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230 チャラ男強すぎ問題発生です

 本当に何者なの、こいつ……!


 多分だけど、ガルデーニア王国にいるS級冒険者よりも強い。

 大陸南部でここまで強くて私が知らない人間が存在しているというのは正直信じられない。

 なぜならこの男からは、勇者や聖女といった英雄クラスの力を感じられるの。


 この辺りで英雄と呼ばれるほど強い人間となると、私の元婚約者である勇者や大賢者オトフリート様、グランツ帝国最強の男と噂されている金虎皇子くらい。


 聖女イリスとして私が死んでから数年が経ったけど、まさかこんな強者が生まれていたとは思いもしなかったよ。



 雷を操ることも、不思議。


 いったい、どうやっているんだろう。

 だってこの世界には、雷魔法は存在しないのだから──。



 この世界には、十種類の魔法が存在しています。


 そのうち、人間が使えるのは炎、水、風、土魔法の四大魔法のみ。

 例外として、女神の力を授かった人間の女性だけが、光魔法を扱うこともできる。


 他は種族固有の魔法として、魔族だけが使える闇魔法。

 魔女の黒魔法。

 エルフ族の白魔法。

 精霊や高位の妖精が扱える精霊魔法、なんてものもある。


 残りの一つは女神にしか使えない伝承にしか出てこない魔法だから(はぶ)くとしても、雷魔法というのはどこにも出てこない。


 なら、チャラ男はどうやって雷を操り、空中に浮いているのか?

 不思議だよね……。


 

「アルラウネの嬢ちゃんもやるね。でも、今度はこっちの番だぜ」


 チャラ男が右手をかざすと、そこから巨大な雷の槍が生まれました。

 放たれた雷の槍が光の速さで飛来して、私の球根部分に直撃します。

 おそらく、人間がくらえば丸焦げになってしまうほどの威力。

 だけど──


「私には、効きま、せんよ」


 雷のせいで少し焦げていて球根もちょっと裂けちゃっているけど、ダメージには入りません。

 これくらいはすぐに再生できるので問題ないの。

 電気も根を通して地面に流れていくしね。


「オレの雷槍(ドンナーランツェ)が効かないなんて、いったいどんな体してるんだ? 本当に植物か?」


「失礼、ですね。どう見ても、綺麗な、お花でしょう?」


 この紅色の花びらを見てよ!

 こんなに綺麗に咲いているお花は、どこをどう見ても植物ですよね?


「ここまで強いとは驚いた。こんなにワクワクしたのは久しぶりだ……ちょっと本気出させてもらうぜ」


 チャラ男が手のひらを地面に向けます。

 すると地面が膨れ上がり、無数の黒色の矢が生えてきました。


 あれは多分、砂鉄だ!

 電磁場を発生させて、土の中にある砂鉄を操っているんだ。


黒雷飛竜(リントシュラーク)!」


 空気が震えた。

 砂鉄の矢が、高速で放たれたのだ。


 その光景は、まるで前世の漫画で見た電磁投射砲(レールガン)

 矢の通った電気の軌跡がビームのように輝いている。

 その電磁投射砲(レールガン)の矢は、私の体に直撃すると同時に弾け飛んだ。


「やべっ、ちょっと本気出し過ぎたかっ!」

 

 私の体が下半身の球根ごと消し飛ばされる寸前、チャラ男の焦るような声が聞こえました。

 

 魔王軍四天王だった獣王マルティコラスさんの獣王の咆哮ヴァーンズィンスタートを連想させる破壊力。

 獣王の咆哮(ほうこう)と比べるとこの電磁投射砲(レールガン)の攻撃速度は段違いだし、避けるのは不可能だろうね。

 まあ私はまったく動けない植物だから、はじめから避ける選択肢はないから関係ないけど。


 ──ん、魔王軍?


 魔王軍四天王を彷彿(ほうふつ)させるような破壊力、そして魔女のように浮遊する飛行能力、さらには十大魔法のどの属性でもない雷の力。


 勇者や大賢者のように規格外な人間という線はまだ残ってはいるけど、そうではない可能性を思いついてしまった。


 たとえば、私と同じで人間ではないとか──


 それならこの強さも納得できる。

 うん、ちょっと試してみようかな。


「いくら、やっても、無駄ですよ」


 私はニョキニョキと体を超回復させます。

 根っこが残っていれば、私はいくらでも再生できるのだ。


「うわっ、なんか地面から生えてきた! 化け物かお前!?」


 化け物だなんて、失礼しちゃいますね。

 こんな聖女みたいな見た目の化け物がいてたまるもんですか。


「残念ながら、物理攻撃は、私には、効果ありません」


 私を殺すためには、根っこをすべて破壊しなければならない。

 その私の根っこは、この森全体だけでなく、隣町を通り越してフライハイト大平原まで繋がっています。

 この一帯の森を吹き飛ばしたところで、少しでも根っこが残っていればいくらでも再生するの。


 通常の炎による攻撃や魔女王の塩害を克服(こくふく)したいま、私を殺すことができるのは炎龍様のあの黒い炎くらいでしょうね。


「す、スゲー! ヒュドラ並みの再生力……いや、それ以上だな!」


「ヒュドラと、戦ったこと、あるんですか?」


「前にちょっとな。意味わからないくらいしぶとかったけど、アルラウネの嬢ちゃんはそれ以上に意味わからない存在だな」


 チャラ男さん、あなたが戦ったことあるヒュドラって、もしかして私の知っているヒュドラですか?

 植物園で水やりしている植物大好きなヒュドラさんなら、私もよく知っていますよ。


「随分と、暴れて、くれましたね。私の森が、めちゃくちゃに、なっている、じゃないですか」


 後ろを振り返ると、私の背後の木々が吹き飛ばされていました。

 電磁投射砲(レールガン)が通った跡なんだろうね、一本道ができたように森が破壊されている。

 

 これらの木々は、すべて私の体の一部。

 だから、やられた分は反撃させてもらいますよ。


「次は、こっちの、番です!」


 チャラ男を無効化する方法はいくつかあります。

 でも広範囲の無差別攻撃になってしまうから、ヤスミンさんたちを巻き込んでしまうね。


 しかもこれはあくまで手合わせ。

 殺さないように注意しながら、捕獲を目指します。


 そう、これは鷹狩りのようなもの!


 ごきげんよう。

 貴族といえば鷹狩りを嗜んでいるものですよね。

 淑女であった私はやったことはないけど、魔王軍四天王の黄金鳥人さんという大物を捕えたこともある私の腕をご披露(ひろう)いたしましょう。


「植物は化け物、ではないですが、怒らせると、怖いんですよ」


 地面から無数の植物を生やします。

 粘着質のモウセンゴケ、大きな口を持つハエトリソウ、寄生根のネナシカズラ、絞め殺しの木ガジュマル、他にも色々です。


 空を逃げ(まど)うチャラ男さんを、私の植物たちが鷹のように狙います。

 

「うわっ! なんじゃこりゃ!?」


 数えきれないくらいの植物の魔の手に襲われて、空中へと逃げ惑うチャラ男さん。

 でも、逃がしません。

 

大森林の支配権ヘルシャフトプランツェ


 森をドーム状に(おお)います。

 これでヤスミンさんたちとの間に壁ができたから、戦いに巻き込まれる心配はなくなったね。


 ついでに蒸散(じょうさん)を使って、ドーム内の森を霧で包み込みました。

 これで逃げられないよ!


「雨……いや、霧か!? だが逃げ場がないなら壊せばいいよなあッ!」


 チャラ男さんが雷の槍を投擲(とうてき)しました。

 雷撃によって植物の手たちが破壊されていく。

 でも、残念ですね。

 それって逆効果ですよ?


「な、なんだ!? 植物がいきなり急成長したぞ!?」


 チャラ男さんは何度も雷を発生させていましたね。

 実はね、雷が放電すると、植物はたくさん成長するなんていわれているの。


 植物の成長に欠かせない三大要素というものがあります。

 カリウム、リン酸、そして窒素(ちっそ)


 そのうち窒素は、空気中に多く含まれています。

 酸素が20%くらいなのに対して、窒素は80%程も占めている。

 この窒素は空気中に存在しているだけだから、地面に生える植物に影響を与えることはない。


 でも、(まれ)にそれらの窒素が地面に降り立つことがあります。


 それが、雷。


 雷が放電されると、空気中の窒素(ちっそ)が酸素と結びつき、窒素酸化物となって水に溶け込むことができるようになる。

 これが雨によって溶けて地面に降り注がれると、植物の肥料となって成長を促進することができるの。


 雷の多い年は豊作になる、なんて聞いたことがないかな。

 落雷によって窒素が地面に降り立つことで、植物が元気になるみたいなの。


 雷の雷光のことを『稲妻(いなづま)』というけど、これは雷が起こると稲がよく育って豊作になると言い伝えられていたからなんて話があったはず。

 稲にとって雷は妻といっても良いパートナーということなのかも。

 雷と植物は、意外なことに親しい関係を持っていたりするのだ。


「稲妻、ごちそう、さまです」


 普通は根っこから水分を吸収するのだけど、体を品種改良することで根以外の枝や葉からも水分を摂取できるように改造しました。

 そうして雨の代わりに蒸散で霧を発生させ、空気中の水分を吸収していきます。


 窒素を肥料代わりに、蔓を急成長させます。

 自然を操る精霊の力も(あい)まって、上手い具合に栄養を取り入れることができました。


 植物の網が雷の槍で破壊される以上のスピードで()(しげ)ります。

 この付近一帯の空間をすべて植物で支配するよ!


「くっ……破壊できなくとも、高速で逃げるオレを捕まることは不可能だ!」


 たしかに光の速さとまではいかなくとも、高速で移動するチャラ男さんを蔓で捕まえることは難しい。

 でも、植物を網目状にして逃げられないように包囲すれば問題はないの。


 そんな私の包囲網を、チャラ男は砂鉄の盾を作って防御していました。

 なかなかしぶといね。


 でも、私の奥の手はそれだけじゃありません。


「なんだ……体が、動かな……ぃ?」


 チャラ男の体が急にピクピクと痙攣(けいれん)し始めます。

 動きが鈍くなった(すき)を狙って、植物の網がチャラ男を捕獲しました。


 ガジュマルで四肢を掴んだうえに、ネナシカズラで全身を突き刺して拘束です。

 これで逃げられないね。


「い、いったい……オレに、なにをした……?」


「さあ。なんの、ことだか、わかりませんね」


 この空間は植物だけでなく、私が蒸散で発した霧で支配しています。

 その霧に、体を麻痺させる神経毒を流し込んだの。

 もちろん死なないように調合したし、あとですぐに解毒させてあげるよ。


 とにかく、空気中に流し込んだ麻痺性の毒を摂取したことで、チャラ男は戦闘不能になりました。

 これは一応奥の手だから、こちらから明かすつもりはありません。

 ちなみに本当の奥の手は、蒸散で発した霧の毒を即効性の猛毒にすること。

 これやったら死んじゃうから、さすがにやりはしないけどね。


 人間や動物は肺呼吸しないといけないから、大変だよね。

 みんなも光合成できるようになればいいのに。


「まさかこの霧、毒なのか!? 寝起きで体がなまっていたとはいえ、まさか毒なんかでこのオレがやられるとは……どうやらここまでみたいだな」


 チャラ男が白旗をあげました。

 手合わせは私の勝利みたいだね。


「この姿のままだと、これが限界か。降参だあ~」


 チャラ男を地面に降ろして、拘束(こうそく)を解きます。

 正直言って、ここまで強いとは思ってもいなかった。


「やっぱり強い女は怖いな~。また負けちまったよ」と、頭をかくチャラ男。

 存在しないはずの雷魔法を使うこの男が何者なのかは知らないけど、正体については少し思いついたことがある。


 この世界には雷魔法は存在しないけど、世の中には雷を発生させる生物は存在している。


 たとえば、電気ウナギ。

 電気ウナギの体には発電器官が存在していて、それを使って電気を発生させています。

 だから電気ウナギのように、この世界でも似たようなモンスターや魔族が存在していても不思議ではない。



「これを、飲んで、ください。傷が、治ります」


 私は口から蜜を出して、蔓を使ってチャラ男ことカイルさんに蜜を飲ませます。

 これで体は元通りになるよ。



「う、旨っ! この蜜、甘くて舌が(とろ)けちまいそうだぜ。こんな旨いもの初めて食べたわ」


 チャラ男はさっき、「この姿のままだと、これが限界」と言いました。

 それはつまり、真の姿を隠しているということ。


 チャラ男の奥の手。

 それは、人間の姿から元の姿になって、本来の力を取り戻すということなんじゃないかな。


 私は一人だけ、魔族の姿から人間に変身できる人物を知っています。

 あの人の正体は、巨大なドラゴンでした。


「これが噂の聖蜜か。兄貴がハマるわけだな」


 やっぱり、そうなんだ。

 あなたのお兄さんは、私の蜜が好きなんだ。

 これで確信した。



 チャラ男さん、あなたはもしかして、お兄さんだけでなく、お姉さんもいませんか?

 それでお兄さんは炎を出せて、お姉さんは氷を操れたりしませんか?


 そんな彼らの兄弟であるあなたは、雷を発生できる。


 多分だけど、チャラ男の正体は、きっと巨大な雷のドラゴンだ。



 そしてチャラ男のお兄さんは、私の蜜を愛好していて、人間に変身できるだけでなく、めちゃくちゃ強い魔族。


 おそらく間違いない。



 つまりあなたのお兄さんは、炎龍様なのですね。

魔法の設定がやっと出せましたー!!

主人公が魔法を使わないので、出す機会がなかなか訪れなかったりしていたのです……!

ちなみに炎、水、風、土の四大魔法は一般的な魔法属性であるため、人間以外に魔族も使うことができます。


次回、ルーフェの村です。

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― 新着の感想 ―
[一言] おー、なるほど、気づかなかったなー
[一言] あの人の弟だった!それなら、変に騙されてないかなぁって思うので信用はできそう
[一言] 炎龍様よ、、、弟はどんな環境で育ったんだ、、、性格が軽すぎるぜ
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