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199 初めての人間の街

 今日は私にとって特別な日になります。

 なにせ私がアルラウネになってから、初めて街を訪れる日なのですから!


 領主であるマンフレートさんとの事前打ち合わせの結果、私は女神の塔跡地に分身アルラウネを生やすこととなりました。

 私と一緒に街へ行くのは、魔女っこと妖精キーリ。

 妹分であるアマゾネストレントは森で私の本体を守ってもらうので、一人でお留守番です。



 キーリの先導で、私は塔の街の女神の塔跡地へ向けて根を伸ばし始めます。

 私が街へ転移するため準備している間、領主のマンフレートさんはアルラウネと協力して塔を再建することになったことを街に宣伝してくれていました。

 

 街の様子を偵察に行った魔女っこによると、「アルラウネを歓迎している人もいたけど、それと同じくらい抗議している人もいた。残りは何も言っていなかったよ」とのこと。


 塔の街には、私に友好的な感情を抱いている穏健派、モンスターは絶対悪な過激派、私のことは受け入れるけれども遠巻きに観察する程度のことしか考えていない中立派、そして私のことを崇めようとしてくる狂信派の方々がいます。


 どうやら、その中の狂信派と過激派が対立しているみたい。


 冒険者である伍長さん情報だと、過激派の中には私のことを闇討ちしようと考えている人もいるのだとか。

 とはいえ、いくらモンスターとはいっても領主様が認めた賓客を街の中で殺めるわけにはいかないと、街の過激派の大半の方が大人しくしようと決め込んでいるようです。


 前の騎士団長のような過激派の中の過激派みたいな人でもないかぎりは、きっと襲ってこないはずだというのが領主様の見立てでした。

 むしろ街の外からやって来た人間のほうが街と私の関係を知らないから、襲ってくる危険があるそうです。

 過激派の前情報はそんな感じ。



 それでいて狂信派の方々なのですが、どうやらかなり街で迷惑をかけているようです。


 曰く、聖蜜を積極的に広めるために、街行く人たちに聖蜜を配りまくっているとか。

 曰く、女神の塔をアルラウネの塔にしようと画策しているとか。

 曰く、教会の信徒であるにも関わらず、女神様よりもアルラウネを拝んでいるとか。

 曰く、神聖な蜜を生み出すアルラウネこそが女神様の今生の姿なのだとか。

 曰く、アルラウネは人間の男性を誘惑する魔物なのだから自分の体を捧げればきっと喜んでくれるはずだと思ってしまった有志の狂信派の男性たちが森に足を踏み入れたけど、森の水やり係であるドリンクバーさんによって全員街に追い返されたとか……。


 なかには私の正体はアルラウネではなく、ドライアドだと主張している方もいるようで……て、これは間違いなく大工の棟梁さんだよね。確認しなくても断言できるよ!


 ともかく、私の中では過激派と同じくらい狂信派の方々も要注意です。

 なにをしでかすか、全く想像できない!


 できることなら、過激派と狂信派の方々にはご遠慮してもらって、穏健派の方々に囲まれたい。そして街の人とお話してみたいの。



 街の人たちについて色々と考えていると、白い鳥さんに変身した魔女っこが私の本体へと飛んできました。



「キーリから伝言。いま根がある場所がちょうど塔の跡地みたい」

「わかった。じゃあ、そこに、分身を、生やすね」


 街の塔の跡地に私の根が届いたみたいだね。

 これで準備はばっちりです。



 これから私は、人間の街に行くのだ。

 最後に人里に足を踏み入れたのは、聖女時代。もう何年も昔のことです。

 不安でいっぱいだけど、それと同時に楽しみでもあるの。

 なにせ体感では二年ぶり、実際の期間では五年ぶりの人の街なのだから。



 なんだか緊張するね。

 私は植物のモンスターだから人間からすれば理解できないような生き物なのかもしれないけど、できれば私のことを受け入れてくれるといいな……。


 でも、怖がってばかりいたら、なにも進まないよね。

 フレンドリーなお花になるためにも私、頑張るよ!



「じゃあ、行って、くるね」


 森で私の本体の護衛をしてくれるアマゾネストレントに挨拶をしてから、私は街の中に分身アルラウネを生やします。

 そして、街の中へ『転移』を発動!


 

 最初に聞こえたのは、街の人たちの「おおー!」という歓声でした。

 

 蕾を開いて、外の様子をうかがいます。

 すると、背の高い人間の大人たちが、みんなして私のこと見下ろしていました。


 いまの私の姿は幼女アルラウネです。

 身長差があることもあって、圧迫感がすごい!


 それに、こんなにもたくさんの人間さんたちから視線を浴びるのは、討伐隊が私を襲いに来たあの時以来。

 あの時は騎士団長さんたちから殺気と罵詈雑言を浴びせられた。

 あんな思いはもう二度としたくない。

 そのことを思い出してしまうせいか、ちょっと怖いかも……。


 

「あれがアルラウネか」「本当に下半身が植物になっているぞ」「襲ってこないだろうな?」「美人だと聞いていたが、まだ子供じゃないか」「小さくて可愛いらしいな」「俺、なんだかドキドキしてきたよ」「やめとけ、アルラウネの養分にされちまうぞ」「聖蜜の香りがしてくる」「なんだか聖蜜が食べたくなってきた」「帰りに聖蜜買いに行くか」



 私の恐怖心を知らない街の人たちは、ジロジロと私のことを観察してきます。

 誰もあの時のように私のことをけなしてきたり、襲ってきたりしてこない。

 むしろみんな、私のことに興味津々みたい。


 恐怖が和らいできたことで、やっと辺りを見回すことができるようになります。

 


 私を見物しにやって来た住人は百人を超えているみたい。

 みんな、遠巻きに私のことを観察している。


 街の人たちの最前列には、狂信派の方々がいました。

 

 棟梁さんと大工さんたち、それに雪原で会ったシスターさんもいるね。

 その後ろには伍長さんやドリンクバーさんたち冒険者さんがいます。私のことをよく知る方たちばかりです。

 その周りを囲んでこちらを見ているのは穏健派と思わしき方たち。

 そこから離れてこちらを観察しているのが中立派かな。

 過激派の姿が見えないのはちょっと不気味だね。


 ──あれ?

 最後尾でこっちを見ていたあの女の子。

 ちょっと悪魔メイドさんに似ている気が……いや、気のせいか。

 魔族である悪魔メイドさんこんなところにいるわけはないからね。いま頃はきっと、魔王城に帰っているはずだし。



「我が街へようこそ、紅花姫殿!」


 領主であるマンフレートさんがお供の騎士たちを引き連れて登場しました。

 マンフレートさんは私の目の前まで堂々と進んでくると、右手を差し出しながら直々に挨拶してくれます。


「街まで足を延ばしてくれて……いや、植物なのだから根かな。来てくれて嬉しい。紅花姫殿を歓迎しよう」


 手筈(てはず)とおり、私は領主様の右手を蔓で握り返します。

 これは私が友好的で知性的なモンスターであるということを、街の人たちに知らしめるためのデモンストレーションです。


「ごきげん、よう。歓迎、感謝、いたします」


 私が言葉をしゃべると、野次馬から歓声が上がりました。

 アルラウネが喋るのが珍しいのかも。

 


「みな、よく聞いて欲しい! この紅花姫アルラウネ殿は、我らの友であり恩人でもあるのだ!」


 マンフレートさんは街の人たちに、私はモンスターだけど魔王軍から街を救ってくれた英雄であること。そして私と協力して女神の塔を再建することを演説してくれます。


 街を助けたのは事実だけど、別に英雄ではないのだけどね。

 だって私は、もう人間ではないのだから。



 マンフレートさんの演説が終わると、棟梁さんと大工さんたちが私へと近づいてきます。


「ドライアド様、木造の塔を造ると領主様より聞きました。是非とも我らに手伝わせていただきたい!」


「ありがとう、存じます。でも、わたくしは、ドライアドでは、ないですよ」


 相変わらず棟梁さんは私がドライアドではなくアルラウネなのだということを信じてくれません。

 とはいえ、建物造りのプロである棟梁さんたちが協力してくれるのは願ってもいないことです。

 これなら前の物にも劣らない立派な女神の塔を造ることができそうだね。



「紅花姫様、お久しぶりでございます。街に滞在される間は、不肖ながら私がお世話させていただきますぅ!」


 祈るように私の前に現れたのは、雪原の時に現れたシスターさんでした。

 やはり来ましたか……。

 私にとって、狂信派といえばこの方を真っ先に思い浮かべてしまうんだよね。


「さっそくで大変申し訳ないのですが、神聖なアルラウネである紅花姫様にお願いがございます。どうか私に、聖蜜をお与えくださいませ」


 シスターさんがそう言うと、最前列で待機していた街の住人たちが私の前に押し寄せてきました。

 そのまま膝をついて、両手をお椀のようにして何かを待つ姿勢を取ります。


 まさかここで(ひざまず)いているのは全員私の狂信派なの?

 街に着いて早々に蜜をねだられるとは思ってもいなかったよ……。



「むむっ、聖蜜だと? それなら私も黙ってはいられんな!」


 シスターさんに続いて、なぜかマンフレートさんまでもが私の前に移動してきます。


 どうやらマンフレートさんも蜜をお求めみたい。

 でも、どうしましょう。

 もし領主であるマンフレートさんの願いを断ってしまったら、きっと街の人たちは私のことを良い風には思わないはず。


 となると道は一つだね。

 恥ずかしいけど、みんなに蜜をあげましょうか……。



 私は自分の蔓にかぶりつきます。

 そうしてたっぷりと蜜を付着させると、マンフレートさんたちの前に蜜を垂らしました。


 目を輝かせながら私の蜜を口にするマンフレートさんとシスターさんたち。

 そんな彼らにつられて、私を遠巻きにしていた住人の方々が「聖蜜がもらえるらしいぞ!」と叫びながら私の前に集まってきます。


 気がついた時には、私は街の人たちに公開蜜やりをするはめになっていました。


 な、なにこれー!?

 なんで街の人たちはこんなに私の蜜を欲しがっているの??


 たしかに私は魔女っこをとおして、塔の街で蜜を売っていました。

 いまではマンフレートさん仲介のもと、街の商人の方々へ蜜を販売していたりします。


 それでも、まさかここまで私の蜜が人気だなんて知らなかった。



 思えば、魔女っこは蜜は大好きだった。

 妖精であるキーリだって毎日蜜を飲んでいる。

 ニーナだってそうだ。実はペロリストなのではないかと疑いたくなるくらい、私の蜜を欲しがっていた。


 それでも、そんな人たちはごく少数。

 森のクマさんのような目つきで私のことを狙ってくる人は、そうはいないのだと。



 そう思っていた私の幻想が、砕かれます。


 街に来たことはなかったから、ここまで蜜が受け入れられているなんて知りませんでした。


 どうやら私の蜜は、街では大好評だったらしいです。


 聖蜜の美味しさと甘さについて、あちこちで饒舌に語り出す人が発生しています。

 この場にいる人のなかで、私の蜜を飲んだことがない人がいないと思えるくらいの勢いです。

 

 

 でも、この様子なら大丈夫そうだね。

 植物モンスターである私が受け入れられたなら、きっと他の仲間も認めてくれるはず。


 私は当初の計画通り、次の段階に移行します。

 

 塔を造ってくれる、私の新しい仲間。



 ウッドゴーレムをこの場に呼ぶのだ!

この街では聖蜜を飲んだことがある人よりも、一度も飲んだことがない人を探すほうが大変だったりします。


次回、女神のゴーレムによる女神の塔再建計画です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そろそろこの蜜が中毒性のあるものなのか、単純に味によるものなのか、気になってきた
[良い点] 今のところは好印象といった感じですかね~ 領主様の見解で判断すると… 過激派といっても一枚岩というわけなのですね… 絶対殲滅派と関わりたくない派というのが私のイメージですね。 ( ´,_…
[一言] うわぁ街の真ん中にモンスターが現れて洗脳してる 領主様までが洗脳されてるもうこの街はおしまいだぁ~
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