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28 冬の到来

 私、植物モンスター娘のアルラウネ。

 最近、どうにも元気がありません。


 原因はきっとこれです。



 そう、冬になりました。


 冬の到来です。



 そのせいで日照時間が短くなって、光合成をする時間も少なくなったの。

 太陽の光が弱まっているから、光合成をしてもそれほどの栄養が得られない。


 だから栄養不足が続いているわけ。

 動物もみんな冬眠して誰もやって来ないしね。


 そのうえ地面は乾燥している始末。お水欲しい。


 冬限定で良いから、誰か水やりしに来てくれたりしないかな。

 給料として蜜をプレゼントするよ。



 あぁ、辛い。

 なんだか空気が乾燥しているせいか、葉っぱと花の調子も良くないの。


 きっと空気が乾いているせいで葉っぱの水分が奪われて痛んできてしまっているのだ。


 この際、普通の水でなく化粧水でも良いので葉っぱに欲しい。

 全ては水分が足りないことが原因なのだ。


 やっぱりお水欲しい。



 それに、最近は特に寂しい。

 身も心も冷え切っている。


 ハチさんがね、来なくなっちゃったの。


 私の女騎士ことハチさんとも、冬の間はお別れである。

 数か月の間だけど、寂しくなるよ。


 ミツバチは冬になると巣の中に閉じこもっちゃうの。


 冬眠をしているわけじゃないんだけど、お姉さまこと女王陛下を中心に女騎士が肌を寄せ合って固まっているはず。


 蜂球(ほうきゅう)っていうんだけど、密集することで温かさを保っているわけ。


 お姉さまは両手に花どころじゃないね。


 女騎士に抱き着かれまくっている物理的な百合の園を形成しているわけ。なにそれ、羨ましいのですけど!



 お姉さま、是非とも私もお姉さまの巣へご招待してくださいませ。

 そうして私も一緒に温まりたい……。


 あ、ダメだ。

 その百合の園へ物理的に接触すると、私受粉しちゃう。


 百合の園を取るべきか、純潔を捧げて受粉を取るべきか。難しい選択だね。


 まあ受粉だけはしたくないから、誘われても行かないけどさ。



 寂しい森で一人きり。


 そんな私のところに来てくれるのは、あの白い鳥だけだった。


 やつは冬も関係なく、なぜか私のところへやって来るのだ。そんなに私のことをおちょくるのが好きなのかね。


 白い鳥。

 本当は食べたいけど、栄養にしちゃうと私は一人に戻ってしまう。


 寂しいのは嫌だから、白い鳥は食べないであげるよ。


 鳥のさえずりでも聴いて、暇つぶしでもしましょう。

 お客さんが来ないから、冬は他の季節以上に娯楽が少ないの。


 光合成しながら日向ぼっこする時間も減ったしね。



 ──あれ?


 鳥さんよ、あなたは鳴かないのかい?


 そういえばこの鳥が鳴いているところを聞いたことがない。


 普通、鳥なら放っておいてもピーチクパーチク賑やかになるものなのに、あの白い鳥はいつも黙って私を見つめているだけだ。



 ここはリクエストでもしましょうか。


 鳥の中には歌うようにさえずるものもいる。


 きっとプロ意識が高いのだろう。

 こちらからお願いすれば、プロならきっと応えてくれるはずだ。


「ねえ、鳥さん」


 久しぶりの発声。

 やはり喋るのはまだ苦手だ。


 そんなに大声は出せないけど、白い鳥まで届いているはず。頑張って鳥さんに語りかけよう。なにせ私、めちゃくちゃ暇だから!


「鳥さんは、鳴かない、の?」


 

 白い鳥に反応はない。

 沈黙しか流れないよね、そりゃ。


 まあ、鳥にこんなこと言っても通じないのはわかっていたよ。


 それでもね、私暇なの。

 だから独り言くらい許してよね。


 そう諦めたころに、白い鳥の行動に動きがあったのだ。


「チュゥン」


 な、鳴いた!?


 鳥さんが、鳴いた!


 驚いたね。やっぱり鳴けたんだ。

 鳥だもんね。鳴くのが仕事の一つみたいなものだよね。


 でもね、鳴くのがヘタだよ、この白い鳥。

 キレがなかったもん。


 さては白い鳥、プロじゃないな。

 どうやらアマチュアシンガーだったみたい。


 きっと私と同じで喋るのが苦手なんだね。

 ちょっと親近感わいちゃった。



 苦手意識があるからだろうか。

 白い鳥は一度鳴いただけで、そのあとは黙ったままだった。


 鳥さんよ、何事も練習が大事だぞ。


「もう一回」


 アンコールを指示します。


「…………チィュン」


 うーん、まあさっきより良くなっているね。


 じゃあワンモアプリーズといきましょうか。

 気分は音楽教室の先生である。


「聞こえ、なかった」

「……………………チュン」


 良いでしょう。

 少しずつ上手になっているしね。


 でもなんだろう。

 もしかして私の言葉、通じているのかな?


 ついそう思ってしまうのは、私が一人に慣れすぎたからかもしれないね。野生の鳥が言葉を理解しているはずなんてないのに。


 鳥かごで飼っている鳥に声をかけると、なにか鳴き返されるのと同じことだ。でも、それだけでも楽しい。もはや私にとっては娯楽だよ。



 あ、鳥さん、待って。逃げないで。

 まだレッスンの途中でしてよ。


 白い鳥が空の彼方へと飛んでいく。

 あぁ、また寂しくなるな。


 食べないから、また遊びに来てよね、鳥さん。




 でもね、白いのは鳥だけにして欲しかったな。


 そう、私を物理的に苦しめるそれが、翌日から現れ始めてしまった。


 (しも)()りだしたのだ。



 朝、目覚めて(つぼみ)を開くと、体中に(しも)がついていたの。


 霜とは、空気中の水蒸気が氷になって、零度以下に冷やされた物体にくっついて昇華したもののこと。


 

 つまり、私の体は冷蔵庫の中身のように凍りついていたということだ。


 寒い、寒いよお。


 蔓で霜をはじいても、体温は全く上がる気配がしない。


 植物だからね、動物のような心臓もなければ血流だってないの。

 葉も茎も根っこも、冷えたまま。

 

 

 しかも周囲の地面も真っ白だ。一面霜柱(しもばしら)状態である。

 外気が冷やされ、地面は凍って寒さに拍車がかかる。



 お水も欲しい。

 早く霜が解けてお水になってくれ。


 まずいよ。

 寒くてどんどん元気がなくなる。


 凍りついて死んでしまうというよりは、ゆっくりと衰弱していっているような気がする。


 それに寒いのはお腹もだ。

 もう何日も獲物を食べていない。


 光合成でわずかに栄養を生み出しているだけ。


 栄養が少なくて元気がなくなっているところに、この寒気。

 私はいったいどうなってしまうのだろうか。



 そういえば、冬になると落葉樹(らくようじゅ)は葉を落とすけど、私はどうなるのかな。


 木が葉を落とすのは冬をやり過ごすため。

 動物でいう冬眠と同じなの。


 葉っぱは光合成をして栄養を生み出す大事な役割があるけど、その葉を維持するためにもかなりのエネルギーを必要とする。


 葉は低温にも凍結にも乾燥にも弱い。

 維持をするだけでかなりのコストを消費する。


 だから太陽光が少ない冬は、逆に葉っぱをなくしてしまうわけ。


 そうなればわざわざ葉っぱを維持するために頑張って栄養を得なくても良くなるからね。




 あれ、それ、マズイのでは?


 私、最近元気がないし。


 光合成しても栄養が足りない。

 それも日光が足りないから。

 ついでに土が乾燥していて水分不足。お水欲しい。


 このままだと、葉っぱや花冠の維持を破棄して、落葉してしまうんじゃないの?


 そうだとしたら私というアルラウネは球根だけ残ることになる。

 

 また来年に花が咲く可能性はあるけど、その時にこうして意識が残っている保証はない。ただの植物モンスターに戻ってしまう可能性もある。



 そうなれば、私という自我がなくなるのと同義。

 死ぬということだ。


 どうしよう。



 私、落葉しちゃうかも……。



本日も二回更新となります。


次回、私、枯れそうです。

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― 新着の感想 ―
「チュゥン」 漫画からきましたが、ここ笑っちゃいますねw 落葉ピンチですけど。
[良い点] ピンチピンチ言ってますが、低燃費モードに移行しないで普通に活動しててまだ余裕ありそうですね、過酷モードUPを要求しますw
[一言] \(´°v°)/んぴッ 落葉のピーンチ! \(・ω・\)(/・ω・)/ピンチ!
2020/07/14 16:57 退会済み
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