の棟梁さんたちなど、モンスターだからといって差別しない人たちが少しずつ増えた。


 そういった知り合いの人間たちの意識が変わっていたのは知っている。

 だけど、まったく知らない人たちが、アルラウネに対してここまで感謝しているのは、初めて知った。



「ねえ教えて。アルラウネはもう、街の一員になれた?」


「当たり前だろう! モンスターだろうが、関係ない。アルラウネ様は名誉市民みたいなもんだ! なあみんな、そうだろう?」



 周りの大人たちが、次々とアルラウネを持ち上げる言葉を発します。

 誰もが、アルラウネのことを人間と変わらない存在のように話している。


 アルラウネはモンスターなのに、誰も嫌な顔をしていない。


 ──それなら、もしかしてわたしも。

 魔女であるわたしも、この街の人たちなら受け入れてくれる……?


 わたしの正体を知っている人間は、この街ではごく一部。

 その人たちは、アルラウネが信頼できると太鼓判を押している人だから、まだ安心できる。


 そんな彼らのように、ここにいる人たちも、わたしの正体を知っても怖い顔をしないかも。

 この街の人たちなら、わたしをわたしのままで受け入れてくれるかもしれない。


 ──でも。


 いくら親しくなったとしても、人間であればわたしを売るかもしれない。

 あの村の人たちのように。



 だから、まだ油断はしちゃダメ。


 わたしとアルラウネの生活がもっと安定するまで。

 そしてわたしがもっと大人になって、アルラウネを守ることができるようになるその日までは……。



「ほら、ルーフェちゃん。ジュース飲むだろう」


 組合長が、わたしとチャラ男師匠をテーブルに座らせます。

 そして蜜入りのジュースを渡してきました。


「これは冒険者組合からのサービスだ。ルーフェちゃんたちには、返しきれないほどの恩があるからな!」


「……ありがとう」


 ワイワイと賑やかに騒ぎ出す大人たちを見て、拍子抜けしてしまう。

 緊張しているわたしが、なんだかバカみたい。


 ──少しくらいなら、ここの人たちも信じてもいいのかも。


 そう思ったところで、組合長が正面の椅子にどっしりと座りました。



「それで、カイルとルーフェちゃんは、当組合に何用かな?」



 わたしが黙ってジュースを飲んでいると、チャラ男師匠がわたしの体を(ひじ)でつついてきました。


 どうやら修行はもう始まっているみたい。

 わたしが返事しなくちゃダメだんだ。



「ええと……王都の情報が、欲しくて……」


「ルーフェちゃんは、王都の情報をお求めか。依頼はそれだけか?」


「あと……王都までの道のりの街で、なにか役に立つ情報があれば……」


「それならちょうどいい。商人の護衛として王都に行った連中から話を聞いていたところだったんだ。それを提供しよう」


「おじさんたちも、王都の情報を集めていたの?」


「ルーフェちゃんも知っての通り、この街の領主であるマンフレート様が王都で結婚式を挙げるだろう? だから王都の情報をなるべく入手しておきたかったんだ」



 そういえば、伍長とドリンクバーも、領主様の護衛として王都へと旅立ったんだった。

 アルラウネのお友達の冒険者組合の受付嬢も、なぜか一緒に随行しているって話だった気がする。


 そういうこともあって、私の知り合いの人間は、ちょうど街を留守にしている人が多い。


 そのはずだったのに、珍しくわたしの知り合いの大人が現れました。


 組合長が「あとは任せたぞ」とその人の肩を叩き、席を立ちます。

 新たに現れたその人は、組合長と入れ替わるように椅子に座りました。



「お久しぶりですね、ルーフェさん」


「あ、あなたは……?」


「おや、お忘れですかな。わたしはネビロスですよ」



 この人、見たことがある。

 たしか村に里帰りしたときに合流した、悪魔──



「ルーフェさんには、こちらのほうがわかりやすいですかね。アルラウネさんのお友達のヤスミンのパパです」


「え、なんでここにいるの?」


「実は、冒険者組合に事務員として就職させていただきました。わたくし、書類仕事は得意なもので」



 思い出した。

 あのヤスミンっていう受付嬢も、悪魔だった。

 そしてこの人は、そのヤスミンのパパ。


 でも、なんで悪魔が冒険者組合の事務員をしているの?



「ルーフェさんは王都の情報をお求めでしたね。わたくしが取りまとめをしているので、どんなことでもお話できますよ」


「どんなことでも……」



 こまった。

 旅行のためとはいえ、いったい何を質問すればいいの?


 わからないから、とりあえず気になることから教えてもらうことにしよう。



「王都でも、アルラウネのことは伝わっているの?」


「もちろん、王都でもアルラウネさんの名声は広がっているようですよ! 王都では聖蜜が大流行し、口にしたことがない者はいないほどの広まりようだとか。聖髪料も王都の貴族を中心に大人気のようで、それに(ともな)いアルラウネ様の人気も向上していると聞いておりますね」


「王都にアルラウネがいっても、いじめられない?」


「それは難しい質問ですね……塔の街とは違い、王都はモンスターに対する意識は昔のままでしょうし、危険がないとは言い切れません」


 やっぱり王都は、怖いところなんだ。

 王都に着いた瞬間、アルラウネが襲われたらどうしよう。



「とはいえ、王都ではアルラウネさんを信仰している一派がいるようです。彼らなら、アルラウネさんの味方になってくれるはずです」


「王都でアルラウネを信仰?」


 どういうことだろう。

 ちょっとよくわからない。


「アルラウネが女神様みたいになってるの?」


「まさにそのようですね。教祖シスター・ヒルデガルトの教えは素晴らしく、日に日にアルラウネさんを讃える者が王都で増えているとか。そういえばその教祖は、この塔の街でシスターをしていたことがあるという話ですよ」


「この街のシスター……」


 それって、もしかしてあの聖蜜が大好きなシスターさん?


 王都でアルラウネの仲間を集めていたんだ。

 意外と、良い人だったのかも。



「アルラウネさんの外見は、かの聖女イリスにそっくりだという噂も少しずつ広まっているようですね。聖蜜に癒しの力があることと(あい)まって、アルラウネさんを聖女イリスに重ねて信奉している者もいるそうです」


「…………聖女、イリス?」



 その名前は、よく知っている。

 アルラウネに似ているっていう、人間の聖女の名前だ。


 これまでに、何度もその名前を聞いてきた。

 その名前が出ると、アルラウネが変な顔をするのも知っている。


 わたしはアルラウネの保護者であり、そしてお姉ちゃんです。

 妹と関係があるかもしれない、その聖女イリスのことが、ずっと気になっていた。



 ──もしかしたら、アルラウネもその聖女イリスのことを知りたがっているのかもしれない。



 アルラウネは、わたしになにか隠していることがある。

 でも、聖女イリスのことは、よく知らないはず。


 だってアルラウネは、わたしと出会ったあの森で生まれたはずなんだから。


 それに、これはちょうど良い機会かも。

 アルラウネのためにも、わたしだけでも知っておいたほうがいいはずだよね。



 だから、わたしはこれまでずっと気になっていたことを尋ねます。



「その聖女イリスって人のこと、わたしに教えて」

次回、魔女っこ、はじめての旅行計画 その4です。

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― 新着の感想 ―
苦労して人を殺めなかったことがここにきてやっと実を結んだ感じかー苦労をみてただけに感慨深いものがアルナー
アルラウネの娘とは知っててもイリスのことは知らないおさという、まあ、知っても関係は何も変わらないと思うぐらいには信頼してる! この街だったら魔女っ娘が魔女とわかっても大丈夫だと思う! いい街になったな…
祈りに来たら聖蜜を飲めるってキャッチコピー掲げたらあっという間に広まりそうですね…
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