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228 あなたのお兄さんって誰ですかー!

 冬になりました。


 太陽の日差しが陰るのと同じように、私の身の回りでも変化が起きました。



「アルラウネ、なにか嫌なことでもあったの?」


 心配するように、魔女っこが私の頭を撫でてくる。

 魔女っこは優しいね。


 私のほうが年上なはずなのに、なんだか私のほうが妹みたい。

 まあ、お姉さんは私なんだけどさ。


「ちょっと、人間関係で、ね……」


「人間関係は嫌だよね。わたしも大嫌い」


 実はね魔女っこ。

 私ね、正体がバレちゃったの。


 しかも、聖女イリス時代の弟子にだよ!

 ニーナに知られるのとは、ちょっと恥ずかしさが違う。

 あの子は私の直属の後輩だったから、好意を向けられていたのは昔から知っていた。

 それに再会した時にはニーナに勘違いされて殺されそうになっていたから、誤解を解くために正体を明かした部分もあった。


 だけど、今回バレたのは、皇姫フロイントリッヒェ様。

 弟子とはいえ、外国のお姫様に正体が知られてしまうのは、かなり恥ずかしい。

 しかも正体を隠していたつもりなのに、あっさり見抜かれていたのだ。

 私の師匠としてのプライドが、ボロボロだよ。

 

 まあ、こんなこと、魔女っこには言えないけどさ。

 でも、いつかは言ったほうがいいのかな。

 とはいえ、簡単に明かすことはできないから、私にはまだその勇気がない。



「そういえば領主が、あの皇女と一緒に王都へ向かったらしいよ。王様に結婚の許しを貰うんだって」


「そう、なんだー」


 そのことも、知っている。

 フロイントリッヒェ皇女は……フリエは、かなりの策士だったということも!


 彼女はやる時はやる女だった。

 短い期間の間に、自分の父親である皇帝へ、マンフレートさんとの結婚を認めてもらうよう手紙を送ったらしい。


 皇帝はフリエのお願いを聞いて、軍を他国に派遣してしまうほど娘を溺愛している。

 その娘が、第三夫人によって命を狙われていることも知っていたのでしょう。

 フリエが他国の貴族に嫁ぐことを了承したらしいの。


 こうして、フリエの亡命は成功した。

 あとは、マンフレートさんと一緒に王都へ行き、皇帝からの手紙を国王陛下に渡して、結婚を認めてもらうだけ。


 それ以外の細かい他の問題については知らないけど、フリエならきっとなんとか成し遂げてしまうことでしょう。

 それくらい、彼女は優秀なお姫様だった。

 


 そんなフリエに、なぜ私の正体がバレたのか?

 そのことについて、あの娘は私にこう言ったのだ。


「草原で最初に会った時、わたくしのことを『皇姫様』と呼んでいましたよね。わたくしは師匠の前では一度もその言葉を使ってはおりません。それなのに、ただのアルラウネが、なぜそのような愛称をご存知なのですか?」



 名乗られるまで名前を言わないようにとか、以前のように「フリエ」と呼ばないようにと気を付けてはいたけど、そこに関しては抜け落ちていた。


 他にも、アルラウネと聖女イリスの顔がまったく同じ、細かい仕草が似ている、『師匠』と呼んだ際の私の反応が昔と一緒だったとか等、疑う要素がいくつかあったらしい。

 聖女イリス時代の私をよく知っている相手に対しては、他人のフリをするのは難しいだろうとは思っていたけど、まさかこんな簡単にバレるとは想像してなかったよ。

 というか、フリエがこんなに洞察力があるとは知らなかった。


 皇姫様は猫を被っていた。

 能天気で世間知らずというのが印象的な皇姫様だが、それらはすべて作られていたものだったのだ……。



 さすが、小さい頃から暗殺されずに今日まで生き延びてきただけのことはある。

 完全に騙されたよ。


 聞けば、『惚れ薬』関連の話は、私の正体を見抜いたうえでわざと言っていたことらしい。

 すべては冗談。

 つまるところ、私はからかわれていたのだ。


 バロメッツさんについても、好きなのは本当だけど、それを上手く活用して世間知らずのお姫様としてのキャラ付けに利用していたとか。



 なんだろう……王族って、怖いね。

 王子である勇者にも騙され殺されたけど、まさか皇姫様にも騙されていたなんて。


 私も王族に近い血筋である公爵令嬢だったのに、この差はいったいなに……?


 もしかして、物心ついた頃から聖女としての生活を第一として生きて来たから、私って貴族の令嬢教育が抜けていたりするの……?


 世間知らずなお姫様は、まさか私のほうだったりして────



 いやいや、そんなことないよね。


 私だって、立派な元貴族令嬢のはず。

 いまはアルラウネだけど!



 ちなみにフリエは、私の正体については秘密にしてくれると約束してくれました。

 他国に嫁いだとはいえ、フリエは皇帝の血を引いている。

 第三夫人の魔の手は、完全になくなったわけではない。


「わたくしの手駒はそう多くはありません。ですから、ガルデーニア王国にいるあいだは、イリス師匠に守ってもらいます。それが、正体を秘密にする条件です」

 と、フリエに言われてしまったの。


 なので、私たちは協定を結ぶことにした。

 私はフリエを守る代わりに、私の正体がイリスだということを秘密にしてもらう。

 信頼できる協力者は多い方が良い。

 なので、良いほうに考えましょう!


 それにしても、情報を武器に私を利用するとは、やっぱりフリエは策士だよ。

 だというのに、私がなぜアルラウネになっているのかは、尋ねてはきませんでした。


 その理由についてフリエは、「死んだはずのイリス師匠がアルラウネになっているなんてそんなわけのわからないこと、絶対になにか裏があるはず。これ以上命を狙われたくはないので、知らないほうが安全です」とのことでした。

 

 私が生きていると知って困る人というと、勇者とクソ後輩の二人が考えられる。

 ガルデーニア王国の中枢にいるあの二人からも命を狙われることになるので、フリエの対応は正しいね。



 そう考えると、私の正体を知る人物は少ないほうが好ましい。

 森での平穏な生活が、クソ後輩たちによって壊されてしまうかもしれないからね。


 それなのに、シャンプーを大々的に販売してしまったのは、あまりよくなかったかも。

 王都でも大流行しているらしいし、クソ後輩の注意がこの街に向けられてしまうかもしれない。

 そうなれば、聖女イリス似のアルラウネがいると、どこかで彼女の耳に入ることもあるはず。


 どうか、ゼルマが聖髪料を気に入りませんように……!



「アルラウネ、キーリたちが来たよ」


 私を慰めようとよしよしとする魔女っこが、指をさしながら教えてくれる。

 もちろん気がついていたよ。

 森の中を移動している人物は、すべて根っこを通して把握済みだからね。


 こちらに近付いてきているのは、妹分のアマゾネストレントでした。

 その頭に乗っかっているキーリが、手を振りながら叫びます。


「ルーフェ、お客さんが来たよー!」


 私じゃなくて、魔女っこへの用事だったみたい。

 どうやら、魔女っこ宛の食料便が街から届いたことを知らせに来たようでした。


「それじゃ、行ってくるね」と、魔女っこたちがツリーハウスへと向かいます。


 私の蜜やシャンプーの売り上げのおかげで、魔女っこは人間の食べ物を存分に食べることができる。

 昔みたいに魔女っこが栄養失調で倒れることもなくなったから、本当に良かった。


「さてと……どうし、よっかな~」


 塔の街から食料を運ぶ一団がツリーハウスへと進んでいることは、根っこを通してずっと前から気がついていた。

 でも問題なのが、それとは別に、さっきから森を単独で移動している怪しい人物がいることです。


 私に一人で会いにくるような相手と言うと、フランツさんやドリンクバーさん、冒険者組合の受付嬢をしているヤスミンさん辺りが思い浮かぶ。

 だけどそうであれば、食料を運ぶ一団と一緒に来るはず。

 なら、この単独行動をしながら、私に近付いてくる人物は、私の知り合いではない可能性が高い。


 もしかして、敵だったりして?


 でも、それにしては歩き方が大胆(だいたん)で、忍んでいる感じがしない。

 いったい何者なんだろう。



「あんたが紅花姫アルラウネだな」


 そいつはほどなくしてから、私の前に現れた。


 金髪で長身の男。

 初めて見る顔だね。


 見た目の印象を言うと、この男、チャラそう。


 私の苦手なタイプの人間だ。

 しかも、髪が金色なのがいけない。


 私ね、金髪の男はちょっと嫌なの。

 なぜなら、私のことを裏切って殺した勇者が、金髪の男だったから……。


 アルミン少年みたいに子供だったりすればいいんだけど、成人男性の金髪はちょっと怖い。

 勇者と違って、この男はかなり濃い金色なので、似てはいないんだけどね。

 それを差し引いても、チャラ男は前世から苦手だった。

 だから第一印象は『苦手そう』なの。ごめんなさい。



「噂通り、本当に綺麗な女だな。根っこがなければこのまま連れて帰りたいくらいだ」


 チャラ男から褒められても嬉しくないんだからね!

 というか、知らない人ですよね。


「はじめ、まして。あなたは、どちら様、ですか?」


「あれ、オレのこと聞いてないの?」


 え、どういうこと!?


 もしかして誰かのお知り合いですか?

 それとも私、なにか忘れてる……?


「まあいいか。オレのことはカイルとでも呼んでくれ」


 まあいいか、じゃないよ!

 詳しく教えてよ!!


 さっきの口ぶりからすると、誰かの紹介なのかな。

 最近騒がしいシャンプー関連か、それともただ私の蜜が欲しいのか……。

 どちらにしろ、初対面の人間なのには違いない。


 それにこいつ、チャラ男だけどかなり強そう。

 警戒しないと。


「私に、なにか、用ですか?」


「用ってほどのことはないんだわ。ちょっとその美人だっていう顔を見に来ただけ」


 え、特に理由はないの?

 なんなの、この男……!


「これからこの街に厄介になるつもりだから、顔見せみたいなもんだ。やっぱり、挨拶はきちんとしないと悪いからな」


 変なところで律儀なチャラ男だね。

 塔の街に住み着くことになったから、噂になっている私をわざわざ見物しに来たってところかな。

 

 私は観光名所じゃないんですけど。

 まったく、迷惑な人だよ。



「それに、兄貴が世話になっているらしいからな。まあ、これからよろしくっ!」


「えぇっ!? ちょっと、待って、ください!」


 私の制止を無視して、じゃあなと手を振りながらチャラ男は去って行った。


 ──なんなのさ、あいつは!


 人の言うことを聞かないところも、苦手だ。

 もしかして私、金髪の男と相性が悪いのかな。


 というか、兄貴が世話になっているって、チャラ男のお兄さんと私が知り合いってこと?

 つまり、あのカイルとかいうチャラ男は、私の知り合いの弟ってことか。


 金髪の男というと、一番に思い浮かぶのは勇者だ。


 だけど、勇者に弟はいない。

 変わり者の兄ならいるけどね。



 それなら、チャラ男の兄とはいったい誰なのか。


 マンフレートさんに弟はいない。

 

 なら、金髪ではないけどフランツさん?

 それとも、ドリンクバーさん?

 大工の棟梁さんだったりして……?


 うーん、わからない。

 他にめぼしい金髪の一族も知らない。


 なら、いったいあのチャラ男は何者なのか。


 ねえ、チャラ男さん、教えてよ。



 あなたのお兄さんって、誰ですかー!

次回、迷子の悪魔メイドによる受付嬢仕事記です。

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[一言] >どうか、ゼルマが聖髪料を気に入りませんように……! 残念ながら…… うーん、お世話になるというほど深くかかわっている男性で、弟がいてもおかしくないとなると、限られてくるけど……
[気になる点] 婚約はなんとかなって良かった 皇帝も密かに、心の奥底には皇姫のことを怪しく思ってるのかね? カイルねぇ、魔王の弟?それか預かり知らぬ誰かか…
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