190 フェアちゃんと繋がりました
私たちは街外れの雪原からドリュアデスの森へと移動することにしました。
目的は二つ。
一つは、街を襲ったモンスターについて、森でなにか異変がなかったかドライアド様に尋ねるつもりです。
そしてもう一つが、幼木ドライアドのフェアちゃんに会うということ!
お引越しをしてからずっと顔を見ていないから、心配なのです。
元気にしてるかなあ。
早くフェアちゃんと再会したいね。
魔女っことキーリ、そして妹分のアマゾネストレントは、徒歩でドリュアデスの森へと向かいました。
みんなと違って歩くことのできない私は、根を伝って転移で移動するつもりです。
ドリュアデスの森の聖域付近まで根を伸ばすことができれば、私はその場にクローンアルラウネを生やして転移をすることができるからね!
ドリュアデスの森のほうへと根を広げていると、私の根っこたちが他人の根っことぶつかるのがわかりました。
おそらく、根がドリュアデスの森の地下へと到達したのでしょう。
けれども、同時に問題が発生しました。
「森の、根っこが、邪魔。どうしよう……?」
すでに森にはたくさんの木が生えています。
だから地面の下には、その木たちの根っこがたくさん密集しているの。それが、私の根を進む妨げになっているのです。
さて、ここからどうしましょうか。
この先に根を伸ばすとなると、ドリュアデスの森に生えている既存の植物たちと競合することになるよね。
もしかしたら、私が無理やり根っこを進めることによって、ドリュアデスの森の植物たちを枯らしてしまう可能性もあります。同じ植物として、それは避けたいよね。
根を回避しながら進むことはできるけど、かなり時間がかかりそうです。
無理やり進んで、他の植物を傷つけたくはないし……あ、そうだ。
森の木も、私と繋いじゃえばいいんだ!
クリスマスツリーの寄生根によるハサミの能力を使って、森の木の根っこを切断します。
そうして私の根っこと繋いじゃいます。
そうすれば邪魔だと思っていたその木は、私の体の一部となるのです。
新たに私の体の一部となったその木をクリスマスツリーの木へと植物生成で変化させて、奥に生えている他の木の根っこと繋げていく。
その要領で、進行方向の木を全て私の体に加えてしまえば、ほら。
どんどんと森の奥へと私の体が広がっていくよ!
これならドライアド様がいる聖域まであっという間だね。
全てが順調に進んでいると思ったその時、私の全身に電流のようなものが走りました。
「ひゃっ!?」
不思議な感覚が私の葉脈を駆け巡ります。
まるで、誰かの意識が私の中へと入ってきたみたい。
この感覚、前にも経験があったよね。
幼木ドライアドのフェアちゃんの根っこをクリスマスツリーのハサミで切って、私と繋がってしまった時の感覚に似ているよ。
そう思っていると、それはやって来ました。
私は理解してしまいます。
何者かが、繋がった私の根を通じて、『転移』の能力を使ってきたのだと。
「あなたですね。私の中に入ってきた不届きな植物は!」
気がつくと、青色と赤色の蔦の髪を持つ一人の少女が雪原に出現していました。
間違いありません。
幼木ドライアドのフェアちゃんです。
ここにフェアちゃんが現れたということは、もしかして私、またフェアちゃんと繋がっちゃった……?
どうやら森の植物に混じって、フェアちゃんとも合体しちゃったみたいです。根っこだけじゃ判断できないから仕方ないとはいえ、申し訳ないね……。
「前にも似たようなことがありました。私の根っこ切って、その中にぬけぬけと入って来た謎の植物が……!」
その謎の植物って、たぶん私のことだよね。
あの時は犯人が私ではないとなんとか誤魔化せたけど、今度は積極的に犯人捜しに出てきちゃったみたい。
ここまで移動してきたのは、きっと精霊魔法の『転移』を使用したのでしょう。
私とフェアちゃんの根っこが繋がったいまなら、二人の根がある場所へ自由に転移することが可能になっているみたいです。
「次に私の中に入ってきた時は、すぐに犯人を捕まえようと転移の練習をしていました。いったい誰の仕業だったのかと気になっていましたが、まさかその犯人が私の姉妹だったなんて驚きです」
──私の姉妹?
もしかしてフェアちゃん、私を子アルラウネだと勘違いしているの……?
たしかにいまの私の見た目は、幼女アルラウネです。
本体からクローンアルラウネの体へと転移してきたからね。
だからフェアちゃんが私を識別できなくても仕方ないかもしれません。
「同じ母を持つ姉妹とはいえ、おいたをするようなお花には容赦しません。ドライアドである私が、妹アルラウネを教育してあげましょう!」
「違い、ます。フェアちゃん、私ですよ!」
「母上はあなたのように幼くないのです。もっと大きくて美しいお花なのですから。それに引っ越しが落ち着いたら私のことを迎えに来てくれると言ってくれました。そんな母上が、いきなり私のことを攻撃してくるとは思えません!」
たしかにいつかフェアちゃんを迎えに来ると約束しました。
もちろん忘れたわけではないよ。
でもね、引っ越してから街の野菜を作ったり獣王さんに襲われたり、ツリーハウス造りをしたりといろいろなことがあったから、なかなか落ち着くことがなかったの。
会いに来るのが遅くなったのは謝るから、私に蔦を向けてくるのはやめてね。
「まさか自分のことを母上だと騙るなんて、私は姉としてあなたが恥ずかしくてたまりません。ドライアドである私はアルラウネの母上の子供たちの長女のようなものです。姉として、礼儀が悪い妹のことをしっかりとしつけないといけませんね」
どうしよう、知らないうちにフェアちゃんが自分のことを姉だと思い始めちゃっているよー!
いったい誰に似たんだろう……。
見た目だけなら、姉ドライアドの青色の葉の色素と、私の赤い花びらの色素の二つを持っています。
ということは、きっと姉ドライアドに似たんだろうね。私、聖女時代は妹だったから、姉になったことは一度もないのです。
「私は、フェアちゃんの、妹では、ありませんよ?」
「妹ではないから、自分は母上だとでも言いたいのですか? そんな手は通じません。たって私は母上に会いたいとずっと願っていたのですから、そんなことでは惑わされません……!」
フェアちゃん……!
そんなに私のことを想ってくれていたんだね。
私、嬉しいよ。
さあ、蔓を使って私の胸へと抱きしめてあげましょう!
「だからこそ、妹に母上の真似をされるのが我慢なりません。やんちゃな妹には、姉である私がお仕置きです!」
だから、私は妹じゃないのー!
体は子アルラウネだからフェアちゃんの妹なのは間違いじゃないけど、中身は本体なんだから!
そんな私の言葉を聞かないフェアちゃんは、「精霊魔法『性質変化』“締殺樹木”」と魔法を発動させ、近くの植物をガジュマルに変化させました。
ガジュマルが私へ向かって伸びてきます。
どうやら私のこと締め上げるみたいです。
でも私は、攻撃されそうになっているのに、まったく嫌な感じがしませんでした。
だって、生まれたばかりで小さかったあのフェアちゃんが、精霊魔法を使うことができるまで成長しているんだよ? 私、感激です。
大きくなったね……。
よく見てみれば、最後に会ったときよりも背が伸びている気がするよ。
子供の成長は早いとは聞いていたけど、こんなに立派になって、私は嬉しいよ。
私は小さな子供をあやすように、優しく対応をすることにしました。
フェアちゃんの精霊魔法に上書きをするように『植物生成』を発動させます。
ガジュマルを無害な百合の花へと変化させました。
私は蔓で百合の花を優しく触りながら、フェアちゃんに向けて微笑みます。
「綺麗な、お花を、どうも、ありがとう」
フェアちゃんがカジュマルに変化させた植物は、実は私の根っことも繋がっているの。つまり私の体の一部でもあります。
だから、私が植物生成を使ってフェアちゃんの精霊魔法を強制的に解除させたのです。
「そ、そんな……私の精霊魔法が、こんなにもあっさり破られるなんて…………」
ショックを受けたようにこちらを凝視するフェアちゃん。
どうやら、いまの出来事で私との力の差を感じとってしまったみたいです。
「こんなこと、ただの子アルラウネにできるはずがないですよ。ま、まさか、本当に母上なのですか……?」
「ですから、最初から、そう言って、いますよ」
「あ……アルラウネの母上―!」
フェアちゃんが私の目の前に転移してきました。
そのまま私の球根に抱き着いてきます。
幼女アルラウネの姿となっている私よりも、いまのフェアちゃんのほうが背が高いです。
そのせいで、ぱっと見はどちらが親だかわからない状況になってしまいました。
私は蔓を使って、フェアちゃんの頭をよしよしとしながら、フェアちゃんとの再会を堪能することにします。
「でも、なぜ母上が私に繋がってきたのですか?」
「そ、それは……」
誤って繋がってしまったとは口が裂けても言えないよね。
「実は、私も、転移が、使えるように、なったのです。ですから、フェアちゃんと、繋がれば、これからは、いつでも、こうして、会うことが、できるように、なるのです」
「それはとっても嬉しいです! でも、繋がったままなのは変な感じがして恥ずかしいのですが……」
「わかり、ました。根っこを、繋いだ、ままにするのは、やめておきましょう」
私はフェアちゃんと繋がっていた根をクリスマスツリーのハサミで切断します。
実は私もフェアちゃんと繋がったままは恥ずかしかったんだよね。
頭の中で考えていることがそのまま伝わってしまうのではないかと、冷や冷やだったの。
とはいえ、こうしてフェアちゃんと遊ぶこともできたし、悪いことばかりではなかったね。
フェアちゃんの成長が見られて、それだけでも繋がったかいがあったというものだよ。
私はフェアちゃんに、分身アルラウネの中へと転移することができるようになったことを伝えます。
その能力でドリュアデスの森のドライアド様に会いに行こうとしていたとも。
「それなら、聖域の前に子アルラウネが一人生えていますよ。あの子の中に転移してはどうですか?」
フェアちゃんによると、どうやらドリュアデスの森には私のクローンアルラウネが一人生えているみたいです。
お引越しをするときにドライアド様に私の種を渡したけど、その種が芽吹いて子アルラウネになったみたいだね。
その子は、私の代わりにドリュアデスの森の用心棒をしてくれているみたいです。
しかも、フェアちゃんのお友達にもなっているみたい。
ということは、すでに私の分身となる体がドリュアデスの森にあるということ。
それじゃ少しの間、体を借りさせてもらうとしましょう。
私はクリスマスツリーの寄生の能力で、クローンアルラウネの根っこをハサミで切断します。そうして私の根っこを差し込んで、一つに繋がりました。
それでは、少しお借りしますよ、私の分身さん。
そのまま、クローンアルラウネの中へと『転移』を発動します。
視界が変化します。
雪原から深い森の中へと、私は移動していました。
「その気配、まさかお姉様ですか!?」
懐かしい声が聞こえてきました。
その声に続いて、私の正面に一人の女性が転移してきます。
気がつくと、緑色の蔦の髪を持つドライアドが私の前へと現れました。
なぜかとても驚いたような表情をしています。
「お姉様…………ではなく、アルラウネでしたか。久しいですね」
ドライアド様は私の姿を見て、さらに驚いたように声を上げます。
「とても強い精霊の気配がしたもので、てっきりお姉様かと……もうこの世にはいないのに、わたくしとしたことが失礼をいたしました」
どうやらドライアド様は、子アルラウネの中身が私に変わったことに気がついているみたいだね。
私に向かって一礼するドライアド様は、そのまま言葉を続けます。
「アルラウネは以前よりも精霊に近づいていますね。貴女の体から精霊に匹敵する強大な力を感じます」
私が精霊並みの力を?
半精霊となった時よりも力が増しているのは感じていたけど、こうして他人から言われると改めて実感してしまいます。
どうやら私は、いつの間にかパワーアップしていたようです。
クリスマスツリー:ハサミの能力を持つ寄生根を使って、他の植物の養分を奪い取る半寄生植物。植物だけでなく地下の電線までもを切断してしまうこともあるそうです。
次回、続・私のために争わないでです。







