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3 わたし元聖女の植物モンスター娘、こっちはハチミツ大好きの変態クマさん

 ラオブベーア。それがあのクマ型モンスターの名前だ。


 角が生えているのが特徴的で、人から恐れられる獰猛な魔物である。

 鋭い爪は大木をも伐り倒し、甲冑を着た兵士の鎧を噛み砕くほど顎の力も強いとの噂だ。

 たしか成長すればその辺に生えている木よりも巨大になるモンスターだ。だいたい大型トラックくらいの大きさになるはずだけど、あのクマはよくて体長2メートルくらいだろう。まだ子供みたいだね。


 こちらをじっと見つめながら鼻をピクピクと動かして、犬のようによだれを滴り落としている。

 思うにきっと、私の体から出ている甘い蜜に誘われてやって来たというところなんじゃないかな。


 私の蜜はついつい立ち寄ってしまうくらい美味しそうなのかもしれない。もしかしてこれを売ればハチミツ屋さんとして街とかで生きていけるのではないだろうか。モンスターとして討伐されなければだけどね。


 というかマズイねこれ、あいつの獲物は私ってことだよ。

 クマにペロペロされるのはご免こうむりたい。


 ハチミツ大好きクマさんとはいえ、襲われて無事に済むかもわからないしね。

 問題は逃げたくても足がないから逃げられないってことだ。植物ってこういう時に不便だよね。


 ラオブベーアが近づいてくる。

 下半身の球根の口を大きくあけて威嚇してみる。うん、クマさん止まらないね。


 この距離だからわかるけどこのクマさん、目がイっちゃってる。

 なにを排除してでも蜜を手に入れてやろうという気概が伝わってくる。そんなにこの蜜は旨そうなのか?


 このままでは私の体はあの蜜狂いのクマさんの餌食に……。 

 よし、腹はくくった。ラオブベーアと戦おう。


 アルラウネは身体から湧き出る蜜で人間や動物を虜にして誘き寄せ、それらを捕食して養分にすると聞いたことがある。つまりは敵に対抗する手段があるはずなのだ。


 いまある武器は球根から伸びている(つる)のみ。

 これでラオブベーアの動きを止めるしかない。

 

 いけ、蔓のムチー!

 某ゲームのように攻撃してみるが、全く当たらない。


 思ったよりこのクマが素早い。まあ命中しないのは私がまだ蔓を使いこなしていないことが一番の原因なんだろうけど。

 

 だんだんと距離を詰められていく。

 避けられるなら、動きを止めてから捕まえれば良い。


 前世の私の家は田舎だった。小さい頃は裏山に冒険に出たり、お父さんと川で魚釣りをしたりしていたのだ。

 つまりこうだ。魚を釣る様に蔓を釣り竿のように使って、クマを釣れば良いのだ。

 餌はもちろん自前の蜜です。


 蔓を自分の顔の前に持ってきてかぶりつく。

 これでよだれ、もとい蜜が蔓にべったりとついたよ。

 それを甘い蜜付きの蔓をハチミツ大好きクマさんの前に持っていけば、ほら!

 蔓をペロペロと舐める従順なクマさんに。


 もう薬でもキメているんじゃないかと心配になるくらい蜜に病みつきになってるよ。うわー、ちょっと引く。


 だってあの蜜、私のよだれだもん。

 そんな変態な性癖は私には持ち合わせがない。

 それに蔓は触覚にもなっているのだ。舐められている感触が気持ち悪い。


 蜜狂いの変態クマさんは捕まえちゃおうねーっと、蔓で捕獲。

 だがクマさんはさらなる蜜をご所望していた。暴れ出したのだ。


 駄々をこねる赤子のように蔓をかきむしる。ラオブベーアの鋭い爪が私の蔓の表皮を切り裂き、中の葉緑体が宙を舞っていた。

 痛い痛い! 


 血が出てるわけじゃないけど、痛覚としての信号が伝わってくる。

 蔓だからなのか激痛というわけじゃないけど、アルラウネになって初めての痛みである。凄くビックリした。


 そのせいだろうか、腰の花冠の辺りから紫色の粉が噴射されたのだ。

 花粉のように舞うそれは、暴君と化した変態クマさんへと降り注ぐ。

 驚くことに、赤ちゃんが疲れて眠りについたように、突然クマさんが動きを止めたのだ。


 口から泡を吹いて、白目になった変態クマさん。反省でもしているのかな。良い子だね……て、なにこれ。


 もしかしなくても、さっき私から出て行ったのって毒ですよね?

 毒の花粉。恐ろしや。


 どうやら私は変態クマさんを毒殺してしまったようだ。

 私、意外と強いのかもしれない。ちょっと自信ついたね。


 身の危機は去った。

 あとはラオブベーアの死体をどうするかだけど、体を動かしたからか、私は妙にお腹がすいていた。

 栄養不足。

 エネルギーが足りないのだ。


 野生としての本能が告げている。

 あのクマを捕食しろと。

 

 どうやれば良いのかは考えなくてもわかる。

 食虫植物だって虫を捕まえて養分にしているのだ。

 植物型のモンスターであるアルラウネが、他のモンスターを養分にしない道理などないのだろう。

 ただ、元人間としての自我が、クマを捕食することを拒絶している。


 ────────────。

 ────────。

 ────。



 ダメでした。 

 想像以上にこの植物の体は栄養不足だったみたい。


 我慢できなかったよ。

 ごめんね、変態クマさん。


 心の中で謝りながら、蔓を使ってクマさんを下の口へと運ぶ。

 球根が大きく口を開き、パクリと飲み込む。


 体内にクマさんを確保したのを感じる。あとは消化液で溶けるのを待つのみ。

 クマさんは毒まみれになっているけど、そもそも私の体から噴き出たものだから私には効かないだろうからそこは気にしなくても良いでしょう。


 クマをそのまま生で食べるだなんて人間のときには考えもしなかったけど、体が植物のモンスターになっているせいか、前ほどの嫌悪感はない。


 人間の口で咀嚼するわけではなく、食虫植物のようになっている球根の口で丸飲みして消化するというのも大きいだろう。食べている実感が人間の時みたいにはないんだよね。


 徐々に体内に捕獲した肉が溶けて流れていくのを感じる。

 大丈夫だよクマさん、私も一度そうやって消化液まみれになったことあるから気持ちはわかるよ。溶かされるけど、私が栄養にしてあげるから安心してね。


 だけどまだ足りない。子クマ一匹くらいじゃこの空腹は満たされないよ。

 予想だけど、人間と花のモンスターが融合してアルラウネになった際に、かなりのエネルギーを使ったんじゃないかな。

 ラオブベーアを食べたあとでも、まだ栄養不足気味みたい。


 それにしても、クマ型のモンスターを丸飲みするとか、もう私は人間じゃないのだと再認識させられる。


 聖女の私がこんなサバイバルをしていると知ったら、国の皆はどう思うのだろうか。

 色々と言われるだろうね。でも、もうそんなことは関係ない。

 まだ現実の全てを受け入れることはできないけど、これだけは理解できる。


 私は植物でありモンスター。


 アルラウネという魔物になってしまったんだもん。


 これからは植物らしく慎ましく生きて行こう。

 観葉植物のように静かに、穏やかに、優雅に。


次回、誰か私を育てて植物園に売ってくださいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公のよだれぺろぺろ
[一言] 毒花粉、花粉なんだよね……。 受精能力なくてよかった。 風で飛んできた毒花粉と自家受粉して終わりなんて可能性もあったから。
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