20 森の四天王
私、植物モンスター娘のアルラウネ。
今まさにアナコンダにトドメを刺されそうになっているの。
どうやら私は、森の魔物に対してかなり油断をしていたみたいだね。
これまで出会ったモンスターはクマパパを除いて全て倒すことができていた。
サル型モンスターのバルバアッフェやシカ型モンスターのテルヒルフェ。他にも何種類もの魔物を倒しておいしくいただいた。
けれども、森には上には上がいる。
私が狩っていたのは小物だったのだろう。
だから知らなかったよ。
まだこの森には本当の強者が何匹も跋扈していたんだね。
地獄の狼ヘルヴォルフやこのヘビ型モンスターのヴァーンシュランゲ。
そして頂点に君臨するのが森の主、ラオブベーア!
なんだかあと一匹強いのが加われば四天王みたい。
森の四天王。
既にその中の一匹は森の主が食べていたけど。
こんな強敵を相手にするのはどう考えても分が悪い。
せめて女騎士であるハチさん軍団がいればまだなんとかなったかもしれないのに。
ハチさん、また会いたいよ……。
私を包囲しながらぐるぐると回っているアナコンダがさらに加速をする。
今度こそ私にトドメを刺すつもりだ。
私がアナコンダを止める手段はない。
ヘビのぬめりとした肌に妨げられて蔓がすべってしまうからだ。
蔓で拘束できない以上、攻撃を防ぐことができないからね。
ああ、なんでこんなことになっちゃったんだろう。
私はただ森で光合成しながら静かに暮らしていたかっただけなのに。
もしかして白い鳥を罠にはめて食べようとした罰でも当たったのかな。
ごめんよ鳥さん。
蜜玉の件は助かったともいえるからもう気にしないよ。
次に会ったときは食べたりしないから。
だから代わりにこのアナコンダに食べられて怒りを冷まさせてきてね。元々白い鳥の奪い合いが原因だったんだから食べられるのは仕方ないよね、だってこれが自然の摂理なの。
うん、白い鳥?
そういえば白い鳥が咥えていたバラみたいな花を食べたよね。
地面に落ちていたあの赤いバラだよ。
あの花はバラと同じように茎に棘が生えていた。
あれ、もしかして今の私なら再現できるんじゃないだろうか。
こうなればやってみるしかない。
どのみち追い詰められている命。
最後にアナコンダに一泡吹かせてやろう。
私は植物生成を使って蔓の形態を変化させる。
それを好機と思ったのか、アナコンダが私に食らいついて来た。
隙ができたせいで、尻尾を使わずに迷わず口で止めをさすことを選択したみたい。
アナコンダには毒花粉が直撃する以外、私に怖いものはないからね。
でも、これならどうかな。
残りの全ての蔓を使って、迫りくるアナコンダを拘束する。
この攻撃も三度目だね。
だからアナコンダも自分には効かないと思っているだろうけど、それは誤りだよ。
鋭いトゲトゲが無数に生えた蔓は、植物生成によって茨へと変化していた。
バラの棘と蔓を合わせて創り直した新しい蔓。
それが茨だ。
湿り気を帯びていたアナコンダのぬめりとした肌に、茨の棘がグサリと突き刺さる。
棘に刺さったことによって、前みたいに蔓がアナコンダの肌から滑ってしまうことがなくなっていた。
おかげでアナコンダは茨から抜けだせない。
十本以上の茨でアナコンダを捕まえているからね。
アナコンダに刺さっている棘の数は数えることができないくらい多いよ。
アナコンダの動きが止まる。
この隙を見逃すほど私はお人よしじゃない。
アナコンダの尻尾が動き出す。
でも、尻尾が私を攻撃するよりも早く、毒花粉を放出する。
目の前にいるアナコンダは毒をもろに受けた。
体の大きさからみて致死量がかなり必要そうなので、念入りに毒花粉を蛇の口に目掛けて吹き付ける。
しばらくすると、アナコンダは泡を吹いて地面にばたりと倒れた。
アナコンダを下すことができたのだ。
毒が回ったことにより、アナコンダは白目になって息を引き取っていた。
私は、また生き延びることができたのだ……!
やったね、逆転勝利だよ!
あの場面で茨が使えなかったら、私はきっと負けていただろうね。
危なかった、これは白い鳥に感謝だよ。
もうへとへとだ。
栄養不足、お水欲しい。
とりあえずそこの長いので補充しましょう。
いただきますー。
もぐもぐもぐ、どうしよう。ごくりんってできない。
ちょっと、アナコンダ長すぎるのですが。
球根の口にアナコンダの顔を突っ込んで消化させようとしているのはいいけど、それ以上は入らない。
まるで私の球根からヘビが生えているような状態である。
まあいっか。消化していけばいつかは全身食べられるでしょう。
それにしても、アルラウネになってから何度も命の危機があったけど、戦闘のみで死地を切り抜けたのは、これが初めてじゃないだろうか。
ハチさん軍団に受粉されそうになった時は、蔓の繭にこもった結果共生を歩むことができた。
クマパパとの戦闘だって、最終的には蜜玉を囮にしてお帰り願っただけだ。
自分よりも数段格上の強敵を実力で下したのは今回が初めて。
ちょっと嬉しいね。
森の四天王を倒したわけだし。
地獄の狼ヘルヴォルフに、ヘビ型モンスターのヴァーンシュランゲ、森の主ラオブベーアことクマパパと他一匹。
まあ私が勝手に考えているだけだけどね。
もしかしてヴァーンシュランゲを倒したから、私が森の四天王入りすることになっちゃってね。アナコンダ強かったし。
まあないかー。
まだもっと強い魔物は大勢いるよね。
だって私はただのお花だもん。
動物ですらない植物が四天王の仲間入りだなんて、そんなのおかしいよねー。
でも、この時の私はまだ知らなかった。
縄張りを持っていた四天王を倒すということは、その生態系も壊れるということ。
というか、既にクマパパが蜜玉の味に我を忘れて引きこもっていることですでに縄張り争いは始まっていたのだ。
クマパパが巣に消えたことで、他の縄張りからアナコンダがやってきた。そのアナコンダが謎の花によって倒されたのだ。
強者が消えたことによって、新たに生まれた空白地帯の縄張り争いが激増した。
それによって、血の気の多い多くのモンスターが森の中を移動し始める。
我こそが四天王だというように、敵を倒すために森を闊歩する。
もちろん、その矛先はヴァーンシュランゲを撃破した謎の花にも向けられることになるのだ。
明日も二回更新を予定しております。
次回、モンスターの食べ放題をしていたら森から生き物の気配が消えましたです。







