204 従兄に見つかりました
私、植物モンスター娘のアルラウネ。
魔女っこが隣町から帰ってないの。それがすごく心配です。
以前、魔女っこが一人で行動したことで、魔女王に連れ去られてしまうという事件がありました。
もしかしたらあの時と同じように、誰かに誘拐されてしまったのかもしれないよ!
魔女っこを探しに行かないと。
でも、それはできないの。だって私、植物だから。
私は地面に根っこが埋まっているから、魔女っこを探しに行くことすらできない。体が繋がっている森の中なら転移によって移動できるようになったけど、それ以外は全く行けないの。やっぱり人間は自由に動けてうらやましいね。
これからどうしようと一人でうなだれていると、森の遠くで誰かがこちらの方へ進んでくる気配がしました。
かなり遠いせいではっきりとしないけど、二足歩行の生き物が森の根を踏みながらこちらのほうへと歩いてきている。
もしかしたらこれ、魔女っこかもしれないよ!
そうだとしたら、その付近は隣町の近くなのかもしれません。
なんで魔女っこが森を歩いているのかわからないけど、なにか事件に巻き込まれて飛べなくなっているのかも……。
もちろん、そうではない可能性もあります。
だけど、もしも魔女っこが一人で苦しんでいるのだとしたら、放ってなんておけないよね。
森の中を歩いている仮称魔女っこの近くに分身アルラウネを生やして、転移を行います。
分身アルラウネへと転移しました。
急いで目を開くと、二人の人間が視界に入ります。
剣を構えた青年と、同じく剣を構えている少女の二人組の人間。
なんだ、魔女っこじゃなかったんだ……。
となると、魔女っこはどこにいるんだろう。
まだ町で情報収集をしているのかな。
そう思ったところで、目の前の青年がぽつりと声を発します。
「そんなバカな……」
どうやら青年はこの状況にかなり驚いているみたい。
そりゃそうだよね。森の中を女の子と歩いていたら、いきなり私が生えてくるんだもん。驚かないほうがおかしいよ。
それにしてもこの二人、何者なんだろう。
森の中を仲良くデート、という雰囲気でもないよね。
武器を持っているから町の住人ではないだろうし、冒険者かな…………て、この男の人、なんかヴォル兄に雰囲気がかなり似ている気がする。
私の従兄であるヴォルフガング兄さん。
年は一つ上。勇者パーティーの一員でもあって、頼れる兄貴分だった。
そういえば小さい頃はヴォル兄の後によく付いて歩いていたっけ。懐かしいなあ。
ヴォル兄は宮廷魔導士にも所属しているけど、剣の腕が立つせいで勇者パーティーでは前衛としても戦っていました。
最後に会ったのは、私が殺されたあの日。
あれから5年の月日が流れたわけで、生きていればヴォル兄は目の前の殿方くらいの年齢になっているはず。
この青年を少し若返らせたら、当時のヴォル兄とそっくりになりそう。ううん、まるでヴォル兄そのものだよ。頭の狼耳を隠すために大きめの帽子をかぶっているのまで同じ。
というかこの人、いくらなんでもヴォル兄に似すぎじゃない?
ま、まさか、本人なんじゃ…………。
「なんで、ここに……?」
気がついた時、私は無意識のうちに声を発してしまっていました。
聖女時代の知り合いとの突然の再会。
しかも相手は従兄です。生前はニーナ以上に親しい相手でもありました。
だというのに、こんな唐突に出会うことになるなんて思いもしなかった。
だからこそ、私は尋ねずにはいられません。
目の前の人が、本当に私の従兄なのかを。
「もし、かして、ヴォル兄、なの?」
違うと言って欲しい。
植物モンスターのアルラウネとなってしまった以上、ヴォル兄とは再会したくない。人ではなくなった姿を、昔の知り合いに見られたくはないから。
だけど、そうだと言って欲しいと思う私もいました。
私は一度死んでしまって人間ではなくなってしまったけど、せめて従兄であるヴォル兄の元気な姿くらいは見たい。
それに、私のことを実の妹のように可愛がってくれていたヴォル兄なら、いまの私の姿でも受け入れてくれるんじゃないかなと少しだけ期待してしまうの。
「オレは……」
ヴォル兄と思わしき殿方が、何かをしゃべろうとします。
けれども、その言葉が続くことはありませんでした。
「リーダー、こいつが紅花姫アルラウネだよ! 二人で仕留めよう!」
ヴォル兄の背後にいた少女が、二本の剣を抜きながらこちらに突撃してきたのです。
少女が剣を振り上げてきます。
すると、森の中に雷鳴が轟き、刃のような疾風が宙を駆け抜けました。それぞれの剣から雷撃と風の刃が私に飛来してきたのです。
雷撃を体で受けます。でも、これくらいの電力なら大丈夫。電気はそのまま地面に流れていくから平気。
風の刃についても、致命傷にはなりませんでした。私の花冠と葉っぱ、そして球根が切り刻まれてしまった程度。これくらいならすぐに再生できる。
問題なのは、この少女のせいでヴォル兄との会話が途切れてしまったこと。
そして二人の目的は、どうやら私だということがわかってしまったことです。
このままだと殺し合いになってしまうよ!
私はこれ以上、人間とはなるべく争いたくないの。平和的にいきましょう。
「私は、敵では、ありません。どうか、剣を、収めて、ください」
私の声を聞いたヴォル兄が動揺したのがわかります。
けれども、またしても少女が釘を刺してきました。
「リーダー、耳を貸しちゃダメ! こいつはアルラウネだよ。人を誑かす花のモンスターだよ!」
「人を誑かす……」
「森に入ってきた男を誘惑して骨抜きにして、最期には養分にしてしまう。それがアルラウネだってじいちゃん言ってた!」
「だが、あのアルラウネはオレの名前を知っていた。なにかあるのかもしれない」
「そんなの、魔王軍から教えてもらったに決まってるじゃん! 討伐パーティーの情報はすでに知られているだろうし、親し気に声をかけてきたのもきっとリーダーに取り入ろうとしてるだけだよ!」
そんな人聞きの悪い!
私、殿方を誑かすなんてことしませんよ。誰かを誘惑して骨抜きにしたことなんて一度もないんだから。
それに人間を丸呑みして養分になんてしないんだからね。するのは森の動物やモンスターさんたちだけです。そちらは蜜で誘惑して、骨抜きどころか骨ごとなくなっていただいたことはあるけど、それだけなの。
とりあえず、私が無害なモンスターだということをアピールしないと。
「私は、人間が、大好きです! 誑かす、なんてこと、しません!」
ヴォル兄が何かを応える前に、少女が言葉をたたみかけてきます。
「ほら、リーダー聞いた? 植物なのにこうやって言葉を操るのが、人を誑かそうとしているなによりの証拠だって。これはアルラウネの常套手段なんだよ!」
そ、そうじゃないの!
私が人の言葉を知っているのは、元は人間だったから。
喋れるようになったのは、サークルクラッシャーのマンイーターをパクリとしたから。人を誘って捕まえるために覚えたわけではないの。
「まだ小さいみたいだけど、アルラウネは人間の姿を使って森で人を誘うことで有名なモンスターなんだよ。だからモンスターの声なんかに惑わされないで。リーダーのそんな姿、見たくないよ!」
「……アルラウネは初めて見たが、たしかに植物なのに人の姿をしているのはおかしいな。裏があると思うのは自然かもしれない」
少女の言葉によって、ヴォル兄の瞳に私への敵意が芽生えたのがわかりました。
剣を握る腕に力がこめられ、微かな殺気が放たれます。
婚約者であった勇者様を後輩の聖女見習いに奪われたうえに、私はその勇者様に捨てられ裏切られる。
それに比べれば些細なことだけど、それでも幼い頃から慕っていた従兄に剣を向けられることは、思っていた以上に悲しいことでした。
「だが、モンスターなのにせっかく言葉が通じるんだ。少し話でもしないか?」
ヴォル兄は剣を構えたまま、私に語りかけてきます。
いきなり会話をしようとするなんて怪しい。もしかして私の情報を引き出そうとしているのかも。
「お前は紅花姫アルラウネで間違いないな。それで、塔の街の人間はまだ無事なのか……?」
塔の街の人たち?
ええ、もちろん無事ですとも。みんな、祭りの準備で大忙しだけどね。
「ええ、元気、みたい、ですよ」
「洗脳しているが元気だ、という意味ではないだろうな?」
洗脳ですって?
そんなことするわけないよ。私は姉ドライアドとは違うのです。人間さんたちとは友好的に共存していくつもりなの。
「もちろん、してま、せんよ」
「なら、なぜ街を支配している? 先ほどお前は敵ではないと言ったが、魔王軍の命令でいやいや街の住民を人質に取っているわけではないだろう?」
「私は、魔王軍、では、ありま、せんよ」
そう告げると、ヴォル兄はなぜかガッカリしたような表情になりました。
「それが嘘だということをオレはすでに知っている。やはり敵ではないという先ほどの言葉も偽りだったか……」
ヴォル兄、いきなりどうしたの?
私、嘘なんてついていないよ!
とにかく、潔白を表明しましょう。
「私は、嘘なんて、ついて、いません!」
「人と友好的なフリをするのはもうよせ。お前が新たな魔王軍の四天王になったことは先刻承知済みだ」
私が魔王軍の四天王!?
なにがどうなったら私が魔王軍の四天王になるって話が出てくるんだろう。
いったいどこでそんな偽情報をつかまされたんだろうね。まったく、呆れちゃうよ。
「お前も知っているだろう。これが証拠だ」
そう言いながら、ヴォル兄は懐から一枚の紙を見せつけてきます。
その紙には、要約するとこう書かれていました。
『魔王軍の新たな四天王である紅花姫アルラウネが、ガルデーニア王国を滅ぼすべく準備している。一方的に虐殺されたくなければ、かかってこい』
全てお見通しだというような顔をしながら、ヴォル兄は私に剣先を向けてきます。
「魔王軍のハーピーによって、これが王国の主要都市中に配られた。知らないとは言わせないぞ」
なななな、なんなのこれぇええええ!?
魔王軍の四天王の紅花姫アルラウネ!?
私、そんなの知らないんだけど?
ねえ、いったいどうなってるのこれぇええええええええええ!!
おかげさまで本日、書籍版『植物モンスター娘日記』の発売日となりました!
こうして書籍を発売することができたのも、ひとえに応援してくださっている皆さまのおかげです。あらためまして、いつもありがとうございますm(_ _)m
発売記念というわけで、期間限定で少しだけ更新を増やしたいと思います。
書きあがり次第、近日中に更新したいと思いますのでどうぞよろしくお願いいたします。
次回、知らない間に魔王軍の四天王になっているんだけどなんでです。







