188 雪原のアルラウネ
伍長さんから塔の街を襲っているというモンスター退治を依頼されました。
私も街の冒険者さんたちと一緒に、モンスターたちを討伐するのです!
先に現地へ行っているという伍長さんたちを、森から見送ります。妹分のアマゾネストレントとキーリだけでなく、魔女っこも伍長さんたちと同行しました。
どうやら本当に私のことが心配みたいで、私の代わりにモンスターを討伐すると意気込んでいました。
冬は元気がなくなるとはいえ、去年のように枯れそうになることはないから大丈夫なのにね。
それよりも私は、魔女っこが寒さで倒れないかというほうが不安だよ。
魔女っこに戦わせる前に、私が全てを終わらせておきたいね。
伍長さんの話によると、塔の街の西側の街道がモンスターとの闘いの防衛地点となっているそうです。
ちょうどその場所はドリュアデスの森と塔の街の間にあるみたい。
問題は、私は植物だからそこまで歩いて行けないということなんだよね。でも、心配ありません。
『転移』を使って、そこまで移動すればいいのだ!
実は森を広げるために根っこを伸ばしていた時に、その近くにも根をこっそりと広げていたんだよね。
それもこれも、私から生まれた幼木ドライアドのフェアちゃんがどうしているのか気になっていたからです。
とはいえそこまで森を作ったのではなく、地中の根っこをドリュアデスの森の方へと伸ばしていただけなんだけどね。
根っこさえあればその場所へ『転移』が使えるから、ドリュアデスの森まで会いに行けるようこっそりと計画していたのです。
というわけで、根の先に分身アルラウネを生成し、『転移』を発動するよ!
景色が変化します。
気がつくと私は、森ではなく雪原のなかに生えていました。
どうやら無事に分身アルラウネへと転移が成功したみたいだね。
周囲を見渡すと、左手側にドリュアデスの森が、右手側にはさきほどの雪原が広がっていました。
背後に塔の街があることから考えると、ここは塔の街と城塞の街を結ぶ街道にあたる場所なのかもしれません。雪に埋まっちゃってなんにもわからないけどね。
そしてその雪原には複数の人影と、たくさんのモンスターの姿がありました。
人間側は冒険者と騎士団の混戦パーティーみたい。だいたい三十人くらいいるね。
後ろのほうには木製の柵が作られていて、そこにも人間の気配がします。もしかしたら後方支援の部隊がいるのかもしれません。
対するモンスター軍団ですが、想像以上の数がいました。
ざっと100匹以上はいるんじゃないかな。
しかも、懐かしい顔ぶれが混じっています。
戦争大好きトラさんことクリークティーガーやアナコンダのヴァーンシュランゲといった大物もいるね。
そのせいか、モンスター側がかなり優勢のようです。
これは防衛地点が突破されるのも時間の問題かも。
転移を使って一瞬で移動してしまったせいで、徒歩の伍長さんたちはまだここに到着していません。
けれども戦っているのを黙て見ていることもできないし、ここは加勢しましょうか。
「おい、あそこになにかいるぞ!」「新手のモンスターか!?」「なんだか甘い匂いが漂ってくるぞ」「これは聖蜜の香りだ……」
人間さんたちが私の姿を見つけたようですね。
私は敵ではないことをアピールするためにも、さっそくモンスター軍団と戦うことにしましょう。
ごきげんよう、モンスターさんたち。
なんだか、お久しぶりですね。
最後に野生のモンスターと一戦交えたのはいつ以来になるのでしょうか。
多分だけど、ニーナと再会する前になるかな。
冒険者さんたちから人食いアルラウネだと討伐されようとしていた頃が、最期にモンスターと戦った時かも。
本当にお久しぶりだったみたいですね。
不思議と、胸が高鳴りを覚えます。
モンスターを目にするだけで、なぜか体の奥が疼いてしまうの。
なんだか我慢できないよー!
皆様、よろしければわたくしと一曲踊ってはくださいませんでしょうか?
私は地中に潜ませていた根を、一斉に地上へと伸ばしました。
『植物生成』によって絞め殺しの木ガジュマルへと変化させ、モンスターたちへと巻き付きます。
手始めに、トラさんの体をガジュマルの体でホールドします。そのままトラさんとワルツです。
わたくしとの踊りに興奮したのか、トラさんは血を吐きながら喜んでくださいました。
わたくしとトラさんのダンスを見ているのが我慢できないのか、イノシシ型モンスターのヴァルトシュヴァインが私に突進してきます。
順番待ちができないなんて、イノシシさんはやんちゃですね。でもだめですよ。
毒茨の壁を作って、めっとお仕置きです。イノシシさんにはそこで大人しくしててくださいね。
けれども、こうやって一匹ずつダンスを踊るのは、時間がかかってしまいますね。
ここは一度に皆さんのお相手をさせていただきましょうか。
地面から巨大なハエトリソウをたくさん生やして、シカ型モンスターのテルヒルフェとカエル型モンスターフルトフロッシェ等をまとめて捕まえちゃいます。
あら、一匹逃してしまいましたね。
そこにいるトカゲ型モンスターのクスアイデクセはわたくしが直接お相手いたしましょう。
蔓を使って、トカゲさんを私のもとへとエスコート。
そして下の口を大きく開いて、パクリ。
もぐもぐ、ごちそうさま!
──て、あれ?
ちょっと待って。
お肉、おいしいかも……!
なぜだか力が漲ってきました。
思えば、かなり久々のごはんだったかもしれません。
最後に何かを食べたのは、獣王さん以来。
そもそも、あの時の皆さんはすごく大柄というわけでもなかったから、たいして栄養は摂取できませんでした。
改めて考えると、ドリュアデスの森からアルラウネの森へとお引越しをしてから、まともな食事をしていなかったね。
私が作った森にはモンスターどころか野生の動物もまだ生息していないから、なにかを食べて栄養を得ることができなかったの。
もしかして、私の元気がなかったのはそのせいもあったりして?
そういえば去年の冬になる前は、森のモンスターの食べ放題をしていたよね。
冬ごもりをするために体がごはんを所望していたの。
あの時の私は、本当に食欲旺盛でした。けれどもそのおかげで、体に栄養を蓄えてなんとかあの冬を乗り切ることができたのだ。
だというのに、今年の私はまったくごはんを食べてはいません。
体が森となって広がったうえ、街の人たちのために野菜を作って、ニーナへ大量の聖蜜を送ったというのに、栄養は冬の太陽光による光合成のみ。それじゃ、栄養不足になるのも仕方ないよね。
私は残っているトカゲさんたちへ蔓を伸ばしていきます。
パクリ。
うん、やっぱりごはんは最高だよね!
元気を取り戻した私は、その調子でアナコンダへとネナシカズラを伸ばしていきます。
アナコンダの体にネナシカズラを突き刺し、そのまま内部からパクリ。
はい、ごちそうさまでした!
気がつけば、モンスター軍団の姿は消えていました。
やったね。
私は無事に街を守ることができたのだ……!
それにしても、あのモンスターたちは前に見覚えがあるお方ばかりだったね。
私が西のドリュアデスの森にいた時に遭遇したモンスターばかりでした。
もしかしてあのモンスターたちはドリュアデスの森から来たんじゃないかな……?
たしか西の森にいたモンスターたちは、姉ドライアドの配下だったはず。
ということは、私が姉ドライアドを倒したことによって生まれた残党だったのかもしれないね。
それに、この大雪のせいでモンスターたちは食料不足となっていたのかも。
それで街の人間を狙って、攻めてきた。そう思えば合点がいきます。
とはいえ、それにしては統率されすぎていた感じもするね。野生化したただのモンスターたちが軍勢となって街を襲ってくるなんてことは、そうはない気がするけど……。
私が一人でモンスターについてあれこれ考えていると、背後から「お前はまさか、人食いアルラウネか!?」と誰かに声をかけられました。
振り返ると、鎧を着た大柄な人間の男性が私のことを凝視していました。
この方、もしかして……。
「タマネギを口に詰められた恨みは忘れん。あの時はよくも俺に恥をかかせてくれたな!」
やっぱりそうです。
あの時、私を討伐しに来た街の騎士団長だ!
タマネギで騎士団長を生け花にしたのが懐かしいね。
花器になれたことに大泣きするほど喜んでいた姿が、今にも目に焼きついていましてよ。
「今日こそ人食いアルラウネを討伐してみせる!」
剣を構えた騎士団長さんがいきなり私に突撃してきました。
モンスター軍団を倒したばかりだというのに、まさかの第二ラウンドです。
私は人食いアルラウネではないというのに、まったく騎士団長さんは懲りない人ですね。
「騎士団長、待ってください」「そうです、アルラウネは敵じゃありません」
見覚えのある冒険者さんたちが、騎士団長を止めようと走ってきました。
たしかドリンクバーさんの仲間の冒険者さんたちだね。
私の味方をしてくれるみたいです。
なんだろう、この気持ち。
前に騎士団長さんに人食いアルラウネだと罵られたときは、どこにも味方はいませんでした。
だからか、こうして私の味方が増えたことがすごく嬉しいね……。
「冒険者がなぜ俺の邪魔をする? まさかお前たち、人食いアルラウネをかばうつもりじゃないだろうな?」
「騎士団長、アルラウネを倒すのは無理ですって。あのアルラウネ、めちゃくちゃ強いんですから」「それにほら、聖蜜が食べられなくなるのは困りますし」「聖蜜おいしいですよ?」
他の冒険者さんたちも、私のことを擁護しようと騎士団長を止めようとしてくれています。
もしかしてキーリが話していた、私に対する穏健派というのは、この冒険者さんたちのことなのかな。
聖蜜を食べているうちに、私に好感を持ってくれたっていう人たち。
となると、モンスターは絶対悪だと信じている過激派というのは、騎士団長さんのことなのかも。
そうなると、中立派もどこかにいるのかな。
あまり会いたくはないけど、狂信派もいそうだね……。
「紅花姫様に乱暴はおやめください!」
今度は修道服を着たシスターさんが、大声を発しながら私の前に飛び出てきました。
「聖蜜を生み出す神聖なアルラウネである紅花姫様になんて無礼な……騎士団長、あなたは正気じゃないですよ!」
し、シスターさん?
このシスターさんと私は初対面のはずです。
それだというのに、あなたは街で私のことをそんなふうに思っているのですか?
というか、神聖なアルラウネって、なに……?
ま、間違いありません。
この子、私の狂信派だー!
お読みいただきありがとうございます。
次回、私のために争わないでです。







