275 森でチャラ男が捕まえてきた人が、私の知り合いだった件
なんか、チャラ男が謎の原住民を捕まえてきたんだけど!
金ピカとは聞いていたけど、それは原住民の髪の色のことだったみたい。
同じ金髪でもチャラ男の明るい金色とは大違いで、薄汚れてはいるけどなんとか金色にも見えなくはない程度でした。
チャラ男は捕獲してきたその原住民を、私の前に投げ捨てます。
原住民の男性は気絶しているみたいで、そのまま地面に横たわってしまいます。
「どうだ、大物を狩ってきたぞ!」
「大物というか、レア物かも?」
まさかランニングしに行って、原住民を捕まえてくるとは夢にも思っていなかったよ。
本当にいたんだ、原住民。
存在していたなんて、いままで知らなかったよ。
というかこの原住民…………完全に人間だよね?
「なあ。こいつ、食ってもいいのか?」
「食べちゃ、ダメに、決まってる、でしょ!」
チャラ男の見た目は人間だけど、その正体はドラゴン。
だからか、たまに言うことが怖い。
そこで私は、あることに気が付きます。
「ちょっと、待って……原住民が、絹の服を、着てる?」
この原住民の服、ボロボロになって汚れてはいるけど、かなり上物の服な気がする。
もしかしてこの人間、ただの原住民じゃないんじゃない?
そもそもの話だけど、ドリュアデスの森に人が住んでいるとは考えにくい。
こんなモンスターで溢れかえっている場所、人が住むところじゃないからね。
「それに、なんかこの人、どこかで見たこと、あるような……」
顔が泥で汚れてよく見えないけど、なんかどこかで見たことあるような顔の輪郭をしているんだよね。
塔の街の冒険者かな?
それなら森にいるのも納得できるけど。
私が金髪の原住民の顔を覗き込むと、急に男が目を覚まします。
「あ、原住民さんが、起きた」
「うわぁあッ!? な、なんだお前たち! 僕を捕まえて、なにをするつもりだ?」
声の感じと雰囲気から、この金髪の原住民は20代前半から半ばくらいだと予想します。
体の線が細いうえに、声もほんわかした感じの人でした。
なんだろう。
この人の声、どこかで聞いたことあるような気がするんだけど……気のせいかなあ。
私が頭をくねらせていると、金髪の男がぎょっとしながら私のことを指さしました。
「その顔……まさかイリスか!?」
「えっ!?」
この人、イリスのことを知ってるの!?
いきなり私の名前を言われて、ないはずの心臓がドクンと躍動した気分になったよ!
「イリス……まさか生きていたとは。死んだと聞いていたが、初代聖女の生まれ変わりと讃えられていた君なら生きていてもおかしくはないと思ってい……って、なんだその体ぁあああ!!」
金髪の男の視線が、私の下半身に注がれました。
なんだかこういう反応、久しぶりでちょっと恥ずかしいね。
「イリスだと思ったら、下半身がモンスターだった! なんだそのかっこう、卑怯だろう!」
なにが卑怯なんだろう。
怖いとかはよく言われたけど、この見た目を卑怯と言われたのは初めてかもしれないね。
「モンスターの格好をしたイリス……いや、イリスの格好をしたモンスターか。魔王軍め、なんて卑怯な存在を生み出したんだ!」
惜しい!
魔王軍は関係ないんだよね。
というかこの人、ビックリして興奮しているせいか、さっきから騒がしい。
でもこの落ち着かない感じ、なんだか懐かしいような気がする。
「まさか僕を……食うのか?」
「食べないから、安心して、ください」
「安心できるもんか! 魔物の言葉なんて信用できるわけないだろう!」
金髪の原住民が、私から離れようとします。
その際に、私の隣にいる魔女っこの存在に気が付きました。
「そこの少女! 危ないぞ、僕のところへ来なさい!」
「……アルラウネは危なくない。だから平気」
「平気なもんか! モンスターは危険なんだ、いまにも君を襲って食べるつもりなんだ。さあ、僕のところに来るんだ!」
「うるさい……わたしのアルラウネを悪く言わないで」
魔女っこが手を上げる。
すると、近くの木に雷が落ちました。
「これ以上、アルラウネの悪口を言ったら、今度はあなたにこれを当てる」
「……お、お前……まさか魔女か!?」
わなわなと震える原住民さん。
なぜか私のことを見た時以上に、魔女っこのことを怖がっています。
「そ、そんな……やっとの思いで魔女から逃げてここまで生き延びてきたっていうのに、こんなところで僕は死ぬのか……!」
魔女から逃げていた?
この人、まさか魔女に追われているの?
金髪の原住民は地面に項垂れながら、「ここまでか……!」と悔しがっている。
もしかして魔女に追われていたから、森で原住民になっていたのかな。
「ねえ、アルラウネ」
魔女っこが私の球根を突いてきました。
「どうしたの?」と尋ねると、眠そうな顔をしながらこんなことを告げてきます。
「この人間って、もしかして金髪の優男じゃないの?」
「…………金髪の、優男?」
なんかそれ、どこかで聞いたことのあるような言葉な気がする。
どこだったっけ……。
「アルラウネは覚えてない? 自称天才剣士の女の人が、金髪の優男を探しているって言ってた」
自称天才剣士の女の人といえば、大賢者の孫娘であるアンナだね。
蜜大好き少年ことアルミンの姉であるアンナとは、魔女っこの村へと一緒に行った仲です。
そういえば魔女っこの村に行ったとき、アンナが「ある人から頼まれて金髪の優男を探している」なんて話していたっけ。
あれからまったく金髪の優男の情報はないうえに、グランツ帝国の皇太子妃マライ・グランツヴァイスハイトと戦ったり、森のパーティーを開催したり、パンディア司祭の正体が天使だったり、しまいには闇の女神ヘカテが魔女っこに憑依したりと、ここ最近はいろいろと盛沢山でした。
だからアンナが探していた金髪の優男のことなんて、すっかり忘れていたよ!
もう半年以上前のことだったし、仕方ないよね。
「アンナが、探していたのは、この人の、ことだったんだ」
「アンナ? 誰だそれは?」
でも、金髪の原住民はアンナのことを知らないみたい。
アンナは誰からか金髪の優男を探すよう依頼されていたみたいだし、この原住民と面識がなかったとしてもおかしくはないね。
──それにしても、まさか金髪の優男がドリュアデスの森で原住民をしていたなんて。
しかも、イリスのことを知っている。
泥だらけで誰なのかまったくわからないけど、何者なんだろう。
「チャラ男、この人を、洗ってきて」
シャンプーの木から聖髪料を創り出して、それをチャラ男に渡します。
せっかくだし、原住民を洗浄してきてもらおう!
「なんでオレがこいつを洗わなくちゃならないんだ?」
「チャラ男が捕まえて、きたんだから、最後まで責任、とってよね」
「わかったわかった。やればいいんだろう、やれば!」
嫌そうにしながら、チャラ男は「おい、あっちの泉まで行くぞ」と、金髪の原住民を連れて行きました。
チャラ男はなんだかんだいって、面倒見が良いんだよね。
面倒見が良すぎて、魔女っこの旅行の師範になっているのは、意味わかんないけど。
そうして男どもが泉で体を洗っているのを待っている間に、夕方になってしまいました。
私と魔女っこだけなら、すぐにアルラウネの森へ帰れる。
だけど、チャラ男と原住民を残していくのも悪い気がするし、今夜はここで野宿かな。
それから魔女っこと野営の準備を終わらせた頃に、やっとチャラ男たちが戻ってきました。
二人が帰って来るまで思ったより時間がかかったけど、何かあったのかな。
そんなチャラ男は、なぜか面白そうに原住民の頭をひっぱたきます。
「おい、見ろよ! 原住民かと思ったけど、ちゃんとした人間だったぞ!」
「痛いな……人の頭を叩くとはどういう了見だ?」
「別にいいじゃねぇか。裸の付き合いをした仲なんだし!」
「僕の服を剥いで、泉に放り投げたのはお前だろう! 君みたいな野蛮人は生まれてこの方、初めて見たぞ」
あれ?
なんかこの二人、ちょっと仲良くなってる気がする。
「というか、その顔……」
泥だらけだった原住民の顔は、綺麗に洗われていました。
そのおかげで、隠れていた顔がはっきりと見える。
そしてその顔は驚くことに、聖女イリス時代によく見知った顔だったのでした。
「な、なんであなたが、ここに……?」
信じられないと、私は口を開けたまま呆然としてしまいます。
金髪の原住民の正体。
それは私の婚約者であった、勇者の兄。
つまり、ガルデーニア王国の第一王子だったのです!
ちょっと確認してみたのですが、金髪の優男の話題が出たのは約一年前でした。
金髪の優男のことを覚えていた人は、ほとんどいなかったことでしょう……!
次回、ある日、森で王子と出会いましたです。