21 モンスターの食べ放題をしていたら森から生き物の気配が消えました
私、最近よくお腹が空いてしまうごく普通のアルラウネ。
ちょうどいまイノシシ型モンスターのヴァルトシュヴァインを毒殺したところなの。
重戦車のような迫力と突破力を誇る巨大なイノシシ。
ぶつかればただの植物である私は弾け飛んでしまうだろう。それほどの大きな塊が私に向かって駆けてくる。
こわいよね。でも、まともに受ける気なんてないよ。
植物生成によって蔓を茨に変化。
それを密集させて、茨の壁を作り出す。
イノシシが壁にぶつかると、茨が網のようにイノシシを包み込む。
そうしてイノシシの全身に茨の棘が食い込ませるのだ。
どんなに突進力があっても、茨の壁に相手が突っ込んでくれば動きが一瞬止まってしまうよね。
しかもね、その茨の棘には毒があるんだよ。
毒花粉を応用して、茨の棘に毒を流し込んでみたの。それがなんとも強くて、大抵の敵はこれだけで倒せてしまうんだよね。
全身を突き刺す茨の棘と体中を駆け巡る毒によって、ヴァルトシュヴァインの動きが停止する。
そうして怯んでいるすきに、毒花粉でトドメをさします。イノシシさんは倒れちゃいました。
そこをすかさずハイ、いただきまーす。
もぐもぐごくりん。
なんだろう、最近やけに魔物と遭遇する気がするね。
光合成しながら植物ライフを送っているのは変わらないけど、森の様子はあまり静かではない。
魔物が多すぎるのだ。一日に何匹もやって来る。
なんかね、尋常じゃないくらいのモンスターが私の元へ突撃してくるの。
時にはソロで、時には集団で、時には列をなして魔物がやって来る。
私には約百本もの毒つきの茨があるのだ。
大物相手でなければ、一対多数は意外と得意だと気がついてしまったんだよね。
おかげで挨拶してきたみんなを消化するはめになっちゃったよ。
こんなにこの森で食べ放題できるのははじめてだね。
まあ私は以前と変わらずに、食虫植物みたいに餌をとるためにやってきた獲物を捕食しているだけだから、私は静かに植物ライフを送れているといえば送れているわけだけど。
そう。つまるところ、私は静かに魔物を食べまくっているのだ。
ヴァーンシュランゲことアナコンダを食べた日辺りからこの森は騒がしくなった。
森の四天王がいなくなったことが原因だろう。
そう考えると、四天王の一席である地獄の狼ヘルヴォルフさんも既にクマパパに食べられているから大変だね。
事実上、それで四天王が二席空いている状態なのかも。
それにちょっと思ったんだけど、森の主であるクマパパは私の蜜玉に夢中になって巣から出てこられなくなっている気がするよ。
そうしたら森の縄張りが崩れて生態系が壊れそうだね。
それが今のこの状況かな。
おかげで食事に困らないから良いことずくめなんだけどさ。
なにしろ私の狩りの方法は待ちの戦術一択だから。
植物だからね、歩けないの。
だから蜜で獲物を誘き寄せて、そいつをパクリ。
通常時なら食事抜きになる日もあったけど、最近は食料過多になるくらい獲物が迷い込んでくる。
完全に栄養過多です。
太ったらどうしてくれるのよ。
こっちはダイエットしたくてもできない体なんだからね。
正直、どんな魔物が来ても私の相手ではなくなっていた。
私も成長していたのだ。植物だけに。
ヴァーンシュランゲことアナコンダのような四天王クラスでないと、私は苦戦すらしない。
アナコンダを捕食してからもう数週間が経っているけど、好敵手と未だ相対することはなかった。命の危機がないから、私は嬉しいよ。
あ、お客さんが来たみたい。
トラさんこんにちは。
トラ型モンスターのクリークティーガーかな。
大型トラックくらいの大きさの戦闘狂のトラさんだね。
このトラさんは戦いが大好きなのが特徴なの。
クリークティーガーというこの種族のトラさんには、戦争中の人間の戦場へと乱入して両方の軍隊を皆殺しにしてしまったという逸話が残っているんだよね。
中にはそんな猛者のトラさんもいたくらい強い種族らしいの。
でも、さすがにそんな凄いトラはこの森にはいないよね。
だって、ほら。
もうトラさん死んじゃったし。
警戒しながら近づいてくるトラさんに数十本の茨を向ける。さすがに全てを避けきることはできないトラさん。
でもね、その茨の棘には毒があるの。
毒つきの茨、私の得意技なんだ。
茨で傷を負ったらその数秒後にはトラさんはダウン。そこへ毒花粉をお見舞いしてあげるという戦法なんだ。あっという間だったね。
やっぱりこれが今の私の必勝法だよ。
茨に毒があるなんて初見では気づけないしね。
ああ、意外と呆気なかったな。
トラさんの知名度的に、一目見たときは「こいつが最後の四天王か!」と思ったんだけど、アナコンダほど苦戦しなかったから、四天王認定するにはちょっと悩む。
トラさんは他の森の魔物に対しては無双できるだろうね。
おそらく地獄の狼やアナコンダと同等の力は持っているような気がするのだけど、あまり強敵じゃなかったからなあ。
とりあえず四天王(仮)とかにしておきましょうか。頑張って仮を取って正式な四天王に上り詰めてね、トラさん。
まあ私のお腹の中で溶けているから無理なんだけど。来世で頑張って。
私も今、来世で頑張っている最中だから。
トラさんも植物に転生すれば私の気持ちもわかるだろうから、そうしたら同じお花さんとして仲良くしようね。そして私の植物生成の材料としてまた食べてあげるから安心してよね。
うーむ。
ちょっと前々から思っていたんだけどさ。
私の毒、前よりも強くなっていないかな。
クマパパやアナコンダと戦ったあたりから、殺傷能力が向上した気がする。
まるで品種改良でもされた気分。
生物として死を直面したから、生存本能が働いて毒が濃くなったのかな。
それだけ私も成長したということか。
よくよく考えてみると、私は生まれたての新芽のアルラウネだったわけだしね。
まだ子供なの。
大人になればもっと強くなるはず。
もしかしていま成長期かな。
蔓や茨の数も前より多く生やせるようになったし。
そう考えるとやっぱり成長期だね、私。
だからか。最近、やけにお腹が空くのは。
栄養過多のはずなのに栄養不足なの。
どういうことだろうね。まあ、いっか。
たくさん食べて、大きく立派な花に成長するのだ!
そして最後には私の最大の宿敵を撃退する。
もう屈辱という文字は思い出したくない。
私はこの森の戦国時代にだって負けないぞー。
強くなって静かに暮らすんだ。
それからも何十匹というモンスターを次々と栄養に変えていった。
だが気がつくと、私の周りから生き物の気配がしなくなっていたのだ。
もう誰も挨拶にやって来ない。
一時期はあんなにたくさんいたのに、みんないったいどこへ消えてしまったというのだろうか。
全くもって不思議だね。
来客対応ができなくなったせいで暇な日常に戻ってしまったよ。
しかたないので、これまで通り光合成だけをしてのんびりと過ごす日々。
太陽光おいしい。お水もおいしい。
けれども、そんな安穏な日々はすぐに終わりを迎えた。
しばらくした後に、久しぶりの知り合いである客人が現れてしまったからだ。
あ、こんにちは。
お久しぶりです、クマパパ。
お元気そうで何よりです…………。
敵がいなくなったのは良いことだけど、食べることに夢中ですっかり忘れていたよ。
そういえばあれからもう一ヵ月は経過していたね。
クマパパが蜜玉を食べ終わっていても不思議じゃない。
でもね、こうなるとは予想外だったよ。
クマパパは一匹じゃなかった。
まさかの同伴をしてきたの。
クマパパ、お隣にいらっしゃるお方はどなたですか?
紹介してください。
なになに、お隣のお方はクマパパの奥様なんですか!?
それはちょっとビックリ。
クマ夫人ですか。
はじめまして。
顔がそっくりだからてっきりクマパパの兄弟だと思っていたよ。
クマパパが奥さんと一緒に訪問してきた。
夫婦でお礼参りである。
ハチミツ大好き変態クマさんという子クマがいて、クマパパがいればもちろんクマママもいることは明白だったね。すっかり気がつかなかったよ。
クマパパとクマママが二匹そろって私に進軍を開始する。
なるほどね、用件はよくわかりました。
私、どうやら夫婦にボコられるようです。
本日も一日二回更新となります。
次回、雌花とクマ夫人による華麗なるお茶会です。







