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自伝 大賢者の大陸見聞録

大賢者視点です。


 ワシの名はオトフリート。


 しがないただのジジイじゃ。



 そうじゃな、周囲の者からは大賢者だなんても呼ばれておる。


 ただの年寄りなのじゃがのう。

 

 まあ、魔法の腕に関しては誰にも負けるつもりはないがな。



 大陸中の魔法使いから尊敬され、国王からも接待を受けるこのワシじゃが、このところ悩みがある。


 最近、孫の様子がおかしい。



 孫の名はアルミン。


 今年で10才になる、ワシの孫じゃ。


 娘と娘婿は魔王軍によって殺されてしまった。


 可哀そうなことに、アルミンは8才で両親と離れ離れにならなければならなかった。あまりにも辛いことじゃ。


 だからワシは孫を連れて旅にでることにした。


 道中でアルミンに修行をつけることもできる。

 

 将来、魔王軍と戦っても生き残れるように強い男に育てなければならぬ。

 そのために、辛く厳しい修行を続けた。



 けれども、アルミンは修行には耐えられなかった。


 このままでは孫は強くならない。

 それどころか、逃げ癖がついておる。

 

 一人前どころか、卑怯な大人に成長してしまうかもしれない。

 正直、ワシはこれ以上どうすれば良いかわからなかった。


 天に昇って行った娘に顔向けできないのう。


 娘の子育てのときはこれでなんとかなったのに、孫ではついていけないようじゃ。



 いったいどうすれば。

 ばあさん、助けておくれ。


 ワシには孫を育てることは無理かもしれぬ。



 そんなアルミンが、いきなり変わったのじゃ。


 あれはとある国境の村に行ったときのことだったのう。


 村のとある夫婦が魔物に殺されたから、その魔物を退治してほしいと頼まれた。


 夫婦には残された子供がおった。


 髪を隠していたが、ワシと同じように真っ白の髪をしている。

 不思議な気配を発する少女じゃった。

 

 その娘はもうすぐ10才になるらしい。


 ワシの孫もちょうど10才。

 両親が殺されたことも同じ。親近感を覚えるのは仕方のないことじゃろう。


 これも何かの縁、助けてやらねばと依頼を承諾したのじゃ。


 少女の両親の仇であるサル型モンスターのバルバアッフェをワシが退治しに行っているときに、異変は起きた。



 孫が森で行方不明になったのじゃ。


 姿が消えてから3日も経ったが、未だに帰ってこない。風魔法で捜索し始めるとなぜか孫はすぐに帰ってきた。心配したわい。



 だが、それからじゃ。


 孫が変になったのは。



 まずは顔つきが変わった。

 なにかを心酔するような、覇気溢れる表情になった。


 そしてこれまで大嫌いだった修行を積極的にこなすようになった。

 驚異的な集中力と凄まじい向上心を感じる。


 森で何があったのかは口を閉ざしたままだったが、きっと孫にとって何か良い出来事があったのじゃろう。


 これで娘に面目が立つというものじゃ。

 


 だが、変わったのはそれだけではなかったのじゃ。



 味覚の趣味が変わったのか、甘いものを望むことが多くなった。


 新しい街に着くと、まずハチミツ屋に行こうとするのじゃ。

 そこでありったけのハチミツを購入しようとする。


 興奮する孫を抑えて、手に持てるハチミツだけ買ってやると、店を出たとたんにそれを鷲掴みにして舐めだすのじゃ。


 そんなにハチミツが好きな子ではなかったはずじゃがのう。


 しかも、ハチミツを舐めると決まって「これじゃダメだ」と呟いて、落ち込んだ顔をする。


 気に入ったハチミツが手に入らないのじゃろうか。


 せっかく頑張り出した孫が悲しむ姿は見たくない。


 なので、ワシは国王に会いにいくことにした。


 国で一番偉い国王ならば、最高品質のハチミツを知っているはずじゃ。

 

 ちょうど国王から呼ばれていたことじゃし、ちょうど良い。



 ガルデーニア王国の王都は四年ぶりじゃ。


 あの時は、魔王を討伐するための勇者一行が王都を出発したころじゃったのう。



 王子である勇者、その婚約者である当代一の聖女、王国騎士長の息子、宮廷魔導士の若手の星、他に数名と一緒に街を離れていった。


 結局、魔王は倒されなかったみたいじゃ。



 勇者一行のメンバーも、何人かは帰らぬ人となったと聞く。

 勇者の婚約者だった当代一の聖女も、戻れなかったらしい。


 あれほどの光魔法を使う娘はここ何十年も見たことがなかったのにのう。おしい娘を亡くしたものじゃ。

 

 生き残った勇者は、新しく就任した聖女と結婚をしたという。

 二人は仲間同士だったらしい。

 

 それは別に良いのじゃが、仲間が殺され、国中の民が魔王軍に命を脅かされているというのに、再び魔王を倒しに行こうとしないのはどういうことなのじゃろう。


 勇者の父である国王も、何度説得しても王都を出ようとしなくて困っていると、晩餐会でも話していたくらいじゃ。


 どうやら、新妻の言うことしか聞かなくなってしまったらしい。尻に敷かれるにしても程があるのう。


 ワシもばあさんには逆らえなかったが、ばあさんならむしろ早く魔王軍を倒してこいと尻を蹴飛ばしてくるじゃろう。


 おかげで気がついたら大賢者と呼ばれるようになってしまったのじゃから。


 勇者の妻である聖女が魔王討伐を拒否し続け、もう3年が経つという始末。


 何か理由でもあるのじゃろうか。そうでなければおかしい。何かあるのではと思ってしまう。


 勇者は国を背負うものとして自覚が足りないのう。

 いったい何を考えているのやら。



 国王から国で最高級のハチミツ屋を紹介してもらえた以外にも、収穫があった。


 やはり中央に来ると情報がよく集まるのう。



 天地歴1020年。


 この一年は本当に様々なことがあった。


 この年の冬は、尋常ではない寒波が国中を襲ったのじゃ。


 そのせいで、数十年に一度どころか、百年に一度の大雪が国の大地に降り積もった。


 おかげで国の機能は麻痺してしまった。


 平地はまだ大丈夫だったが、山岳地方などは想像もできないくらいの雪が降ったという。

 

 それだけでも大変だったのに、その大雪の中、とある街が魔王軍によって侵略された。


 落城したその街は城塞の街。

 ガルデーニア王国にとっての対魔王軍の最前線の街。


 同時に、最大の戦力が駐留していた街でもある。


 大雪で隔離されてしまったその城を、魔王軍は空からドラゴンの群れを使って攻めてきたという。


 きっとワシが探しにいったあの山岳地帯のドラゴンどもじゃろう。


 あの時は姿を潜ましていたが、もしかしたらこの準備のために移動していた可能性があるのう。先にワシが出会えていればドラゴンどもを山の土に返すことができたのじゃが。


 今の魔王は天候をも操ると聞き及んでいる。


 きっと、この大寒波も魔王の仕業(しわざ)じゃろう。


 早く勇者が魔王を討伐しに行っていれば、こんなことにはならなかったのにのう。



 だが、知らせはそれだけではない。



 帝国で指名手配され、我が国に落ち延びてきた魔女が辺境で見つかったらしい。


 国の方針により、魔女は滅ぼさねばならない。


 ただちに近隣の街から魔女狩りの部隊が編制され、魔女を討つために出発したとのこと。


 城塞の街が落ちたのとほぼ同時期に発見された魔女。

 なにかあるかもしれないのう。


 それだけではない。


 とある国境の森では、モンスターたちが姿を消したという。


 屈強なモンスターが住むことで有名な森。

 実はその森は、孫のアルミンが行方不明になった森なのじゃが、なにか孫と関係がなければ良いがのう。



 そういえば孫のアルミンはどこじゃろうか。


 きっと今頃、王室御用達の商人から貰ったハチミツを舐めているころじゃろう。


 これで満足してくれればいいのじゃが。




 さて、大雪のせいで閉ざされていた街道がやっと復旧した。


 重い腰を上げない勇者の代わりに、少しはワシが国のために働くとしよう。


 ばあさんから早く魔王軍をなんとかしなさいと手紙が届いてしまったからのう。尻が痛くなる前に、とっとと出発しなければ。




今回はリクエストにお応えして閑話を挟んでみました。蜜狂い少年のおじいちゃん視点です。おじいちゃんの一人称は書いたこともなければ読んだこともなかったので、難しかったですがちょっと新鮮でした。


明日も二回更新を予定しております。


次回、冬の到来です。

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― 新着の感想 ―
>寒波 フラグ回収早いw そして新たなフラグたくさん 別視点面白いです。
[一言] おじーちゃん、あんま孫と会話しないタイプなのね…… ひょっとしておばーちゃんが対応していたら気づかれていたかもしれない?
[良い点] おじいちゃん、お孫さんはすでに性女に洗脳されてて性女の蜜じゃないと満足しないの。 [一言] 引きこもりの勇者さん、そのうち城塞を取り返して来いと王都から追い出されないか心配。
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