日誌 魔女っこ、はじめての魔女退治
魔女っこ視点です。
わたしの名前はルーフェ。
アルラウネを傷つけようとする人間は許さない。
お姉ちゃんとして、わたしがきちんとアルラウネを守る!
そう思って隣町まで飛んで行ったら、蜜好きの聖女見習いの人と再会しました。
この人はアルラウネの知り合いでもあるし、わたしが魔女だということも知っている。
せっかくだし、話を聞いてみようかな。
「この町にあなたがいるなんて思わなかった。見つけたわたしえらい。あえて良かった」
「し、信じられません。あなたはまさか……」
「わたしのことは知っているでしょ、聖女見習いのお姉さん」
聖女見習いのお姉さんはわたしに知っていることを全部教えてくれました。
どうやら魔王軍の四天王であるアルラウネを討伐するため、仲間と一緒に王都からはるばるやって来たみたい。
アルラウネは魔王軍四天王なんかじゃない。
なんでそんなことになっているかはわからないけど、アルラウネはモンスターというだけで人間たちから命を狙われているんだ!
魔女というだけで火炙りにされそうになったわたしと一緒。
やっぱりアルラウネはわたしがなにをしてでも守ってみせる!
わたしは鳥の姿のまま、町の冒険者組合に侵入して、アルラウネの手配書を奪った。
これがなくなれば、アルラウネを狙う人の数が減るはず。
誰にも見つからないように、茂みの中に手配書を隠します。
うん、わたし、良い仕事をした!
でも、木の枝で休んでいたところで、やつがやって来たの。
身を潜ませていつの間にか近づいてきていた白猫に飛びかかられて、噛みつかれた。
この気配、普通の猫じゃないよ!
わたしを魔女にしたあの魔女王と同じ気配がする。
猫の正体に気がついたところで、わたしはなにかを嗅がされて深い眠りについたのでした。
目を覚ますと、真っ暗な檻の中にいました。
──ここはいったい……。
魔女の気配を感じたと思ったら、そこから先の記憶がない。
どうやら魔女王に捕まって眠らされてしまったみたい。
しかも、まだ鳥に変身したままです。
わたしはどれだけ寝ていたんだろう。
アルラウネは大丈夫かな。帰ってこないわたしのことを心配しているかもしれない。
檻には布がかけられていて、外の様子がわからない。
わたしを運んでいる人が動くたびにガチャガチャとうるさいし、荷物にくくりつけられているのかも。
魔女王はどこに行ったんだろう。
まだ猫の姿をしているのかな。
なんとか体を動かそうとしたけど、まったく動かない。
まるで麻痺して全身の感覚がなくなってしまったみたい。
魔法も上手く使えない。
人の姿に戻ろうと変身魔法を解こうとしても、体が動かせないのと同じでなにもできなかった。
できることは、かろうじてくちばしがパクパクと動かせるくらいだよ。
なら天候を操ってわたしを捕まえた人を倒そうと思ったけど、荒天魔法も発動しない。
魔法が使えないよう、なにか魔女の薬を飲まされてしまったのかも。
どうしよう
魔法が使えないと、わたしは逃げられないよ。
しばらくすると、外から話し声が聞こえてきました。
数人の男の人の声がする。あの聖女見習いのお姉さんの声も聞こえた。
ということは、聖女見習いのお姉さんが言っていた、アルラウネを倒しにきた人間達に、わたしは捕まったのかも。
なら、なんでそんな人たちの中に魔女王がいたんだろう。
魔女は人間の敵なのに。
それから、外で戦闘が始まったのがわかった。
なにかが爆発する音や、怒声なんかも聞こえてくる。
わたしを運んでいる人も、誰かと戦いを始めた。
なにかが飛んできて、わたしが入った檻が地面に落ちる。
そのどさくさで、檻を包み込んでいた布が外れ、外の様子がわかるようになりました。
どうやらわたしは森にいるみたい。
自由に動けないせいで、周囲の様子があまり見えないけどね。
体が麻痺している時は、解毒ができればいいんだけど。
そういえば前に、森に入って襲ってきた人間に対してアルラウネが麻痺毒を放って、最後には蜜を与えて解毒させて街に帰してあげたことがあったよね。
せめてアルラウネの蜜があれば。
そんなことを思っていると、上からパンくずが落ちてきました。
このパン、甘くて美味しそうな香りがする。
もしかしなくてもこのパン、アルラウネの蜜が入ってるよね?
街で毎日のように蜜売りをしていたわたしが、アルラウネの香りを嗅ぎ間違えることなんてないからね。
わたしはくちばしを使って必死にパンくずをついばみます。
すると、体が温かい光に包まれました。
蜜入りのパンもおいしい。
街で売れば、生活費の足しになるかも。
わたしが新商品の開発のことを考えているうちに、体の自由が戻りました。
アルラウネの蜜のおかげで、解毒ができたみたい。
でも、なんであのパンにアルラウネの蜜が入っていたんだろう。よくわからないね。
鳥から人間の姿に戻ると、初めて見る男の人と女の人がいました。
どうやら男の人はわたしを運んでいた魔女王の仲間で、女の人が攻撃をしたおかげでわたしは助かったみたい。
「ルーフェ!」
わたしを呼ぶアルラウネの声がする。
振り返ると、元気そうな姿のアルラウネが森の中に生えていました。
よかった、アルラウネは無事みたい。
「にゃはは、ルーフェちゃん、どうやってあたしの毒を解除したの?」
白猫が笑いながらわたしに話しかけてくる。
忘れるはずもない。この猫は魔女王だ。
だけど、いまは魔女王よりもアルラウネが大事。
わたしがアルラウネの近くへと移動しようとすると、アルラウネが蔓でバッテンを作って制止の合図をしてきます。
「魔女が街を、襲って、いるの。ルーフェは、そっちを、お願い!」
アルラウネが蔓を空に伸ばすと、森を覆っていた植物の中に、小さな穴ができました。
あそこを通って、わたしに街まで行けとアルラウネは言っているみたい。
「アルラウネはわたしがいなくても大丈夫?」
「私なら、大丈夫。だから街の、みんなを、お願い」
アルラウネのお願いなら仕方ない。
街の人を救う義理はないけど、わたしがアルラウネのために街の魔女を倒す。
浮遊魔法で飛び上がると、一人の魔女がわたしに突進してきました。
魔女王でも魔女王補佐のグローアさんでもない。知らない魔女。
早く森を抜けたいのに、見知らぬ魔女が邪魔をしてくる。
相手も浮遊魔法を使うせいか、スピードは互角。
それなら、翼を生やせばいい。
白色の翼を生やしたわたしは、ハーピーにも負けなかった。
だから、ただの魔女なんかにはやられない。
鳥のように空中で旋回して、魔女の背後に移動します。
「荒天魔法“天雷”!」
天候を操作して、魔女の直上から雷を落とす。
アルラウネが開けてくれた穴から、うまい具合に魔女に雷が当たりました。
焼けこげて落下していく魔女を、アルラウネが蔓で捕獲するのを確認すると、わたしは街へと向けて翼を羽ばたかせます。
「にゃはは、あの翼はなに? ルーフェちゃん、君は本当に最高だよ~!」
魔女王の高笑いを聞き流しながら、わたしは森から脱出をしました。
わたしが植物の穴を抜けてすぐに、その穴を植物が覆い隠す。
これなら中にいる魔女王たちが外に出ることはできないだろうね。
そっちは任せたよ、アルラウネ。
街に着くと、そこにも魔女がいました。
でも、街の人間たちが魔女と戦っている。
戦っている人間の中には、アルラウネによく水やりをしに来る人もいます。
あの人は街で一番強い冒険者だったはずだから、ここは放っておいても大丈夫だよね。
わたしはアルラウネが建設している木の塔へと向かいます。
移動しながら街の様子を観察してみると、あることにビックリしました。
街にいる魔女たちが、大きな植物に捕まっていたの。
あの植物はアルラウネのものに間違いない。
森で魔女たちと戦っているはずのアルラウネが、街でも魔女を捕まえている。
いったいどうしたら、こんな芸当ができるんだろう。
アルラウネはドライアドの精霊の力を取り込んだと言っていたし、遠くにいる敵を察知して捕まえることができるのかもしれない。
やっぱりわたしのアルラウネはすごい!
いまもほら。
教会のシスターが魔女に襲われる寸前で、アルラウネのハエトリソウが魔女をパクリと飲み込んだよ。
シスターがアルラウネのことを女神様だと褒め称えてお祈りをするのを横目に、わたしは魔女を標的にします。
いくらアルラウネがすごくても、街にいる魔女をすべて捕えることは無理。
だって空に飛んでいる魔女は、アルラウネには見つけられないみたいなの。
たぶんアルラウネは地面の根っこを通して、魔女の位置を探しているんだね。
だから空にいる魔女はわたしの獲物。
──荒天魔法“天雷”!
翼を羽ばたかせて高速で移動しながら、魔女を一人、もう一人と撃墜していきます。
「お前も魔女か。だが、天候を操れるのは、なにもあんただけじゃないんだよ!」
知らない魔女がわたしに雷を落として攻撃しようとしてきます。
わたしはその魔女が行った荒天魔法を無理やり上書きして、自分の魔法として再発動させます。
「天雷!」
黒雲から放たれた黄色い閃光が、魔女を貫きました。
街へと落ちていく魔女を見ながら、わたしは確信します。
「わたしって意外と強いのかも」
同じ魔女でも、わたしの方が力が上みたい。
魔女の里で二番目に偉いグローアさんよりも、わたしの方が魔女としての力は上だと魔女の里で聞いた。
わたしよりも強い力を持っているのは魔女王くらいだとも。
さてと、魔女全員を掃除し終わったあとは、消火活動です。
「荒天魔法“豪雨”」
荒天魔法でいつものように雨を降らせて、街の火を消しました。
ふう。わたし、良い仕事した。
ちょっと休憩と、わたしは地面に降り立ちます。
「天使様……あなたは女神アルラウネ様にお仕えする天使様ですね!」
地面に着地した瞬間、さっきのシスターさんがわたしに詰め寄ってきました。
「みんな聞いて! 天使様が街を救ってくださいましたよ!」
シスターさんの声に誘われて、人間たちがぞろぞろと集まって来ます。
「あれが天使様」「翼があるし間違いない」「でもあの子、前に広場で見かけたぞ」「蜜売りの女の子だ」「ということは、やはりあの聖蜜は女神様の……」
街の人たちがわたしを見るや、祈り始めました。
なにこれ。どういうこと?
わたしは天使じゃなくて、魔女なんだけど……。
それよりも、気になることがあります。
「アルラウネが女神様って、どういうこと?」
「あのお方は、街を襲った魔王軍四天王によってトロールにされたわたしたちを元の姿に戻して、街を救っていただきました。それも、一度や二度ではございません。現に、いまもわたしはアルラウネ様に救われました。人々に蔓を差し伸べるその姿に、わたしは女神様を見たのです」
なんかよくわからないけど、シスターたちはアルラウネの敵ではないみたい。
それならこのままでいっか。
魔女だと思われるくらいなら、天使だと思われていたほうが命は狙われないだろうしね。
「そうなの。わたし、天使。アルラウネは女神かも」
「あぁ、やはりそうでしたか! 女神様と天使様に感謝を」
「拝まれるのはちょっと……じゃあわたし、もう行くから」
人間たちに石を投げられるのは嫌だったけど、逆に拝まれるのも苦手かも。
その場から逃げるように、わたしは街の上空へと飛翔します。
街の魔女たちはすべて倒した。
火も消した。
なら、森のアルラウネたちはどうなったんだろう。
森の方へと視線を向けてみます。
すると、南の空が荒れているのがわかりました。
荒天魔法で天候を操作できるようになったからわかる。
嵐がこちらに近づいているんだ。
風がとても強く吹いている。
強風で、自分の髪の毛が口の中に入ります。
「なんか、しょっぱい」
この風、潮の香りがする。
というわけで、魔女っこことルーフェ視点となりました。
コミックス発売記念で、今日も投稿させていただきました。
次回、魔女王と植物の女王です。