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日報 新米聖女見習いの王都への帰還 後編

引き続き、新米の聖女見習いのニーナ視点です。

 聖母様から二度目の呼び出しを受けてから、一週間が経ちました。


 あたしは王都のとある通りにある食堂内を歩きながら、小さくうなずきます。



「これならすぐにでもお店を出せそうですね」



 あたしは一緒に内装を確認している男装の女商人メルケルさんへと声をかけました。

 メルケルさんは明るい表情のままうんうんとうなずきます。



「前の店と比べると立地は悪いけど、店を閉めたばかりの食堂をまるごと買えるのは喜ばしいね。これなら店の準備に充てる資金を温存しておくことができるよ」




 購入するはずだった店を貴族に横取りされたメルケルさんでしたが、この度なんと他のお店を買うことができました!


 これも全ては聖母様のおかげです。

 聖母様にお願いして教会のコネを使って、閉めたばかりの食堂を買う権利を手に入れてもらったの。

 おかげで、メルケルさんは王都で食堂を開くという夢を叶えることができました。



「ニーナさん、本当になんとお礼を言って良いか……色々と便宜まで図っていただけて」


「いいんですよ。それにこれは、あたしのためでもあるんですから。約束は覚えていますよね?」

 

「もちろん。貧民街の子供に食事を提供すれば良いんですよね」



 荷物を持って、メルケルさんと一緒に、貧民街へと移動します。

 

 すると、あたしの姿を見つけたスリの少年が「おーい!」と手を振ってきました。

 横には、手をつないだままの小さな妹さんが立っています。


 病に侵されていた妹さんは、すっかりと元気になっていました。

 これも全てはイリス様の聖蜜を飲んだおかげです。

 

 あのお方は植物モンスターになったというのに、こうして聖女と同じことができるなんて凄いですよ。

 その場にいなくとも光魔法の効果を広めている分、聖女時代よりもパワーアップしているかもしれませんね。



 あたしたちの到着が知れると、貧民街の路地から子供たちがわらわらと集まってきます。



「姉ちゃんのおかげで、みんなの病気が良くなったぞ!」



 あたしが貧民街に日参するようになって、今日で七日目です。

 最初は顔色の悪い子供たちばかりでしたが、今では大声を出しながら蜜を求めてくるくらい元気になりました。



 その子たちに、蜜がたっぷりと塗ってあるパンを配っていきます。


 貧民街の孤児に食事を与える。

 これは歴とした慈善事業のはずですよねと、あたしは聖母様にある提案をしました。


 孤児たちに食事を与えるために、食堂を大至急格安で買わせて欲しい。

 そして、そのための食費をある程度安値で融通して欲しい、ということを申し出たのです。



 あたしの提案を飲んでくださって聖母様は、すぐさま教会の上層部と貴族を通して、閉まったばかりの食堂を見つけてくれました。

 その店をメルケルさんに買ってもらって、孤児たちへの食事を作ってもらう。



 あたしの悩みを全て一度に解決できる、名案です!



 上手くいって良かったー。

 

 問題は、日に日に蜜パンを求めてくる子供の数が増えていることですね。

 一人当たりが食べる聖蜜パンの量が倍増しています。

 このままでは、聖蜜がなくなっちゃいますよ……!



 こうなったらイリス様にお手紙を書いて、追加の聖蜜を運んでもらいましょう。

 ちょうどあたしの分の聖蜜の在庫も心配になってきたところですし、この際大量の聖蜜を頼みましょうか。今から楽しみですね。




 そうしてあたしは冬の間、毎日のようにメルケルさんの手伝いをしに行きました。

 その成果もあって、メルケルさんの食堂は無事に開店することができたのです!


 

 慈善事業の方も順調です。

 聖蜜パンを毎日孤児に配っていることで、あたしの名前は王都の住人の耳にも届くようになりました。

 心配されていた、あたしを妬む者からの攻撃というのも起こりませんでしたね。

 聖母様が上手くやってくれたようで、どこかの貴族があたしの後ろ盾になってくれたようです。

 

 その後はイリス様から送られてきた追加の聖蜜のおかげもあって、春になる頃には食堂も軌道に乗ってきました。



 今では、開店とともに行列ができるほどの人気店です。



 お客さんのほとんどが常連客で、ほぼ全員のお客さんが毎日メルケルさんの食堂に足を運んでくれているのですよ。

 そのせいか口コミによって、新しいお客さんも増えつつあります。



 食堂での一番人気のメニューは、パンケーキです。


 しかもそのパンケーキが人気になったきっかけは、なんとあたしなのです!


 注文したパンケーキに自前の聖蜜を塗って食べているところを常連さんに目撃され、「旨そうだからそれを食べてみたい」と言われたことが全ての始まりでしたね。

 つまり今では看板メニューにもなった『聖蜜パンケーキ』は、あたしが考案したようなものですよ!


 かなり高い値段で聖蜜パンケーキを販売しているのですが、それでもお客さんの足は途絶えそうにありません。

 


 聖蜜の需要は日に日に増しています。

 現在は塔の街の商人を通して、イリス様の聖蜜を定期的に王都へと運んでもらっているのでなんとか上手く回っているので安心ですが。



 そうそう、イリス様といえば、「ニーナ様もいずれはイリス様のような立派な聖女になられてくださいね!」と、お客さんに言われることがたまにあります。


 イリス様が亡くなられてから早5年。

 あたし以外にもイリス様のことを忘れられない方がいることが、何よりも嬉しく思えました。


 ですが、「今あなたが食べているそのパンケーキの聖蜜は、イリス様の体から出てきた蜜なんですよ」とは口が裂けても言えませんでしたね。



 

 そうしていつものようにあたしが慈善事業と食堂のお手伝いをしていたある日に、聖母様から呼び出しを受けました。


 聖女大聖堂に到着したあたしは、聖母様と二人きりでお話をします。



「ニーナがやっている孤児への慈善活動は上手くいっているようですね。ニーナのことを本物の聖女だと称賛する住人も増えてきました」



 厳しいことで有名なあの聖母様から、お褒めの言葉をいただけた!?

 う、嬉しい。貴重な聖蜜を配りまわったかいがありましたね。



「ですが今日ニーナを呼んだ理由は別です。実は、悪い知らせが二つあります」


「二つもですか……?」


「はい。一つ目は、ニーナが倒した四天王の代わりに、新たな魔王軍の四天王が誕生したということです」



 あたしが倒したことになっている黄金鳥人ガルダフレースヴェルクの後釜(あとがま)の四天王が生まれたということですか。

 


「どうやら魔王軍の魔族たちが新しい四天王が誕生したと人間の街に情報を撒いているようです。魔王軍の言葉をそのまま信じるなら、獣王マルティコラスのように人間に対してかなり悪意を持った存在のようです」



 聖母様はかなり深刻そうにお話していますが、実はイリス様は他にも精霊姫フェアギスマインニヒトと獣王マルティコラスという二人の四天王を倒しています。

 つまり、魔王軍の四天王はあと一人というところまで追いつめられていたのです。


 強い魔族が次々に消えていっているのですし、きっと新しい四天王といってもイリス様の前ではたいしたことではないでしょう。 

 そこまで心配することではありませんね。



「二つ目は、その四天王によって塔の街が占拠されてしまったようです」


「……え?」


「それだけではありません。塔の街から王都へとたどり着いた者の情報によると、その四天王はどうやらドライアドのようです」



 新しい四天王がドライアド?

 まさか、東の森のドライアドが魔王軍に寝返ったの!?


 まさかの出来事に驚きを隠せません。

 ですが、あのドライアドの実の姉も魔王軍の四天王だったのですから、改めて考えるとそうなる可能性は大いにありましたね。


 

 そこであたしは気がつきます。

 塔の街が魔王軍に占領されれば、王都へ聖蜜が届けられることもなくなります。

 聖蜜が、食べられなくなる……!


 けれども、それ以上にイリス様のことが心配です。


 

 味方だと思っていたドライアドに裏切られるだなんて、お優しいイリス様はきっとショックをお受けしたことでしょう。


 それに四天王を三人も倒したイリス様を、魔王軍の四天王が放っておくはずがありません。

 間違いなく、報復の対象として見られていることでしょう。


 こうなったら塔の街に戻って、助けにいかないと!


 イリス様、どうかご無事で……!

というわけで聖女見習いのニーナ視点でした。アルラウネの森から遠く離れた王都で、ニーナも色々と頑張っているようです!


次回、二度目の冬です。

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― 新着の感想 ―
大変!その四天王の魔の手…魔の蜜?麻薬?はもう王都にも届いてしまいました!
[一言] 今度は一体、どーなった?!
[一言] 一匹狼の魔法剣士は二人目の聖女に招かれる だと、塔の町はまだ残っているとあるけど、何があったかな……。 聖蜜パンケーキ……。元手が輸送費ぐらいですから、安いですよね。
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