212 魔女王と植物の女王
大変お待たせいたいました!(ノ◇≦。)
私、植物モンスター娘のアルラウネ。
森と街を襲う魔女王たちと戦闘中なの。
魔女王は街にも魔女を潜ませていて、いまにも街は火の海になるはずだと言っていました。
いくら空を飛べる魔女っこが街に救援に向かったとはいえ、一人では限度があるはず。だから手を貸さないとね。
私の根は塔の街中に張り巡らされています。
怪しい人物がどこに潜んでいるかは、既に把握済みなの。
「見つけた」
街の中にハエトリソウを生やして、魔女らしき人物を捕獲しました。
一人、また一人と、襲撃者をパクリと拘束していきます。
こうして魔女を拘束しておけば、あとは街にいる伍長さんやドリンクバーさんたちが何とかしてくれるでしょう。
いまの私には、頼れる友人ともいえる人間たちがいるのだ。
人食いモンスターだと冒険者に恐れられていたあの頃とは違うんだから!
そんな私の独り言を不思議に思ったのか、魔女王は面白いものを見つけたというように首をかしげます。
「にゃはは、紅花姫ちゃん。何を見つけたのかにゃ?」
「あなたには、関係の、ないことですよ」
「関係ないなんて寂しいこと言うね。でも、関係ないなら良かったよ~」
と、魔女王は意味ありげに空を見上げます。
彼女の話すとおり街に火が放たれていても、魔女っこの黒魔法で雨を降らせれば、火事は収まるはず。
だから向こうは魔女っこたちに任せればいいよね。
そうなれば、あとは私が目の前の敵を倒せばいいだけ。
森で動物に化けていた魔女たちはすべて捕まえました。
残るは魔女王と、魔女王補佐の女、そしてスキンヘッドの男の三人です。
従兄のヴォル兄は、魔女王補佐は任せろと言ってくれました。
新米聖女のニーナは、傭兵風のスキンヘッドの男の相手をしてくれています。
二人が時間を稼いでくれている間に私が魔女王を撃退すれば、この戦況は大きく動くはず。
とはいえ、かわいらしい猫耳帽子を被った魔女王は、その外見からは想像もできないくらいの覇気を放っていました。
魔王軍の四天王以上の威圧を感じるよ。
「紅花姫ちゃんとこうして遊ぶのは、ドライアドのフェアギスマインニヒトちゃんがやられた時以来だよね~。どれくらい成長したか、わたしを楽しませてくれるでしょう?」
魔女王の真っ白い髪の毛が、ふわりと浮き上がりました。
同時に、森を取り巻く環境が一瞬で変化します。
「にゃはは、まずは挨拶がわりに荒天魔法“豪雨”」
バケツをひっくり返したようなゲリラ豪雨が森を襲います。
お水はおいしいけど、そのまま洪水になりそうな量です。
「続けて荒天魔法、氷雨」
冷え切った雨が、瞬く間に氷へと姿を変えました。
氷河期に入ったかのように、森の動きが止まります。
とはいえ、フロストゴーレムを倒した私にとってこれくらいの攻撃はなんともないのです。
ザゼンソウの力で自家発電をしながら、ゴジアオイの能力で発火を行います。
寒そうにしているヴォル兄とニーナの周りに焚火を作って、山火事にならない程度の火力で凍り付いた木々を溶かしていくよ!
「氷の魔法は、私には、通じませんよ?」
「そうみたいだね~。それなら紅花姫ちゃん、これは知ってるかにゃ?」
魔女王が人差し指で猫耳帽子を軽く持ち上げながら、口を開きます。
「炎が生まれるとね、空気の流れが変わるんだよ?」
突如、空気が変わりました。
魔女王を中心に、渦巻き状の風が発生していきます。
「空を自由に飛ぶ魔女はね、空の理にも長けているんだよ」
木の枝がバキバキと折れて、空へと舞い上がりました。
風は次第に竜巻へと成長し、周囲を飲み込んでいきます。
「まさか、上昇気流!?」
「あらら、アルラウネのくせに博識だね。なら、これから何が起こるかもわかるかにゃ?」
いつの間にか、森に暗雲が立ち込んでいました。
空に、巨大な積乱雲が発生していたのです。
「さすがに、大きすぎ、ませんか……?」
こんなの見たことがないよ。
聖女時代にも、女子高生時代の前世でも未経験の光景です。
ゴウゴウと台風のような激しい雨風が体にぶつかります。
そして、森を飲み込むほど巨大で真っ黒な積乱雲が、竜巻と繋がりました。
「にゃはは、荒天魔法“嵐災”の完成だよ~!」
落雷とともに、無数の竜巻が空から降りてきます。
この世の終わりとも思えるような、非現実的な光景がそこに広がっていました。
「まさか、私の炎を、利用して、嵐にする、なんて」
──やられました。
魔女王は私が氷漬けになっても大丈夫なことを知っていた。
その対処法として炎を生み出すことを予測して、私の動きを利用したんだ。
「これでもわたしは長生きしている魔女だから、いろいろなことを知ってるんだよ~。それなのに植物のアルラウネのあなたが、なぜ上昇気流を知っているのか、興味湧いちゃった」
魔女王は浮遊魔法でゆっくりと浮き上がりながら、私に問いかけます。
「ねえ紅花姫ちゃん、あなたはいったい何者なの?」
上空から飛来する鋭利な竜巻によって、森の木々が根本から強引に引き抜かれていきます。
この森の植物はすべて私に繋がっている。
だからこそ体が散り散りになるように感じられて、ものすごく怖い。
乱暴に空へと舞い上がる私の一部の木たちを視界に捉えながら、魔女王は言葉を続けました。
「精霊以上の規格外の力に、聖女以上の回復力、そしてアルラウネではありえないその知識…………少なくとも紅花姫ちゃんは、ただのモンスターではないよね」
「私は、ただの、植物モンスター、ですよ?」
「ただの植物モンスターに魔女王たるこのわたしが何度も手を焼いているなんてことありえないの。だから確信したよ。紅花姫ちゃんの正体を」
ま、まさか、私の正体が聖女イリスだとバレたの?
ないはずの心臓がドクンドクンと動いているような錯覚を感じながら、魔女王の次の言葉を待ちます。
「あなたのその外見やその能力は、すべて聖女イリスから得たものだよね」
私の名前が出てきた。
ビクリと蔓が動きそうになるのを必死でこらえます。
「紅花姫ちゃんはさ、聖女イリスを食べたっていう、あの植物のモンスターじゃないの?」
魔女王の鋭い眼光が私に注がれます。
何か確信がある、そんなような気持が伝わってきました。
「そして聖女イリスの知識と力を奪って、アルラウネへと進化した。違うかにゃ?」
魔女王の推察は的を射ています。
なぜなら私がイリスを食べた植物モンスターなのは正しいから。
だけど、一つだけ間違っているよ。
聖女イリスはたしかに植物モンスターが食べたけど、アルラウネである私自身が聖女イリスそのものなんだから。
「なんの、ことか、わかりま、せん」
「しらを切っているのか、それともよく理解していないのか……だとしても興味深い。聖女イリスを食べて力を奪ったアルラウネだなんて、こんなに珍しい素材は数百年ぶりだよ」
魔女王は猫のように舌なめずりをしながら、私を物のように見つめてきました。
「素材、だなんて、ひどく、ないですか?」
「紅花姫ちゃんがどんなに強くても植物のアルラウネであることには変わりないんだから、わたしにとってはただの素材だよ。それでも、あの時諦めた聖女イリスのサンプルがこうして手に入るなんて、魔女冥利に尽きるね~」
鍋をぐるぐるかき混ぜるジェスチャーをしながら、魔女王が楽しそうに笑います。
「聖女イリスは、初代聖女と同じくらいの力を持った化け物だったからね。確実に殺すためとはいえ、あのまま殺すのはおしいと思ってたんだよ」
「…………あの、まま?」
魔女王の言葉に、引っ掛かりを覚えます。
まるで私の死に際を見ていたような言い方。
「イリスの死と、あなたは、なにか関係が、あるんで、すか?」
「にゃはは、そんなの教えてあげないよ~。でもね、これだけは教えてあげる」
魔女王は人差し指で右目を差しながら、「見たんだ」と自慢げに答えます。
「わたしはね、聖女イリスが植物モンスターに無残にも食われる場面を、実際にこの目でみていたんだよ」
────視界が揺らぎます。
その言葉を聞いたとき、嵐のように暴れる風の音が、一瞬消えたかのような錯覚がしました。
皆さま、更新大っ変っっっっお待たせいたしました!!
遅くなってしまいすみませんでしたm(_ _)m
いろいろ重なっておりまして、続きをお届けするのが遅くなってしまい、とても申し訳ない気持ちでいっぱいです。
今後は定期的に更新できるように頑張りたいと思います(`・ω・´)
少なくとも週一更新はしたいなと思っていたりしますので、よろしくお願いします。
また、コミカライズの応援もしていただきありがとうございます。
おかげさまで3月23日にコミックス3巻が発売いたしました!!
こうして「植物モンスター娘日記」の世界をお届けできるのも、ひとえに応援してくださっている皆さまのおかげです。
改めまして、ありがとうございます。
更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします!
次回、魔女王と聖女イリスです。