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183 家を造ります

 私、植物モンスター娘のアルラウネ。

 季節は冬になりました。

 森を広げるのも大事だけど、それよりも先に、早急にしなければならないことができてしまったの。


 そう、魔女っこが住む家を造るのだ!



 さすがに11歳の女の子が、森の外で冬を越すのは厳しすぎると思うの。

 冷静に考えると、夏とはいえずっと外で暮らし続けるのはおかしかった気もするけど、さすがに冬となると魔女っこの体がもたないよね。


 ただでさえ最近は寒くなったことで、魔女っこはいつも私の蔓を寝袋のようにして暖を取っています。いくら私がザゼンソウの自家発熱の力で人肌になれるとはいえ、それだけでは魔女っこが可哀そうだよ。

 寒さに震える魔女っこは見たくありません。



 なので、魔女っこが無事に冬を過ごせるような家を建てたいと思ったの。



 私は『植物生成』を使って、家の資材となる木材を蔓の先端から生やしていきます。それらを、あらかじめ伍長さんから預かっていた斧を使って、次々と丸太にしていきました。


 うん、これで建築の準備はばっちりだね。

 あとは伍長さんたちが森に来てくれるのを待つのみ。



「ねえ、本当に家を造るの?」


私の蔓にくるまっている魔女っこが、おそるおそる私に尋ねてきました。



「家があれば、冬も温かい。人間には、必要だよ」


「でも、家を建ててもアルラウネは家の中には入れないよね? わたし、それはイヤ……」



 植物である私は人間のように家が必要ではないからね。

 むしろ家の屋根によって太陽光が妨げられるから、屋外のほうが居心地は良いのです。



「私がいないのが、嫌なら、昼間は、こうやって、私のところに、来ればいいよ」


「でも、これまではずっと夜も一緒だったのに……」



 うぅ~!

 そんなに私から離れたくないんだね、魔女っこ。

 お姉ちゃんが大好きな妹みたいで可愛いよー!



「わたしが一緒でないと、アルラウネが心配。だってわたしはアルラウネの飼育主でありお姉さんなんだから」



 魔女っこ、それは違うよ。

 お姉さんはね、私なの。魔女っこの方が妹なんだから!



 そうやって魔女っことくっつきながら(だん)を取っていると、塔の街のほうから人間さんのご一行が到着しました。



 伍長さんとドリンクバーさんを先頭に、大工さんたちが10人ほど続いています。


 実は森の家を建てるために、伍長さんを通して領主のマンフレートさんに大工さんを派遣するようお願いをしたの。

 建築の支払いは野菜の販売代金でと言ったら、こうやってすぐに大工さんをよこしてくれました。

 私は家の造り方がまったくわからないから、大助かりです。



 大工さんたちは、私の姿を見ると怯えたように後ずさりました。


「植物から人間の女が生えているぞ」「あの狂暴そうな口はなんだ」「なんておそろしい……」「俺たち、食われたりしないよな……?」



 もしかして私が綺麗なお花すぎるから、大工さんたちは遠慮して離れて鑑賞し始めたのかしら。ええ、きっとそうです。そういうことにしておきましょう。


 けれども、せっかくそう思っていたかったのに、大工さんたちの責任者である棟梁さんが私のほうを見ながらぶっきらぼうに呟きます。



「いくら領主様の命令とはいえ、モンスターの花なんかのために家を造るなんて気が進まない」



 む、むかー!

 私がお花で悪かったですね。

 こんな見た目だけど、元は聖女だったんだからね。中身は人間なんだから!



 こんなファーストコンタクトがあったせいか、大工さんたちと私は直接会話せずに、伍長さんを挟むこととなりました。

 そちらのほうが、円滑に作業が進むと私と伍長さんが判断したの。



「アルラウネの嬢ちゃんは、どんな家をご所望(しょもう)なんだい?」



 伍長さんの質問を聞いて、私は考えます。

 ここは私の森。

 できれば森に建っていても自然だと思えるような建物にしたいです。


 となると、ログハウスとかかな。

 ツリーハウスも悪くないよね。



 伍長さんが「お嬢ちゃんはどんなところに住みたい?」と、魔女っこにも尋ねてくれます。



「アルラウネと一緒がいい……」



 そう言われても、私はここから離れられないからね…………あ、そうだ、良いことを思いついたよ!

 建築したその家に、私が転移できるよう分身アルラウネを生やしておけばいいんだ。そうすれば、家の中でも魔女っことお話ができるよ!


 となると、分身アルラウネに憑依していない間、人形状態になっている私の分身が安全に過ごせるような家が良いよね。

 現在の森は動物やモンスターがあまり生息していないとはいえ、外敵に侵入されたときに目立つような家は危ないです。


 それなら、木の上なんてどうかな。

 ツリ-ハウスにしてしまえば、木に登れないモンスターから身を守ることができる。

 夜に魔女っこが寝ている間も安全だし、何より浮遊魔法が使える魔女っこなら簡単に木の上へと飛んでいけるよ!



「ツリーハウスで、お願いします」



 私は伍長さんに、木の上に木造の家を造ってもらうよう説明をします。

 建ててもらう場所は、私から少し離れた場所にしましょう。

 この前の獣王マルティコラスさんのような敵が襲ってきた時のように、巻き添えを食らわないようにしないとね。それでいて、変事があったら気がつけるくらいの距離にツリーハウスを造ることにしました。



 木の上に家を造るのは大変です。

 なので、妹分であるアマゾネストレントは建設のお手伝いをしてもらうことにしました。人間よりも力持ちだから、大活躍してくれるはず。

 妖精キーリはトレントの通訳のために、アマゾネストレントと一緒に行動してもらいます。



 ツリーハウスの建築現場は私のすぐ近くにあるわけではないので、基本的に私ができることはありません。

 魔女っこは魔法の修行をするために、どこかへ飛んで行ってしまったので、一人でお留守番です。

 


 冬になったとはいえ、今日はお天気です。夏ほどではないけど、良い日差しが森に降り注いでいるよ。

 太陽光おいしい。


 ぽかーっと、私が日向ぼっこをしながら光合成をしていると、突然私の体の一部が何者かによって攻撃されました。


 刃物で斬りつけられている……!

 いったいどこから?

 そう思うや否や、体の一部となっていた森の木の一本が切り倒されるのがわかります。

 この場所はツリーハウスの建築現場付近だね。

 ということは、犯人は大工さんか。

 


 森を切られるのはなんだかイヤ。

 だって、私と繋がっているのだから。

 

 自分で木を生やして、それを自分のために切るのなら別にいいけど、他人に無断で体を切り落とされるのは我慢ができません。

 例えるなら、お昼寝している間に、頑張って長く伸ばした髪の毛を知らない人にバッサリと切られるようなもの。誰だってそんなことをされて平気でいられる人なんていないよね。


 しかも、根によって繋がっている森の木は、私の手足同然。

 いくら建設をお願いしている立場とはいえ、大切な体の一部を無断で切られる筋合いはありません。材料となる木材だって、あらかじめたくさん用意していたんだからねー!


 

 伍長さんを通して森の木を切らないよう苦情を言うと、棟梁さんが私の元へと一人でやって来ました。

 いかにも職人というような不愛想な表情のまま、私に大声で話しかけてきます。



「この森は領主様の森だ! 許可をいただいている以上、俺たちが木を切ろうと勝手だろう!」


「違う! ここは、私が創った、私の森。その木だって、大切な私の、体の一部、なのです!」


「体の一部だァ? 木と花の区別もつかないとは、人の姿を持っているとはいえ、やはりただのモンスターだな。人間と同じようにすることは、植物にはできないわけか」


 そう言い放つと、棟梁さんはツリーハウスの建築現場へと戻っていきました。



 この森が誰の持ち物かということは領主であるマンフレートさんと今度話すとして、今はそれよりも目の前の棟梁さんたちだよ。

 植物モンスターである私と、話そうという気が全く見えません。



 そういえば、今までは比較的アルラウネである私に好意を持っている人間としか交流を持ってはいませんでした。

 聖女見習いであるニーナ、私のことを最初に危険ではないと認めてくれた伍長さん、姉ドライアドと一緒に戦ったドリンクバーさんとその仲間、そして聖女イリスの大ファンである領主のマンフレートさん。


 最初は色々あったりもしたけど、今では植物モンスターである私を人間のように扱ってくれる人たちです。

 そんな人間さんたちとばかり交流をもっていたせいで、モンスターに対する一般的な人間の態度をすっかり忘れていました。


 

 モンスターは人間の敵。

 倒すべき悪であり、手を取り合って共存する相手ではないのだ。


 そういえば少し前までは、街の冒険者に「人食いアルラウネ」と呼ばれながら襲われていたんだったね……。

 そう簡単にモンスターに対する感情は変わらないのかな。

 


 私がこっそりと頬に蜜を伝わせていると、遠くのほうに大工さんと妹分とアマゾネストレントが一緒に歩いているのが目に入ります。

 なんと信じられないことに、モンスターであるはずのトレントが、大工さんたちと仲良くなっていたのです!


 はじめは枯れ木のトレントの姿と、小さな妖精の姿に驚いていた大工さんたち。

 でも、数日経った頃には、なぜかみんな打ち解けていたようでした。

 アマゾネストレントなんて、大工さんに「お前やるな。うちで一緒に働かないか?」とスカウトされる始末。



 …………どういうことなの?



 私に近づく大工さんは一人もいないのに、アマゾネストレントとキーリは人間たちに混ざって和気あいあいとしています。


 ちょっと、アマゾネストレント。

 あなた、大工さんたちといったい何をしたのー!

 もしかして、大工さんたちは私がモンスターだから距離を取っているわけではないのかな?



 気になる私は、妖精キーリを捕まえて、こっそりと建築現場での様子を伺うことにしました。


 

「ねえ、キーリ。トレントは、どうやって、大工さんたちと、仲良く、なったの?」


「なんだー。アルラウネ様も一緒に混ざりたいの?」


「そ、そういう、わけじゃ、ないけど……」


「まったく素直じゃないんだからー」


 ち、違います。

 これは……そう、植物モンスターとして、人間の習性を知るための勉強なのです。



「あたしは別に人間と仲良くなりたいとは思わないけど、アルラウネ様がそうなりたいのなら教えてあげる。人間たちができない仕事をすれば、すぐに認めてくれるよ。あいつら単純だし、根は悪い人間じゃないみたいだから」


「私、大工さんの、仕事、やったこと、ないけど」


「アルラウネ様が人間と同じことなんてする必要ないよ。アルラウネ様にしかできないことが、たくさんあるんだから。そうしたら、きっとアルラウネ様もあの人間たちと打ち解けられるよ」



 私にしかできないこと……。




 翌日。

 私は大工さんたちが来るまで、何もせずに待機していました。


 街から大工さん一行が訪れると、蔓を広げて歓迎の挨拶をいたします。



 ごきげんよう、大工様方。

 私のことをただの綺麗なお花だと思っているのでしたら、それは間違いです。


 仕事をすれば、大工様にも妹分のアマゾネストレントにだって負けません。

 力を隠しているだけで、本当はやればできる植物なんですから。



 私がただの日向ぼっこが大好きなお花ではないことを、皆様にお見せいたしましょう。

明けましておめでとうございます。

今年はなにかと忙しない日々が続きそうですが、たくさん執筆ができれば良いなと思っております。どうぞよろしくお願いいたします!


さて、新年も始まりましたが、昨年と比べると色々と慌ただしくなってまいりました。

申し訳ないことに私の執筆が更新に間に合いそうにないので、少し更新頻度を変えさせていただきたいと思います。とはいえ、できるだけたくさん更新をしたいとも思っております。

ですので、可能な限りとりあえずの間は5日に1回更新にさせていただければと思います。

ご了承いただければ幸いです。

どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m


次回、建築家アルラウネです。

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― 新着の感想 ―
[一言] あーwこれは失敗するヨカンw そういえばいまだ蔓ビキニ姿なのかな? いろんな植物取り込んでいるんだから葉っぱドレス姿にしたら不穏な下半身も隠せそうなものだけど……
[一言] 聖女時代はコミュ力とか問題なかったのか気になるところではあるが、何をする気なのだろうか? キツツキとかがやってきて、穴をあけるぐらいなら大丈夫かな? 森を枯らしてしまうような、ヤバい虫もい…
[良い点] 魔女っ娘が家要らない理由が可愛い… 愛されてますねアルラウネ(ペットとしてかな…?) 煙たがられているというよりアルラウネのコミュニケーション不足かなって感じがしますね。 だって…キーリ…
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