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233 なんでこんなところに私のお墓があるの

 私、魔女っことアルミンという子供たちを見守るお姉さん。

 いまはバケツに入った小さなアルラウネになっているけど、誰が何と言おうと正真正銘のお姉さんなのです!


 そんな私の蜜をがぶ飲みする子供を眺めていると、あることに気がつきました。


 ──この光景、もしかして第三者が見たらマズいのでは?


 もしもこの瞬間、アルミンの保護者であるおじいちゃんが戻ってきたらどうなることでしょう。


 アルミンのおじいちゃんは、風魔法の遠隔操作が使えるほどの実力者だったはず。

 そんな人が、自分の可愛い孫がアルラウネの蜜に狂っている姿を見たら、何をするか。

 きっと私のことを悪しきモンスターだといって、攻撃してくるよね。

 そうなったら最後、もう二度とアルミンに蜜をあげられないかもしれない。


 そうなる前に、対策をしないと!



「そういえば、アルミンの、おじいちゃんは、いつ頃、帰って来るの?」


「じいちゃんなら、春まで帰らないよ。ミュルテ聖光国に出張してるから」


 アルミンのおじいちゃん、留守でしたー!

 それならもう、やりたい放題だね。


「留守、ねえ……」


 でも、ちょっと気になることがあるの。

 アルミンのおじいちゃんが留守なら、あそこに食器が二つ出たままになっているのはどうしてなんだろう?


 まるで二人分の食事が終わった後、食器を洗って乾かしているように見える。

 もしかしてアルミンは、おじいちゃんではない誰かとここに暮らしているのではないのかな。


「アルミンは、ここに一人で、住んでるの?」


「違うよ。ここでは姉さんと暮らしてるんだ」


 なるほど、アルミンのお姉さんと暮らしているんだ。

 そういえば前に、姉がいると話していた気がする。


 おじいちゃんではないだけましだけど、姉もアルミンの身内には変わりない。

 姉的には、弟が見知らぬ植物モンスターに蜜で餌付けされているのってどう思うんだろう。

 私だったらそんなモンスター、すぐにやっつけちゃうかも…………。


「どうしたのアルラウネ?」


 私が口から蜜をこぼしながら震えていると、魔女っこが心配そうに声をかけてくれました。


 魔女っこの瞳からは、村に着いた時のような(おび)える感情は読み取れない。

 村のトラウマのことなんて、もう忘れてしまっているような表情です。

 アルミンと口喧嘩したのが、良い気分転換になったみたいだね。


「大丈夫、アルラウネにはわたしがついてるから」


 魔女っこが私のバケツを抱きかかえる。

 そうして、私の頭をよしよしと撫でてきました。


 どうやら魔女っこは、アルミンに本当の姉がいると、私がショックを受けたと勘違いしたみたい。

 私にとって、アルミンは弟ではなく、近所の少年という感じ。

 だから、別にショックを受けたわけではないんだよ。


 だって、私にとっての妹は、魔女っこだけなんだから……。


 ちなみに、キーリやアマゾネストレントも家族扱いです。

 みんな大切な、私の家族だ。


「お姉さんたち、仲良いんだな」


 私と魔女っこが姉妹の(きずな)を確かめ合っていると、アルミンがムっとした表情で呟きました。

 もしかして少年、お姉さんが(かま)ってくれなくて、嫉妬(しっと)してるのかな?


 大きくなったと思ったけど、まだまだ子供だね。可愛いところあるじゃん。

 昔みたいに、お姉さんが蔓でよしよししてあげましょうね~。


「そうだ、見てくれよ! オレ、あの頃よりも魔法を上手く使えるようになったんだ!」


 三年前にアルミンと一緒に過ごしていた間、いろいろなことをしました。

 その中で、アルミンの魔法を少し見てあげたことがあるの。

 初心者ながら、才能の片鱗(へんりん)をみることができた。


 いくつかアドバイスもしてあげたから、弟子といってもいいのかもしれないね。

 だからこそ、見た目だけでなく魔法も成長しているのであれば、是非とも見てみたい。



 私たちは小屋の外へと出ます。

 

 弟子の成長を見守る師匠の気分で、蔓で腕組みをしました。

 そうして建物の前で、アルミンが魔法を披露(ひろう)し始めます。


風三鳥シュトゥルムフォーゲル!」


 アルミンが風魔法で三匹の小鳥を作り出す。

 以前のアルミンは、風魔法を使うだけで精一杯だった。

 だからここまで繊細(せんさい)な魔法を発動することは不可能なはずだったのに。


「そして風三鳥籠シュトゥルムケーフィッヒからの風刃爆破(シュトゥルムルング)!」


 空を舞う三羽の魔法の鳥が、それぞれ風の牢獄に閉じ込められ、そして荒れ狂う風の刃によって爆散しました。

 同時に三つの魔法を操った鮮やかな手腕に、目を奪われてしまいます。


 ──驚いた。

 もうここまで魔法が使えるようになっていたんだ。


 王都の魔法学校であれば、これだけ使えればそれなりの成績で卒業することもできるかもしれない。

 それほどまでに、アルミンの魔法からは才能を感じられた。


「アルミンは、上手に、魔法が使える、ようになった、んだね」


「へへっ。褒めて貰えるなんて頑張ったかいがあったよ。オレがここまで成長したのは全部、お姉さんの蜜玉のおかげなんだ!」


 これ、私の蜜のおかげなの?

 

 そんなつもりはなかったんだけど、そう言われるとなんだか嬉しいね。

 私、知らぬ間に人を成長させていたのかも!


「ねえねえ、もっと見てよ! オレの魔法!」


 アルミンがさらに魔法を披露(ひろう)し始めると、なぜか魔女っこが距離を取るように敷地の端のほうへと歩き出しました。

 魔女っこに運ばれている私は、強制的に一緒に移動してしまいます。


 どうしたのさ、魔女っこ。

 これじゃアルミンの魔法がよく見えないよ?

 

「ルーフェ、いきなり、どうしたの?」


「別に……」


 もしかして、私がアルミンばっかり(かま)っていたから、()ねちゃったのかな。


 魔女っこと私は、これまでずっと一緒だったからね。

 私がアルミンに取られちゃうとでも思ったのかな。

 まったく、手のかかる妹なんだから。


 そんな愛すべき魔女っこが、驚くべき言葉を発します。



「イリス……」



 ──ドクン。


 ないはずの心臓が飛び跳ねるような錯覚を感じてしまう。

 それほどまでの衝撃です。


 だって──



 魔女っこが、私の本当の名前を、呼んだのだから…………。

 


 な、なんで!?

 まだ魔女っこには、私の正体を明かしていないはずなのに!



「……聖女イリスって、もしかしてあの聖女イリス?」


 そこで気がつきます。

 魔女っこは私を呼んだのではなく、何かを読んでいるのだと。


 ちょっと冷静になろう。

 どうやら魔女っこは、枯れた巨木の幹付近を見ているみたい

 そこには、木の板が突き刺さっていました。



 その板に、書かれていたの。


『聖女イリス』


 それはどう見ても、イリス(わたし)のお墓でした。


 蔓が震える。

 

 ──なんでここに、私のお墓があるの……?



 たしかに私は、この村の近くで死んだ。


 だからといって、ここにお墓があるのはおかしい。

 だって私の最期の場には、勇者とクソ後輩しかいなかったのだから。

 私を裏切って殺したあの二人が、私の墓を作るような慈悲深い性格だとは思えない。


 なら、なぜ私の墓がここに存在しているのか。



 その疑問は、すぐに解決されることとなりました。



 ──カラカラカラ。

 

 鳴子(なるこ)の音が響きます。


 音に反応して振り返ると、こちらに近付いてくるヤスミンたちの姿がありました。



 なんでヤスミンたちがここに?

 

 そう思っていたのも(つか)()、ヤスミンの背後にいる見慣れぬ人物に目が奪われます。

 その特徴的な人物を認識した瞬間、私の疑問は雲散霧消(うんさんむしょう)してしまいました。



「見てよアルラウネ! アンナの依頼にあったエルフを見つけたわ!」



 ヤスミン一行(いっこう)の中に、知らない人影が混ざっていました。

 いや、私はこの女を()()()()()

 正確には、昔よく知っていたというべき。



 背の高いエルフの女性が、すっと前へと出てくる。


 ヤスミンやアンナさんよりも高い。

 体格の良いカイルさんと並んでも見劣(みおと)りしないほどの高さ。

 

 女の私から見ても美人だと思う整った顔。

 彼女からは、種族が違うからこそ感じる美しさを感じる。

 そして久しぶりに目にする、エルフ特有の長い耳。


「あ、おかえりエルフのお姉さん!」と アルミンが手を振りました。


 そこで悟ってしまいます。

 アルミンがこの小屋で一緒に住んでいるお姉さんというのは、実の姉ではない。

 あのエルフのことだったのだと。


 そのエルフを紹介するように、ヤスミンが私に話しかけます。


「前に話さなかったかしら。このエルフ、街に来ていたあの植物学者さんなの!」



 ヤスミンの言葉によって、私の頭の中を電流が走った。


 エルフを捜索しているという情報、そして数ヵ月前に街に訪れていた植物学者の存在。


 そういえば魔女王が襲来してきた時、キーリが街で植物学者と会って、アイスプラントを(ゆず)り受けたと話していた。

 植物学者なんて珍しい職業の人とよく出会えたとか、なんでその人は旅をしているのにアイスプラントを持っていたんだろうとか不思議に思っていた。


 でも、それらの疑問が、すべて繋がる。


 なんで気がつかなかったんだろう。

 たしかにその植物学者が私の知っている人物であれば、植物の種子を持ち歩いているのも納得できる。


「紹介するわ。こっちはエルフのメルクーレェさん。ここで植物について研究してるみたいなの」


 ──メルクーレェ。


 ええ、よく知っていますとも。

 その名前は、イリス(わたし)にとっての唯一の友人の名前でした。


 聖女時代のたった一人の親友。

 共に勇者パーティーにも在籍していたから、同じ釜の飯を食った仲間でもある。



 ──まさか、メルク、なの?


 この世界でイリスとして生きて来た私にとって、初めてであり唯一であった親友の顔を、呆然としながら眺める。

 ヤスミンが友達2号であれば、メルクは友達1号。

 そんな友達1号のエルフが、私に近付きながら微笑みます。


「あら、可愛いアルラウネね」


 目が合った。


 ──マズい。


 ニーナや皇女であるフリエに正体が知られるのとは、まったく話が違う。

 

 多くても数十回、もしくは数回しか話したことのなかったニーナやフリエであれば、正体を知られてもそこまで恥ずかしくはなかった。


 でも、このエルフの女は違う。


 何年も一緒に苦楽を共にした、正真正銘の友人だ。

 そして私が唯一、呼び捨てで話しかけていた人物でもある。



 考えてみて欲しい。


 数年来の親友が、ある日アルラウネになっていたらどう思うか。

 

 しかもその親友は、公爵家の貴族令嬢であり、大陸で最も有名な清らかな聖女でもある。

 そんな聖女が、半裸の植物モンスターになっているのだ。

 

 どう思われたとしても、恥ずかしいよ!

 

 だからこそ私は、私を殺した勇者とクソ後輩、そして親友のメルクにだけは絶対に正体がバレたくないの。


 そんなメルクは、頭も良くて、そして私の何十倍も長く生きているエルフの賢者。

 そして私のことを、一番長く見て来た友人でもある。


 なんなら、私の聖女見習い時代も知っている。

 つまり、幼少時の私の顔を知っているんだよね。


 だからこそ、恐ろしい。



「その可愛らしい顔、見覚えがあるわ」


 十年前のことも、長寿であるエルフにとってはつい最近の出来事に感じているはず。

 彼女のことをよく知っているから、断言できてしまう。



「あなた、あの子の小さい頃と同じ顔をしているわね」



 ど、どうしよう。


 親友相手じゃ、私の正体が一発でバレるかもしれないよー!

エルフのメルクーレェは、実はコミカライズ版1話のとあるコマにちょこっと登場していたりします。


コミカライズした際に、漫画を描いてくださっているぐう先生が勇者パーティーのキャラデザを描いてくださったのですが、その時からいつか絶対に出そうと決めていたキャラでした(`・ω・´)

気になる方は、コミカライズ1話をご覧になってくださると嬉しいです。

どこかに背の高いエルフのシルエットが隠れているかもしれません……!



そのコミカライズ版ですが、おかげさまで10/23(月)にコミックス第4巻が発売いたします!


ついに来週ですね。

カレンダーの発売日を眺めるのが、私の最近の密かな楽しみだったりしています。

コミカライズ版も見どころがたくさんありますので、どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m



次回、絶対に正体がバレたくない私vs私の種子が欲しい親友のエルフです。

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どうぞよろしくお願いいたします。
― 新着の感想 ―
予告がひどいw
[一言] さて、戦いになるかなー?
[一言] 完全に信用できるなら自分のことを話してもいいと思うね、味方は多いに越したことはないしね でも墓までつくってくれる人だから、過去の事や経緯を話すと突撃しそうだ
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