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26 生贄を捧げられるのは心苦しいけどお腹が膨れるからやっぱり好き

 私、はじめて貢物(みつぎもの)をもらっちゃいました。


 

 え、誰からですって?


 驚くことなかれ。

 まさかの森の動物さんたちからです。


 

 森の主であるクマパパを倒してから数日後。

 なんだかね、団体さんがやって来たの。



 タヌキの大群である。


 じゅるり。

 ご馳走がのこのこと私の元へと歩いてやってきたよ。


 ざっと百匹以上いるんじゃないかな。

 とはいっても、魔物ではなく普通の動物みたい。


 私の敵じゃないね。


 いったい何をしに来たのか。

 好戦的には見えないし、かといって他に用事もないだろう。


 わざわざ団体で私のところに来るなんて、自殺行為なのわかっているのかな、栄養諸君。


 とりあえずタヌキが何をしたいのか観察することにした。逃げようとしても簡単に捕獲できるからね。


 しばらくすると、タヌキ軍団から一匹のタヌキが私の前に現れる。


 この群れの代表者なのだろう。

 白い髭を蓄えた、年老いたタヌキが警戒しながら近づいてきた。


 大きさが他のタヌキよりも一回り大きい。

 後方に並ぶ百匹のタヌキたちの長老のような存在なのかもしれないね。


 だって、こいつは後ろの動物タヌキと違って魔物のタヌキだからね。



 タヌキ型モンスター、グロスマルダーフントである。


 戦闘能力こそ高くないけど、長く生きた個体は人間に近い知能を持っているという。


 嘘か本当かはわからないけど、森に迷い込んだ狩人に幻を見せると聞いたこともある。そうして戦わずして外敵から逃げるモンスターなのだろう。

 

 

 いやー。タヌキは可愛いね。

 女子高生時代の裏山でよく見かけたよ。

 

 子供の頃はぽんぽこって名前をつけていたな。

 懐いたりはしなかったけど。


 代表のぽんぽこがまた一歩と近づいてくる。


 なんだか長老みたいな外見なタヌキだね。

 白くて長い髭が印象的だし。


 うん、長老タヌキと名付けましょう。



 長老タヌキは私の近くまで歩いてくると、ピタリと足を止める。

 そして、頭を下げたのだ。


 それに合わせて、後方の動物タヌキも一斉に私に向けて頭を下げてくる。


 え、なんなのこれ。

 タヌキに平伏されているのですけど。



 タヌキって、意外と利口だったのかな。

 いや、長老タヌキが賢いのか。


 完全に私へ服従の姿勢をとっていた。


 もしかして、私を森の主として認めてくれたってことかな。


 クマパパを倒したことで、これまで自称森の主という気分だったけど、どうやら他称でも森の主になってしまったみたい。


 まあ、悪い気はしないよね。


 タヌキに(かしこ)まられるのも良いものだ。

 まるで森の女王へ臣下の礼を尽くす忠実な騎士のよう。


 ついに私も公爵令嬢から森の女王へとクラスアップするときが来たのだろうか。

 

 そこなタヌキ、(おもて)を上げなさい。

 女王への拝謁を許しましょう。


 ただし、面倒事はごめんでしてよ。


 私はね、この森で静かに暮らしたいだけなの。

 物騒なことが待ち受けているなら、たとえ女王とはいえ役職につくのはちょっと嫌なの。



 そんな私の表情を見た長老タヌキが、後方に控える動物タヌキに振り返る。


 すると、波が割れるように一匹のタヌキが進んできた。


 群れの中でも大きく、艶のあるタヌキだった。

 こちらもやはり普通の動物タヌキだね。


 長老タヌキの横を、大柄で美しいタヌキが通り過ぎる。


 そうして私の目の前まで来ると、仰向けになった。

 お腹を私に見せながら、両手両足を空へ向けていた。


 これこそまさに服従のポーズ。

 タヌキは私に身も心を捧げるつもりだった。



 え、これ、どうすれば良いの?


 長老タヌキが口を開けて、かぶりつくようなジェスチャーをする。


 もしかしてこのタヌキ、食べて良いものですか?


 貢物か。

 いや、生贄だよね、これ。



 ぽんぽこ軍団から人柱としてこの大柄タヌキが選出されたということだろうか。

 わざわざ大きな食料を提供してくれるところは気が利いているね、タヌキさん。


 この生贄にいったいどういう意味があるんだろう。


 森の主として私を認めるということ。


 これは、このタヌキたちが新しい森の主の元、配下として森で暮らしていきますという宣言なのではないだろうか。


 タヌキ、強そうじゃないもんね。

 きっと森の戦国時代でも隠れて過ごしていた気がするよ。


 自分たちが戦わない代わりに、強者の庇護下にはいる。

 そのための(あかし)が生贄。有り得そうだね。



 というと、このタヌキを食べると、私はタヌキたちを守らないといけないわけか。

 なんだか面倒くさいな。


 食い逃げしたいけど、そうはいかない。

 だって私、植物だから。


 根っこよ、そろそろ歩きたくなったりはしないかい。私は歩きたいぞ。無理とはわかっていても、思わずにはいられないね。



 というか、私が困惑している間も、ずっとタヌキたちがこちらを凝視している。

 まるで早く手をつけろとでも言いたげな視線だ。

 

 私がこのタヌキを食べてしまえば、きっと契約が生まれてしまうのだ。

 タヌキはなにかあったら私に守ってもらえばよいという打算でやって来ているだろうからね。

 

 外敵が襲ってきたら、私の体を盾にして排除してもらおうとしているのでしょう。

 そう考えると、私には選択肢は一つしかない。


 私は動けない。


 つまりここでタヌキを食べても食べなくても、結局は森の敵となる者をタヌキにここまで連れてこられでもしたら強制的に戦わなければならなくなるのだ。


 どちらを取っても、結果は一緒。

 それなら、心おきなく頂戴しておいたほうが、後々気持ちの整理がつきやすいかな。

 頼まれもしていないのに、毎回危険な敵を送りつけられてきたら嫌になりそうだし。


 うん、わかった。


 クマパパを倒した時に森の主の立場を引き継いだわけだし、ここは受けるしかないね。


 それにクマパパを食べてからまだ新しい獲物を食べていなかったんだよね。だからね、栄養不足なの。


 なのでいただきます。


 パクリ。


 うん、タヌキ、物足りん。



 長老タヌキが再び恭しく頭を下げると、後ろへ去っていこうとする。


 いや、待ってよ。

 私、まだ満足していないから。



 長老タヌキはリーダーだから今回は見逃してあげるとして、他の若い者にはちょっと私の相手をしてもらうよ。


 

 地中に潜ませていた大量の蔓を動かす。

 タヌキから見れば、突如地面から無数の蔓が生えてきたと驚いただろう。


 そこの若いの、あと二、三匹くらい来てもらおうか。


 蔓を使ってタヌキを捕まえます。

 そうして一匹、また一匹とタヌキを捕獲していく。


 慌てて逃げ出すタヌキ軍団。

 

 そんなあわてんぼうたちを蔓で一匹ずつすくい上げていく。

 タヌキの踊り食いだね。


 タヌキさん、タヌキさん、遊ぼうじゃないか~。

 いま逃走している真っ最中~。


 そうですかそうですか。

 でも大丈夫、私は構わないよ。鬼ごっこの鬼役になってあげるね。


 捕まったら食われる。

 リアル鬼ごっこの始まりです。


 そうして震える長老タヌキを横目に、私は若手タヌキを下の口へと放り込みます。



 もぐもぐ。

 うん、満足かな。


 数匹捕獲させてもらっちゃった。

 まあその分、仕事はさせてもらいますよ。

 何かあったら遠慮なく言ってよね。


 

 長老タヌキはブルブルと震えながら、一歩ずつ後退していく。


 そうして、私はタヌキを支配下に置いた。

 暇だからたまには遊びに来ても良いんだからね、長老さん。




 だが、この生贄はタヌキだけでは収まらなかった。


 もしかしたらこの森の掟でもあるのだろうか。


 それからも様々な動物たちが、私に仲間を差し出してくるのだ。


 狐、山犬、山猫、リス、ウサギ、それはもう色々な種類の動物たちだ。

 リーダー格として魔物が従えているパターンもタヌキ軍団以外に何度かあった。


 まるでこれで一族のことを守ってくださいとでも言いたげだ。

 

 今も、鹿軍団が私に生贄を捧げに拝謁しに来ていた。



 いや、でもこれはおかしいよ。

 私は動けない。植物だからね。


 だからここへ近づかなければ私に命を脅かされることはないだろう。

 それなのに、わざわざ私に栄養となる供物を与えてくれる。


 これはやはり、あれだろうか。

 私が森の主になったから。


 きっと、森の主は森を守る役目を負っているのだ。

 森の主は森で一番強い。

 

 強さを期待されているということは、森の用心棒的なことを頼まれているのだろう。

 きっとクマパパも迫る外敵から森を守護していたんだね。

 

 もしかしたら、クマパパも今の私と同じ気持ちを味わっていたかもしれない。

 そこまでされたら、どうして良いのかわからないんだよね。


 お帰り願いたくても、こちらが手をかけるまで頑なに帰ろうとしない。

 なにがあっても要求を呑んでもらおうという固い意志を感じるよ。

 逆に怖いのですが。


 私にもクマパパと同じ役目をしろということだろう。

 そのために、一族を差し出して私のご機嫌を伺っている。


 なにせ、今の森には強者がいない。


 魔物を狩る冒険者や、村の狩人が続々と森の中へ来ることになれば、みんな安心して生活することができなくなるだろう。


 そういった外敵は、支配下の動物や魔物が私のところへ誘導してくるのだろう。

 そうして敵を排除しろ、というところかな。


 あくまで推測だから、あっているかはわかないけどね。



 まあ、そういうことなら。

 誰かが森を守らなければならないなら、私がやるしかないでしょう。

 クマパパを倒したのは私だ。

 その責任は私が持つしかないのだから。


 というわけで、いただきますー。


 パクリ。


 もぐもぐ。うん、足りない。


 栄養がまだ足りないよ。


 そこのお方、あと二、三匹置いて行ってもらいましょうか。


 はい、罠を発動します。

 地中に潜ませていた蔓によって、鹿をあと十匹ほど捕まえましょう。


 あ、またちょっと多く取りすぎちゃったよ。

 別に問題はないよね。たくさん食べられて私はごきげんです。


 ハイ、いらっしゃーい。

 もぐもぐ、ごくりん。


 あ、ちょっと待って。


 あと一匹だけ。

 なんだったら一族全員でもいいから、私のお腹の中へと招待したいのだけど……ダメかな?



 ──はい、お断りされました。

 他の獲物には逃げられちゃった。


 まあ逃がしてあげたともいうね。


 一度に全部食べたら、後が増えなくなるからさ。

 繁殖したらまたいらっしゃいな。

 

 

 さてと。

 あいつらの仲間の命を貰ったことだし、何かあったら助けてあげよう。

 同じ森に住む生物のよしみでね。


 よーし、これで無職のお花さんは卒業だよ。

 これからは森の主として、森のみんなを守るのだ。


 慣れない初仕事だけど頑張ります。


 上手くいけば、私の配下である愉快な動物たちとともに、静かに光合成しながら過ごす日々が待ち受けているかもしれない。

 

 最高だね!


 私にとっての目標であり、夢の時間が訪れるかもしれないのだ。


 やっと、静かに暮らせるよ。

 聖女見習いのクソ後輩と婚約者の勇者様に裏切られてから色々とあったけど、やっと落ち着けるね。


 しっかりと根を張って生活が送れるよ。植物だけにね。



 こうして、森の主としての私の新生活が始まったのだ。


少し修正しました。明日も二回更新を予定しております。


次回、わたし今日からミノムシになりますです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっとだけ後ろめたいのがニンゲンの残滓って感じで…… ニンゲンと共に過ごしていたらホラーな変化だ……
[一言] 俺はこの回好きだけどなぁ〜 田舎の村が舞台の話によくいるじゃん?「有益だけどそれ以上に恐ろしい存在」的な祀られ方してる神様。 人外なんだなぁーってロマンがあって好き。
[一言] 身も心も魔物になったのだろうか。それが生きるという行為だから、全く問題ない。悪い行為でもない。ただ、傍観者としてはこの変化は少し悲しい。
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